転生者迷走録(仮)   作:ARUM
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第二十七話 続・ルナツー攻略作戦

 

「ジオンの襲撃だと!?」

 

 ルナツーの責任者であるワッケインは、その報を聞いて飛び起きた。

夜中であったが、起こしに来た当直士官を咎めることもなく、慌ただしく軍服に袖を通して司令部を目指して長い廊下を駆けていく。

 ワッケインは、ルナツーの代理司令官であった。階級は大佐であるが、ティアンムがジャブローでの会議のためルナツーを離れ、地球へ降りたのを受けて、その代理として抜擢されたのだ。

 良く言えば手堅く、悪く言えば融通が利かず考えが硬い。どうあれ階級は指令であるティアンムに次ぐ物であるから、異論はどこからもなかった。

 日夜続いているジオンとの戦争。宇宙では小康状態にあったとは言え、それでも小規模なりにパトロール艦隊や機雷敷設部隊を繰り出すなど、直接戦闘を避けつつジオンの戦力を削る方針で動いていたのだが……あるいはそれが裏目に出たか。

 司令所へ駆け込むと、既に多くの人員が慌ただしく動いていた。モニターに映し出されたルナツーの略図の内、外縁部の中でも一番端の部分が赤くなっている。

 傷は浅いが、既に取り付かれているということなのだろう。

 入ってきたワッケインに気づいたのか、数人の士官が駆け寄ってきた。

 

「規模は?」

「例のモビルスーツとやらが少なくとも一個中隊。既に取り付かれています」

「L5方面からも、大規模な艦隊が接近中です。ルウムで確認された例の大型戦艦の姿もあります」

「L5……ソロモンの艦隊か!」

 

 驚きを隠そうともせず、ワッケインは部下から資料を受け取ってまた目を剥いた。

 

「……多いな」

 

 ワッケインは知らぬ事だが、ドズルが現状動かせる全部隊、ソロモンに駐留している部隊の大半である。

 流石に連邦が大打撃を被って以来、その損害からまだ立ち直っていないこの時期に少ないと言われては立つ瀬が無い。

 

「はっ。ルウムよりはまだ少ないですが……」

「我々の保有艦艇よりは多いか」

 

 アイランド・イフィッシュと、ワトホート。

 二度のコロニーを巡る会戦のいずれにも、連邦は敗北し、その戦力の多くを失った。

 その後も徐々に戦力をすり減らし、今となってはジオンに逆転されてしまう有様だ。

 だが、だからといってそうそう負けるわけにも行かないのだ。

 

「閣下がおらんからといって、そうそうこのルナツーを明け渡すわけにもいかん」

 

 ルナツー一帯の俯瞰図を眺め、頭をひねる。

 艦艇数で言えば、およそ戦力差は二倍ほど。

 こちらにはルナツー要塞があり、向こうにはモビルスーツがある。

 詰め将棋にしても、中々難しい状況だ。既に一部に取り付かれている以上、あまり悠長なことも言っていられない。

 機能を失ったことを示す赤いエリアは、表面上だけとはいえ徐々に広がっているのだから。

 

「……艦隊を出すしかないな。艦隊の直接指揮は中佐に任せる。セイバーフィッシュ隊も出し惜しみするなよ! 私はここで要塞全体の指揮を取る。上陸に備え、陸戦隊に出動をかけろ。万が一上陸された際にはMPからも人を持って行って良いと伝えておけ。総力戦だ」

「はっ!」

 

 ワッケインの命令を伝えるべく、士官が再び駆けていく。

 彼らを見送り、ふとモニターを見上げて、その中の一つに目が行った。

 そこに映っていたのは、ルナツー地表で戦闘を行う敵モビルスーツの映像だ。

 未だ抵抗を続けている防御砲台の一つからの映像だったが、茶と白のその機体が砲台の方へ機体と砲口を向けた次の瞬間に、黒いノイズへと変わってしまった。

 だが、消える前の一瞬、確かに見たのだ。

 肩のシールドにペイントされた、梟を。

 

「梟……梟か」

 

 ワッケインは下士官を呼び、命令を二つ、追加した。

 

 

 

  ◆

 

 

 

一方その頃、冬彦はと言うと。

 

「あっ、危なっ!」

 

 コクピットの中で、額に脂汗を浮かべて苦悶していた。

 それはもう、脂汗が今にも冷や汗に変わってしまえそうな狼狽ぶりであり、アラートを解除していく手は汗でずるずるであった。

ざっくり言うと装備していた対艦狙撃砲が吹き飛んだからである。

 迂回して直上から急降下をかけてきたセイバーフィッシュの攻撃を、躱そうとするまでは良かったのだ。

 だが、少しばかり予測が狂ったために完全には躱しきれず、機銃弾が対艦狙撃砲の弾倉に直撃。そして爆発。

交換間近で残っていたのが二発だけだったというのもあって、右腕の肘から先が吹き飛んだだけで済んだ。

中破で済んだと笑うべきか、戦隊最初の被害が自分であるのを嘆くべきかで、冬彦は苦笑した。

なかなか心臓に悪い体験であるため、多少変でも気を落ち着かせようとしているのだが、傍目に見るとちょっと変になっていた。

 

「口切ったか、痛いな畜生」

 

 残されたザクの左腕で、腰にマウントされたマシンガンを取る。サブウェポンのつもりであったから、マシンガン用の予備弾倉は無い。対艦狙撃砲用のそれらは二つ残っていたが、たった今無用の長物に成りはてた。

 

《し、少佐、ご無事で!?》

「ゴドウィンか。右腕が吹き飛んだ。俺はもう要らんから残りの弾倉を渡しておくぞ」

《は、いえ、少佐殿は》

「口を切っただけだ。……なんだか毎回被弾しているような気がするよ」

《それだけ最前線に立っておられると言うことでしょう》

「当たらなければなおのこと良いんだけがな。さっきのセイバーフィッシュは?」

《撃墜しました。逃がしませんよ、流石に》

「ナイスだ! 手当期待してろよ」

《ありがとうございます!》

 

 さて、とようやく胸の鼓動が収まってきたところで、手元に集まってきデータを見つつ今後の動きを考える。

 とりあえず近場でわかる範囲の砲台と格納庫を潰し、一定の安全圏を確保した形だ。

 さっきのようにセイバーフィッシュが来ることもあるが、少なくとも横からメガ粒子砲を食らって一撃必殺というのは無くなったと見ていいだろう。

 

「小休止だな」

 

 備え付けの水と固形糧食、例の如く硬い奴をぼりぼりと囓り、その旨を信号で僚機にも伝える。

 戦闘を開始してから今まで一度も止まること無く動き続けてきたのだ。休息もそれなりに必要だ。

 あわせて、一度出方を見るタイミングかも知れないと思い、隣の機体へ通信を繋ぐ。

 

「ゴドウィン、艦隊と連絡がつくか試してみてくれ。“敵艦隊の動きは有りや”」

《はっ》

 

 油断していた、のだと冬彦は悔やむ。

 ルナツーには地表がある。地球ほどでないにせよ、重力もある。

 だから、モニターに映る範囲にのみ集中し、この場が宇宙であるにもかかわらず直上の警戒が緩んだ。その結果持って行かれたのがザクの右腕だ。

 もう少し、敵機の狙いが左にずれていたら。間違いなく、撃墜されていた。

 それを思うと、激しい加速と急停止の負担から熱くなっていたからだが、急速に冷めていく。

 

改めて、一から機体に異常が無いかを確認する。

 推進剤はそれなりに減っている。爆発の影響か機体の各部にはそれなりに危険項目も出ている。

 大分酷いが、ルウムで被弾したときほどは悪くない。身体で痛みを感じる箇所も無い。機体の継戦能力自体は思ったほどは落ちていない。

 あとどれだけ戦えるかは、気力次第と言えるだろう。

 

「もう少し頑張るか……」

 

 そう独りごちた時だった。

 冬彦のザクに、通信が入る。ただしそれは直ぐ側のゴドウィン機からではなく、少し離れた地点で様子を伺いつつやはり小休止に入っていた、ケリー小隊からだった。

 

《少佐、こちらケリー。“敵”が穴蔵から出てきたようです》

《ゴドウィンです。艦隊の方でも動きを確認したと……》

「――ん」

 

 残っていた糧食を水で飲み下し、もう一度操縦桿を握る。

 パイロットスーツの下の汗が冷たいが、拭いている時間もない。

 

「敵艦隊の動きは?」

《艦隊を二つに分けましたが、要塞から離れようとはしません。あと小規模艦隊が幾つか》

「こちらに向かってくるのは?」

《小規模艦隊の一つが。二つに分かれた艦隊の片方も方向如何によっては掠めます。

セイバーフィッシュもそれなりの数がいるかと》

「ゲートの位置は、今度こそ確認しているな?」

 

 薄い笑みを浮かべて、冬彦が問うた。

 

《はい。敵艦隊が出現した地点は、観測ポッドで正確に把握しています。コンスコン少将の本隊にも伝達済みです》

「終わりが見えてきたな」

 

 一度、ヘルメットのバイザーを上げた。

 汗で少し曇った眼鏡のレンズを拭うためだ。

 

「戦隊各員傾注。これより小規模艦隊と一戦交える。可能ならば殲滅するが、駆け抜けるつもりで行く。足は止めるな。その後は――」

《敵主力の片方へ、ですな》

「……その通り」

 

 通信は、小隊長の一人セルジュからの物だ。MS隊の中では唯一冬彦よりも年嵩で、元々はパッセルのMS隊の隊長だった。

 おそらくはガデム辺りと同世代と睨んでいるのだが、それでもまだまだこうして最前線で活躍している辺り、案外若いのかも知れない。

 何だかんだでストレスから来ているのか、失礼な話結構宇宙には老け顔の者も多いのだ。

 とにかく、やるべき事は定まった。ならば後は動き出すだけだ。コンスコンの率いる主力も、いい加減戦域に到着する頃だろう。

 

「ゴドウィン、ウルラへ通信を送れ、ミサイルによる斉射を二度だ。タイミングは任せるが、撃った後こちらに知らせるように伝えてくれ」

《はっ》

 

 吶喊をかける前に、もう一度だけ、最後のチェック。

 戦場に出てきている戦隊のMS十一機の内、中破以上は自機のみ。

 十二機目、戦隊次席のフランシェスカはウルラで待機中。

 友軍も近づいて来てはいるが、それ以上に敵が沸いて出てきているのが現状だ。

 どうするか?

 どうするべきか?

 

 決まっている。多少の無理を通してでも、今は無茶をする時だ。

 

 死ぬ気は無いが、それでも死にそうな場所へ突っ込まなくてはいけない。

 細々とした改修や戦力の底上げでは無い。

 もっと大きな、歴史の修正力とやらでもきっと覆せないような、これ以上ない基点がきっとここにあるのだ。

 居るはずの無かった人間が、あるはずの無かった戦場で機動兵器を駆っている。

 

「……やってやるとも」

 

 有りえざるべき、ルナツー攻略戦。

 

 だが、この場における戦い以上の基点が待っていることを、冬彦は知っている。

 

 カウントダウンは、既に始まっているのだと。

 

 

 

 





 ◆今日のトピック

◆最近、飛行〇姫の左右の滑走路がゼル〇ルの腕みたいに伸びて来やしないかとちょっとドキドキしてる。

◆久々に新しいプロットを組んでみた。

◆人間、たまに笑わないと変になると思う。







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