転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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第十二話 大戦の小休止

 戦いの趨勢は、決しつつあった。

 

常に戦線はコロニーの地球への接近と共に移動し続け、宙域には力を失った艦船や戦闘機の残骸のみが残された。

サラミスやマゼランだけではない。ジオンのムサイやチベも混じっている。しかし、その数は断然連邦の物のほうが多い。

 

 連邦は情報を掴みながらも、実戦では役に立たない欠陥兵器と判断していたモビルスーツによって戦力をズタズタにされ、有効打を打てないままずるずると戦線を後退しつづけ、そして、ついに超えてしまったのだ。

 

 最終防衛ラインとも言うべき、阻止限界点を。

 

 連邦の艦隊は瓦解し、コロニーが落ちる。

 

 大気との摩擦で真っ赤に燃えながら、巨体故にゆっくりと。しかし確実に大地に向かって落ちていく。

 

《これが……コロニー落とし……》

 

 宇宙世紀、0079年一月十日。この日、初めてコロニーが地上へと落ちた。

 

長く歴史に刻まれる事になるコロニーの名は、サイド2、8バンチコロニー「アイランド・イフィッシュ」と言った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「いやー、しかし今思い返しても、ほんと無事に帰ってこれて良かった。何度死ぬかと思ったことか」

「全くだ。敵艦隊に突撃って聞いた時は流石にヤバイと思ったが、意外と当たらない物なんだな、艦砲ってのも」

 

 分艦隊旗艦の任を返上したムサイ級軽巡「アクイラ」の通路を、壁のレバーに掴まって二人の男が進んでいた。互いにパイロットスーツのままで、ヘルメットも背負ったままだ。

 二人は共に、艦隊への突撃後、無事艦隊に合流し、母艦へと帰還した第六分艦隊のMS隊の一員である。

 「ブリティッシュ作戦」は完了したが、艦隊は未だ帰還の途にあり、警戒体制が解かれていなかった。そのため彼らパイロットは常にパイロットスーツの着用を命じられていたのだ。

 しかし、一つの山場を超え一時の休息を取った彼らの表情にはもう緊張は見られない。艦隊へ突っ込むという危険な作戦だったが、終わってみれば口ではどうあれ何てことは無かったと思えてしまうのが不思議だ。迎撃も散発的な物で済んだし、損傷はあった物の十二機全機が無事に帰還することができた。

 開戦初期にあって艦砲射撃の応酬で轟沈した艦があったことも考えれば、機体に機銃弾を受けることもなく帰り着けた二人はやはり幸運なのだろう。

 

「それはあれだろ。ミノフスキー粒子ってのでレーダーを潰したから、向こうもマニュアルでやってたんだろう」

「操作を?」

「そう。自動迎撃システムってのは普通レーダーにも連動してる。で、レーダーが使えないと迎撃システムも照準ができない。砲塔を回すのから照準をつけるまで全部自分でやらないといけないのさ」

「面倒な」

「おかげで助かったけどな」

 

 彼らが向かっているのは、艦内の憩いの場であり生命線でもある食堂である。任務中に何が楽しみと言えば、やはり何時の時代のどの軍であっても食事である。規律が徹底されていないとそうでもないのだが……とにかく、ジオンにおいてはクルーの精神安定における重要なウェイトを占めているのが食事なのだ。

 味はそこまで良い物では無いが、それもまた軍の常だ。あたたかい物が取れるというだけでも、随分と人はほっとできる。

 

「そう言えば、大尉殿は今どうしているんだ? 帰ってきてから見かけないが……」

「ファルメルに呼ばれてるんじゃないのか?『ブリティッシュ作戦』に成功したから、勲功を称える場を設けるって事で結構な人数が呼ばれてるらしい」

「おま、どこで聞いたんだよ、そんなこと」

「同期にな。そいつの所の上官も呼ばれたんだと。あー、何て中尉だったっけかな」

 

 決戦の口火を切りそのまま主戦場となった左翼。モビルスーツで火線を切り抜け艦隊に突撃したのだから、きっと優秀な人物なのだろう。

 左翼方面は、敵味方の艦砲以外にもセイバーフィッシュのような連邦の航中戦闘機が相当数出てきていたと聞いている。それらの防空網を、くぐり抜けたのか。

 

「ふーん……なら、大尉もそっちか」

「だろうな。なんてったってMS部隊のみで奇襲をかけて、部隊は全機無事帰還だからな。大尉殿は結局一隻も沈められなかったって嘆いてたけどさ、何隻かは確実に中破以上だろ? 個人成績どうなってんだか」

「そういう意味じゃ俺らもだけどな。俺、前回のと合わせてサラミスの撃沈スコアが三隻になったんだ。大尉の隊にいられたおかげで、出世もできそうだ」

「……パトロール艦隊相手の時もそうだったけど、よくⅠ型でああも動けるよな、あの人」

「元々技術士官だったんじゃなかったか、あの人? そうでなけりゃあんな眼鏡してるかよ。Ⅰ型の改修にも関わったって聞いたし、それでだろ」

「そうなのか? 俺は士官学校出のエリートって聞いたけどなぁ」

「ふーん……まあいいや。それよか飯だ、飯」

 

 無駄口をたたき合う間にも、食堂室のドアが見えてくる。生きて居てこそできる会話だ。

 

「今頃大尉殿は良い物食ってんのかねー」

「さあなー。さて二人前頼んで、と……?」

「うわっ、入り口で止まるなよバカ! メットで鼻打ったじゃないか!」

「いや、だって、あれ」

「あれって何だよ! 食堂にそんな珍しいものがあるわ……け……」

 

 食堂の入り口で、足を止めた二人。

 

 二人の視線の先では、他でも無い冬彦が士官服の襟元を開けもっしもっしと出された食事を口に運んでいた。

 パイロットスーツの着用が義務づけられている警戒命令はどうした。

 

「たっ、大尉!?」

 

 片方の声で気づいたのか、冬彦は二人にフォークを持ったままの手を挙げて軽く答えた。それきり、また食事に戻ろうとするが二人が近づいてきたことで、やっと食事の手を止めた。

 

「席、詰めようか?」

「いえ結構です! どうぞそのまま」

「あ、そう。二人とも食べないのか?」

「は、食べるつもりで来たのですが」

「先に取ってきたら? そろそろ混み出すぞ」

「……それでは」

 

 言われた通り、トレイに配膳された食事をカウンターで受け取り、戻ってきた二人を待っていたのは、既に食べ終えて食後に水のパックをすすっている冬彦だった。

 しかし、何か話があるのはわかっているのか、席を立とうとはしない。

 そこで、二人の内の片方が、料理に手をつけることもなく訊ねた。

 

「大尉殿、大尉殿はてっきりファルメルにいると思っていたのですが……」

「え、何で?」

「それは、ファルメルにて『ブリティッシュ作戦』の勲功を称える場が設けられると聞いた物ですから、てっきりそちらに行っている物と」

「え、何それ」

「……聞いておられないのですか?」

「まったく」

 

 だからどうしたと言わんばかりの冬彦を、一度顔を見合わせた部下二人が信じられない物を見るような目で見ていた。

 

 

 

「いや、冷静に考えてみろ。そもそも艦を離れるならどっちかに何か一言残していくだろう。分艦隊が解隊されていて俺がいないなら、有事には指揮をどっちかに任せにゃならんのだから」

「確かに……」

「では大尉はこれまで何を? 余り見かけませんでしたが」

「上に上げる用の報告書書いてた。慣性飛行での奇襲に関するレポート込みでな」

「そうだったのですか……」

「しかし、なぜ大尉殿が呼ばれなかったのでしょうか。傷の浅かった右翼を混乱させた功績を考えれば、充分勲功に値する物だと思うのですが」

 

 冬彦は二人の言に、ふと眉をひそめる。だが、それも一瞬のこと。

 

「いやー、何というかもう既に前払いで貰ってたから」

「は?」

「パーソナルマークとブレードアンテナ」

「ああ!」

「まぁ、ドズル司令直々に頂いたからね。働きには充分応えていただいているよ」

 

 それに、と冬彦は言う。

 

「案外、まだまだ活躍する機会はあるかもしれないし」

「は? しかしコロニーは」

「落ちたな、確かに。だが、本当にジャブローに落ちたかどうかはまだわからん」

「つまり、大尉殿は……」

「ああ。続くかも知れないよ、戦争は。まだまだ、長いこと」

 

 宇宙でも、ティアンム艦隊は壊滅したがレビル艦隊は無傷であるし、地上に目を向けてみても、まだまだ戦力は残っている。

 もしもコロニーがジャブロー以外に落ちたら……というか、冬彦はジャブローに落ちないことを知っている。故に、それらを相手に戦争を続けなければいけないことも知っている。ジオンの最初の決定的な失敗であり、後々までずるずると尾を引くジオン敗北の決定打だ。

 そんな前世知識に裏打ちされた悲観的な予想を話す冬彦の顔がどんなものだったのか冬彦自身にはわからないが、部下二人との会話の内容が、さざなみのように部屋の中で広がっていくことだけは空気の変化でよくわかった。

いつの間にか、食堂室は静かになっていた。

 

 そして、その空気を壊すように、冬彦はあっけらかんと笑って見せた。

 

「ま、大局を見ることができない尉官風情の予想だよ。外れることを祈っててくれ」

「は、はは……そうですね……」

「戦争が続いても、勝ち続ければいいだけですしね!」

 

 勇ましいことをいう二人に、冬彦も笑顔で返し、食堂室を後にした。食事が済んだ以上、そうそう長居する理由もないからだ。

 

 

 

 食堂室を出て、与えられた個室に帰り着くと、すぐに一冊のファイルを取り出し、ペンを取って黙考する。

 

 次はルウムだ。そして、そこからは……

 

「いよいよ、わからんなぁ……」

 

 冬彦の記憶に残る原作知識とやらも、もう随分薄れてきている。とはいえ、そうそう何もかもを忘れるわけではない。

 だが、ルウムが終わるといよいよ展開の予想が困難になる。あるいは史実通りに進んだとしても、その全てを知るわけではない。

 生き残るにはどうすればいいか。ここから先は事を有利に運ぶのも難しくなっていく。

 

「ザクⅡ、配備してもらえんかなぁ……ルウムが終わるまでは無理か」

 

 開いたファイルは、白紙のままだ。ぐるぐると頭の中で知識のかけらはぽんぽん出てくるが、中々使えそうな知識が少ない。

 自分でも独り言をしているのに気づいていないのか、所々に兵器の名前が出てきているが、中々、それを書き込むことはできない。

 時折何かを書きかけるが、その殆どをすぐに二重線で消していく。

 

「んー……ヒマラ…級……しかしこれ以上技術士官と間違われるのは……かといって……眼鏡……別に……R型……んー……?」

 

 結局、しばらく悩んだ結果、ファイルを勢いよく閉じて、もとあった場所へと戻した。

 

「可能性が多すぎる、か。もうルウムが終わってから考えよう……」

 

 何かを振り払うように部屋を後にする冬彦。

 

 残されたのは、閉じられた、意味の成さない単語が列記された一冊のファイル。

 

 そこに書かれた数少ない黒の二重線で消されていない単語の一つには、「陸上戦艦」の四文字があった。

 

 

 

 




アンケ中間報告。②は多いがハマーン様も多い感じ。少数意見はケルゲレン娘やトップ隊長とか。他の候補もトータルするといらない派よりいる派が多いのかな? あとなんかメイ・カーウィンも増えて来てますね。わからない人は調べてみよう。



ところで、ハマーン様に票を入れた人に訊いてみたいんですが……いつから私が一年戦争後の話もやると錯覚していた?(小粋なジョーク)


 現時点ではプロットも何も無いのです。

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