女性陣を大衆浴場に放り込み、討伐の報酬を受け取った俺は、手持ち無沙汰に他のクエストを眺めていた。
今回の報酬だと、一人当たり三万円ほど。
魔法使いたちのおかげで大分楽が出来たが、それでも命がけなのは変わらない。
「……正直、あんまり割に合わないよなぁ」
「すまない、ちょっといいだろうか」
そうやってぼやいていると、背後からボソリと声を掛けられた。
いったい何なのかと軽くホームシックにかかって淀んだ目で振り向き。
「なんでしょ……う……」
「この募集は、あなたのパーティの募集だろう? もう人の募集はしていないのだろうか」
そして絶句した。
そこには、とびきり美人の女騎士が募集の紙を持ったまま、無表情で立っていたからだ。
その整った顔立ちに軽く……いやどっぷり見惚れて、一時的に頭が真っ白になってしまった。
だが、いつまでも返事をしないのは失礼すぎる。なんとか中々いうことを聞かない自らの口を動かして返答する。
「あー、まだ募集はしてますけど、あんまりおすすめしませんよ……」
畜生、若干上擦った。
アクアのように同年代みたいな感じでも、めぐみんとゆんゆんのように年下でもない、年上の女性だからすっげえ緊張する。
「何か問題でもあるのか?」
「いやー、その、俺達ってまだまだ駆け出しの冒険者で、あなたが入るようなレベルには達してないと言いますか」
「むしろその方が私にとっては都合がいい。私はクルセイダーというナイトの上級職だから、守ることに関しては得意なのだ。まだ駆け出しだというのなら、私が貴方達の壁になろう。ガンガン前に出るので壁としてこき使ってほしい」
「い、いやいや! それなら強いパーティに行った方が壁としての役割を果たせると思いますよ! 昨日なんて、俺ともう一人がカエルなんかでやられそうになりましたし!」
命がけで戦った俺からしたら『カエルなんか』なんてもんじゃないけどな!
ゲームでもタンク役の重要性は理解していたつもりだけど、あの時ほど壁が欲しいと思ったことはなかった。
ただ、このお姉さんを仲間に入れるのは気が引ける。ただでさえ男女比率がすごいことになってるのに、これ以上増えると精神的にキツイのもあるけれども。
「何を言う。失礼な物言いになるが、弱者を守ってこその騎士だろう。元から強い連中など守る必要も無いではないか」
「弱者ってのは否定する気はないんで構わないですけど。……あ、ほら、結構今日でパーティの人数が増えちゃったんで、取り分とかだいぶ減っちゃいますよ?」
「構わない。元より金銭目的で冒険者になったわけではないのでな。遠慮なく私を囮や壁代わりとして使ってくれ」
……なんだろう、そこはかとなく嫌な予感がするのは。
言ってることはまっとうな騎士のように聞こえる。
それこそ、あの数多の言行録を元に作り上げられたネトゲのナイトみたいに、この人は仲間を守る理想の騎士たらんとしているらしいが、何か違和感がある。
なんというか、何かが致命的にかみ合ってないというか……。
「えっと……失礼なんですが、何か苦手なことがあったりしますか? こう、実は体力がなくてすぐにスタミナが尽きるとか、足が遅くて庇うにしても間に合わないとか」
「ふむ……強いて言うなら、不器用なので他の人と比べると攻撃が当たりにくいことだろうか。それも『両手剣』スキルをとっているから命中率に関しては誤差だと自負している。体力や防御力も自信がある」
めぐみんのように、継戦能力が低いわけでもないようだ。
ここまで聞くと、断る理由が思い浮かばない。
すっごい美人だし、俺としてはぜひ仲間になって欲しいくらいだ。
でも、なんだろうか、この呪われた武器を呪われていると知らずに装備する直前のような何とも言い難い不安感は。
「……俺だけじゃ決めづらいんで、また明日来てくれませんか? 仲間達にも意見を聞きたいですし」
とりあえず、問題を先延ばしにするしかできなかった。
―――………
「この人が昨日言ってた、私たちがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」
「ああ、それでちょっとお前らの意見も聞きたいと思ってな」
「では……。名はダクネス、職業はクルセイダーだ。武器は両手剣を使っているが、基本的に防御スキルをとっているので壁として頑張りたいと思う。どうかよろしく頼む」
「ちょっと、この人クルセイダーじゃないですか。断る理由なんてないのではないですか?」
「わ、わたしも……その、友達…………いえ違いますっ、仲間が増えることは良いことだと思います!」
「へぇ、良いじゃない。火力は足りてきた……っていうか、もはや過剰なレベルになったわけだし、タンク役が来てくれるのはありがたい話よ!」
翌日、三人娘たちも交えての面接を始めたが、全員が色よい返事をしている。
俺もそう思うんだよ。すっごいバランスがいい構成だし。
ただ、すっごく嫌な予感がするのがアレなだけで。
何でここまで嫌な予感がするのか…………あっ。
「……なぁ、もうこれお前ら四人だけで組んだ方がいいんじゃねえの? むしろ俺いらなくね?」
このクルセイダーがいると、俺いらない子になっちゃうからか。
一応ではあるけれど俺は前衛職としてやっているつもりだったが、ダクネスがいると俺の存在理由がなくなってしまう。
むしろ、足手まといになるまである。
「女四人の所に男一人がいるってのも変な話だし、その方がいいだろ」
「てい」
そこまで言って、アクアが俺の頭にチョップしてきた。
「いってえ!? 何すんだよアクア!」
「カズマがふざけたこと言ってるからでしょ。カズマを追い出そうとしてる子なんていないのに、何被害妄想しちゃってんのよ」
「そうですよカズマ。むしろ私は貴方に拾ってもらった身。貴方が出ていくなら私も出ていかなくてはなりません」
「せ、折角お友達……じゃなかった、仲間になれたんですからそんな悲しいことを言わないでください!」
……そっか、俺ここにいてもいいんだ。
そう言ってくれて、安心できた気持ちだ。
さっきまでの嫌な予感っていうのも、気のせいだったに違いない。
なんだか、ダクネスには悪いことをしたな。
「……悪かったよダクネス。良ければ、俺達のパーティに入ってくれないか?」
「むしろこちらからお願いした立場なんだ。私を受け入れてくれて感謝しよう。これからよろしく頼む」
そう言って、俺とダクネスは固い握手を交わした。
消えたはずの嫌な予感が、なぜか警鐘を鳴らしていたけれども。
……あれ? おかしいな? なんでまだ嫌な予感がしてるんだろうか?
気にしても仕方がない。昨日から疑問に思っていたことについて話し合おう。
「ところでさ、スキルの習得ってどうやるんだ?」
昨日帰ってから自分の冒険者カードを見てみると、『レベル4 スキルポイント3』と表記されていた。
カエルを倒していたおかげで、少しだけではあるがレベルが上がっていたらしい。
ポイントはまだまだ少ないが、何か習得できるなら早いうちに覚えておきたい。
「冒険者だったら、誰かにスキルの使い方を教えてもらえば覚えられるようになっていますよ。実際に目で見て、どうやって使うのかを理解すれば、カードに『習得可能』と出るので、ポイントを使ってそれを選べば習得完了なのです」
結構簡単に覚えられるみたいだな。
じゃあ、ひとまずこの四人のスキルを教えてもらうか。
教えてもらうだけならただも同然だろうし。
「なあアクア。お前なら沢山使えるスキル持ってるんじゃないか? 何か、お手軽なスキルを教えてくれよ、習得にあまりポイント使わないで済んで、それでいてお得な感じのヤツ」
「うーん……じゃあ、私の冒険者カードを見せるから、気になったスキルがあったら教えてあげるわ!」
流石はアクア、気前がいい。
アークプリーストは万能職だと言っていたし、そのうちに使いやすいスキルだってあるはずだ。
そう期待しながら、俺はアクアのカードを覗き込んだ。
「『ヒール』、『リザレクション』、『ターンアンデッド』、『エクソシズム』、『ブレイクスペル』、『ブレッシング』……」
中々に良い感じのスキルがそろってる。
それにしても覚えてるスキルの数がとんでもないな、少し目が滑……。
「…………『花鳥風月』?」
なにこれ。
「『ヴァーサタイル・エンターテイナー』……? 『砂絵』……『消失マジック』……『動物会話』……『ジャグリング』……『死んだふり』……『パイ投げ』……おい、なんだこれ」
「スキルポイントが余ってたから、『宴会芸スキル』も全部習得しちゃったのよ……」
少し恥ずかしそうにしてアクアが言い訳染みたことを言う。
アークプリーストのスキルは全部習得しているから文句を言う気はないが、なんだこのスキル群は。
なんでアークプリーストなのに、こんな面白愉快なスキルが習得できるんだ。
「だって、芸をしたら皆笑ってくれるじゃない。周りの人たちが楽しそうにしてたら私だって嬉しくなってくるし……」
なんだこの人女神か。女神だったわ。
つまりこのスキルは、職業適性とかではなく、本人の気質から来るものという訳か。
周りの人たちを笑顔にしたい。って願望がスキルにも現れているのだろう。
「カズマカズマ。貴方はどのような手口を使ってこんな良い人を引っかけたのですか? 私、すごく気になるんですが」
「引っかけてねえよ。ってかナチュラルに俺を悪者にするな。お前だってゆんゆんの脛をかじっていたようなもんだろうが。ゆんゆんが居なかったらお前だって野垂れ死にしてただろ絶対」
唐突にめぐみんが俺に耳打ちしてくる。
言ってる内容は言われても仕方がないことではあるが、それをめぐみんには言われたくない。
「失礼ですね。私はゆんゆんにはちゃんと正当な対価を払っていましたとも」
「あれか、友達料とかいう薄暗い契約か。確かにゆんゆんは友達になってやるだけで何でも言うことを聞いてくれそうな女の子だが、そこに付け込むのは良くないと思うぞ」
「違わい! そりゃあゆんゆんは悪い人間に騙されそうなほどちょろい子ですが、紅魔族一のアークウィザードである私が、そんな弱みに付け込むような真似なんかするとお思いですか!?」
「あの……二人とも聞こえてるから……」
「ゆんゆん、友達がいなかったからって、そんなこと気にしなくたっていいわ! だってこれからは私達が友達だもの!」
「あ、アクアさん……!」
ゆんゆんが何か感極まっているが、それよりも気になることがある。
めぐみんの言う対価ってのがなんなのかということだ。
「で、その対価ってなんなんだよ」
「それはもちろん、魔法の使い方の講義ですよ!」
「…………それって釈迦に説法って奴じゃないのか?」
ゆんゆんだって、爆裂魔法が使えるめぐみんほどではないが優秀なアークウィザードだ。
同級生のアドバイスなんかが、それほどまでに価値のあるものなのだろうか。
「甘い、甘いですよカズマ。私は天才ですから、そんじょそこらの教師なんかとは比較にならないくらいに教えるのも得意なのです!」
「天才って、自分には簡単にできることを他人が出来てなかったら、なんでできないのかが理解できないらしいけどな」
「そんなまがい物の天才と一緒にしないで貰おうか! あらゆることには基礎が存在します。どんな天才数学者だって、誰でも最初は1+1=2から始まるものです。どこかで躓いたのなら、そこまでの基礎で理解できていない部分があるということ。そこを理解できれば簡単にできるものですよ」
思ったよりも本格的らしい。
だとしても、ゆんゆんに何を教えるというのだろうか。
「それで、どんなことを教えたんだ?」
「魔力を集中させる際、無駄なエネルギーを使わずにいかに効率よく伝導させるか。準備から撃つまでのタイムラグの短縮。属性別の魔力変換のコツ。モンスターごとの偏差射撃のポイント。収束時と発散時の魔法の使い方。……他にもいろいろありますが」
「……なんで、めぐみんって爆裂魔法しか使えないのに、そんなことが教えられるわけ?」
「そんなの、ゆんゆんに実際に使ってもらえれば、大体わかります」
「…………めぐみん。爆裂魔法以外を覚える気って本当にないのか?」
「ないです」
こいつ変態だ。
変態は変態でも
なんで自分が使えないはずのスキルを、本人よりも理解できてるんだ。
めぐみん自身が普通の上級魔法を覚えていたらとんでもないアークウィザードになってただろうに、本当にもったいない。
「カズマも魔法を覚えたのなら私が指導してあげますよ。昨日の戦いぶりを見て、カズマがもしも魔法を使うとしたらどうすればいいのか大体把握できましたので」
「あ、ああ、その時はよろしく頼むわ……」
怖っ!?
なんか滅茶苦茶怖いんだけど、この変態!?
なんでちょっと戦ってただけで魔法も使ってない俺の指導ができるんだよ!?
「ではゆんゆん、貴女の魔法スキルを教えてあげてください。いきなり上級や中級の魔法は難しいでしょうが、初級くらいなら習得可能だと思いますよ」
「うん! はい、カズマさん、これが私のカードです。気になることがあったら言ってくださいね」
気になることは山ほどある。
ただ、それを聞く勇気は今の俺にはなかった。
めぐみんの変態性は、魔法に対するヤバすぎる理解力ということになりました。
魔法の使い方についての検証に実験動物として優秀なゆんゆんをめぐみんが連れまわしていた結果、二人そろってカズマのパーティに入ったって訳です。
あとカズマの嫌な予感ですが、多分的中することになります。
理由ですか?
原作ではカズマの人並外れた幸運の高さで三人娘の不運を中和して、ちょっと(?)運が悪いって範疇に収まっていました。
そしてゆんゆんは、あのバニルでさえ「目をそむけたくなるほどの未来を持つ」と言うほどの運の悪さ……あとは分かるな?