転生者迷走録(仮)   作:ARUM
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第十三話 射程の中

 

 

 宇宙世紀0079、一月十五日、ルウム宙域。

 

サイド5、11バンチコロニー「アイランド・ワトホート」付近で、連邦とジオンは再び対峙していた。

 戦場は「アイランド・ワトホート」に取り付き核パルスエンジンの設置とその護衛を行うドズル艦隊を、連邦側はティアンムに代わりヨハン・イブラヒム・レビル中将の艦隊が攻め立てるような構図になっていた。

 戦力比はおよそ1:3。ジオンが1である。先の「アイランド・イフィッシュ」は連邦軍本部のある南米ジャブロー、ではなく同じ南半球のオーストラリアに落ちた。

この結果オーストラリア大陸北東部には新たな湾ができ、軍本部こそ残った物の地球全土に甚大な被害を受けた連邦政府に後はなく、宇宙艦隊のほぼ全てを集結させた。それ故の戦力比でもある。

 無論、これはジオンにとっても余り良い事態では無い。初撃でジャブローを落とせなかった以上は、勝利のために再びコロニー落としを実行する必要がある。地上戦力や月の連邦基地も未だ健在であり、時間を与えれば必ず軍を再建してくる。そもそも二度目を連邦が見過ごすはずもない。

 

 ここルウム宙域において、二度目のコロニー落としが決まるか否かを巡り、決戦の幕が切られたのである。

 

 そして、冬彦はジオン艦隊のおおよそ中央。最も激戦が予想される「ワトホート」後部の核パルスエンジン装着の作業現場付近に布陣させられていた。

 

 

 

「――連結式三連対弾防盾に、指向性グレネード……ザクⅠ対空防御兵装か。まさか自分で使うことになるとは」

 

 相も変わらずザクⅠの中で、冬彦は一人黄昏れていた。残念ながらザクⅡは冬彦個人どころか部隊にすら配備されず、代わりに自身で開発した装備を回されオマケに任されたのは激戦が予想される区域。泣きたいような状況だが、もうあきらめがついたのかどこか達観してモニターを眺めていた。

 

《大尉》

「どうした」

《中隊各機布陣完了しました。『アクイラ』以下『ミールウス』『パッセル』『アルデア』も同様です》

 

 作業部隊のすぐ側に配備されたのは、冬彦の乗艦だったアクイラだけではない。

二度目のコロニー落としに合わせて、特別編成中隊の解隊は取り消された。そのため、アクイラと同艦搭載の僚機二機に加え、元の第六分艦隊所属の三隻のムサイ級軽巡と九機のモビルスーツが、冬彦の道連れだった。

 中隊指揮権は冬彦のままで、装備も対空防御仕様に合わせた物が追加配備されている。

 

「……まっさか、解隊数日で再結集になるとはな」

《いやまったく。多少なりとも気心が知れている分、やりやすいと言えばやりやすいですが》

「違いない。ドズル閣下に感謝しないと。……艦首を連邦艦隊の方へ向けておけよ。被弾面が少しでも小さくなる。それと、中隊各位に通信を繋いでくれ」

《はっ》

 

 冬彦の中隊は艦隊全体で見れば中央付近。大分奥まった所に位置しているが、司令であるドズルのグワジン級がさらに後部に布陣していることを考えると、とてもではないが前に友軍がいるからと安易に考えることはできない。司令部もその事がわかっているから

 

「あー、中隊各員傾注。こちら、フユヒコ・ヒダカ大尉」

 

 通信越しに返事は無い。しかしおもしろいことに、中隊の何機かのモノアイが、冬彦機に向いている。

 

「この第六分艦隊が任せられたのは、連邦の殲滅ではなく、この場での作業部隊の護衛だ。扱いとしては予備兵力に近い。だが、間違えるな」

 

 確実に聞き取れるよう、一つ一つの文節を強調して言葉を紡ぐ。

 

「この任務に華は無い。今までのような対艦戦闘を仕掛けることもおそらくは。だが、コロニー落としが成らねばジオンの勝利は無い。そしてそのためにはまずコロニーへの核パルスエンジンの設置が必要で、そのためには我々が彼らを守りきらにゃならん」

 

 つまりは。

 

「たった十二機と四隻であろうと、ここはジオンの興亡を左右する最終防衛線くらいに思って任につけ」

 

 視線の先、ずっと遠く。最大望遠でやっと見えるような距離に、先日と同じ光が灯る。

 

「連邦も必死だ。必ずここまでたどり着ける奴も出てくる。敵は友軍の防御を抜けてきた手練れだ。たかが後方の護衛任務だと思っている奴は今の内に意識を切り替えろ。激戦区になるぞ」

《大尉、戦闘が始まりました》

「さあ、生きて帰るぞ! 帰ったら部隊分の休暇を上申してやるからな!」

 

 

 

 

 

 

《こちらゴドウィン伍長! 対空散弾が無くなりました。一度後退の許可を!》

「『アクイラ』は駄目だ!対空散弾は残りが少ない!『ミールウス』か『パッセル』へ行け! ピート! 伍長の掩護に!」

《はっ!》

「クレイマンは俺と穴を塞ぐぞ! セイバーフィッシュを通すな!」

《了解であります!》

 

 戦闘が始まって僅か一時間。作業部隊には、じりじりと被害が広がっていた。そして、それは直衛に当たっていた中隊にも。

 今はまだ決定的な損害は中隊には出ていない。だが、中破や小破は既に出ている。小破機は戦闘をそのまま継続している物の、中破したのがよりにもよって中隊で二機しかないザクⅡの片方だったのも痛い。

 

《ヒダカ隊長っ、作業部隊への被害が拡大しています!》

「わかってるがこっちも手一杯だ!セイバーフィッシュはともかく艦砲射撃には対処できん! 後方から援軍をもらえないか、司令部へ上申しろ! フランシェスカとゴドウィンはまだ戻せないのか!?」

《ゴドウィン機の補給は十分ほどで出来ますが、フランシェスカ少尉のザクⅡは被弾して下げたんですよ!? 予備パーツへの換装であと三十分はかかります!》

 

 対空散弾へ弾種を変え、対艦狙撃砲でセイバーフィッシュをたたき落としながら冬彦は叫ぶ。名前が挙がったのは、いずれも「アクイラ」と「ミールウス」のMSパイロットだ。

 

 通信をしている間にも、二条の光線がザクの間をすり抜けるように飛来し、作業中の部隊のど真ん中へ突き刺さり、爆発する。

 セイバーフィッシュやパブリクなら何とかでもできるが、艦船のビーム砲を受ければいかにモビルスーツでも一撃で吹き飛ぶ。そこに、盾のあるなしは関係ない。

 

《被害、さらに拡大! 原因は艦砲射撃です!》

「……前線のモビルスーツ隊は何をしている! こちらでは対処のしようが無いというのに!」

《おそらく、両艦隊が近すぎるのが原因かと……》

《大尉、二時上方からセイバーフィッシュの編隊! 数、六です!》

「ええい、暇がないなちくしょう!」

 

 サブモニターに移る〈Alert〉の文字とけたたましい警告音も、もういい加減聞き飽きたのだが、一度なり出してからこの方いまだに鳴り止むことがない。

 何度目かの敵機襲来にも機体を操作し、砲口をモニターの示す方へと向け、操縦桿を握り込む。

 砲口のマズルフラッシュが見えると、ほとんど間を置くことなく被弾したセイバーフィッシュが火を噴き、部品をまき散らしながら爆散する。

 弾種はあいも変わらず対空散弾。対艦狙撃方で撃っている分砲身の長さでザクマシンガンよりも初速を稼げるが、その分、欠点もある。

 

 飛来したセイバーフィッシュが残り二機になったとき、冬彦の耳にその音が届いた。

 

この戦闘で何度目かの、残弾数ゼロを示す、警告音。

 

「ちぃ、換えを……っ!?」

 

 対艦狙撃方の問題点。それは、装弾数の少なさ。口径が大きい分威力や初速に優れる分だけ、マガジン一つ当たりの弾の搭載量がどうしても減ってしまうのだ。大口径の砲やバズーカなどで特に顕著に見られる問題だが、対艦狙撃砲もその範疇に入る。

 これに備えて冬彦もいわゆるバナナ型のマガジンを用意するなどしてきたが、それでも限界がある。

 この瞬間、その最後のマガジンが尽きた。総重量の都合上、冬彦機は手持ち武器の類は対艦狙撃砲のみ。矢継ぎ早に対応を迫られた末の失敗だった。

 

 咄嗟の判断で対艦狙撃砲をセイバーフィッシュめがけて勢いよく投げつけ、運良く一機には命中した。

 しかし、もう一機は。

 

「……まずったぁ!」

 

 この時、ヘタに抵抗せず回避すればまた違う展開もあったのかもしてない。しかし、この戦闘は護衛が任務。

後ろに行かれては自機の代わりに護衛対象に被害が及ぶし、防御の内側に入られては中隊全体に乱れが及ぶ。確実に潰さないといけないという思いがあった。

ただでさえ、二機が補修と補充の為に下がり、現状十機の最終防衛ライン。艦砲以外に殆ど被害が無かったのは友軍の掩護もあってのことだが、そこに乱れが生まれればどうなるか。

だから、迎撃するしか道は無く、結果手詰まりになった。

 

 武装はまだ盾裏にグレネードがあるが、取り出して投げつけるまでには、時間がない。

 応援を頼もうにも、誰も彼も余裕はそう無い。

 出来たのは、盾でコクピットのある胴体部分を庇うことだけだった。

 

「お、おおおおおおおおおっ!?」

 

 そして、冬彦を衝撃が襲う。基幹フレームが軋みをあげ、サブモニターから何から真っ赤になってこれまで以上に悲鳴の如く次々と〈Alert〉と警告音が鳴り響く。どれがどれの物だかわからないほどだ。

 

《くそっ、やらせるか!》

 

 直近で即席のコンビを組んでいた部下の掩護により、相手のセイバーフィッシュが撃墜されたのを確認し、揺れる機体に歯がみしながら冬彦は損害をチェックする。

 至近距離で真正面から受けてしまったため、忌々しいくらいの項目にチェックが付いてしまっていた。

 とりあえず目に付いた物の中でも特に重要そうな物に幾つかざっと目を通し、継戦が可能かを調べるが、動力系はともかくとして両椀がやらていた。右腕は握り手部分に直接の被弾。盾を持っていた左腕は衝撃によって各部間接系が深刻なようだ。脚部や頭部にも命中があったが、そちらはかすり傷のようなものだ。

 

《大尉、ご無事で!?》

「こちらヒダカ! 私は無事だが、機体が少し不味い。しばらく指揮を頼む……『アクイラ』聞こえるか! ヒダカだ!」

《はい、こちらアクイラ!》

「被弾した! 収容を頼みたい。準備してくれ。二人はまだかかるか?」

《被弾……っ、ご無事でなのですか!?》

「そんなこと気にせんでいいっ、無事だっ! それでっ、二人はまだかかるのか!?」

 

 焦るオペレーターに一喝し、現在後退している二機の進展具合を聞く。普段とまったく違う余裕が無くなり口調が荒くなった冬彦の様子に面食らった形のオペレーターも、喝が効いたのかどうなのか、ある程度冷静さを取り戻していた。

 

《今ゴドウィン機が発進しました! フランシェスカ機も急がせます!……いえ、少し待って下さい。今……》

「どうした!?」

 

 このタイミングでまさか艦隊にまで問題が起きたのか。嫌な想像がいろいろと冬彦の頭の中を駆け巡る。

 

《艦隊司令ドズル中将より作戦の変更が伝達されました! 核パルスエンジンの装着作業を中止、全艦隊で敵レビル艦隊の撃滅に注力するとのこと!》

「なっ……」

《第六分艦隊には撤収する作業部隊の護衛を継続するように命令が出ています。》

 

 どうせそれをやるならもっと早く、というか最初にやれ。とは口が裂けても直接は言えない。

 やはり、大局には逆らえなかったらしい。

 

「……くそ」

 

 苛立ち紛れに、操縦桿を殴りつける。それで何かが変わるはずもない、しかし、それでも何かに当たり散らさずにはいられない、そんな心境だった。

 

《大尉、どうしますか》

「どう……?」

《指示を願います。我々は、大尉の部隊ですので》

 

 未だ、戦闘は続いている。接近してくる敵もまだまだいる。その中にあって、冬彦はヘルメットのバイザーをあげ、ゆっくりと一度だけ。息を深く吸った。

 

「……命令に従い、護衛の任を継続する。作業部隊の撤収完了に合わせ、彼らの母艦である工作艦と共に一時後退する。

なお、私が後退している間のMS隊の指揮は一時的にクレイマンへと移行。フランシェスカ機の修理は継続しろ。後方のドズル閣下の艦隊も前に出てくるだろうから、そのうち敵の数は減ってくるはずだ。

だからといってくれぐれも油断しないように。ここまで来たら、戦死者無しで帰ろう。以上だ」

《了解しました。命令、伝達します》

「ああ、そうしてくれ」

 

 真っ赤なコクピット内で、通信中であることを示すランプのみが消える。それを確認してから、機体を「アクイラ」へ向かわせていた冬彦はこう吐き捨てた。

 

「……所詮俺じゃぁこんなもんなのか。ちっくしょうめ」

 

 

 

 

 

 宇宙世紀0079年、一月十六日未明。前日の深夜から始まった戦闘は、連邦艦隊の壊滅と旗艦アナンケの轟沈。さらには司令官レビルさえも捕虜にするという華々しいジオン勝利の形で終わることになる。

 

 しかし一方でコロニー落としは失敗し、連邦も残存部隊が三つに分かれて逃走するなどし、いまだジオン独立の決定打は打たれていなかった。

 

 

 

 




 はい、今回をもってアンケートを締めきります。前にも書きましたが、票数がどうあれ、最終的には書きやすいようにやります。
 こっから先はどうするか。わたしにもわかりません。プロットなんてありませんので。閃くままに打ち込むのです。

それと、次回投稿時に各話のサブタイを整理します。考えるのが大変になってきたので。

 それではみなさん、アンケートにご協力ありがとうございました。
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