転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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 あとがきを見てね。



第十話  彼の紋章

 

 

 「ブリティッシュ作戦」に合わせて、連邦の戦力を削るために複数組織されたジオンの小規模部隊。

その分艦隊旗艦であるムサイ級「アクイラ」と、僚艦である同じくムサイ級の「ミールウス」の背後には、拿捕されたマゼランとサラミスがそれぞれ曳航されていた。

 先の戦闘での取り分であり、二隻の乗員は武装解除された後、何カ所かに別れて拘留されている。万が一に備えて武装部隊が残され、さらには動力も生命維持など最低限必要な物以外は全て切られていた。

 

さて、そんな「アクイラ」のブリッジに、冬彦の姿はあった。

おなじみの緑のパイロットスーツから着替えて自室で楽にしていたところ、オペレーターから新たに命令が届いたと呼ばれたために、慌てて丈の短いマントがセットになった士官用の制服の上着を身につけ、駆けつけたのだ。

 

「“第六分艦所属、フユヒコ・ヒダカ大尉は艦隊に合流次第、旗艦ファルメルに出頭せよ”か。……作戦が終わってからでも、良いと思うんだけどねぇ」

 

 よくパイロットではなく技術将校と間違われる諸悪の根源足る瓶底眼鏡を押し上げて、しげしげとオペレーターから手渡された艦隊司令部からの文面を見直すが、簡潔極まりない一文が眺めるだけで変化するはずもない。

 

「『ブリティッシュ作戦』の後詰めでしょうか?」

「さて、今更向かったところで間に合わんような気もするが。まぁ、命令だし、行くしかないよ。シャトルを用意しておいてくれ」

「はっ」

 

 ジオン公国でも標準的な艦として多く建造されたムサイ級軽巡洋艦の中でも「ファルメル」と言えば、宇宙攻撃軍総司令ドズル・ザビの乗艦である。

 

この「ファルメル」、司令たるドズルの乗艦であるという性質上、艦隊においては当然旗艦となる艦である。

その為艤装が他の通常のムサイ級とはいささか異なり、通信系が強化されている他、内部にドズルの執務室や式典用の空間も備えられている。

さらに、通常艦との差別化のためか、艦橋部分が他のムサイ級のような箱形で側面から小型のウイングが飛び出た形状ではなく、曲線を用いた兜のような形状にカスタマイズされていて、一目でそうとわかる仕様になっていた。

 なお、この仕様は軍の士気を高揚させる効果を狙っているのだろうが、狙い撃ちにされる危険性であるとか、その辺りのことは一切謎である。

 ちなみに、ムサイにも実は微妙なバージョン違いがあり、「アクイラ」「ミールウス」は共に砲塔が三基ではなく二基のバージョンである。

 

「ヒダカ大尉、ファルメルです」

「見ればわかるよ」

 

「アクイラ」の艦橋からも、「ファルメル」の姿はよく見えた。

 何せ、艦隊の中央で同型艦である他のムサイ級やチベ級重巡洋艦に守られていながらも、先の理由から一目で判別ができる唯一のムサイ級だ。

 「アクイラ」の艦長が形式上の都合でそのことを冬彦にも伝えてくれるのだが、見ればわかるというのはブリッジにいる全員の意見だろう。

 ただ、思っていても口にしないのが普通なのだが、分艦隊の隊長が冬彦だったのと、更に考え事をしていたためにうっかり口にしてしまう辺りが冬彦だった。

 

「――まーた呼び出しかい……何を言われるやら」

 

 ブリッジから「ファルメル」の特徴的な艦橋を眺めてみる物の、どうも自身のセンスと合わないのか、冬彦は何の感慨も抱かなかった。

 むしろ、「ファルメル」はドズルがグワジン級に移った後はシャアに下げ渡されたことから、万が一自分に廻ってきたらどうしようか、などと失礼なことを考えていた。

 

 連邦パトロール艦隊への奇襲という任務を終えた冬彦は、ドズル艦隊へ合流しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「フユヒコ・ヒダカ大尉、入ります」

「おう、来たか」

 

 格納庫で待っていた兵士に案内されて到着した執務室は、艦船の内部とは思えない内装をしており、いつか呼び出された士官学校の校長室とその豪華さでは良い勝負だった。

 室内にはドズルの他に警備も兼ねた数名の士官がおり、傍らには腹心の一人であるラコック大佐の姿もある。

 

「報告は聞いている。四隻撃沈、二隻を拿捕とは大した戦果だ」

「はっ、ありがとうございます」

 

 室内で唯一着席しているドズルだが、その背丈と厳つい顔つきも相まって、座してなお見下ろされるような迫力がある。

 しかし冬彦も士官学校時代に一度酷い目にあったため、慣れてしまったとでも言うのか、それほど緊張はしていなかった。

 もちろん、何かヘマをしでかすと後が大変よろしくないので、だからといってだらけたりなどはしないのだが。直立不動は軍人の基本スキルの一つなのだ。

 

「貴様の部隊が拿捕したマゼランとサラミスだが、この後すぐに曳航の任をパプアへと引き継ぐ。そのことを確認しておいてくれ」

「了解しました」

「それと、今回貴様を呼んだ件についてだが」

「はっ」

 

 来たか、と冬彦が内心身構えるのをよそに、ドズルがラコックに手を挙げると、一冊のファイルを渡される。

 今回のはいつぞやの改修の時と違って、至極薄いファイルである。

 

「開け」

 

 にべもなく言われた一言に、黙って頁を開く。中にあるのは、命令書である。

 

「特別編成中隊、でありますか?」

「そうだ。『アイランド・イフィッシュ』につけていた護衛艦隊と連邦艦隊との間に戦端が開かれた。おそらくはティアンムの艦隊だろう。……ラコック」

「はい。……貴官には、『アイランド・イフィッシュ』を護衛するキリング中将の艦隊に後詰めとして護衛任務の一翼に加わって貰うことになる。

そのために、現時点で任務を終え本艦隊に合流している第二、第三、第八、それに貴官の第六分艦隊をそれぞれ再編、戦力を増強し、新たな四個分艦隊として本艦隊から先行させる。

貴官の隊は現状の『アクイラ』、『ミールウス』に加え、『パッセル』、『アルデア』が麾下に入り四隻編成になる。隊長は貴官のままだ」

「今の所は問題無く蹴散らせているようだが、阻止限界点に近づけば近づくほど、奴らも死にものぐるいになるだろう。『ブリティッシュ作戦』をより確実な物とするため、貴官らを派遣するのだ。奮戦に期待する」

「はっ……了解であります」

 

 ムサイが四隻ともなれば、分艦隊と言えど結構な部隊である。ムサイ一隻に大体三機のMSが積めるので、一気に倍の十二機の部隊となる。ここまで来ると、いっぱしの将校になったような気がして、少し嬉しかった。

 

 しかし、懸念もある。冬彦の知る限り、ブリティッシュ作戦途中でのキリング艦隊への増援などというのは、起こらなかったはずなのだ。

 ドズルなりの単なる保険なのか、それとも冬彦がいることによるバタフライエフェクトなのか……考えたくは無いが、最悪連邦にも自分と同じようなのがいるかもしれない。

 

 そんな内心ビクビクの冬彦を他所に、更にドズルがデスクからある物を取り出した。

 

「それと、こいつを持って行け」

「これは……?」

 

 受け取ったのは、何かしかの図案である。紙のサイズも先のファイルよりも二回りは大きく、二重円に、翼を畳んでいるのかふくふくとした丸っこい身体。くちばしと、左右に尖った頭。

 梟か、ミミズクだろうか。

 

「貴様のパーソナルマークだ。出発までに肩にでも塗装していけ」

「は……」

 

 パーソナルマーク。この一言に、今までの不安が一瞬、吹き飛んだ。

 

 パーソナルマークと言えば、パーソナルカラーと並んでエースに許される特権の一つである。有名どころはユニコーンに稲妻の意匠のジョニー・ライデンやシン・マツナガの白狼。他にもヘルベルト・フォン・カスペンの左を向いた有角の髑髏などが該当する。

 

 それが、自身の手に。若干かわいらしいともとれるイラストであろうとも、感無量である。

 

「今回の戦果での昇格は無いが、代わりにそれをくれてやる。貴様のザクの二つ目にちなんで、“梟”だそうだ。デザイナーの言うことはよくわからんが……だがパーソナルマークをつけて丸坊主のままでもしまらん。ブレードアンテナの予備も持って行け」

「あ、ありがとうございます!」

「くれてやった分は暴れて貰うぞ。今以上に蹴散らしてこい」

「はっ!」

 

 冬彦にとっては、何よりの贈り物だった。

 

 なお、この時の様子を見ていたラコック大佐は、「初めてヒダカ大尉が普通のMSパイロットらしく見えた」と後に同僚であるドズル麾下の幕僚に話したという。

 

 

 

 

 

 

 宇宙世紀0079、一月六日。

 

 「アイランド・イフィッシュ」が落ちるまで、あと四日。

 

 

 

 




 やぁ、こんばんは。ARUMです。

 実はオリジナルのムサイ級のアクイラとかは、ラテン語の鳥の名前から取ってっるんだ。ちなみにアクイラは鷲。



……本題に入ろう。アンケを取ろうと思う。重要事項だ。ヒロインについてなんだ。

アンケの内容はただ一つ。最近ヒロインどうなんの?という感想がちょいちょい来ている。そこで、あんまり遅いと話を組みづらいから、どうするか今のうちにアンケを取ります。参考にするので。

詳しくは活動報告に書くので、そちらを見てもらいたい。なお、アンケについては規約により活動報告かメッセージに誘導するように指導されているので、集計を助ける意味もかねて活動報告の方にお願いします。感想に書かれてもノーカンとします。

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