「という訳で、装備を買いに行こうと思う」
「いきなりどうしたのよ?」
昨日のキャベツ狩りにて、レベルが7になった。
なんであんな野菜を食べただけでカエル並みに経験値がもらえるのか疑問に思うが、深く考えると際限なさそうなのでやめておく。
ともかく、レベルアップに伴ってスキルポイントも3増えていたため、『片手剣』と『初級魔法』と『狙撃』を習得した。
やっぱり異世界に来た以上魔法は使ってみたいし、基本的に身軽な俺は前衛でも後衛でも対応できるように二つのスキルをとっておいた。
ただ、『狙撃』スキルをとったはいいものの、肝心の弓矢がない。
それに、鎧みたいな防具も欲しいし、いつまでもジャージで戦い続けるのも変な話だ。
なので、今日はクエストはお休みにして、全員に自由に過ごしてもらうことにした。
そして、この日のうちに装備を整えておくって寸法だ。
「お前だって、いつまでもそのヒラヒラした羽衣だけじゃ心もとないだろ? せっかくだしアクアも装備を整えておけよ」
「それなら大丈夫よ。私の羽衣って神具だから、これ以上の装備品はこの世にはないのよ。見た目的にはそうでもないけど、これだけでも強力な耐久力とあらゆる状態異常を防ぐ魔法だって掛かってるんだから」
「へーすごいなー。……その羽衣、水にジャブジャブつけて、馬の餌の藁と一緒に干してるだけだったから、そんなとんでもな装備品だとは思わなかったなー」
「…………この羽衣がそんな扱いでも十分に保管できるすごいものだっていうだけであって、私が雑に扱ってるという訳ではないですからね?」
なんで唐突に敬語になってるんだよ。
もしやこの女神、結構ずぼらだな?
今も冷や汗を流しながら目をそらしたし。
「そうでなくてもだ。女がいつでも同じ服を着てたら周りからあれこれ言われるだろ? 別の日用で着る私服でも買ったらどうだ?」
「…………ああ、おしゃれってやつね! 長いこと仕事ばっかりで、そんな経験したことなかったから、その発想はなかったわ!」
なんでこの女神は、ちょくちょく俺の心を抉っていくのだろうか。
女神として長いこと頑張ってきたんだろうな、アクアは。
この世界の女神様にも慕われてるみたいだし、まさに女神の鑑って奴だ。
「でも大丈夫かしら。いい年した人間が今どきの若い子みたいな服装をして『うわキツ』とか言われない?」
「安心しろ。アクアは人間じゃないし、見た目的には全然イケるから」
「うーん……クリスの服装も似合ってたし、私でもワンチャンあるわよね! どんな服がいいんだろ」
「悩んでるなら誰か誘うか? 俺だって女の子のファッションなんか全然分からねーし」
そうやって駄弁りながら街中を散策していると、
「あら? ゆんゆんじゃない。どうしたの、こんなところで?」
「うひゃあ!? あ、アクアさん? カズマさんまで!」
何やら険しい顔をしながらうろついているアークウィザードの片割れと遭遇した。
「おいおい、そろそろ慣れてくれよ。話しかける度に驚かれたら、心臓が持たねえぞ」
「す、すみません……知り合いに話しかけられるなんて、今までの人生で数えるほどしかなかったから、まだ慣れなくて……」
「なんでお前ら二人は、俺に精神的ダメージを負わせるのが好きなわけ?」
ある事情があって引き篭もった俺だが、不幸自慢ではこの二人には勝てない気がする。
いや、片方はそれで満足していたから比較にはならないだろうけれども。
「それはともかく、ゆんゆんはこんなところで何してんだよ? めぐみんと一緒に居るんじゃないのか?」
「めぐみんは、新しい魔法の運用法について研究中です。ああなるとめぐみんって一日中机の前から離れませんから」
「……めぐみんが、普通の魔法を習得しようとしないことにはもう諦めがついたけど、なんであいつ、自分が使わない魔法について研究してんの?」
「あの子、爆裂魔法への愛が尋常ではないだけで、魔法自体もこよなく愛しているんです。今日はカズマさんの初級魔法について深く考察しているようで、とっても張り切ってましたよ。紅魔族では初級魔法なんて誰も取らないから、かえってやる気が出てたくらいです」
それは何とも嬉しい話だ。
明日はめぐみんによる魔法レッスンが始まるわけだ。
……ロリっ子に教授されてるって構図が、すごくみっともないような気が?
「それじゃ、ゆんゆんは今暇ってことか?」
「……ええ、そういうことになりますね」
「そんならさ、俺達今から買い物に行くんだけど、ゆんゆんもついてくるか? 欲しい物があるんだったら、高いものじゃない限り買ってやるぞ」
「い、良いんですかっ!?」
思いのほか食いついてきたゆんゆんが、俺の手を取り、ずいっと顔を近づけてきた。
そんなに驚くようなこと……ああ、そうか、そうだったな……。
「アクアも良いだろ? ちょうどいいや、ゆんゆんにコーディネートでもしてもらえよ。こいつだったらそう変な格好の服を選んだりはしないだろうしさ」
「そうね。ゆんゆん、お願いしてもいいかしら?」
「えええええええっと……、わ、私、いくら払えばいいんでしょうかっ!? 5000エリスで足りますか!?」
「ちょっとちょっと、なんでゆんゆんが私の服のお金を払うのよ? 自分の分くらい自分で出すからそんな心配しなくても大丈夫よ。逆にこっちがしてもらってる側なんだから……」
「え? でもこういうのって、お金を払わないと得られないサービスなのでは?」
「ねえどうしようカズマ。この子ギュっとしてあげて、頭なでなでしたくなってきたんだけど。全力で甘やかしたくなってきたんですけど」
奇遇だなアクア、俺もだ。
あんまりにもゆんゆんが不憫すぎて、なんというか、俺の父性を刺激してくる。
この子は俺達が守らなくてはいけない。
「ゆんゆん、今日お前はお金について何も心配することはないぞ。そうだ、服を見終わったらちょうど昼頃だし三人でどっかに飯でも食いに行こうぜ」
「それは良いわね! そういえば、この間新しい劇が公開されたみたいよ! 折角だし三人で見に行かない?」
「つ、つまりそれらの代金を私が全部持てばいいんですか!?」
「俺が払うから! むしろ払わせてください!」
「いいえカズマ、貴方にばかりいい格好はさせないわ! ここは二人で折半しましょう!」
結果として、アクアと二人で今日一日分の出費を払うことになった。
その間も恐縮しっぱなしだったゆんゆんには、今後のクエストで活躍してくれればそれでいいと言って押し切った。
……ぼっちとは、こうも悲しい生き物なのか。
―――………
劇を見終わって、喫茶店で人心地着いた俺達は、
「あ、あの劇とっても面白かったですね! なんというか、主人公の人がとんでもない苦労人だったのがちょうどいい具合で」
「そうよねー、あの男の子って四人組の中で一番弱いはずなのに、他の三人が問題ばっかり起こすから、頑張らざるを得ないっていう構図が斬新だったもの。職業やステータスなんかより頭の使い方ひとつで困難に打ち勝つってところが気に入ったわ!」
「俺があんなパーティのリーダーなんかやらされたら、一ヶ月もしないうちに移籍を考えるぞ。苦労せずに堅実に行くほうが俺は好きなんだけどなぁ」
先ほど見ていた劇の感想について話し合っていた。
俺達が今日見た劇は、平凡な冒険者が、様々な問題を抱えた三人の仲間の起こす問題行動に日々振り回され、魔王軍とのトラブルや、悪徳領主との金の殴り合い、最後は魔王の討伐におもむき一騎打ちなど、さまざまな波乱に巻き込まれていくといったストーリーの冒険物語だ。
最弱の冒険者が主人公ということで少し親近感を覚えたが、あのポンコツな仲間で魔王討伐なんかどだい無理だ。
もしも俺があんな立場に立たされたら、魔王討伐なんぞ早々に諦めて、好奇心を満たす程度の冒険が出来ればいいと考えて、苦労せずに金儲けができる手段について考え続けるだろう。
「それでもあの女神はちょっとどうかなって思うけれどねー。いい子だってのは分かるんだけど、男の子にあんなに苦労掛けても反省の色が薄いっていうのがねぇ。せめて男の子に相談してから行動するとかすればいいのに」
「そうか? 俺は結構気に入ったぞ。何というか、見てて飽きないし、ああいう性格だから主人公も遠慮なくあの女神をこき使ってたんだろうし、お互い様じゃないか?」
俺がアクアをあんなふうに雑に扱うのは絶対に無理だ。
だって、この女神何でも笑顔で受け入れてくれそうだもん。罪悪感が半端ない。
「私は他の二人が主人公を好きになる瞬間がすごく印象に残ってました! 完璧な人間じゃないけれど、ふと見せるカッコよさに惹かれるっていうのは、とっても共感できるというかですね!」
「お、ゆんゆんも恋に恋するお年頃か? それとも紅魔族に……いや、やめておこう。無益な話にしかなりそうにない」
「えっ!? なんでですか!?」
元居た場所で友達がいなかった奴が、異性として好きになれる人がいるとは思えないからだよ。
そう言いかけたが、そんなことを口に出してしまったら、ゆんゆんの心の傷を抉ることになる。
なんとか取り繕った苦笑いでごまかすことにした。
「……幸せだなぁ。私、こんなに友達とおしゃべりしたのって、めぐみん以外だったら初めてかもしれないです」
「そう言えば、めぐみんとは普段どうしてるんだ? 二人って友達なんだろ?」
「えっと……友達は友達ですけど、ついこの間に故郷から出てきたので、こういった街でどういうことをすればいいのかが把握できなくて……」
「……そんなのテキトーにぶらついてればいいんじゃないの? この街には面白いものがいっぱいあるわよ」
「だって、それでつまらないとか思われたくないし、遊びに誘うなら下準備を全部終わらせて、どういったところでどうやって遊ぶかを計画してから挑まないと……」
ゆんゆんにとって、友達と一緒に街に繰り出すことは、未知のダンジョンのクリアリングをするのと同レベルのものを要求されるらしい。
「重く考え過ぎよ。どこで遊ぶかとかどうやって過ごすかなんて、誰と過ごしたかに比べたら大したことないわ。ゆんゆんだって、めぐみんと遊びに行けるならどこだってそれなりに楽しめるでしょ?」
「それは、そうですけど……」
「今度喫茶店にでも誘ってみたら? 理由なんて、美味しそうなケーキがあったから一緒に食べないか、とか、いろんな種類のお茶がメニューにあるから試してみたい、とかでもいいし、とにかく自分から積極的に誘ってみることよ」
「そんなことをして、迷惑に思われないかとか……」
「そう? じゃあ今日ゆんゆんは私達に誘われて迷惑だったの? うわー悲しいわー、カズマさん、これちょっと立ち直れないくらいショックなんですけどー」
「そうだよなー、俺達はゆんゆんと遊べて楽しかったんだけどなー。ゆんゆんがそういうなら仕方ないなー」
「そんなことないですっ! 今日はとっても楽しかったですから!」
俺達の棒読みの演技に騙されて、力強く立ち上がり、涙目になりながら否定してくるゆんゆん。
途端、自分が大声を出したことに気づき、顔を真っ赤にして座り込んだ。
「そういうことよ。遊びに誘われたら基本的には誰だって嬉しいものなの。あとはちょっとの勇気を出すだけよ。大丈夫大丈夫、一回やってみたら案外二回目からは簡単にできるから。ダメでも私が慰めてあげるし、騙されたと思ってレッツトライよ!」
「ま、普通に行けると思うぞ。だって今日なんか俺のためにわざわざ魔法の研究してくれてるくらいに面倒見がいいんだろ? そんな奴が昔からの友達を無下になんかしないって」
「そ、そうです……よね。私頑張ってみます! アクアさんもカズマさんもありがとうございました!」
そう言い放つと、ゆんゆんは立ち上がり駆け出して行った。
おそらくめぐみんの所に行ったのだろう。
「……なんで俺達、年頃の女の子の相談に乗ってるんだろうな」
「私としては迷える人々を導くのが仕事だし、いつも通りなんだけどねー。このところ神様っぽいことしてなかったしちょうどいいくらいよ」
常日頃から俺は助けられているんだがなぁ。
「そういえば、この世界にもお前の信者がいるんだろ? どんな感じの教えなんだ?」
「えー? 大したことは言ってないわよ? 基本的な内容は人生は一度なんだから楽しんで生きようって感じだし」
「ちょっと気になるんだよ、何個かで良いから教えてくれよ」
地球にいた時はアクアの教えなんか聞いたこともないし、せっかくの機会だから知っておきたい。
「そうね……『何かしたら必ず見返りを貰いなさい。タダでしてあげるとお互いに碌なことになりません。ただし本人に無理のない範疇のものを貰いなさい』」
「『愛に性別や種族は関係ありません。自分が愛する者を堂々と主張しなさい。ただし悪魔の場合はちょっと考えましょう』」
「『お金を稼ぐのはいいことです。健康に気を遣うこともいいことです。けれどそれらは人生を楽しむための手段であって、目的ではありません。まずは人生を大いに楽しみましょう』」
「……要所要所ふわふわした教えだな」
それはともかく、ヤバそうな雰囲気の内容の教えはないみたいで安心した。
アクアの教えだし、そう心配はしてなかったけども。
「そりゃ、エリスの方はきっちりかっきりしてるからね。この世界ではあっちの方がメジャーよ」
「いいのかよ、お前先輩なんだろ?」
「『何を信仰しようと構いません。本人が幸せならそれでいいじゃない』の精神よ」
ちょっとどや顔で宣ったアクアに少しばかり微笑ましい気分にさせられた。
……アクアならこれくらい柔らかい教えの方が似合ってるしな。
カズマは原作よりもキャベツを倒しているので、少しレベルアップが早いです。
なのでしばらくしたから覚えるはずの狙撃スキルも習得しました。
アクシズ教の教えは、元々の教えを参考に作りました。
基本的なスタンスは、「とにかく楽しもう、人に迷惑をかけない範囲で」が主軸です。