このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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この素晴らしいリッチーに祝福を!

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

「ふむ。カズマ、もう少し魔力は心臓あたりに溜めるのをイメージしてください。そして放つときは、手と魔力を一直線に結んで、一気に走らせる感じで」

 

 

 次の日、ゆんゆんの言った通り、めぐみんから魔法の使い方を伝授してもらうことになった。

 そこで俺は一度も魔法なんか使ったことがないと前置きをしたのだが、そこも踏まえてか案外と丁寧に教えてくれている。

 その説明は殊の外理解しやすく、予想を良い意味で裏切られたものだ。

 

 

「そうですね、『クリエイト・ウォーター』は水の魔法ですしちょうどいいです。心臓から血管を伝って魔力を放出するのを想像した方が分かりやすいかと」

 

「了解。それじゃあもう一発……『クリエイト・ウォーター』!」

 

 

 そして放たれた水の魔法は、さっきのものよりは射程距離が1.3倍くらいにはなっていた。

 ……それでも、元々の威力が低すぎて、誤差レベルのものだけど。

 

 

「その調子ですよ、カズマ。一番重要なのは、スキルは繰り返し使うことで成長するということ。今はまだ威力なんてないようなものですが、いつの日にか中級魔法レベルには威力が上がるかもしれませんからね」

 

「……そこまでいっても『かも』なんだな」

 

「ええ。だって初級魔法を戦闘に使用する人なんて、カズマが初めてではないでしょうか? 他の人なら、中級魔法や上級魔法をとって、初級魔法の存在なんて忘れてしまいますし」

 

 

 どうも俺はこの世界では初の試みをする人間になるらしい。

 全然嬉しくない情報だけどな!

 

 

「だからこそ私としては興味深いのです。初級魔法といえど、魔法が使えることに違いはありません。それを使いこなした先に、もしかすると未知の発見があるのかもしれないのです。いやー、こうして観察対象が増えるとは望外の喜びですよ」

 

「おい、俺まで実験動物扱いするとはいい度胸じゃねえか」

 

「いいのですか? 魔法の熟達の近道は私に教えを乞うことだと思うのですが、その私に偉そうなことを言って?」

 

 

 くっ! だがめぐみんが言っていることはまた事実だ。

 こうして『クリエイト・ウォーター』の威力が上がっている以上、こいつの指導方法は悔しいが効果があると認めざるを得ない。

 つーか、なんで本当に使ったこともない魔法の使い方を指導できるんだよ。

 

 

「カズマ、魔法の練習をするのは良いが、あまり体力を使いすぎてはいけないぞ。我々の目的はまだ達成していないのだからな」

 

「ああ、分かってるよダクネス。しかし……」

 

 

 俺達は今、ゾンビメーカーなるモンスターの討伐のために、街から外れた丘の上にある共同墓地の近くでキャンプしている。

 ゾンビメーカーとは名前の通り、ゾンビを操る悪霊の一種で、自らは質の良い死体に乗り移り、手下代わりのゾンビを数体操るそうな。

 駆け出しの冒険者でも倒せるモンスターだと言うので、これなら先日のキャベツ狩りの損傷で鎧を修理に出しているダクネスでも危険はないだろうし、何よりアクアがやけにこのクエストを請けることを希望したため引き受けた訳だ。

 

 

「……ダクネスさん、着やせするタイプなんですね……」

 

 

 思わず敬語になってしまった。

 今日のダクネスは鎧をつけていないため、結構な薄着姿になっている。

 そのせいでダクネス本来の体のラインが出てしまっているのだが、それがまぁ、何というか、端的に言うとエロい。

 締まるべきところは締まっており、それでいて全体的にムチッとした体。

 はっきり言って目の毒だ。

 

 

「それはそうだろう。なにせ私には鍛え抜かれた筋肉があるからな。体格の良さなら、そこらの男にも負ける気はしないぞ」

 

 

 何やら勘違いしたダクネスが自慢げに胸をそらす。

 それに伴いバルンバルンする二つの塊に目を奪われる。

 ……横にいるのがめぐみんだから、なおの事体付きが目立ってるし。

 

 

「カズマ、今私とダクネスを見比べて何を思ったのか聞こうじゃないか」

 

「意味はないさ。ただ、めぐみんはもうちょっと栄養を取った方がいいんじゃないかって思っただけだ」

 

「それは私の実家が貧乏だったことを馬鹿にしているのですか? よろしい、そのあたりについては言葉による殴り合いで決着をつけようじゃないですか」

 

「え、お前んちって貧乏だったのか?」

 

「……まあ、はい」

 

 

 ひどく落ち込むめぐみん。

 ……なんでこう、過去に重たいものを抱えてる奴がこうして集まってきているのだろうか。

 もしやダクネスまで?

 

 

「なあダクネス、お前の実家って……」

 

「そ、そんなことはどうでもいいじゃないか! ほら、バーベキューをするらしいから急ごう!」

 

 

 露骨に話題をそらすダクネスだが、詮索したところで教えてはくれないだろう。

 今日の所は見逃してやるが、いつの日か絶対に暴いてやる。

 後になって、どうしようもない状況になってから暴露されてはたまったものじゃないからな。

 

 

「カズマ、何だか顔が凶悪なものになってますよ。子供が見たら泣き出すこと間違いなしです」

 

 

 何を失礼な。パーティの未来を考えての行動だというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカーの討伐よね? やっぱり、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするわ」

 

 

 バーベキューの後片付けを終わらせて、月が昇り、時刻は深夜を回ったころ。

 アクアが確信めいた様子でぽつりと言った。

 

 

「『やっぱり』って、そんな気配がしてたのか?」

 

「ええ。きな臭い魔力が墓場から漂ってきてたもの、これはそんじょそこらの雑魚アンデッドが出せるものじゃないわ」

 

 

 アクアの言うことだ。よっぽどのモンスターが出てくるのだろう。

 思わぬピンチに、少し冷や汗が流れ始める。

 

 

「だったらどうするんだよ。俺達じゃあそんな高レベルのモンスターの討伐なんか無理だぞ。この場は一旦退却するか?」

 

「いいえ、相手がアンデッドなら、私がいればまず問題ないわ。まずは私が墓場に突入するから、貴方達はその後について来て。いざとなったら私を置いて逃げても構わないからね」

 

「待てアクア。アークプリーストより先に逃げるクルセイダーなど恥さらしにもほどがある。私もつれていけ。なに、防御スキルは伊達ではない。鎧がなくとも盾役としての実力を見せてやろう」

 

「……そうね、だったらお願いするわ」

 

 

 アクアが自ら指揮を執るほどまでに緊迫した状況らしい。

 これは俺と魔法使いコンビは後方待機しておいた方がいい流れか?

 

 …………ん? アクアが自分から行動をする(・・・・・・・・・)だと?

 

 ……そういえばアクアは先日こんなことを言ってなかっただろうか?

 

 

『それが……私って自発的に行動すると、いっつもロクなことにならないのよね……。だから、なるべく他人から言われた通りに行動した方が被害が少ないかなって……』

 

『ただ、思いつきで何かやると悪い方の結果になりやすくて……後輩にも色々迷惑かけたことも何回もあるし……』

 

 

 …………。

 

 

「おいおい、リーダーである俺を置いて先陣を切ろうだなんて生意気にもほどがあるぞ。俺にも一枚かませろよ」

 

「カズマ……これは貴方の手に負えるものじゃないかもしれないのよ? それでもついて来るの?」

 

「なめてもらっちゃ困るな。伊達や酔狂でこんなことを言わないさ。俺にもとっておきの作戦があるんだぞ」

 

「……それなら信じるわ。その作戦、頼りにしてるからね」

 

 

 無論、そんなものはない。方便である。

 俺はアクアは信じている。悪意をもって何かやるような奴ではないし、自分なりに精一杯頑張ろうとしているのも伝わってくる。

 まあ、アクアたちに任せておけば何ら問題なく解決するだろう。多分、おそらく、きっと、万が一がなければ。

 故に、これはリーダーとしての管理責任的なアレで付いて行くのであって、アクアが自分から行動することに不安を覚えているわけではない。

 ないったらないのだ。

 

 

「よし、めぐみんとゆんゆんはここで待機してくれ。まずは俺達三人で――」

 

「あーーーーーっ!!」

 

 

 二人に指示を出している最中、突如アクアが立ち上がり、いつの間に現れたのかローブの人影に向かって走り出す。

 

 

「おい、アクア待て! 俺とダクネスを置いていくな! ああクソッ! ダクネス行くぞ! 二人は合図があるまで出てくるなよ!」

 

「了解だ! よし、行くぞカズマ!」

 

 

 俺の制止を聞かずに飛び出して言ったアクアを追いかけるため、ダクネスを連れ出し必死に走る。

 だがそれよりも早くアクアがローブの人影の前に立ち、ビシッと指を突きつけると。

 

 

「リッチーがこんなところに現れるなんて何を企んでるの!? 被害が出る前に成敗してやるわ!」

 

 

 リッチー。

 それは、アンデッドの中でもヴァンパイアに並ぶ知名度を誇る超有名なモンスター。

 元は人間の魔法使いが、人の身には許されない魔道の力を手にするために、元の人間の身体を捨て去り、アンデッドモンスターと化した存在。

 通常のアンデッドモンスターならば、人間であった時の記憶や知性など腐り落ちているが、リッチーだけは溢れんばかりの才能により、それを維持したまま強大な力を持っているがために、大体のゲームで厄介な敵として扱われたり、真の黒幕と言った役割を与えられることもしばしばある。

 

 その、ラスボス級の超大物のモンスターが。

 

 

「や、やめてくださーーーい! 誰なんですか!? いきなり現れたと思ったら、なんで私の魔法陣を壊そうとするんですか!? お願いします! やめてください!」

 

「何でも何も当たり前でしょうが! 人間の住む領域にリッチーがこんな妖しげな魔法陣なんか作って! どうせこれを使ってよからぬことでも企んでるんでしょ! リッチーの考えることなんて、私には丸っとお見通しよ!」

 

 

 アクアの腰に、泣いてしがみついていた。

 

 ……えっと、どうしよう。

 とりあえず、ゾンビメーカーではなさそうだが、それよりもアクアの豹変具合に驚いている俺がいる。

 あれほどまでに敵意をむき出しにしたアクアの姿は初めて見た。

 普段から物腰柔らかで、慈愛の笑みを浮かべている女神様は、今現在、阿修羅すらも裸足で逃げ出すほどの迫力でもってリッチーらしき相手の作った魔法陣をぐりぐりと踏みつけている。

 ……普段怒らない人がキレると怖いとは言うが、まさにそれである。

 

 

「そんなのじゃないです! 完全に誤解です!! この魔法陣は、この墓地に彷徨う迷える魂を成仏させてあげるためのものなんです! ほら、今もこうやって魂達が天に昇っていくのが見えるでしょう!?」

 

 

 リッチーの言う通り、人魂っぽい何かがフヨフヨと魔法陣まで辿り着くと、そのまま光に包まれて天に昇るのが見える。

 ……そういえば、こんなときにどうでもいいことなんだが、人魂って普通の人間でも見えるんだな、この世界だと。

 それとも、この魔法陣の影響なのだろうか?

 そんな場違いなことを考えていると、アクアは怒りのボルテージを維持したまま叫ぶ。

 

 

「リッチーめ! 口車に乗せようったってそうはいかないわ! そうやって油断させておいて、私達を一網打尽にする魔法かなんかを隠しているんでしょう!? 言い訳なら成仏してから言うのね!」

 

「ええっ!? ちょ、やめっ!?」

 

 

 アクアの宣言に、慌てるリッチー。

 アクアが手を広げ、大声で叫んだ。

 

 

「『ターンアンデッド』!」

 

 

 辺り一面が、アクアから放たれた白い光に包まれた。

 今の今まで、あれほど大量にいたはずの人魂達だったが、アクアの放った光がきれいさっぱりその存在を消失させていく。

 あれ大丈夫だよな? 存在そのものを消し去ってるとかじゃなくて、ちゃんと成仏させてるんだよな?

 そんな恐ろしい想定に震えている俺のことなど関係なしに、その光がリッチーにも襲い掛かり……。

 

 

「きゃー! か、身体が消えるっ!? や、止めて下さい! 成仏してしまいます!」

 

「自然の摂理に歯向かうアンデッドよ、この墓場の魂達は、私が責任をもってあんたごと浄化してあげるから安心してさっさと成仏して次の輪廻に回りなさい! あんたたちのせいでどれだけ私達の仕事が増えていたか――」

 

 

 マズい!

 このままではあの人……人? まあ、あのリッチーが成仏されてしまう!

 話を聞く感じ、何か悪いことをしているわけでもなさそうだし、ここは一旦止めてやったほうがいいだろう。

 というわけで、

 

「ダクネス、ゴー!」

 

「……ん。やめてやれアクア。ドウドウ」

 

 

 俺の指示を聞いたダクネスがアクアを羽交い締めにして、なんとかあの浄化の光を放つのを阻止できた。

 

 

「ちょっとダクネス止めないでよ! こいつは早く成仏させないと……!」

 

「まずは落ち着けアクア。お前らしくもない。ちょっとはこいつの話くらいは聞いてやったらどうだ? えっと、リッチーで合ってるか? あんた」

 

「だ、大丈夫です……。もう少しで浄化されてしまうところを助けてくださって、ありがとうございました……っ! えっと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

 

 

 そう言いながらフードが外されると、その下からは、俺の想像していたような骸骨や腐乱死体などではなく、整った顔立ちをした成人女性の姿が現れる。

 俺の仲間に関してもそうなんだが、この世界の女は例えモンスターであっても例外なく美人に産まれるという法則でもあるんだろうか?

 いや、リッチーだから、元は人間である可能性もあるな。

 ……今はそんなことはどうでもいいか。

 

 

「えっと……。ウィズでいいか? ウィズはなんでリッチーなのにわざわざこんなところに来て成仏なんかさせてるんだ? 普通リッチーなら、その魂を利用して配下を増やしたりしそうなんだが」

 

「ちょっとカズマ! そいつ相当なレベルのモンスターよ! さっさと退治した方が世の中のためになるわ! ……もしかしてあんた、カズマに魅了魔法でも使ったんじゃないでしょうね!?」

 

「そ、そんなことしてませんし、そんな魔法習得してません! 完全に冤罪です!」

 

 

 俺の言葉に、ダクネスに取り押さえられているアクアがフシャーッ! と猫のように、ウィズを威嚇する。

 ウィズは慌てたように手を振りながら、アクアの言葉を否定し、

 

 

「そ、その……。私は皆さんが仰る通りリッチーなんですが、そのおかげでこの共同墓地に埋葬されている現世に縛られ苦しむ魂達の声を聞くことができるんです。それで、その成仏したくて出来ないこの子達に何か出来ないかと考えたところ、こうして魂達の救済の足がかりになればと思い……」

 

 

 ……なんか、俺の考えが悪ど過ぎて恥ずかしくなってきた。

 この人すごいいい人じゃないか。いやリッチーなんだけども。

 

 

「それはもう人として正しすぎて俺からは何も言えないけど……。そんな事はこの街にいる人間のプリーストとかがやってくれるもんじゃないのか?」

 

 

 俺の疑問に、ウィズが言いにくそうに今もなお威嚇しているアクアをチラチラと気にしながら。

 

 

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、現実的なことを重視しておられる方が多い……と言いますか……」

 

 

 アークプリーストのアクアがいるので言いにくいのだろう。

 

 

「つまりこの街のプリーストはがめつい奴がほとんどで、こんな金にもならなそうな墓場なんかにゃ寄り付こうともしないってことか?」

 

「え……、えと、そ、そうです……」

 

 

 その場の、全員の曖昧な視線を受けたアクアは、逆に胸を張る。

 

 

「だからこそ私がこのクエストを請けたのよ! この墓場に迷える魂が来てるのは分かってたし、私が定期的に浄化してあげようと思ってたのに、そこにゾンビメーカーだのリッチーだのアンデッドが寄り付くっていうからこうやって…………」

 

「そ、そうだったんですか!? それはとんだご迷惑をおかけしました! あの、先に余計なことをしてしまった身で恐縮なのですが、どうかこの子たちをよろしくお願いします! あ、魔法陣も消しておきますね。邪魔になってはいけないですし」

 

 

 アクアの言葉を聞いたウィズは、即座に発起していたはずの魔法陣の光を消してしまった。

 悪意もない、心の底からの感謝の言葉を送りながらだ。

 それを見たアクアはというと。

 

 

「……え、あんた、本当にそのためだけにこの墓場に来たの?」

 

「はい。貴女のような人に任せられるなら、願ったりかなったりです」

 

「…………」

 

 

 ようやく、このリッチーが本当に善意で行動しているということを理解できたらしく、茫然とした口調で溢した。

 そして、何やら冷や汗をかきながらも先ほどより優しい様子でウィズに話しかける。

 

 

「えっと……ウィズさん? 貴女の行動は……その……とっても立派なことだと思うの。うん、それはもうアク……シズ教のプリーストとして保証するわ。だから、……えっと…………悪い人だと思ってごめんなさい」

 

 

 折れた。というか、罪悪感に押しつぶされた。

 ……なるほど、『自発的に行動するとロクなことにならない』ってこういうことだったのか。

 

 

「そんな! 頭を上げてください! 貴女が誤解したのも、私がいらないお世話をしたせいで……」

 

「止めて! そんなに純粋な言葉を私にかけないで! ああ、消えたい……。なんでこんな良い人がリッチーなんかになってるのよ……。私が見てきたリッチーってのは、こう、もっと意地汚い性格で……」

 

 

 どうも、アクアの豹変具合も過去の経験からくるものだったらしい。

 いったいどんなリッチーに出会ったのだろうか。

 

 

「その、本当にごめんなさい。アクシズ教の教えで『本人もこの世に縛られて苦しんでいるので、アンデッドは素早く浄化しましょう』っていうのがあって……。いえ、こんなの言い訳ね。ひとまず貴女の言い分を聞いてからにするべきだったわ」

 

「いえいえ、むしろアクシズ教のプリーストの人で本当に良かったです。エリス教の方だったら、問答無用で浄化されていたでしょうし……」

 

「まぁ、あの子だったらそうよね……今回に関しては人のこと言えないんだけど……。…………それでも、なるべく早く成仏してね? 後ろの人とか詰まっちゃってるから」

 

「……努力します」

 

 

 お風呂の順番をせかす母親みたいなことを言って、アクアはウィズに釘をさした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご迷惑をおかけしました」

 

「そう気にすんな。ウィズは許してくれたんだし」

 

 

 結局俺達は、あのリッチーを見逃す事に決めた。

 ウィズがやっていた浄化の仕事も、アクアが宣言した通り定期的に様子を見に来ることに。

 モンスターを見逃すという事に若干抵抗があった他の三人も、ウィズが人を襲ったことがないことと、あれ程の敵意を向けていたアクアがその矛を収めたことから、すんなり引き下がってくれた。

 

 

「むしろ、アクアが見逃した方が驚きだったぞ。お前的にはありなのか?」

 

「だって、本当に誰も襲ってないし、本人もまだ成仏したくないって言ってるんだもん……」

 

 

 そのあたりの融通は利くらしい。

 神様の立場からすればアンデッドはおしなべて浄化するのかもとさえ思ってたから、思いとどまってくれて何よりだ。

 ホッと一息つくと、俺は、一枚の紙切れを眺めながら呟く。

 

 

「しかし、リッチーが街に普通に生活してるとか。街の警備はどうなってんだ」

 

 

 一枚の紙切れ。

 それは、ウィズの住んでいる住所が書かれた紙。

 あのリッチーは俺達が住む街で普通に生活しているらしい。

 というか、小さなマジックアイテムの店を営んで普通に人として生活しているとか、本当にモンスターというよりは人間っぽいというか。

 

 

「でも穏便に済んで良かったです。いくらアクアがいると言っても、相手はリッチー。もし戦闘になってたらアクアとダクネス以外は死んでいたかもしれないんですから」

 

 

 何気なく言うめぐみんの言葉にぎょっとする。

 

 

「……やっぱり、リッチーってかなり強いモンスターなのか? ひょっとしてウィズが温厚じゃなかったら死んでたり?」

 

「かなり強いなんてものじゃないです。リッチーは、物理攻撃は魔力の篭った武器でもない限りは全て無効化し、ダメージを与えられる魔法攻撃に対しても最高峰の抵抗力を持っています。それだけでも厄介なのに、相手に触れるだけで様々な状態異常、生命力や魔力の吸収、最悪の場合は直接死をもたらすことも出来る上、そのリッチーの十八番である魔法攻撃と言ったら、人間で対抗できる者は存在しないと言っても過言ではないでしょう。むしろ……」

 

 

 今になって嫌な感じの冷や汗が吹き出てくる。

 ウィズがあんなにも温和な性格だったから忘れていたけれど、リッチーはモンスターとしての格でいえばドラゴンやデーモンとためを張れる程の強さがある。

 面白そうだからとウィズのやっているという店に顔を出そうと思っていたが、絶対に一人では行かないようにしよう。

 少なくとも、アクアだけは同行させねば。

 

 

「……いえ、訂正します。アクアがいれば大丈夫だったかもしれません」

 

「?」

 

 

 急にめぐみんが意見を変えだした。

 何か気にかかることでもあったのだろうか?

 俺がそんなことを気にしていると、ダクネスがぽつりと言った。

 

 

「そういえば、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」

 

『あっ』




ここのアクアは別に意地でもアンデッドを浄化したいわけではありません。
『浄化しようとしていた墓場に出没する+自分だけならまだしも仲間がいる状況+アンデッドはなるべく成仏させたい+高レベルのモンスターだった』という状況が重なって、いち早く浄化しようとしていただけです。
普段なら、話しぐらいは聞いてから浄化しています。

それと、めぐみんのカズマの指導方法は独自のものです。
多分原作のカズマが同じことをしても威力は上がりません。

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