転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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ガンダムってすごい。




第十一話 光を消して

 

 最初に戦端が開かれてから、早二日。

 

 地球とコロニーの間に分け入るように背水の陣を敷く連邦艦隊と、そこに真正面から突っ込むコロニーを擁したジオンのキリング中将率いるジオン艦隊。

 

既に戦闘は始まっている。二つの艦隊の間で艦載砲が光の線を引き、到達点で火球となって花開く。それらの一つ一つが、数百からの人間が消えて行く死の証明に他ならない。

 

だが、ここは宇宙。この場においては、近かろうと、遠かろうと、怨嗟の声も断末魔も耳元までは届かない。

 

 あるのは、ただ、顔の知らない味方が死に、敵が消えたという機械的な感情だけだ。

 

 

 

宇宙世紀0079、一月八日。ドズル艦隊からの補給を早々と済ませた冬彦の第六分艦隊のMS部隊十二機は、連邦艦隊から見て右翼方向で息を潜めていた。

 キリング艦隊に隊伍を並べていないのは、冬彦が合流前に通信で作戦を立案し、それをキリング中将が了承したためだ。

 

 冬彦が立案したのは、例の如く奇襲作戦である。

 

なんだか任官してからこのかた不意打ちに奇襲強襲と真っ正面からの決戦を一度もしていないように思えるが、モビルスーツとはこの時期のジオンにおいて決戦兵器に位置づけられている。

 夜討ち朝駆け不意打ち上等。MS戦闘における完全な奇襲の成功による有利さは計り知れない。モビルスーツの攻撃は、装備によっては艦船相手に一撃必殺になりうるのだ。

 

そもそも連邦との戦力比が著しいジオンでは、生まれ出でてまだ数年というこの新しい兵器の最も効果的と思われる運用を常に思案試行し想定されうる最大限の戦果を出さなくてはならない。

 そのためには、階級が低い者が出した物であろうと、新たな運用案に対しては積極的に目を向け検討し、適切な評価が必要となる。

だからこそ、冬彦は士官学校出とはいえ相当なスピードで大尉まで出世することができたし、こうしてまた分艦隊の指揮をドズルから任せられ、キリングからも作戦の了承を得ることができているのである。

 

 第六分艦隊旗艦「アクイラ」以下「パッセル」「アルデア」の三隻は、既にモビルスーツの発進も終えキリング艦隊の方に合流している。

 これは、艦砲による砲撃は効果的だが、今回ばかりはその大きさで突撃前に連邦に発見される恐れがあったためだ。

 

 連邦、ジオンの両艦隊から離れたこの静かな宙域には、突撃命令を待つ十二機のモビルスーツ以外に動く物は存在しない。唯一、MS部隊のさらに後方で、キリングからの命令の中継のために残った「ミールウス」以外は。

 

 そして、ジオン艦隊の近くで一際大きな光が開いた時。

 

 待ち望んだ命令が、遂に伝達される。

 

《――隊長、ミールウスからの発光信号来ました。護衛艦隊司令キリング中将より入電、突撃命令です》

「わかった。返信、“艦隊に合流せよ”だ。送れ」

《はっ》

 

 副長からの通信に「ミールウス」への返信をまかせ、冬彦は手のしびれを払うように指を組んで手首を数回回し、それから僚機への通信を開いた。

 

「聞いていたかもしれんが、これよりうちの隊は正面に火砲を集中させ戦線を支えている連邦艦隊の中陣左翼を側面から強襲する」

 

 返信は、ごく短い了承の意を示す物のみ。それに、さらに冬彦は続ける。

 

「そう難しい事じゃない。この間パトロール艦隊にやったのと同じ事だ。横腹に一撃入れて、直ぐに底面方向へ逃げる。友軍の流れ弾や“雷撃”に巻き込まれるなんてマヌケはごめんだからな。敵のには当たっても良いが味方のにはあたるなよ」

 

 再び、返事はごく短い物だ。しかし、今度はドズル艦隊に合流した後新しく部隊に加わった部隊の小隊長から疑問を呈する通信が入る。

 

《大尉、規模が違いすぎませんか?》

「既に友軍のミノフスキー粒子散布も終わっている。後は見つからなければ大丈夫だ」

《見つかったら?》

「上手いこと火線を避けろ。腕に自信がなければ信じる神にでも祈れ。……まあ、あれだ。コロニーが連中の目の前にあるんだ。一撃いれるまでは大丈夫だろう」

《そんな……》

 

 どこか、不満げではある。しかし、上官からの命令に対する不服従は、よほどの軍紀違反が無い限り許される物では無い。さらに、独断ではなくもっと上の許可も出ているとなれば、抗うことの正当性もない。

 そのことは、冬彦も、新しい小隊長もよくわかっている。だからこそ、冬彦は重ねて言う。

 

「どちらにしろ作戦は認証され、既に突撃命令も出た。行くしかないぞ。諦めろ」

《はっ……》

 

 小隊長が不安を漏らす理由。それには、作戦の中身にも問題があった。

 

「わかっていると思うが、散開するぎりぎりまでバーニアを吹かすな。レーダーは潰れているだろうが、遠くに居る内に目視で気づかれたくは無い。熱源反応でいつかはバレるだろうが、なるべく遅い方が良い」

《しかし、慣性飛行で敵艦隊に強襲をかけるなど教本には……》

「載ってないな、確かに。だが、今はまだ載っていないだけかもしれん。MS戦闘が始まって数年。試行錯誤の余地はまだまだある。そのことを証明して見せろ。それとも、他に今更異論のある者がいるか? いるなら別に今から『ミールウス』に戻ってもかまわない。抗命罪にも問わん。その代わり、長いこと臆病者と呼ばれるかもしれないが」

 

 しばし、待つ。既に突撃命令が出ているので時間はほんの僅かな間だが、それでもザクを「ミールウス」へと向ける者も、異を唱える者もいない。通信機は、静かなノイズだけを吐き出している。

 

「……初期加速はきっかり三分間だ。その後は命令があるまで慣性飛行を続けろ。敵艦隊の大きな動きに際しては“AMBAC”でなんとかしろ。その為の“ヒトガタ”だ。良いな? では突撃を開始する。……突撃!」

 

 三度目の、短い了承を示す言葉。そして、これが最後の返事となった。

 

ザクⅡC二機、ザクⅠ改修型九機、そして冬彦のザクⅠ改を合わせ、十二機のモビルスーツが遠く背後に見える「ミールウス」を置き去りにどんどんと加速していく。

 

 そして、加速からきっかり三分後。十二機のモビルスーツは、「ミールウス」からはまったく見えなくなった。

 

 宇宙の闇に溶け込むように、飛翔したのだ。

 

 

 

 加速の為の時間を三分きっかりに区切ったのは、例えザクだろうと宇宙空間での加速にはそれ相応のリスクがあるからだ。

 ヅダほどではないが、加速の加減を間違えると空中分解や何かしらの不具合、それに急激なGによる搭乗者のブラックアウトの危険が付きまとう。

 

 それでも冬彦はこれを命令した。

 

作戦を練り、提起し、了承を得た。

一年戦争の山場の一つであり、宇宙世紀の転換点とも言うべきこの戦闘を乗り切るための、冬彦なりの苦悩の答えだ。

 冬彦は、まだ死ねない。ザクに乗りたいと志し、ここまでは望外の幸運もあってなんとかここまではたどり着いた。

 

 だが、ここからなのだ。

 

 モビルスーツという兵器が、分派し、進化し、それまでの兵器の流れを覆す。

 

 ザクに始まり、連邦にもやがてジムが生まれる。

 

 ザク一つとってどれほどのバリエーションが生まれるか。あるいは後に欠陥機と言われるグフ重装型のような機体も幾らでも出てくるのだろう。

 

 そんな中で、自身が何ができるか。不利な戦況を一変させる? 一年戦争を勝利に導く?

 

 そこまではできやしない。きっと限界まで伸びてもせいぜいが準エースにも届くかどうか。どう頑張っても精々地方の一戦線を維持するくらいが関の山だ。

 

 だが、決めてやったのだ。配属先希望書を書くときに。どこへ行こうと生きてやると。

 

「バーニア点火ぁっ! すり抜けながら撃ちまくれ! 外しても気にするなっ、振り返らずに一撃離脱っ! 散開!!」

 

 言葉と共に、それまで宇宙の闇に紛れていたモビルスーツの目に光が灯る。

 切られていた背部と脚底部のバーニアが息を吹き返し、それぞれが別々の獲物を目指して限界まで加速する。

 

 冬彦機の得物は変わらず、対艦狙撃砲のままだ。だが、獲物もまた同じように無防備に横腹を晒しているのなら、何ら問題はない。敵の注意も純然たる脅威であるコロニーや、友軍の雷撃が始まった左翼に向いている。こちらには向いていない。おまけに、ミノフスキー粒子が敵の目であるレーダーを無効化している。

 

 こちらを向いている砲は、ひとつとて無い。

 

「吶喊!!」

 

 言いがけに、サラミスの艦橋を狙って狙撃砲を撃つ。直撃したが、真横から撃ったために突き抜けてしまい爆沈はしないし、艦砲の沈黙もない。

 だが、僚機は初撃で相応の成果を上げたらしく、視界の端々を通り過ぎていく連邦の艦隊の動きに乱れがある。

それまで正面にしか注目していなかった艦隊右翼は、さぞ混乱していることだろう。

 

「次っ!」

 

 自身の言葉通り、最初のサラミスに追撃はしない。すぐに次の獲物を探す。艦隊に飛び込んだのだから、視界を埋め尽くすのは全て敵機。獲物は狙い放題だ。

 進行方向をやや左に修正し、真正面に見えたマゼランを狙う。後部にあるエンジン部に二発打ち込み、だめ押しにグレネードを投げ込んで通り過ぎる。

 爆散したかどうか確認する余裕は無いが、命中した以上ただでは済まない。

 

「さぁ次だ!」

 

 まだ、幾らでも敵はいる。弾もある。艦隊を突っ切るまで時間もある。

 

「各員、落とされるなよ! 生きて『アクイラ』へ!」

 

 

 

 まだ、序曲すら終わっていない。

 

 

 

 長い長い、一年戦争の始まりだ。

 

 

 

 




前回言い忘れましたが、アンケートの期限はルウムが終わるまでです。
③が最初ダントツだと思ってたら中盤以降そうでもなかった。①はハマーン様がダントツ、②も多いですね。
なおプロットなど現段階では存在しません。地上にも一度は降りようか?くらい。

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