転生者迷走録(仮)   作:ARUM

1 / 70
プロローグ

 タタタ、という軽い音に時折混じる鈍い音。

 常に同じ方へと流れていく、人工の風に混じり漂う紫煙。

 低い姿勢で兵士が駆け、その背後から133ミリ砲を搭載したマゼラ・アイン空挺戦車がじりじりと前進しその勢力圏を拡張していく。

 

 静謐と規律が支配するサイド3、ジオン公国軍士官学校。やがては国家の国防の中軸を担う人材を育成するための学舎は、窓のガラスが割れ、一部の壁には大穴が空けられて、本来そうあるべき姿とはかけ離れた状態にあった。

 

 国家の中枢にほど近い位置にありながら、確かな戦闘状態へと移行した塀の内側。学舎や寮の中には今も多くの候補生や教師である士官がいたが、大半が早い段階でシェルターに避難するか、手近な物陰に隠れるなどしていた。だが、中には完全武装で駆け回る兵士の中に知った顔を見つけ、問いただす強者もいた。

逃げ惑う者も、侵攻する側も。彼らの中に全体の情勢を完全に把握している者はおらず、なぜそれが始まったかを知る者もいない。

 

《――大丈夫? もう入ってる? Aー、マイクテスマイクテス。ん、入ってるね》

 

 そんな中、唐突にノイズ混じりの大音量で人の声が響いた。音源は構内各所に据え付けられているスピーカーだが、その大元はマゼラ・アインの砲塔の上に乗せられた軍用の無線機だった。こちらにも、外部スピーカーが有線で接続され、巨大な拡声器のようになっていた。

 

《――Aぁーあー、あー……、こちらは、フユヒコ・ヒダカ三号棟監督生である。繰り返す、こちらはフユヒコ・ヒダカ三号棟監督生である》

 

 声の主は、マゼラ・アインの砲塔上部、車長用キューポラから上半身を出した男だった。瓶底とも呼ばれるような黒縁の丸眼鏡を駆けた男で、髪はある程度まとめられているが、成人して間もないというのに年に似合わぬ若白髪がちょこちょこと混じっている。

そのせいか、眼鏡と合わせて老成というより単に枯れた、しなびたという言葉の似合う雰囲気を持っていた。名を、フユヒコ・ヒダカと言い、数名いる士官学校の最上級生であり、生徒でありながら生徒を取り仕切る監督生の一人である男だった。

 

 そんな男であるから、教官や一般座学を担当する教師もフユヒコのことをよく知っている。講義の補助やら何やら、ある程度の雑務を肩代わりするのも監督生の仕事であるから、一般の士官候補生よりもその立ち位置は近いところにある。

 

 そのフユヒコの声が、なぜこの非常時にスピーカーから流れてくるのか。彼らの疑問は尽きない。

 

《――構内の複数箇所に潜伏しているであろう特定の生徒に告ぐ。正面ゲート始め、外部への脱出経路は完全に封鎖した》

 

 放送の内容に、彼らの疑問は更に深まる。この日は休日であったが、外出には申請が必要となるし、不用意な外出があまり推奨されていないこともあり校内には多くの候補生が残っている。名家の子弟も多いため、緊急時に外部の人間を入れぬよう防衛線を構築するというならまだわかる。だが、口ぶりを聞いているとまるで士官学校の中に敵がいるようではないか。何より特定の生徒とは誰を指すのか?

 

《――既に君たちに協力していたリードマン五号棟監督生や仲間の一部も拘束した。君たちの目的の達成はもはや不可能である。……この期に及んで悪あがきをしたところで各所への迷惑を増やすだけだ。とっとと出てきて投降しなさい。さもなければ、警備部隊の人間が君たちがいるであろう場所に強行突入する。負けるとわかっていて怪我はしたくないだろう?》

 

 いよいよ、穏やかではない。そんな時、フユヒコの次の一言で極々一部の人間は、事情を察することになる。無論全てではなく、その一端であるが。

 

 

 

《――校長が飛んでくる前に、いい加減大人しくお縄に尽きなさい。そうすれば、多少怒られるのがましになるかもしれませんよ》

 

 

 

  ◆

 

 

 

 しばらく後、士官学校の校長室で直立不動の男がいた。フユヒコである。

 

 時に、この男。フユヒコ・ヒダカこと、飛鷹冬彦は転生者である。そのことに気づいたのは幼少期を過ぎ、年が二桁も半ばになろうかという時のこと。トラックに突っ込まれたわけでなく、さりとて神様にあったわけでもなく、夜布団に入り目を覚ますと見知らぬ部屋で炬燵に突っ伏していたわけだ。生まれは祖父の代からサイド3、つまり今世の彼はスペースノイドであった。

 そんな冬彦であるが、何と言っても男の子である。前世で見た多くのロボットアニメ。その中でも国民誰もが知る金字塔、機動戦士ガンダム。

そして、主人公機であるガンダムと双璧を成す、あるいはそれ以上の人気を持つモビルスーツ、ザク。

 乗ってみたいと思うのを、誰が責められるだろう。男の子だぞ?

 冬彦は、考えた。どうすればザクに乗れるか。

 

兵として志願する。これはモビルスーツに乗れるかどうかは賭けだ。何せジオンと言っても兵科が結構ある。

モビルスーツに乗りたいと志願したところで、何のスキルも無いのだ。他の兵科に配属される可能性が捨てきれない。

 戦争終盤まで待つ。これなら、モビルスーツにはほぼ確実に乗れる。何せ一年戦争終盤は人不足、最も不足した資源は人的な物だとする資料もあるくらいだ。

 ただし、これをすると高確率で死亡フラグが立つ。何せ物量チートの連邦が本気を出した時期だ。もしゲルググでも渡されたら、死亡フラグがほぼ確定する。

それは冬彦からしても流石に勘弁願いたい。そのフラグを立てた後で生き残った幸運な奴もいるが、そいつはその後デラーズフリート、そこから更にシャアに付いていきそれでも生き残ったという強運の持ち主だ。自分もきっとそうだと過信してはいけない。もっとも、ゲルググの代わりにザクを渡されたとしてもやはりフラグに代わりは無いのだけれども。

 

 ここで、冬彦に天恵が降りた。そうだ、士官学校にいけば良いのだと。

 

 士官学校にいけば、適正にも左右されるがそれでもある程度自分の意志で配属先を選択できる。それに、一年戦争初期は概ねジオンの勝ちが続く。生き残りさえすれば出世も出来る。下っ端の一兵士よりかはまだ下士官や将校の方が生き残る確率は高いはずだし、不完全ながら原作知識という一芸(?)もある。

 一芸あれば、意外と人間なんとかなるのだ。何せ落ち零れから提督になった偉人もいる。……あの方は、そういえば紅茶党だったか、それともコーヒー党だったか。

 

とにかく、これっきゃない。この時はそう思った。

 

 

 

 話を戻そう。冬彦は今、校長室で直立不動の体勢を取っている。何故かと言えば、部屋の主に事の説明を求められたからだ。

 件の人物は、専用の椅子に座ってしかめっ面をしている。おまけに青筋もたっている。

 

「……報告書は読ませて貰った。短い間によくもまあこれだけ問題を起こしてくれたものだな」

 

 その言葉に、冬彦は心の中でびびりっぱなしである。言い訳のしようもないが、敢えて許されたならしょうがなかったと答えただろう。

 

 目の前にいる偉丈夫。名をドズル・ザビ。士官学校の校長にして、ザビ家の一員である。

 

「校門や通用門の完全封鎖、校内各所への警備兵の投入。これはいい。だがな、機甲課に訓練の為に回されていたマゼラ・アインを投入するのはやり過ぎだ、このたわけっ!!」

「申し訳ありません!」

「貴様は一体どういうつもりだ!! 作戦を了承はしたが、幾ら何でも派手すぎるわっ!」

「中途半端が一番拙いと判断しました。どうせやるなら、ある程度派手でないと……」

「新型の空挺戦車を投入するのもか?」

「他に丁度良い物がありませんでした。正門の封鎖は、何としても必要だったので」

 

 なるべく怒りを買わぬよう静かに答える冬彦に、すましていると捉えたのかドズルが机の上に書類を叩きつけて更に畳みかける。

 

「で、どうなった? ええどうなった? これが何かわかるか? 連邦から騒ぎの子細を問いただす質問状だ!」

「し、しかし」

「しかし、なんだ!」

「ガルマ様が、連邦の駐留地へ突撃する事態は防げました! 何と言われようと、私にできる最善を尽くしたつもりですっ!!」

「ええい、わかった! もういい、下がれっ!!」

「……失礼します!」

 

 

 

 校長室を出て、後ろ手で扉を閉める。

 

 数歩歩いてから、冬彦は大きくため息をついた。ジオンに居る以上、上手く立ち回ろうと思えばドズルかガルマとコネをつくるのが最善なのに、それを大きく損ねてしまった。しかし、こうするしかなかったのだ。

 

 

 

 転生者であり、多少なりとも未来の欠片を知るフユヒコがドズルの不興を買うのを覚悟で士官学校の封鎖と一部制圧という暴挙を行った理由。

 

 それは、自身が監督生という責任を負う立場にいる時に起きそうになった、ガルマ・ザビとシャア・アズナブルによる士官候補生の連邦駐屯地襲撃事件を未然に鎮圧するためだった。

 

 

 

 




 とりあえず上げてみた。修正は随時やってきます。ガンダム難しい。うぼぁ。
 タイトルもそのうち正式なものに変えます。ええわかってます。迷走しているのは私です。
 どうもうまく書けないので、ご意見ご感想誤字脱字の指摘そのほか全てお待ちしております。

 またよろしくお願いします。

 ……モビルスーツいつ出せるかな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。