転生者迷走録(仮)   作:ARUM
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第十八話 魔眼の作り手

「えらく不機嫌そうだな。少佐。何かあったかね」

 

 ウルラ内の、「アクイラ」の私室。冬彦はササイの置き土産の緑茶を、来客に対して惜しみなく出していた。

 惜しみなく、と言うか、本質的にはさっさと使い切ってしまいたいという本音があってのことではあるが、とにかく来る客来る客に振る舞っていた。

 

「たいした事ではありませんよ」

「その割には、随分と悩まされておるのではないかね。例えば、この緑茶。随分良い茶葉のようだが、高級品なのだろう?」

 

 冬彦の対面に座るスーツを着込んだ老人は、手に持ったカップを手の中でゆらりと回す。

 湯気と共に香りが広がるが、老人の眼鏡が白くなるほどではない。

 冬彦は頭を掻きながら、老人の言を認めるしかなかった。

 

「……そうなんでしょうね」

「そうだろうな! こんなもの、余程の茶道楽でもなかなか手に入れられるような物では無いだろうさ。知り合いがかなりの趣味人だったが、これほどの物を出されたのは一度きりだ。さて、もう一度聞いておこう。何があったのかね」

「……くだらん話ですよ。できれば『巻き込んでくれるな』という類の、です」

 

 冬彦は自分のカップを手に取ると、まだ熱い中身を口から出かけていた“話の内容”といっしょに飲み干した。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「タキグチ老から、ですか」

 

 話は、ササイが部屋にいた頃まで遡る。ササイが口にした名を、吟味するように冬彦は繰り返す。

 もし思った通りの人物であるなら、相当なビッグネームだ。

 

「それは、それは。またえらくおかしな話ですね、大尉」

 

 冬彦が、ぐっと眉根が動きそうなのを堪えて言うと、ササイは“ほう”、と口にしカップを置く。

 どちらも、余裕があるポーズは崩していない。崩せない。

 

「それはまた、どうしてですか? 長旅に出る者に餞別を贈るのに、何かおかしな点が?」

「いえ、そこではないのですよ、大尉。大尉は技術本部の人間でしょう? またどうして名誉参謀顧問殿に気軽に挨拶など行けたのか……私ではそんな勇気はとてもとても」

「いやいや、そんな不思議なことでも無いでしょう。少佐くらいのお年では面識も無いのでしょうが、私くらいの世代は同じ日系人のコミュニティで随分よくしていただきまして、そのよしみで。少佐のお父上とも、面識はあるはずですよ」

「だからといって、任務のことを軽々しく外に話して欲しくはないのですけどね、大尉」

「老は、元からご存じでしたよ。少佐」

 

 室内に、いつの間にか余計な音は消えていた。ちびりちびりと茶をすすっていたフランシェスカも、互いににこやかな冬彦とササイの間の空気がどうもおかしいことを悟ったのか、目立たぬようにしながらいつでも立ち上がれるように居住まいを直している。

 

「……さて、お話を伺いましょうか、大尉。互いに暇ではないでしょうし」

「おや、もう少し世間話に興じていてもいいのではないのですかな、例えば本国のうわさ話であるとか」

「余り興味はありませんねえ。どうせしばらくは本国には帰れないでしょうし。それならまだ先日のコンスコン少将のゴシップの方が面白みがある」

「ああ、少将が幼い少女の写真を眺めてにこやかにしていたとかいう……」

「それです、それです。まあ実際は少将が寄付をなされている孤児院の子共達なんだそうですが。良いお人ですよ」

「……お詳しいようですが、どこでお知りになったので?」

「さあて、どこでしたかね。少し小耳に挟んだだけですから、忘れてしまいました」

 

 ササイの笑みは、変わらない。大した面の皮だ。一方の冬彦も普段であれば嫌な顔をしつつも何だかんだ事態を受け入れて話を聞くくらいはしていたのだろうが、今の冬彦は休みたくとも休めない苛立ちから攻撃的になっていた。

 

「大尉、さっきも言いましたけど、私も暇じゃないんですけどね。こうしている間にもただでさえ貴重な休息時間ががりがりと削られていくわけでして、用が無いならさっさと帰っていただけませんか」

 

 それが、決定的な一言になった。眼鏡の奥で睡眠不足から常になく眼光鋭い冬彦を前にして、ササイの笑顔が氷ついた。

髪と眼鏡に遮られて滅多に見えないが、冬彦は中々に目つきが悪い。元からではなく眼鏡にするまでに、じっと目を細くして物を見ようとしていたためにそうなったのだが、ササイは初めて見たのだろう。一瞬、ひるんだようにも見えた。

 フランシェスカなどは病院に続き二度目であるため慣れていたのかひるむことは無かったが、普段と余りに違う言葉遣いには面食らっていた。

 

 のらりくらりと躱しあう時間が唐突に終わり、ササイの頬をつぅと一筋の汗が流れた。

 

「……有り体にお聞きしますが、よろしいですか」

「ええ、どうぞ」

「少佐は、誰を仰ぐか。はっきりとお決めに成られているのですか」

 

 やはり、それか。

 当たって欲しく無い想像が当たるのは何時だって嬉しくないのだが、今回のはとびきりだった。

 個人的に明言することは極力避けてきたが、戦争の継続が確定となった今、いい加減旗幟を鮮明にしろ、ということなのだろう。

 

 つまり、冬彦が誰の派閥に属しているのか、ということだ。

 

 端から見れば、冬彦は完全にドズル派だ。戦争当初から重用(?)されて分艦隊を任され、さらにはその後昇進。少佐として重巡洋艦を旗艦とし軽巡洋艦四隻とMS十二機を擁する独立戦隊まで預けられたジオン全体で見ても紛う事なき出世頭の一人だろう。

 だが、ここで裏の事情を知る人間が見ると、少し話がややこしくなってくる。冬彦が『配属先希望書』に書いたのは突撃機動軍、つまりキシリアの下に付くことを最初は希望していたし、出世の足がけになったザクⅠの改修も話を振ったのはギレンその人だ。

 さらに士官学校時代まで遡れば、連邦の駐留部隊に襲撃をかけようとしたガルマを戦車まで投入して事前に鎮圧するというある意味偉業も成し遂げた。

 さらに、未だ本人は派閥工作そのものには一切動いていない。唯一冬彦が自分から接触した相手と言えば、病院でのゲラート・シュマイザー少佐だが、彼はダイクン派であるランバ・ラルの盟友と言っても過言では無い。

 ダイクン派というのは故ジオン・ズム・ダイクンの思想を信奉する者達であり、ザビ家の打倒を掲げている。ともすれば、冬彦もダイクン派であるのかも……という斜めの見方もあるのかもしれない。

 

 これでもし冬彦の配属先がギレンやキシリアの所だったならもっと早くに真正面からどうなのか聞かれていたのだろうが、そういった細かいことは気にしないドズルの所に配属されたが故に、これまで本人が公言しないまま、ドズル派と見られたままここまで来たのだ。そしてそれを今、はっきりさせろ、ということなのだろう。

 ササイの言うタキグチ老とは、ケイ・タキグチ公国軍名誉参謀顧問の事であり、日系人の中ではおそらく最も公国の中で高位にいる人間だ。さらに言えば、ザビ派の重鎮の一人でもある。

 彼がザビ家の誰に頼まれて、コミュニティの人脈を使ってまで動いたのかはしらない、だが目的ははっきりしている。

 冬彦が誰を仰ぐのか。小康状態にある中で、どう立ち回るか。誰のために旗幟を掲げて戦うのか。

 

 宙ぶらりんにするには、いささか大きくなりすぎたのだ。冬彦と、彼の部隊は。

 

「私は一軍人でありまして、特に誰、というのは無いのですけどね。強いて言うなら、ジオンという国家でしょうか」

「そんな通り一辺倒の答えが、何時までも通ると?」

「思っちゃいませんよ。いませんが、それが事実です。現状で特に不満もありませんし、陰謀で動かされるのも好きじゃないので。まあ、どうしても誰かを、というのなら、ドズル閣下を……と答えておきましょうか?」

「……信じても?」

「これ以上はどうもこうも言いようが無い」

 

 ふぅ、とため息を一つついて、ササイは眼鏡の位置を直した。随分と、冬彦とのやりとりでくたびれたらしい。

 

「……わかりました。そのように老には伝えておきましょう。茶葉は、持ってきた分は置いていきますので、好きにお使い下さい」

 

 

 

  ◆

 

 

 

「とまあ、そういうわけでして」

「馬鹿馬鹿しい。好きこのんで軍人になぞなるからそうなるのだ」

「ごもっともで……」

 

 話は戻り、冬彦はこの気むずかしい老人に説教をくらっていた。

 その流れを振り払うように、冬彦は話題を変える。この老人にしても、本来の目的があるのだ。

 

「それで、ヴィーゼ教授。例の件、どうでしょうか」

 

 老人の名は、リヒャルト・ヴィーゼ。冬彦が与えられた権限の中で招聘した、技術大学の教授で、光学機器の権威でもある。

 

「どうもこうもないわ。まだ荷ほどきもできんというのに、新型観測ポッドの基幹設計などできるか。息子は旅行気分で喜んでおるが、妻はよくもまあ子供を危険なところにとカンカンだしな。せいぜいが、浮かんだ構想をメモに書き留める程度だな」

「やはり、現行機の改修では駄目ですか?」

「駄目だな。OP-02cに自己移動能力を持たせるというのは、できても“毛”が生えた程度だろう。それならいっそ、一から新しい物を造った方が良い」

 

 OP―02c。ジオンの宇宙空間における定点観測用のポッドである。300キロ程度の観測性能を持つが、冬彦はそれでは足りないと考えた。宇宙空間での戦闘において、一番致命的なのは不意打ちである。

 戦闘艦であろうとも、当たり所によっては一撃で沈むこともある。対艦狙撃砲を好んで用い、奇襲が常套手段の冬彦であるから、そのことはよくよくわかっている。やる側であれば良いが、やられるのはまっぴらごめん被るのだ。

 そこで、それを防止するにはどうすれば良いか。事前に察知できれば、問題は無い。レーダーを無効化するミノフスキー粒子も、光学機器であれば関係ない。

冬彦は、この教授に新しい観測ポッドの設計を依頼したのだ。

 

「そうですか……では、やはり無人哨戒機は難しいですか?」

 

 従来通り、ザクⅡでの哨戒を続けるしかないか。そう考えた冬彦に、ヴィーゼは緩やかな否定を示した。

 

「だが、まあ……不可能ではない」

「できるのですか!?」

「任せたまえよ。話を聞く限り、思いの外面白そうだ」

 

 ヴィーゼは、懐から一枚のメモリーディスクを取り出し、手持ちの端末に突き刺して、冬彦へと手渡した。

 

 

 

「元は技術本部からの依頼で手を付けかけていたネタでね。YOP―04・Balor……便宜上“バロール計画”とでも呼ぼうか。そのまま使うわけにはいかんが……基本構想として流用するには充分だろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の二連式同軸ツイン・モノアイモジュールに手を加えるのも、面白そうなのだがなぁ」

「今は勘弁して下さい」

 

 

 

 




コンスコンは有能だと何回言えば(ry

ご意見ご感想誤字脱字の指摘その他諸々なにかありましたらよろしくお願いします。

某漫画の影響でバロール=魔眼になってしまった。ごめんよ教授。







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