このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

50 / 54
この素晴らしい裁判に祝福を!

 この世界には、弁護士なんて役職はないらしい。

 被告人の弁護は、その知人や友人が請け負うそうだ。

 つまり、この裁判での俺の弁護人は。

 

 

「弁護なら私に任せてください。最悪の場合でも死刑にはならないように立ち回りますので」

 

 

 俺のパーティメンバーということになる。

 

 

「なんだよその頼りになるんだかならないんだか微妙な宣言は。どうせなら無罪判決を勝ち取ってやるくらい言ってくれよ」

 

「確証できないことを公言しても意味がないでしょう」

 

 

 変に顔も知らない奴に弁護されるよりははるかにマシだ。

 むしろ、めぐみんに任せられるというのは非常にデカい。

 こいつなら、何とかしてくれるだろうという安心感がある。

 

 

「私は積極的には発言しないけど、めぐみんの助けにはなれるようには頑張るから!」

 

「頼みますよアクア。私の予想では、あなたの力がかなり必要になってきますからね」

 

 

 アクアの言う、発言しない。というのは、アクアが自発的に何かすると事態が悪くなるから黙っておく。という意味なのだろう。

 それでも、めぐみんの指示に従えばそれも回避できるということか。

 

 

「ええっと……本当にこんなことをしちゃっていいの? これじゃあ私が裏切ってるみたいというか……」

 

「とんでもない。むしろ、これをやってもらうことで裁判が有利に進むんですから、しっかりやってください」

 

 

 ゆんゆんが不安そうにめぐみんに問いかけるが、そのめぐみんは自信たっぷりにそう返す。

 ……なんか、ろくでもない作戦でも考えてるんだろうな、あいつ。

 

 

「それで、私はどのタイミングで言えばいいのだ? いっそのこと、この場で洗いざらい吐き出してしまいたいのだが……」

 

「本当にやめてください。私がちゃんとセッティングをしますので、どうかそれまで我慢を」

 

 

 ダクネスがどこか後ろめたそうに訴えるが、めぐみんがそれを抑える。

 いったいこいつらは何を言い出す気なのだろうか。

 

 こいつらの方針としては、めぐみんが中心になって俺の弁護をするつもりらしい。

 なんだろう、俺からすれば頼もしいのだが、周りから見たら一番小さい少女に任せっきりという情けない構図になっている気がする。

 

 ――そして、ついに裁判が始まり。

 

 

「静粛に。これより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める! 告発人は、アレクセイ・バーネス・アルダープ!」

 

 

 裁判長の呼びかけに、太った中年のおっさんが立ち上がった。

 あれがクソ領主の御尊顔か。

 禿げ上がって、大柄で、毛深くて、脂ぎってて……。

 なんか俺の弁護人たち四人を嘗め回すような目で見てる。

 

 ……すげえな、男である俺でも嫌悪感しか出てこねえ。

 実際に見られてるこいつらからすれば、恐怖すら抱いても不思議じゃない。

 

 

「……なんか、心なしか、やたらとダクネスを見てねえか? 執念の籠った視線というかさ」

 

「私もそう思います。ヤバいですねあれ」

 

 

 中でもダクネスへの視線がすごい。

 獲物を前にした蛇みたいな、身の危険を覚えるレベルだ。

 その当の本人は、涼しげにしているけれど。

 ……こいつ、マジでメンタル強すぎるだろ。

 

 

「では検察官は前に。この魔道具があるということを肝に銘じて、起訴状を読み上げるように」

 

 

 裁判長の指の先には、例の嘘発見器の魔道具が。

 それを確認したのち、木槌が振り下ろされ、セナが立ち上がる。

 

 

「それでは読ませていただきます。被告人は、機動要塞デストロイヤーを他の冒険者と共に討伐する際、爆発寸前であったコロナタイトを近くにいた冒険者に対し、それを遠方へと撃ちだすように指示しました。結果、コロナタイトは被害者の付近へと着弾し爆発。アルダープ殿はそれによって危うく命を落とすところでした。領主という地位の人間の命を脅かしたことは、国家を揺るがしかねない事件です。よって、検察官の立場として、彼に国家転覆罪の適用を求めます」

 

 

 完全に無表情のまま、セナが読み終えた。

 紙に書いてあることを読んでいるだけだから、ベルも鳴らないのだろうか。

 昨日の感じだと、セナは俺がそのような罪に処されるべきではないって雰囲気だったんだけど。

 

 それを見届けた裁判長が。

 

 

「続いて、被告人と弁護人に発言を許可する。では、陳述を」

 

「述べさせていただきます」

 

 

 待ってましたとばかりに、めぐみんが勢いよく立ち上がる。

 そして、ツカツカと法廷を歩き回りながら。

 

 

「被告人は、コロナタイトの処理を行っただけです。元々の手段としては、『テレポート』でコロナタイトを人々への影響が少ない場所へ送りつけるつもりだったのですが、それを行える人間が、事故でそれを行使することができなかったために、やむを得ず、コロナタイトを撃ちだすという方法に踏み切った。ただそれだけなのですよ。何も、原告を害するつもりはありません。これは只の事故だと弁護側は主張します」

 

 

 めぐみんはそう主張した。

 しかし、そこでは留まらず、そのまま領主の近くまで歩み寄って。

 

 

「そもそも、コロナタイトの着弾地点の付近に、原告が居たという事実すら怪しいものではないでしょうか? あの辺りには本当に何もない、ただの平原が広がっているばかりです。なのになぜ、原告はそのような場所にいたのか、私には理解が出来ません。まさかとは思いますが、実はあんなところには居なかったにもかかわらず、被告人を陥れるためにそのような虚偽を述べたという訳ではありませんよね? ……どうか、お答えください」

 

 

 この裁判の根幹となる事象についての質問を始める。

 けれど、これに関しては皆が気になっていたことだろう。

 実際にそんなところに居たのかどうか。

 これが嘘であるなら、その時点で俺の無実が確定する。

 しかもここには嘘発見器がある。

 

 これはクリティカルな質問だと思いきや、アルダープはいやらしそうな表情を浮かべながら、口を開く。

 

 

「ならばこの場で改めて主張してやろう。ワシはあの時、確かにコロナタイトの落下地点の近くに居た。着弾地点がもう少しでもずれていればワシの命はなかっただろうな」

 

 

 ――ベルが鳴らない。

 

 それはつまり、今のアルダープの言葉は真実であるということだ。

 そんなバカな。

 めぐみんの言葉じゃないが、あんなところに用事があったなんて思えない。

 なのに、どうして……。

 

 そうやって俺が混乱しているのをよそに、めぐみんの顔がしかめっ面になる。

 まさか、めぐみんにもこれは予想できていなかったのか?

 少し不安になって成り行きを見守っていると。

 

 

「……ほう。そういう手で来るのですか。ならばこちらもそれなりの対応をさせていただきましょう」

 

 

 瞳を赤く輝かせながら、めぐみんがそう啖呵を切った。

 

 

「ではお尋ねします。なぜあのようなところに居たのですか? 先ほど私が述べたように、あの場所には何もありません。人は住んでいませんし、別の街への道からも離れています。なのに、どうして、原告はあんな辺鄙なところに居たのですか?」

 

「そんなことはどうだっていいだろう。重要なのは」

 

「質問に答えられないということですか。ならば私の推測を述べましょう。実はあなたは、あそこが爆心地になると分かっていて、被害者になるためにわざとあそこで待ち構えていたんじゃないですか? 被告人を逮捕する理由が欲しい余りに、告発人は、そのような凶行に走ってしまった。そうでしょう?」

 

 

 アルダープの言葉を遮り、めぐみんが矢継ぎ早に喋り続ける。

 さすがの領主もめぐみんの主張を否定しなければと思ったのか、反論を始めた。

 

 

「何をバカなことを。どうしてワシが、ただの一般人である冒険者一人にそこまでしなくてはいけないのだ。陰謀論もほどほどに」

 

「ああ! そういえば、今回の裁判とは全く関係はありませんが、確かあなたは、以前にも被告人を指名手配したことがありましたね? 結果、ダスティネス家によって棄却されてしまいましたっけ。『これほど魔王軍を討伐している人間が、魔王軍に与するはずがない』と、一刀両断されていたような……。あっ、今のは今回の件とは全然関係のない話ですけど」

 

「ぐっ……!?」

 

 

 おやおや、苦しそうですねアルダープさん。

 ここまで言われてしまえば、領主としてもどうにかして理由を話す必要が出てくる。

 めぐみんの主張は、一応は筋が通っているのだから。

 

 

「き、貴様らには関係のない話だ! これは、貴様らのような冒険者には知られてはならん、貴族であるワシのような者にのみ知ることができる重大な機密事項に関することなのだからな!」

 

 

 こいつ権力を盾にしてきやがった。

 最早なりふり構ってられないのだろうか。

 個人的な秘密であっても機密事項には違いがないので、ベルが鳴らないのが腹立たしい。

 

 しかし、そのような状況にあってもめぐみんは焦りを一つも見せない。

 むしろ、いっそ大袈裟なほどに満面の笑みを浮かべている。

 

 

「そうですかそうですか! これは失礼なことをお聞きしてしまいました! いや、まさか、あんなところに居た理由が、我々のような冒険者には知ることができないような事情によるものだったとは! 確かにそれでは、このようなところで答えられるものではありませんね!」

 

「そ、そうだろうそうだろう! だから、そろそろ被告人の話に戻るべきではないかね?」

 

「ええ。私も丁度そうさせてもらおうかと思っていたところですよ。回答ありがとうございます」

 

 

 めぐみんの言葉にようやく安心したのか、アルダープが長く息を吐きながら着席した。

 そして、めぐみんは、裁判長に向き直り。

 

 

「と、原告が今述べたのが事実であるなら、当時、原告があの場所にいたという情報を我々のような冒険者達には知る術がありません。……そう、同じく冒険者である、被告人にもです!」

 

「……あっ」

 

 

 ようやく、アルダープも自分の失策に気づいたようだ。

 けれど、もう遅い。

 

 

「今回の裁判は、『被告人が意図してコロナタイトを原告に対して撃ちだしたか?』というのが肝になってきますよね? しかし原告の主張通りなら、領主がそこにいたということを被告人が知っているわけがないのです! 何故なら領主である告発人が、そう易々と機密事項を外部に漏らすような、そのようなへまを犯すはずがないのですから!」

 

 

 どんどんめぐみんが逃げ道を塞ぐ。

 嘘かどうかなんて関係がない。

 相手の主張を逆手に取り、追いつめていくめぐみんのあの戦法。

 ……何度俺があれに泣かされたことか。

 

 

「それとも、もしや原告は領主としての責務も果たせないようなお人だったのでしょうか? だとしたら、もしかすると、被告人にもそれを知る機会はあったかもしれませんね。さて、今回はどちらなのでしょうか? 告発人、お答えください!」

 

「う……ぐ、む……!」

 

 

 おお、苦しそう苦しそう。

 自縄自縛とはまさにこのこと。

 どう答えたものかとアルダープが脂汗をかきながら考え込んでいると。

 

 

「め、めぐみん、そのあたりにしとかない? あんまり領主さんに意地悪し過ぎたら、何にも答えてくれなくなっちゃうよ?」

 

 

 驚くことに、ゆんゆんが救いの手を差し伸べた。

 若干棒読みで。

 それを聞いためぐみんが、仕方ないと言った様子で肩をすくめる。

 

 

「確かにゆんゆんの言う通りです。告発人、今の質問には答えなくても結構ですよ。……ゆんゆんに感謝することですね」

 

 

 そのままめぐみんは元居た場所にへと戻ってくる。

 どうやら、この件についてはこれ以上問い詰めるつもりはないらしい。

 

 

「う、うむ……それにしてもそこの娘、まだまだ若いが非常に可憐ではないか。どれ、そちらがその気なら、ワシが貴様のことを目にかけてやっても……」

 

 

 なんかアルダープがトチ狂ったことを言い出した。

 こいつ裁判中に何言ってんだ。

 もしかして、今のこいつにはゆんゆんが救いの女神にでも見えているのだろうか。

 そしてその誘いの言葉も、アルダープなりのゆんゆんへの礼なのかもしれない。

 貴族に目をかけてもらえるというのは、ある意味では名誉なことではあるが。

 

 それを聞いたゆんゆんは、若干顔を青くしながら引き気味に、

 

 

「……え、その……、生理的に無理なのでお断りします……」

 

「ぬぐっ!?」

 

 

 アルダープへ、女の子からの『生理的に無理』という残酷すぎる言葉(そくしじゅもん)を放ったのだった。

 

 なんてひどいことを言うんだ、いいぞもっとやれ!

 

 ヤバイ、笑いそう。

 よく見ると、裁判長もセナも笑いを堪えているような様子。

 傍聴人に至っては、爆笑してるやつまでいる。

 

 

「ブフッ! ……せ、静粛に! 静粛、グッ……静粛に!」

 

 

 おい、堪えきれてないぞ裁判長。

 それを見て、頭まで真っ赤になっていくアルダープ。

 へっ、ざまあみろ。

 

 

「げ、原告は、裁判中には口を慎むように! では、検察官、被告人が国家転覆罪が適用されるべきだという証拠の提出を!」

 

「で、では、これより証拠の提出を、行います……証人、前に出てきてください」

 

 

 ようやく騒めきも収まってきた頃合いで、セナの指示により証人が呼び出される。

 そして、そこに。

 

 

「あはは……、なんか呼ばれちゃった……」

 

 

 気まずそうに、頬を掻くクリスが居た。

 ……あ、ヤバイ。

 

 

「証人に問います。あなたは被告人に、公衆の面前でぱんつをスティールされたことがあったようですね。間違いありませんか?」

 

 

 なんてことをしやがる!

 セナの奴、証拠が無さすぎて、俺の評判を落とす方向に持ってきやがった!

 いくら仕事だからってやっていいことと悪いことが……!

 

 

「え、えっと、確かにそれは間違いではないんだけども……あれは事故だったっていうか……」

 

 

 もっと強気で反論してくれエリス様!

 そんなんじゃ、俺がセクハラ野郎だってことになっちまう!

 

 

「ほら見たことか! これがそいつの本性だ!」

 

 

 さっきまで意気消沈していたアルダープが、ここぞとばかりに嘲笑ってくる。

 ……このおっさんは本当に……!

 

 

「アルダープ殿、申し訳ありませんがお静かにお願いします。まだ証言が終わっていませんので」

 

「そうかそうか! 心いくまでやるがいい!」

 

 

 そうアルダープが言った瞬間、セナの雰囲気が変わる。

 なんか、さっきのめぐみんが笑みを浮かべた時のような感じに。

 

 

「証人、被告人は意図して、あなたのぱんつをスティールしたと思いますか?」

 

「それはないんじゃないかな? スティールって、ランダムで相手の物を奪うってスキルだし。そもそも、あたしはその件については気にしてないから……」

 

「そうですか、ありがとうございます。その事実を確認できれば十分です」

 

 

 そこで質問は打ち切られ、クリスと交代で別の人物が現れた。

 デストロイヤー戦で軽く共闘したミツルギだ。

 ……取り巻きも付随してるのが厄介だな。

 

 

「ミツルギさん。あなたは以前、被告人から魔剣を奪われ、それを返してほしければ全財産をよこせ、と言われたそうですね。そして、そちらの二人は、魔剣を持った被告人に脅されたとか」

 

「ま、まあ、その通りです。でも、あれは僕から挑んだ勝負であって……」

 

「そうなんですよ! 『俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせられる公平な男だ』とか言って!」

 

「しかも、その後、キョウヤをワイヤーで縛ったまま街中に放置なんかもしてたんです!」

 

 

 余計なことを言うんじゃない!

 事実だけど! 確かに事実だけども!

 逆恨み気味に取り巻き二人にへと視線を送ると、何やら複雑そうな顔をして。

 

 

「……でも、最近は、なんだかんだキョウヤってあいつと仲良さそうにしてるんだよね」

 

「……うん。それに、確かにあの時は私達も言いすぎちゃったところもあるから、お互い様っていうか」

 

 

 マジか。

 取り巻き二人も反省してたんだ。

 すごいなアクアの説教。

 

 それでも、俺に対しては恨みは捨てきれてはいないらしい。

 ……残念ながら当然だわ。

 俺もあの時ははっちゃけ過ぎたし。

 

 

「お、おい検察官! そいつらの証言を止めさせろ!」

 

「いえ、アルダープ殿が仰ったように心いくまでやるので、静粛にお願いします」

 

 

 アルダープの主張をきっぱりと断るセナ。

 もしや、これが狙いだったのか。

 あたかも俺への評判を落とすための証人を集めていると見せかけて、俺へのダメージは最小限にするために。

 

 

「それで、ミツルギさんはどうですか? 被告人に対して思うところは?」

 

「魔剣を奪われた、というのも、僕から勝負を挑み、その結果として戦利品として取られただけですので、含むところはありません。被告人にも、同等以上の価値があるものを賭けさせていましたし、無理矢理決闘に持ち込んだ僕の方が悪かったとも思ってるくらいですよ」

 

 

 ミツルギ、お前本当にいい奴だな。

 なんか泣けてくるわ。

 

 

「なので彼とは和解していますし、彼と僕は…………佐藤和真、僕と君の関係ってなんて言ったらいいんだ?」

 

 

 俺が罪に問われている場で、何暢気なことを聞いてきやがるんだ。

 天然かよこいつ。

 

 でもそうだな。

 俺もミツルギには悪い印象は無いし、仲も良くなってきたし。

 ……。

 …………なんだろう?

 

 

「……一応、戦友か? 出身地同じだしデストロイヤーでも協力してただろ?」

 

「……そうか! そういう訳で、僕は彼を恨んでなんかいませんよ。むしろ、このような場で裁かれるような人間でないとも」

 

「わ、分かりました、結構です。証言ありがとうございました」

 

 

 嬉しそうに語るミツルギの言葉を遮り、退廷を促すセナ。

 ……なんだ?

 なんか、セナの顔が嬉しそうなものになってるんだけど。

 というか、興奮してないか、あれ?

 

 まあいいや、それで次は誰が来るのやら。

 そう思って次の証人の顔を見る。

 ……うん? なんであいつが?

 

 

「この男は、次に控える裁判の被告人です。裁判長もよくご存じでしょう。しょっちゅう問題を引きおこしているチンピラです」

 

「なんだとこら! 随分な紹介じゃねえか! いっそのこと、この場でテメエを裸にひん剥いてやってもいいんだぜ!?」

 

 

 ……なんであいつは、我慢するということができないのか。

 話を聞く感じ、お前の裁判の検察官もセナなんだろ?

 あんまり言いすぎると、裁判の時の心証悪くなるぞ。

 素行の悪さが、気にしても意味がないレベルにまで達しているなら、俺から言えることは何もないが。

 

 

「ダストさん、あなたはサトウカズマと仲がいいと聞きました。事実ですか?」

 

「当たり前だろ。一緒に酒も飲むくらい仲良しだっての。なあ、カズマ?」

 

 

 ダストにそう聞かれて、俺はとっさに答える。

 

 

「こいつが借金まみれになってるのを見るに見かねて、クエストを手伝ってやったり、たまに金を貸したりするくらいの仲ではあります」

 

「おいテメエ! それだと俺がお前に世話になってばっかりみたいになってんだろうが!」

 

 

 あながち間違いでもないだろうが。

 

 

「そうですか……それは、大変ですね。茨の道とは思いますが、その志は立派なものかと……」

 

「その……あんまり手に焼くようなら私にご相談くださいね? 検察官としてできる限りの協力は致しますので」

 

 

 裁判長とセナが、俺に同情するような視線を送ってくる。

 俺が被告人なはずだが、この瞬間だけは俺が告発人みたいな扱いになっていた。

 

 

「あれ? なんでカズマが俺を訴えるみたいな流れになってんだ? そ、そんなことはしないよな、カズマ? 俺達親友だろ?」

 

「安心しろ、お前がちゃんと借金を返済するまでは見捨てたりはしねえから」

 

 

 その後、貸した分の金を返してもらわなくっちゃいけないんだから。

 借金の取り立てをする時のコツは、相手にはなるべく優しくすることだ。

 あんまり怖がらせると、夜逃げされてしまうからな。

 

 その後も喚き続けるチンピラが騎士たちによって強制的に退廷させられて行き。

 

 

「今の証人達には、被告人の人間性について証言していただきました。女性の下着を盗み、相手の武器を奪っては脅し、素行の悪い人間との交流がある。被告人の人間性は疑われる余地があると考えられます。そして被告人は被害者に対して恨みを持っていました。以上の事から、被告人は事故を装い、被害者の所へとコロナタイトを発射したのでは、と」

 

 

 ぬけぬけと、セナがそう主張してきた。

 ……まともに訴えるつもりないだろ、この人。

 

 

「被告人と弁護人、今の主張に対して異議や申し立ては?」

 

「はい」

 

 

 めぐみんが率先して手をあげる。

 

 

「今の検察官の主張は、可能性を列挙しただけにすぎず、実行したという物的証拠や目撃情報が一つたりとも述べられていません。これだけで被告人が意図的に原告を害するつもりだったとは言えませんし、魔王軍の関係者、或いはテロリストだと断言するには、根拠が乏しいものと思われます」

 

「検察官、反論は?」

 

「それでは、被告人が、街の崩壊を企んでいるテロリスト、或いは魔王軍の手先であるという根拠を提示しましょう」

 

 

 セナが、何かが書かれた紙をとりだし、読み上げていく。

 

 

「一つに、被告人を含めた三人組が、街の郊外で災害規模の魔法を実験と称して乱用していたということ」 

 

 

 めぐみんとゆんゆんがそっぽを向き。

 

 

「さらにはそのせいでベルディアによってこの街が壊滅の危機にさらされかけたということ」

 

 

 めぐみんはさらに縮こまっていき。

 

 

「二つ目には、彼らが探索していたとされるダンジョンが爆発によって崩落したという事実があります。そのときには爆裂魔法が使えるというそこの弁護人も引き連れていました」

 

 

 そこでガバリと顔を上げ。

 

 

「これらのことから、被告人を含む彼らのパーティは破壊工作を行っていたのではと」

 

「異議あり!」

 

 

 元気よく手を上げた。

 

 

「まだ検察官が陳述しています。発言する際は私に許可をとるように。……検察官、よろしいですか?」

 

「はい。結構です」

 

「それでは弁護人、陳述をどうぞ」

 

 

 裁判長に促され、めぐみんが陳述を始める。

 

 

「最初の実験に関しては認めましょう。私とゆんゆんで、大規模な魔法を使っていたのは事実ですから。リーダーであるはずの被告人がその責任を追及されるのはやむ無しかもしれません」

 

 

 こいつ、どさくさに紛れて自分の迷惑行為の責任を俺に押し付けやがった!

 

 

「しかし、ダンジョンの崩落については、むしろこちらから訊ねたいと思っていたところだったんです」

 

 

 めぐみんが立ち上がり、領主の方へと向き直る。

 

 

「魔道具があるので丁度いいです。この場で聞いてしまいましょう。あれは、あなたの仕業ですか?」

 

 

 それを聞いて、あざ笑うかのようにアルダープが口端をゆがませた。

 

 

「何を言うかと思えば、あれは貴様の爆裂魔法によって起きたものではないか? 確か、何かが爆発したせいでダンジョンが崩れたのだろう?」

 

「そう言われると思ってましたよ。……では皆さん、魔道具にご注目を」

 

 

 めぐみんがベルを指さしながら、大きな声で、

 

 

「あのダンジョンが崩落した日、私は一度たりとも爆裂魔法を使っていません!」

 

 

 そう宣言する。

 が、魔道具は全く反応しない。

 

 

「……とまあ、私は原因ではありません。ゆんゆんも言ってしまってください」

 

「う、うん! 私も、あの日にダンジョンが壊れるような魔法は使ってません!」

 

「ついでに俺も。俺はダンジョン付近、内部では爆薬は一回も使ってない」

 

 

 ベルはうんともすんとも言わない。

 あの時めぐみんが爆裂魔法を脱出で使いたくないって言ってたのは、こういうことだったのか。

 それを見て苦虫を潰したような顔をしているアルダープに向かって。

 

 

「今度はあなたの番です。ダンジョンの崩落には自分は100(・・・)()関与していないと、そう言ってくだされば結構です。……もしくは、この魔法陣が書かれていた紙に見覚えはあるかどうかを答えてくださっても良いですよ」

 

 

 めぐみんのその言葉が契機になったのか、アルダープが立ち上がって俺を指さして叫ぶ。

 

 

「もういいだろう! そいつは魔王軍の関係者だ! さっさと死刑にしろ!」

 

 

 やけくそになって口から出た言葉だったのだろう。

 しかし、その言葉は、まさにこの裁判を終わらせるのに絶好の物だった。

 

 

「違う! 俺は魔王軍の味方でも、テロリストでもない! 領主がそんなところに居たなんて知らなかったし、コロナタイトは街を守るために仕方なしにやったことだ!」

 

 

 俺の発した言葉に、当然ベルは鳴らない。

 それを見てアルダープが言葉に詰まる。

 セナに至っては、やっと一段落がついたと肩の力を抜いていた。

 

 

「もういいでしょう。被告人が意図してコロナタイトを原告に送り付けたとする根拠があまりにも薄すぎる。原告が着弾地点の付近に居たとしても、物的被害も怪我を負うこともなく済んだのです。よって、被告人、サトウカズマ。あなたへの嫌疑は不十分と見なし――」

 

 

 裁判長が判決を下そうとした時。

 

 

「おい、その男は魔王軍の関係者であり手先だ。今すぐに――」

 

「待った」

 

 

 アルダープが何かを言おうとし、そこへさらに被せてくる誰かの声。

 

 

「……なんだ小娘。まだ何かあるのか?」

 

「ええ。原告に一つだけ忠告をしておこうかと」

 

 

 めぐみんが、再び紅い瞳を輝かせながら領主を睨みつける。

 

 

「もしもその言葉の先を言おうものなら、……あるいは、その力(・・・)を使おうとするなら、こちらにも考えがあります」

 

「弁護人、脅迫するような言葉は慎むように!」

 

「先に余計なことを言ったのは、原告側ですよ」

 

 

 裁判長の言葉にも即座に切り返し、一歩、また一歩アルダープの傍に近寄っていく。

 

 

「それで、何をするつもりだ? ワシに何かしようものなら、それこそ国家転覆罪だぞ?」

 

「いいえ。私がお伝えしたいのは、『あなたがその言葉を発したならば、その犠牲者が一人増えますよ』ということだけですので」

 

 

 めぐみんの言葉に、アルダープが笑い出す。

 あまりにも拍子抜けな言葉だったからだろう。

 

 

「だからどうしたというのだ? その程度でワシが止めるとでも?」

 

「……どうやら決意は固いようですね。ならば仕方が無い」

 

 

 そう言い捨てると、めぐみんは元居た弁護席まで戻っていき、改めて口を開く。

 

 

「実は、まだ提示していなかった事実があります。今回の事件の実行犯についてです」

 

 

 ……おい、待て、それは!

 

 

「裁判の最中に、一回もそれが話題に出ないもんですから、もしかしたら皆さんは知らないのではないかと思い、ここで発言します。……原告はいかがですか?」

 

「はん、そんなものその男が指示したという事実さえあればいいのだ。誰がやろうと関係ないわ」

 

 

 やっぱり嵌める気満々だったのかよ。

 そんな俺の憤りもよそに、めぐみんは淡々と告げていく。

 

 

「そうですか。……しかし、本人は今回の件には責任を感じており、もしも被告人が何らかの罪を受けるなら、それを肩代わりしたい。それが出来なくても、共に受刑するおつもりだったそうですよ」

 

「ならば、そいつもまとめて……!」

 

 

 そこまでアルダープが言って。

 

 

「では、ダクネス、思いの丈をどうぞ。ああ、アクアの傍から離れないように」

 

「……うむ」

 

「…………え?」

 

 

 呆気にとられるアルダープ。

 しかしそんなこともお構いなしに、今まで沈黙を貫いていたダクネスは、勢いよく立ち上がると。

 

 

「聞け! あのコロナタイトを撃ちあげたのも、その解決策を思いついたのも私だ! その男は関係ない! だからこそ、その男に与えられる刑罰はすべて私が受けるべきである! 元はといえば、カズマがこの街に残ったのも、私の我儘のせいなのだ! さあ、アルダープよ。その先の言葉を続けるがいい! このダスティネス・フォード・ララティーナがその罪を贖おうではないか!」

 

 

 そんなトンデモ発言をし始めたのであった。

 え。

 てか、ダスティネスって……あの大貴族の?

 ちょっと意味が分からないんだけど。

 

 

「で、どうします? ……被告人に、死刑宣告をしますか?」

 

「え、いや……その……」

 

 

 めぐみんに促されるが、しどろもどろになるばかりのアルダープ。

 きっと頭の中では大混乱が起きているのだろう。

 だって、俺もそうだから。

 

 

「私は死刑でも構わんぞ。あなたが今回の件に関してそこまで憤っているのなら、仕方が無い」

 

 

 ベルが鳴らない。

 つまりダクネスは本心から言っているわけで。

 こいつはやると決めたら確実にやるタイプの人間だ。

 死ぬとなれば本当に死んでしまうのだろう。

 

 …………ただ。

 

 

「………………裁判長、ワシの事は構わず、判決を下せ……」

 

「は、はい。……では、改めて。被告人、サトウカズマ。あなたへの嫌疑は不十分と見なし、無罪を言い渡します」

 

 

 最悪の場合でも死刑にはならないための作戦が、ダクネスを人質にとることって、めぐみんお前……。

 

 

「めぐみん、お前、権力には屈しないんじゃなかったのかよ」

 

「私だってこんなやり方はしたくなかったです! でも、ダクネスはいくら説得しても聞いてくれませんし、あの領主はインチキを使ってますし、だったら両方を救うためには、こうするしかなかったんですよ……」

 

 

 そう言ってめぐみんは項垂れた。

 ……いや、本当、お疲れ様です。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。