「カズマ、今すぐ逃げましょう。住むところが無いのであれば、我々の故郷である紅魔の里にでも引っ越せばいいですし」
「いきなり何言ってんだお前。呼び出しを受けてるんだし、とっとと行こうぜ」
屋敷に帰ると、突然めぐみんがそのようなことを宣ってきた。
折角屋敷も買ったのに、何を弱腰になっているのか。
それに、ギルドからの召集もあるんだし、とりあえず顔は見せておかないと。
「カズマこそ何を言って……ああ、そうでした。カズマは時々一般的な知識を知らないことがありましたね。ならば、はっきり言いましょう。機動要塞デストロイヤーに立ち向かうなんて、自殺志願も良いところです!」
そこまでヤバイ代物なのか、その機動要塞って奴は。
未だに状況がよく分かっていない俺に、めぐみんは続ける。
「どれくらい危険な物なのか分かりやすく説明しましょう。機動要塞デストロイヤーは、周囲に甚大な被害を及ぼしながら移動するその姿から、形を持った災害とも形容されるほどに、人類にとって最悪の賞金首なんですよ。奴が通る所は、アルカンレティア以外の都市であるなら例外なく廃墟と化し、そのアルカンレティアでさえもが復興するのに一ヶ月はかかると言われているくらいです」
「そりゃとんでもないな!? 何であのアクシズ教徒達を手古摺らせるものがこの世に存在するんだよ!?」
「ちょっと? 私の可愛い信者達を何だと思ってるの? なんでデストロイヤーの脅威度を分かりやすくするための指標にされてるのかしら? 皆普通の良い子達でしょ!?」
アクアが抗議の声を上げるが、これほどに分かりやすい説明はない。
だってあのアクシズ教徒達だぞ。
魔王軍幹部であるハンスに、ひるむことなく立ち向かえるようなアクシズ教の人達だぞ。
そんな人達をして、復興するのにそれなり期間が必要なくらいの被害が出る時点で相当ヤバい代物だろうが。
あと、アクアの言葉に突っ込むとしたら、良い人達ではあるけど、決して普通の人達ではないと思います。
「話を聞く限り、そのデストロイヤーって相当デカ物みたいだけど、それならめぐみんの爆裂魔法とか、ゆんゆんの合体魔法でどうにかならないか? お前らの魔法なら広範囲を攻撃できるし、うってつけだろ」
「無理ですね。デストロイヤーには常時魔力結界が張られています。爆裂魔法を十発撃ち込んだところで、デストロイヤーはびくともしないでしょう」
どうなってんだよその結界。
そんな物があるなら、魔王軍と戦う時に使える技術に転用できそうなんだが。
「さ、さすがにデストロイヤー相手じゃ逃げた方が良いですよ! 今まで何度も倒すための作戦が実行されてきてたんですけど、そのどれもが全く歯が立たなくって……。もう、私達で対処できるようなものじゃないです!」
あのゆんゆんまでもが、声を張り上げて撤退の選択肢を声高に叫んでいる。
流石の俺も、本気でその脅威について考えだし、
「なあアクア、実際の所、デストロイヤーってどれくらいの脅威度なんだ?」
一番俺に通じる言葉で説明してくれそうなアクアに訊ねた。
「えっと……サイズとか破壊力とか、技術力の差を考えると……カズマの世界で言うところの、機械化した怪獣王みたいなものかしら? 機械だから、急にパワーアップしたり、あと一歩ってところで復活したりとかはしないけど」
「はい撤退! お前ら、荷物を纏めてこの街から逃げるぞ!」
勝てるかそんなもん!
倒したいんだったら、虫の怪獣か、三つ首の怪獣でも連れて来い!
この街を放棄することは非常に心苦しいさ。
せっかく手に入れた屋敷があるし、行き付けの店も増えてきたし、何より、あのサキュバスの店を真の意味では堪能できていないし!
でも、だからといって、こいつらが消極的な意見を出してるのに、無理矢理それに付き合わせるのは非道に過ぎる。
サキュバスの皆さんには、どうか別の街で上手くやってくれとお祈りするばかりだ。
せめて、避難誘導くらいは手伝おうかと考えていると。
「……よし、お前たちは早く逃げてくれ。ここは私達で食い止める」
ふと見ると、今までに見たことがないくらいの重装備に包まれたダクネスが、二階から降りてきた。
何やら、自分だけは戦うと言ってるかのようなセリフを言いながら。
「おい、ダクネス。今回の相手は流石に分が悪い。相性とかそういう次元じゃない。一人の人間が立ち向かうような奴じゃないんだろ? いくらお前が強敵と戦いたいって性質でも、それは看過できないぞ」
「そう言った趣向があるのは否定しない。が、それ以上に、私には、この街を見捨てる訳にはいかない義務がある。……私の事は気にするな。お前達を私の我儘に付き合わせるつもりもないし、それどころか、どうか無事でいてくれと思うばかりだ」
どうも、普段のノリとは違うものらしい。
その証拠に、いつもなら興奮気味であるはずのダクネスだが、今はむしろ冷静になろうとさえしているように見受けられる。
「ダクネス。どうしても逃げられないのか?」
「ああ」
「断言してやる。確実に死ぬことになるぞ。それでも行くんだな?」
「ああ。それだけの理由が私にはある。……これまで、私の我儘に付き合ってくれてありがとう。皆、達者でな」
ダクネスの決意は固いらしい。
ふと、周りを眺めると、先ほどまで怯え切った様子の魔法使い組が、いつの間にか仕舞っていたはずの杖を取り出し、アクアもまた、期待を込めた眼差しでこちらを見てくる。
……これはあれだ。
ダクネスを見捨てられないからなんて、そんな王道主人公みたいな理由じゃない。
昨日サキュバスのサービスをちゃんと受けることができなかったからこそ、この選択肢を選んだだけであって。
その、なんだ。
「しょうがねえなあ!」
やってやろうじゃねえか。怪獣退治。
―――………
「やっぱりお前もこの街の危機に駆けつけてくれたか! お前なら来るって信じてたぜ!」
万全の準備を整えてギルドに入ると、そこには、余程の事情がない限り、こんな危険なクエストには手を出さないであろうダストが俺達を出迎えてくれた。
けれど、お前ならここに来てるはずだって、俺もそう思ってたぜ。
その後ろにはテイラーたちの姿もある。
ギルドの内部には、ダストたち以外にも、様々な冒険者たちが集っている。
きっと彼らも、義憤に駆られてここに駆けつけたのだろう。
男女比で言うと、野郎共の方に大きく偏っている気もするが、気のせいに違いない
……よく見ると、遠くの方にミツルギの奴もいる。
まさか、あいつもあの店の常連なのか……?
そんな疑問を頭の中で浮かべたところで。
「緊急の呼び出しに応じてくださった皆さん、誠にありがとうございます! ただいまより、機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います! このクエストは、どのような方であっても全員参加でお願いします! どうしても対処ができないと判断したときには、この街を捨て、全員で逃げることになりますが、それまではどうか各々奮闘していただきたく思います!」
騒めいていた状況の中、職員のお姉さんが声を張り上げた。
そして、それに呼応するかのように、他の職員達が酒場に使用されているテーブルを、ギルドの中央へと寄せ集め、会議室に置かれている大きな円卓のようなものを作り上げる。
これは、いよいよ以て怪獣退治の装いになってきたな。
張り詰めた空気の中だというのに、不謹慎ながらも、少年心が揺さぶられてしまう。
「それではただいまより、対デストロイヤーに向けての緊急会議を行います! 皆様席にご着席ください!」
俺達は職員の言葉に従い、適当な席に着く。
こうしてみると、見知った顔も多いもんだな。
……あ、ミツルギがこっちに気づきやがった。
なんか『君もやっぱり皆の危機を見過ごせないんだね』って面をしてるもんだから、『うるせえ、俺の仲間に我儘な奴らが多いせいだよ』って意志を込めて、肩をすくめるポーズをして返してやる。
「さて、まず最初に現状について説明させていただきます! ……その前に、機動要塞デストロイヤーについての説明が必要な方はいらっしゃいますか?」
具体的な内容については把握していないので、その言葉に迷わず挙手をする。
俺以外にも何人かがちらほらと手を上げたのを見て、お姉さんは軽く頷き。
「機動要塞デストロイヤーは、元々は魔王軍に対抗するために、魔道技術大国ノイズにて造られた、超大型のゴーレムです。外観は蜘蛛のような形をしており、小さな城ほどのサイズを誇っております。強靭でありながらも軽量である魔法金属がふんだんに使われていて、そのため馬以上のスピードで移動することが可能です」
このくらいの情報は皆知っているようで、驚く様子もないままお姉さんの言葉を聞いている。
「分かりやすい脅威として挙げられるのは、その大きさと移動速度です。もし間違ってデストロイヤーの進行方向に足を踏み入れてしまえば、大型モンスターであってもひき肉と化すでしょう。そして、そのデストロイヤー自身は、魔力結界によって守られており、いかなる魔法も無力化されてしまいます」
ここまでは俺も把握している。
一方で、ギルド内の雰囲気が一段と重くなったような……。
「魔法は効果がないため、物理的な手段でしか攻撃方法はないのですが……。接近すると轢き潰され、遠距離攻撃も、デストロイヤーは金属で構築されているので、弓矢では傷一つ付けられないでしょう。カタパルトでの攻撃も、対象の移動速度が速すぎるため狙いはつけられません。空からの攻撃は、備え付けられているバリスタによって撃ち落され、もし乗り込めたとしても、戦闘用のゴーレムがいたるところに配置されております」
聞けば聞くほど盤石じゃないか、機動要塞デストロイヤー。
「そして、機動要塞デストロイヤーが暴走している原因ですが……。これを開発した研究者が、この機動要塞を乗っ取っているとされています。そして、現在もデストロイヤーのどこかにその研究者が潜んでおり、ゴーレムに指示を出しているそうです。その移動速度も環境に左右されず、山でも谷でも踏破してしまいます。その進む先にある者全てを平等に蹂躙しつくす機動要塞。それがデストロイヤーです。これまでその標的になった街は例外なく更地となり、その後復興するという形でやり過ごしてきましたが……」
……それは、やり過ごしたとは言えないのではないだろう。
要するに、破壊されていく街を成すすべなく見届けるしかなかったと。
「そして今、機動要塞デストロイヤーは、北西の方角からこちらに向けて進撃しています。……では、ご意見がある方はどうぞ!」
マジで怪獣そのものじゃねえか。
こんなの、どうしろってんだよ。
皆が沈黙する中、一人の冒険者が声を上げる。
「デストロイヤーを開発した、ノイズ国ってのはどうなったんですか? そんなものを作り出せるくらいなら、それに対抗できる武器があったり、弱点を知ってたりするんじゃないでしょうか?」
「真っ先に暴走したデストロイヤーの標的になり、一晩で滅ぼされてしまいました」
でしょうね。
対抗手段があるのなら、これまでに対処されてるはずだ。
「じゃあ、デストロイヤーを落とし穴にはめちまうとかは、」
「過去に行われています。地の精霊に働きかけて、一瞬で落とし穴を作り、そこに落とすまでは成功していました。……その落下した直後に、デストロイヤーは、八本の足でジャンプして戻ってきましたけど」
「…………」
それはさぞかしシュールな光景だっただろうな。
現実逃避気味にそんなことを考える。
「……他にありませんか?」
「魔王軍はどうしてるんだ? 魔王軍からしてもあんな奴がいたら邪魔でしかないだろ。何か奴らも対策をとってるんじゃないか?」
「魔王の城には強力な結界が張られていて、デストロイヤーも近づけていないようです。魔王軍からしてみれば、放っておけば勝手に人間に被害を与えてくれるようなものなので、機動要塞をどうこうするつもりはないみたいで……」
半ば諦めてるような様子で、お姉さんが言う。
「他に、ありませんか?」
―――………
デストロイヤー対策の会議は、何処までも難航していた。
ロープか何かを引っかけて乗り込むにしても、デストロイヤーの移動速度が速すぎる。
落とし穴でダメならとバリケードを作ってみても、何とわざわざそれを迂回して踏みつぶされたという報告があるとのこと。
近づけば潰され、遠距離攻撃は効かず、罠に嵌めてもすぐに対処してくる。
ミサイルか何かが欲しくなってくるレベルだ。
周りが行き詰ってる中、一度も発言していない俺を見たテイラーが、
「おいカズマ。お前さんなら妙な策でも思いつくんじゃないのか? 頭の回転は速い方だろ?」
突然、俺に話を振ってきた。
いきなりそんなことを言われても、遠距離からめぐみんとゆんゆんで攻撃してもらうことくらいしか思いついてなかったというのに。
苦し紛れにでも何か言っとくか。
「いーや、何も思いつかん。いっそのこと、あいつを丸ごと『テレポート』でもできればよかったのにな、とかは考えてるけど」
「おいおい、あんなデカ物を相手にそりゃねえだろ。大体デストロイヤーには魔法が効かないって話じゃないか」
「そうだよな……、ならいっそのこと、デストロイヤーの内部に入って、直接動力源みたいなのを『テレポート』させちまえば機能不全になるんじゃね? いくらなんでも内部まで結界が覆ってるってことはないだろうしさ」
俺のそんな言葉に、場が一瞬静まり返る。
……あれ、自分で言っておいてなんだが、案外これって上手くいくのでは?
だって、何もデストロイヤー自体を破壊する必要はない。
動きを止めることに成功すればそれだけでいいんだから。
だが、これには致命的な欠点がある。
「……確かにそれならデストロイヤーは止まるだろうけど、どうやって乗り込むんだよ。乗り込むためにはあのすばしっこい動きをどうにかしなくちゃいけないだろうに」
「デストロイヤーの動きを止めるために侵入するには、その動きを止める必要がある。……矛盾してるじゃねえか」
そう、デストロイヤーに乗り込む方法がないということが、最大の問題点だ。
もし成功させるにしても、デストロイヤーの速度を考えるに、実際に乗り込めるのは少人数になるだろう。
よしんば乗り込めたとしても、防衛用のゴーレムがうじゃうじゃいることが、更に作戦遂行の難易度を跳ね上げる要因になってくるし。
無理だよなぁ。
高速移動する機動要塞に飛び乗れて、少人数でゴーレムの群れを打倒出来て、『テレポート』が使える奴を護衛できるほどの強さを持つ人間なんて……。
……できそうな奴いるじゃん、そこに。
「おいミツルギ。お前だったらデストロイヤーに乗り込めるか? 背中に、『テレポート』が使える人間一人を背負った状態でだけど」
こいつなら、もしかするとデストロイヤーに飛び移ることができるかもしれない。
魔剣グラムを所持していて、身体能力が跳ね上げられているこいつなら!
「申し訳ないけど、流石に無理だ。乗り込むには高さが必要だし、動力源を探すにしても、人数が少ない分、時間がかかりすぎる。なにより、僕一人ならまだしも、他に一人を成功確率の低い作戦の巻き添えにするような真似なんて認められないよ」
「なんだよ使えねえな!」
「失礼だな君は!?」
ミツルギが抗議してくるけどスルーする。
でもやっぱり、ネックなのは時間か。
となると、どうにかして足だけでも止められれば……。
ああ、魔力結界とやらをどうにかできれば!
「そういう君こそ、こういう時に使えそうなスキルみたいなのを教えてもらってないのかい!? 君冒険者なんだろ? 色んなスキルが使えるのが君の強みだろうに!」
「うるせえ! そんなもん、あの結界をどうにかできるんだったら、いくらでもやりようはあるんだよ! 本当魔力結界なんて余計なもんをつけやがって!」
「え? 結界をどうにかできれば大丈夫なの?」
俺とミツルギが言い合ってる中、俺の横に座っていたアクアが驚いたように声を上げた。
おい、その言いぶり、もしかして。
「……まさかとは思うけど、アクアは魔力結界を破ることができるのか?」
「多分、だけど。でも、本当にやってみないと分からないわよ? 魔王城以上の結界が張られてたら、さすがの私もお手上げだし」
人類の脅威になっている存在以上に強固な結界を張れる奴なんざ、そうそういないだろ。
そんなアクアの言葉に、職員が大声を上げた。
「アクアさん、デストロイヤーの結界を破れるんですか!?」
その言葉に、俺とアクア、ついでにミツルギまでもが冒険者達の注目に晒される。
いかん、断言までするのは流石にマズイ。
「いや、可能性があるってだけで、確実に成功するとは言い切れないらしくて」
「いくらアクアさ……んの力と言えども、100%保証できるとまではいかないそうですよ」
俺達のあやふやな言葉でも一縷の望みにはなったのか、ギルド内が騒がしくなってくる。
「それで充分です! 打ち破れる可能性があるという、それだけで値千金なんですよ! それさえ適えば、魔法による攻撃で!」
ヒートアップしていくお姉さん。
けれど、途端にその勢いはおちていき。
「……でも、機動要塞が相手では、生半可な魔法は通じないですね。駆け出しの魔法使いの方達が多いこの街では、火力が低すぎるでしょうか……」
そして再び静まりかえってしまう。
……おいおい、お前ら、何故かやたらと物騒な呼び名をつけられている二人組を忘れてるんじゃないだろうな。
俺のそんな内心を読み取ってか、一人の男がポツリと呟く。
「火力持ちならいるじゃないか。『災厄と天災のW魔王』とか言われてる、頭のおかしい紅魔族が」
その言葉に、再び色めき立つギルドの連中。
「そうか、『歩く災害』とか言われてる、あの頭のおかしい紅魔族の二人なら、『形を持った災害』に対抗できるかもしれん!」
「あの頭のおかしい『紅魔族の黒い悪魔』のペアならあるいは……!」
「おい待て、それらの別称が我々の事を指しているのなら、その頭のおかしいとか言うフレーズは外してもらおうか。さもなくば、その言葉の通りに我々が頭のおかしい行動をこの場でとることになるぞ」
地の底から聞こえてくるような低い声を出しながら、めぐみんが杖を持って立ち上がると、囃し立てていた冒険者達が一斉に目を逸らした。
これだけ物騒な別称を持ってるのに、『頭のおかしい』ってフレーズは外れないんだな。
ベルディアの奴、余計な置き土産を残しやがって。
「さ、災厄……私が、災厄……? っていうか、悪魔って……」
「……すまん、それは流石にフォローできねえわ」
「カズマさん!?」
あんまりな二つ名にショックを受けているゆんゆんだったが、事実なのだからしょうがない。
破壊の力という言葉を体現したような魔法である爆裂魔法を扱うことのできるめぐみんと、様々な災害もどきを引き起こせてしまう合体魔法を習得してしまったゆんゆん。
そりゃ、そんな呼び名がつこうというものである。
一方で、勢いのまま立ち上がっためぐみんだったが、期待の眼差しを向けられて居心地が悪くなったのか。
「……ただ、如何に『紅魔族の黒い悪魔』と呼ばれる我々でも、機動要塞を仕留められるという保証はできません。『テレポート』も使えないですし、もう一人、高レベルの魔法使いの方が居てくだされば……」
無駄に強がったり、誇張したりなどせずに、冷静に自分の意見を述べながら着席した。
めぐみんの方は、ゆんゆんとは違って二つ名が気に入ったらしく、わざわざ自称し始めているけれど、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、この魔法使いが言ったように、爆裂魔法と合体魔法だけでは、巨大な機動要塞を仕留めきれないかもという不安が残ってしまうということ。
あともう一押し。
ほんのちょっとだけで良い。
この二人に匹敵するだけの技量がある魔法使いが居れば。
そんな空気にギルド内が包まれ始めた時。
「申し訳ありません、カズマさんが定期的に購入して下さる爆薬を準備していたら遅くなって……。ウィズ魔道具店の店主です。冒険者の資格もあるので遅ればせながら参上しました」
その二人が束になって掛かっても勝てるか怪しい、そんな規格外の存在がギルドの入り口に立っていた。