転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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アンケの集計とりました。結果は後書きにて。





第十四話 ニアミス

 

 

 

 ルウム戦役は、ジオンの勝利で終わった。

凱旋した軍はパレードを行いサイド全体の士気高揚に勤める一方で、裏ではコロニー落としの二度の失敗から連邦との水面下での講和へと急いでいた。

 そんな裏の事情はどうあれ、勝利は勝利であり、三倍差の戦力比を覆したのは事実である。サイド3は熱に浮かされたように連日ジオンを称える声に溢れ、未来は明るい様に思われた。

 

 そんな世相に反し、冬彦がいる場所は酷く静かだった。ザクⅠのコクピットのように、狭い密閉空間で外界と遮断されているという訳では無い。

 むしろ開放的な場所で、手入れは行き届き、開放的で、緑もある。しかし、人の気配がまばらであり、人臭さが希薄さとでもいうべきか……人の営みの臭いが、余りに薄い場所だった。

 

「――中々難しいな、大尉」

 

 冬彦の目の前には、背の低い机を挟んで少佐の階級章を持った男が居る。右目に眼帯をしており、外気に触れる左目の眼光は実に鋭い。

 

「ヘタを打てば、あっという間に終わりか?」

「ええ、そうでしょうね」

 

 対する冬彦は、いささかさっぱりとした様相だった。気ままに茶をすすり、変わらぬ瓶底眼鏡が湯気で白くなったのに眉をひそめる。目の前に少佐がいるというのに、その態度はえらく砕けている。まるで、大尉である自分の方が優位にいるとでも言わんばかりに。

 それと対照的に、相手の少佐の顔色は厳しい。しかし、それまでは厳めしい表情だった少佐が、ふっと笑う。

 

「なら、こうすればどうだろうか」

「それはっ……!?」

 

 一瞬のことだ。少佐が示した“それ”に冬彦の顔色が変わる。それは、全く予想していなかった、否、見落としてしまっていたのだ。

 

「しまった……、これは……!」

「フフ。何、気づけてしまえば後は簡単なことだったよ。大尉」

「……演じていたと? 私は、嵌められたわけですか」

「人聞きが悪いな。もう少し言葉を選んでくれないか」

「よくもぬけぬけと仰いますな……!」

 

 二人の間に、ぴりっとした戦場を知る者同士の空気が流れる。ただ相対するだけでなく、互いに互いを探る、あるいは警戒するような、そんな空気だ。

 それにより、色味の薄い世界に緊張が生まれたのだが……そんな時に、部屋の外から第三者の声が入る。女性の声で、入室を求める物。特にどちらとも無く、ほとんど同時に許可を出した。

 

「大尉……と、少佐殿もこちらでしたか。面談を希望されるお客様がお見えになっているのですが……何をなさっておられるのです?」

 

 二人は顔を見合わせて、またほぼ同時に言った。

 

『挟み将棋だが?』

 

 

 

  ◆

 

 

 

 冬彦と相手の少佐が薄い将棋盤を挟んで座っていたのは、ジオン国立病院の一室だ。

 病院と言うくらいであるから誰かの見舞いに来たのかと言えば、そうではない。互いに入院患者である。少佐はルウムで目を負傷し、冬彦は最後のセイバーフィッシュからの機銃弾を防いだときの衝撃で肋骨の何本かにヒビが入っていた。

 アクイラに帰還してから痛み出し医務室送り、そのまま本国に帰ってからは病院に担ぎ込まれた。

 よく興奮していたり極限状態に陥るとアドレナリン過剰分泌されてそれが出ている内は……というのを聞くが、それを身を以て体験してしまったかたちになる。

 おかげで医務室に担ぎ込まれてから鎮痛剤が効き出すまでしばらく悶えることになってしまい、トレードマークの片割れである瓶底眼鏡にヒビを入れるという失態を演じてしまうなど、散々である。ちなみに、すでに二代目の同型を装着している。

 

「いやー、まさか一戦目で負けるとは思いませんでしたよ。前におやりになられたことが?」

「前々から旧世紀の東洋式のチェスということで興味はあったが、ルールが中々難しくてね。こういう簡易ルールもあったのか」

「マイナーな子ども向けですけどね。まあ、私も正式ルールでは打てませんので」

 

 先ほどとは打って変わって和やかなムードの中で、二人は互いに和気藹々と他愛ない話に興じている。

場所は娯楽室。両方パジャマであり、一見すると患者同士の世間話にしか見えないのだが、上着代わりに引っ掛けた士官服が自然と周囲を威圧していた。少佐と大尉の組み合わせに、一般患者は近づきたくはないだろう。

 この少佐と冬彦は本来縁もゆかりもないのだが、ふと見かけた病室の名札がかつての知識でよく知った名前だったために、半ば無意識で扉をノックしてしまっていた。

気づいた時には扉を四度叩いた後。返事も聞こえ、逃げるわけにもいかず、誰だこいつと警戒する相手に身分を明かし、MS黎明期からの先人と是非とも一度話をしてみたかった、とお願いし、快く了解の返事をもらい今にいたるのである。

 

 この少佐の名前を、ゲラート・シュマイザーと言う。

 

 そう、史実においてはザクⅠのカスタム機でガンダムを打ち倒すという偉業を成し遂げた、とんでもない人物である。

 カスタム機と言っても強化されたのは主にセンサー系で、相手はガンダム六号機マドロック。それでどうやって勝ったのかと言えばラケーテンバズなど比較的強い武装で頑張った、としか言いようが無いのが凄いところ。

 同じザクⅠ乗りとしては、もう尊敬するしか無いような人物である。

 

「そうだ大尉。せっかくだから君に見て貰いたいものがある」

 

 ゲラートがそう言ってパジャマの胸ポケットから取り出したのは、小型のデータメモリである。それを自前で持ち込んでいたコンピューター端末に接続して立ち上げると、入っていたのはどっかで見たモビルスーツの設計図……というか構想図である。

 標準装備のブレードアンテナに、左腕のフィンガーバルカン。ザクの面影を色濃く残しながらも、より攻撃的な印象を抱かせる機体。

 

 もうわかっているだろうが、グフである。

 

「こっ、これは……」

「ペーパープランだが、万が一に備えて知り合いと地上戦向けの機体を考えていてね。大尉はザクの改修にも関わったと聞いた。そんな君からの見地を聞きたい。何かあるかね」

 

 グフ。グフである。乗る人間によってはそれはもう大活躍できるが、頭の冷却が済んで冷静になった人間からは「ちょっと待て」とストップをかけられるような機体である。

 理由は幾つかあるのだが、大体この機体の価値に疑問を呈する人間がまず一番にあげるのは、ほぼ決まっている。

 

「指にバルカンを仕込むのは、まずくありませんか? また何で指に発射口を?」

 

 将棋盤を退け、端末をゲラートにも見えるようにする。そして、冬彦が指し示したのは椀部。何と言っても、フィンガーバルカン。この一点に尽きる。

 

「格闘戦に重点を置き、取り回しがいい物を考えたらそれに行き着いた。現行のザクマシンガンは昔の物に比べて長砲身で威力は上がったがその分取り回しが悪くなっただろう? それで近距離で直ぐに大量にばらまけるものを考えたんだが……他に何か案があるだろうか」

「それだったら、短砲身のザクマシンガン造った方が幾らかましだと思いますよ。バージョンチェンジで済みますし。近距離で使うことを考えれば多少初速が下がっても平気です。集弾性もそれほど気にせずにいいんでしょう」

「ああ。しかし、駄目か」

「止めておいた方が無難だと思います。それと、ブレードアンテナは標準装備にするんですか?」

「そうだな。それを想定している。格闘戦はある程度の実力を持つ物でないと中々難しい。それを最初から前提にするとなると、自然と配備される相手も相応の人物になるだろうからな。この機体を隊長機として、ザクと連携する構想も練っている」

「なるほど」

「他には何かあるか」

「……この、ヒートロッドですか。ワイヤータイプにできるならそうするべきでしょう。携行性にやや難があります」

「ふむ、ふむ……」

 

 冬彦の言に自身でも思うところがあったのか、しきりに頷きながらメモを取っている。

 

「それと、盾と近接用の大型実体ブレードについては問題無いと思われるのですが……」

「何か?」

「はっ。その、単純に盾のデザインが気に入らないというか……私はこうもっと無骨なシャープなラインの長方形の盾が好みですね。ザクシリーズのような」

「なるほどなるほど」

 

 端末のモニタをペンの尻で示しながら解説する姿はもう完全に技術士官のそれなのだが、そういう辺りに冬彦は気づかない。

 なんだかんだ言って、技術士官に間違われる理由の六割方は見た目も含めて冬彦自身のせいである。

 

 いつまでも続きそうな士官二人のやりとりに業を煮やしたのか、扉付近で話が終わるのを待っていた冬彦の部下が声をかける。

 

「大尉、もう入っていただいてもよろしいですか? それなりにお待たせしてしまっているのですが」

「おっと、済まないフランシェスカ少尉。そういえばお客がいるんだったか。どっちのお客? 少佐?」

「は、ゲラート少佐にです。……有名人ですよ」

「と、言うと?」

 

 問うたのは、ゲラート。

 

「“白狼”殿です」

 

 

 

  ◆

 

 

 

「あの場におられなくて、良かったのですか?」

 

 データメモリをゲラートに返して娯楽室を辞し、自分の病室に帰る途中。背後を歩く部下から、不満げな声がかかる。

 

「何か問題があるか?」

「いえ……」

 

 冬彦は、足を止めない。当然、後ろにいるフランシェスカの顔もわからないはずである。

 

「少尉、わざわざ休暇中に副官代わりに働いてくれる代わりに、一つ良いことを教えよう」

「……どんなことでしょうか」

 

 声には、期待していない、という感じがにじみ出ている。平時の冬彦がどんな風に見られているかを如実に現すようである。

 

「ああいうのはね、むしろ避けた方が良いんだよ」

「え?」

「少尉は、白狼の事をどれだけ知ってる?」

「マツナガ家の、御曹司とは」

「そう。それに付け加えて、一等兵からあっという間に中尉まで駆け上がってきたドズル閣下のお気に入りだよ、彼は。士官学校で見なかったろう?」

「それは……そういえば、一度も」

 

 冬彦も一年二年で少尉から大尉へ二階級昇進を果たしたが、それと比べてもとんでもないスピード出世である。何せ開戦時に一等兵だったのだ。名家の生まれであるにしても、士官学校を出ていない人間の出世速度ではない。

 

「ゲラート少佐は優秀な御方だけど、この時期に彼が来るってのは少しおかしい。何かよくないことが起こってるのかも知れないな」

「止して下さい。ゴドウィンとピートに聞きましたが、大尉の予想は良く当たるそうなので」

「はっはっは。この瓶底には未来が映るのさ」

「……しかし、大尉も閣下には目をかけていただいていると思うのですが」

 

 露骨な話題変更である。小粋なジョークのつもりが滑ったらしい。

 

「そこらへんは、士官学校時代に色々やらかしたから。どちらかといえば、俺のは監視の意味も強いんじゃあないかな? まあ、期待してもらってるのも確かだろうけど」

「色々というと、それは大尉が監督生の時に戦車で暴れたとかいう……」

「フランシェスカ少尉」

 

 いつの間にか、冬彦の足は止まり、フランシェスカの方を向いていた。

 普段は髪と分厚いレンズに阻まれ直視することはまずない冬彦の目が、キッとフランシェスカの方を見ている。

 

「それは、“口にしない方がいい事”だ。わかるな?」

「は、はっ!」

「ん、よろしい」

 

 きびすを返し、再び歩き始める。

 

 パジャマにスリッパ。その上から士官服を羽織った威厳も何も無い姿。

 

 彼女の背筋をほんの一瞬だけひやりとさせた“何か”を、もう感じ取ることはできなかった。

 

 

 

 この数日後。

 

ジオン軍部を大きく揺るがす事件が発生したとき、彼女は冬彦の言葉を思い出すことになる。

 

 

 





 サブタイトルを変えました。タイトルも近々。

 それはそうと、アンケの集計をざっと取りました。

 結果。なんと総合的には①ヒロインがいる派の方が多いものの、最大派閥のハマーン(はにゃーん?)様を押すグループと②のヒロインなどいらぬぅ派が拮抗。数え間違えがなければ同数でした。
ちなみにその次がシーマ様の③で、その次が残りを引き離してのメイ・カーウィン。可愛いけどさ。ここの住人は紳士が多いとよくわかりました。ええよくわかりました。

 でもって、どうするかを考えてます。不要派も多いので、ラブラブちゅっちゅはなし(控え目)で救出、所属を重視して上司部下の関係を押していこうかな、と。ヒロイン無理にいれてプロット変えるのはって方もいましたが、元からプロットなんて無いのでそこも問題ないですし。

 まあ、皆様の反応を見つつぼちぼちやっていきます。ああキンクリしたいよ。

 それでは、ご意見ご感想誤字脱字の指摘その他諸々なにかありましたらよろしくお願いします。



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