このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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この素晴らしい縁談に祝福を!

 俺がダクネスのあんまりな出迎えを止めた後。

 お嬢様が怪我をしていないか確認したい、と俺達は玄関からちょっと離れた場所に移動し、来訪者の方は、現在親父さんが相手をしてくださっている。

 

 

「おいどう言うつもりだっ! ダクネス、お前何いきなり初対面の相手に喧嘩をふっかけてんの!?」

 

「いきなりも何も、恋人がいる相手に対して見合いに来るなど無礼にも程があるだろうが! それとも何か? カズマは私が浮気をするようなふしだらな女に見えるとでも!?」

 

 

 そうは見えないのは確かである。

 多分こいつ、何らかの理由で不貞を犯したら、潔く腹を切りそうな気がするし。

 だが、論点はそこじゃない。

 

 

「お前はバカか? 俺とダクネスが付き合ってるってことをバルターは知ってるわけねーだろ。だって、さっき親父さんに言ったばっかりなんだからよ」

 

「ぐっ……それは…………いや待て! そもそも私は見合いの件を了承してないぞ! それなのに突然の来訪など非常識だろう!?」

 

 

 ダクネスが苦し紛れにそう反論してくるが、実際疑問ではあるところでもある。

 俺たちの交際のことを−−振りではあるがーー知らないダクネスの親父さんが、勝手に進めていたのだろうか?

 ……まあ、それはともかくとして。

 

 

「じゃあ何か? お前は特に危害を加えられてもなく、どういう意図で来訪したかは不明だが、なんか疑わしいやつが来たからって喧嘩腰になっていいって主張するつもりですか、お嬢様?」

 

「……………………私が軽率でした」

 

 

 俺の言葉にようやくダクネスは反省してくれたようだ。

 マジでその猪突猛進振りをどうにかしないと、俺ではない真の交際相手を探す時に困るぞホントに。

 今のだって、バルター相手に失礼な態度を取ってたら、その噂は巡り巡って皆に知られることになるんだから。

 それこそ、その悪例であるクソ領主が現実にいるんだし。

 

 

「とりあえず、転んでお前の服が汚れてるから、一旦着替えてきて、その後でバルターに謝りに行ってこい。一人で謝罪する勇気がないなら、俺とアクアもついて行ってやるからさ」

 

「うん。私もあの子には謝ったほうがいいと思うわ。人のことを勝手な想像で決めつけちゃダメなんだからね?」

 

「…………はい」

 

 

 俺とアクアの説教で、トボトボと衣装室の方へと歩みを進めていった。

 ……ちょっと言いすぎたかな。

 ダクネスはダクネスなりに考えて行動していたのだろうし、実際不倶戴天の敵である相手の親族が来たら気が気じゃなくなるのも仕方ないか。

 

 ただ、あいつは貴族なのだし、将来はこの地にいる人々を導く役割を担うわけだ。

 ここは心を鬼にしてでも、毅然とした態度で叱らないといけないところのはず。

 人々の先に立つ者が、感情に振り回されて短慮なことを起こすことは許されないのだから。

 

 

「……なあアクア。俺たちの家に帰った時の食事は、ダクネスの好物にしてやらないか?」

 

「……そうね。それもとびっきりの食材で作ってあげましょ」

 

 

 だから別に、この食事の提案に関しては、ダクネスを予想以上に落ち込ませたからといって、食事で慰めようというような意図はない。

 断じてないのである。

 

 

「……にしても、なあ」

 

「どうかしたの、カズマ?」

 

 

 俺のぼやきにアクアが反応する。

 

 

「ここにきて今更なんだけど、少しダクネスの将来が心配になってなぁ」

 

 

 あんな風に、貴族の男に対して喧嘩腰に挑んでいるダクネスの様子を見ると、少しダクネスの親父さんの気持ちも理解できてしまう。

 ダクネスと共謀して、父親を騙しにかかった俺が言えた義理ではないけれど、冒険者が相手でも構わないと言っているあたり、めぐみんが言っていたように、親父さんは本当にダクネスに幸せになって欲しいだけなのだろう。

 これが、ダクネスが本気で結婚するのが心底嫌だと思っているなら、余計なお節介と切ってしまえるのだが。

 

 

「あいつ、あれで普通に結婚願望自体はあるらしいんだよ。無理そうなら諦めはつくってだけで」

 

 

 俺がダクネスの結婚に関して揶揄うと本気で怒るあたり、優先順位は高くないだけで、幸せな家庭を作りたいという希望は持っているっぽいんだよ。

 今でこそ、戦闘にさえならなければ、性格は良いし、見た目も良いし、家柄も良いしで引き手数多なのだろう。

 実際、数え切れないほど、親父さんから提案された見合いを断ってきたと言っているくらいだし、それはもうモテモテなのだと思う。

 ただ、

 

 

「すっごい現実的な話をすると、あいつも冒険者生活が終わった後で、そんな都合のいい結婚相手が見つかると思うか? もし仮に、俺たちが魔王を討伐するまで付き合うとしたら、数年単位で時間がかかってもおかしくない。何年も経った後で、タダでさえ厳しい結婚相手の条件に加えて、魔王討伐に貢献し、長いこと見合いを一方的に断ってきた奴と結婚しようとする剛の者がいるかってことなんだよ」

 

 

 今でこそ俺はダクネスに対して仲間意識があるから気軽に接してはいるものの、もしも初対面で出会った場合、少なくとも俺にはハードルが高すぎて結婚を申し込む勇気も湧かない。

 本当に魔王を倒すまで行ったら、エベレスト山頂に咲いてるレベルの高嶺の花になってしまうだろう。

 最初から、『こんな人に見合う自信がない』って諦めてしまうくらいに。

 

 

「今回の偽装みたいに、めぐみんは『カズマはダクネスの相手の条件にあってますよ』って言うけど、俺は冒険者であって貴族じゃない。この間まで、俺って引きこもりだったんだぞ? 領地の運営なんてやり切れる自信はないし、領民の生活を預かる覚悟はできてない。そんな奴と結婚させるのもおかしな話じゃねえか。そもそも、ダクネスの相手が俺しかいないっていうのも、それはそれでダクネスが可哀想だとも思うんだ。数多くいる相手から俺を選ぶんなら、少なからず嬉しい気持ちはなくはないけど、妥協の結果俺しかいない、なんてのは良くないんじゃねえかな。……だって、あいつならもっといい奴と結婚できるだけの良物件なんだし」

 

 

 バーサーカーモードになったダクネスは本当におっかないが、普段は本当に良い奴なんだ。

 あんななりで初心だし、可愛いもの好きだし、性格イケメンだし、優しいし。

 ただ、欠点があまりにも目立ちすぎてるだけで。

 

 

「だから、今回あのクソ領主はついてこないで、評判の良さそうなバルターってやつだけ来たのは好機だ。一回その貴族様には、ダクネスと歳が近くて有料物件そうな貴族の男と肩の力を抜いた会話をする練習相手になってもらおう。これまでダクネスは意固地になって貴族の男と接することなく過ごしてきたみたいだし、それに対する経験もないだろ? それでダクネスが『案外貴族の男も悪くないな』ってなってくれれば御の字。もしダメでも、あのクソ領主の顔に泥を塗るくらいで良心の呵責も少ない。最高のシチュエーションじゃねえか」

 

「……もしそれで、本当にダクネスがバルターって子のことを気に入ったらどうするの? もうカズマとダクネスは付き合ってるって、ダクネスのお父さんには言っちゃったじゃない」

 

 

 なんだ、そんなことか。

 それなら簡単だ。

 

 

「普通に『実は付き合ってませんでした』って言えば良いさ。理由づけも簡単だ。あのクソ領主の裁判のせいで、そちらの家に不信感があったから断るために偽装してましたって正直にな」

 

「そんなこと言って大丈夫なの? 仮にも相手のお父さんなのよ?」

 

 

 それこそ何も問題ない。

 

 

「正常な感性があるなら、自分の父親が如何にクソ野郎か理解できてるはずだ。もし、それが分かってないような奴なら、それこそダクネスの結婚相手に相応しくないしな」

 

「…………なんかカズマ、ダクネスのお父さんみたいなこと言ってない?」

 

 

 当たり前だ。

 俺の大事な仲間を、碌でもない奴のところに嫁がせてたまるかよ。

 

 

「最初は見合いのことは匂わさずに、さっきの非礼を詫びる形で自然と会話に持っていく。その後は俺が会話をフォローしながらって流れで……」

 

 

 そこまで言って、アクアがハッと気付いたような仕草をし、

 

 

「待って! そもそもダクネスとバルターって子が親しい仲になるのは良くないことじゃなかったの!? だって、今回だってアルダープって人と関わり合いになりたくないってことで、偽装してるわけなんだし!」

 

 

 慌てた様子で俺に訴えかけてきた。

 

 

「なんだそんなことか」

 

 

 元はと言えば、確かにアクアの言う通り、クソ領主なんかお呼びじゃないというアピールのために俺たちは来ている。

 だけれども。

 

 

「それで、ダクネスが本気でバルターと結婚したいっていうなら、全力で助けてやればいいだろ? 考えてもみりゃ、元々俺たちはアルダープのクソ野郎をあの地位からひきづり落とす予定だったんだし、それが早くなるってだけだ。ほら、よく言うじゃん。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえってさ」

 

 

 俺たちがその馬である。

 安心して欲しい。

 うちのパーティは、俺以外は皆優秀でプリティなじゃじゃ馬娘だらけだから、運命だって変えられるし、限界だって超えられる。

 仲間の力を合わせれば、勝利のその先にあるゴールくらいはなんてことなく辿り着けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そちらがダスティネス・ララティーナ様でございますか。いやはや、礼儀に欠ける私の行いを言葉一つで許していただけるとは、寛大な措置をしていただきありがとうございます」

 

 

 嫌味や皮肉の気配など一切ない調子で、目の前の貴族の男−−バルターは、着替え終わったダクネスに対して恭しく頭を下げた。

 ……うん。

 咄嗟に俺が阻止したからとはいえ、あまりにも突然でその上無礼極まるダクネスの熱烈な歓迎を、即座に許してくれたこの人の方がよっぽど寛大な心を持っていると思う。

 少なくとも、このバーサーカーよりは間違いなく礼節の面では遥か高みにいるのは間違いない。

 

 

「では、改めて自己紹介をさせて頂きます。私は、アレクセイ・バーネス・バルターです。アレクセイ家の長男で、父の領地経営を手伝っております」

 

「ご丁寧なあいさつありがとうございますバルター様。私が現在お嬢様と冒険者仲間として付き合わせていただいているカズマと申す者です。以後宜しくお願い致します」

 

 

 すったもんだがあった末、俺とバルターは客間の白いテーブルを挟み、向かい合って座っていた。

 アクアはメイドとして俺たちの後ろで待機してくれている。

 ……にしても、女神様を従者扱いするってとんでもないことしてるな俺たち。

 

 それはともかく、本来なら、俺ではなくダクネスがこのイケメンの相手をするべきところではあるのだが。

 

 

「そしてこちらのかなり……いえ、少々頭の足りておられない猪武者が如き女騎士がララティーナお嬢様でございます。先ほどはお嬢様がバルター様にとんだ失礼なお言葉を浴びせてしまい申し訳ありません」

 

 

 当のお嬢様が恥ずかしそうに俯いたまま口を開こうとしないのだから致し方ない。

 顔を真っ赤にしたまま黙り込んだダクネスの代わりに俺がバルターへの謝罪の言葉を伝える。

 

 

「いえ、私の父の評判を知っておられるなら、あのように警戒されるのも無理もないことです。むしろこちらこそ不必要にララティーナ様の心を乱してしまうような行動に出て申し訳ありませんでした」

 

「お嬢様? バルター様には一切の非がないというのにこうも心を尽くしてくださっているのですよ? 何かあちらに言うことはないのですか、アホのララティーナお嬢様?」

 

「……誠に申し訳ございませんでした」

 

 

 文字通り、絞り出すような声でダクネスが謝罪した。

 

 

「いえいえ、私の方こそ、仲睦まじいお二人の間に割って入ろうとした形になってしまい、気が気でなかったのでしょう。心を乱すような行いをしたこちらに非がありました。……そうですね。私からこのようなことを申し上げるのは大変失礼ではありますが、ここはお互いに水に流すということでどうでしょう?」

 

 

 爽やかな微笑みを浮かべながらバルターはそう言って、謝罪合戦に終止符を打ってくださった。

 おいなんだこいつ。

 本当にあのクソ領主の息子か?

 なんか滅茶苦茶いいやつそうじゃん。

 俺が本気で橋の下から拾ってきた説を信じそうになっていると。

 

 

「この度こちらに伺った理由なのですが、私の父の非礼についてお詫びしたく参上いたしました」

 

 

 そう言い、バルターは俺とダクネスに向けて、再度深く頭を下げた。

 

 

「魔王軍幹部の討伐に加え、機動要塞デストロイヤーの破壊まで行ってこられた、カズマ様方にあのような裁判を行うなど、恥知らずも良いところです。これまでこの国に、貴方がたがどれほど貢献して下さっているかと思うと……! 私ごときの頭では足りないと思われますが、どうか私からの謝罪を受け取っていただけないでしょうか……?」

 

 

 心底申し訳ないという気持ちが伝わってくるほどに、そのバルターの声は悲痛に満ちていた。

 なんとも、実直な人だ。

 本当にコイツ、あのアルダープの遺伝子入ってる?

 あいつの遺伝子受け継いでたら、もっと碌でもない性格になっていたと思うが。

 などと考えていたら。

 

 

「その上、此度父が持ちかけた縁談の話など、恋仲であるお二方に無礼千万甚だしい!! どのような腹づもりでこのような失礼極まりない提案を行えたのか……! 今ここに至っては、父に代わり私の素っ首を切り落として頂いても構いません!!」

 

 

 何やらバルターがヒートアップしていた。

 ……え、なにこの……なに?

 西洋風の異世界だというのに、最近の若い貴族の方々の間では武士道精神がトレンドなの?

 ……って、そんなことを考えている場合ではない。

 さっさと止めないと、この人マジで切腹しかねない!

 

 

「おい待て、そんなことまでしなくていい! というか今回のことに関して言えば、お前に何か落ち度があったわけじゃねえだろ!?」

 

「いえ! 我が父の恥は我が恥も同じ! 私の力不足で、父の首を持ってくることはできませぬが、せめてものお詫びとして、このバルターの首でよろしければ、持っていって下さい!」

 

 

 あんまりな出来事で乱暴な口調になってしまったが許して欲しい。

 やめろよ、俺は現代っ子だぞ。

 ただでさえダクネスだけでも手いっぱいなのに、そんな俺の前に戦国武将を一人追加でタイムスリップさせるんじゃねえ。

 

 

「マジでやめろって! お前が今首飛んだら、お前の領地の人たちが困るだろうが! ってか絶対お前いなくなったら、お前のとこの領民全員アルダープが管理する事になるんだぞ!? 易々と自分の首を渡すんじゃねえよ!」

 

「な……なんという慈悲の心……! 感謝してもし足りません!!」

 

 

 いや疲れるって。

 なんですかこの人。

 おそらくはいい人そうなんだけど、滅茶苦茶面倒臭い気がしてきた。

 というか、バルターがこんな性格の人間だってんなら……。

 

 

「いい……! 凄く良いぞ貴様!! やはり貴族たるもの、常に首をかけて何事にも挑む心意気を持たねばならぬな!!」

 

「もしや貴女も……! どうやら私達は親友だったようですね……!!」

 

 

 ほらもう感化されちゃったじゃん、うちの戦闘マッスィーンがよぉ。

 出会って数分で親友になるなお前ら。

 むしろ一生分かりあって欲しくなかったまであるぞ。

 

 

「どうだ貴様、一つここは手合わせでも?」

 

「おおっ! あのダスティネス様と剣を交えることができるとは恐悦至極! 是非ともよろしくお願いしたいところです!」

 

 

 目と目が合えばバトルしようとするんじゃねえよ。

 見ろよ。ダクネスの親父さん完全に呆気に取られてるじゃん。

 

 

「行くか」

 

「行きましょう」

 

 

 ……なんか、そういうことになったらしく、二人揃って決戦のバトルフィールドと思われる訓練場へと足を運んでいくのだった。

 

 

 

「…………よ、良かったじゃないカズマ! なんだかあの二人仲良くやれそうよ!?」

 

「俺の想像していた男女の交流と全然違うんだが!?」

 

 

 アクアもなんとか取り繕いながら俺を慰めてくるが、なんとも言えない感情をこめて俺は叫ぶしかなかったのだった。

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