転生者迷走録(仮)   作:ARUM
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一年戦争期において、日本エリアはジオンと連邦の勢力が混在していたようですが、どっちが有利だったのかまでははっきりしませんでした。どうも連邦っぽいですが。


第三十六話 生きている

「離してください! 私だって、私だって!」

「良いから大人しくなさって下さい!」

 

女性士官に手首を掴まれて、ハマーンは廊下を引きずられるように進んでいた。

固く握られた手をふりほどこうとはする物の、女性とは言え本職の軍人が相手では分が悪く、抵抗はさしたる障害にもならなかった。踏ん張ろうにも無重力。どんどん最初の部屋へと近づいていく。

 

「味方が一機しかいないのでは、死にに行くようなものではないですか!」

「だったら貴女が行っても同じでしょう! そもそも出撃出来るMSがありません」

「いいえ、きっとあるはずです!」

「あーりーまーせーんっ!」

 

 下士官は言い切ったが、ハマーンはそれでも食い下がる。この軍人達が戦闘に巻き込まれたのは、自分の救出の為に来たせいではないのかという自責の念にかられていたからだ。

 一方の下士官も、軍人としての自負がある。開戦から勝ち抜いてきたMS隊への信頼も。そのいずれもが、少女を戦場へ送り出すと言うことを許容しなかった。

 

「もういい加減にしてください! いいですか? 大丈夫です! 中尉は優秀なMSパイロット、連邦などに落とされやしません! 戦隊で最初にザクⅡに乗っていたのも中尉なんですから! わかったら大人しく部屋に戻ってください。今貴女にできることなど何も無い!」

 

 しびれを切らしたのか、下士官はそう言い切った。彼女が信頼し、尊敬する者達は、こんな少女に頼らねばならないような弱い人間ではないのだと、少女に言い聞かせようと。

 そんな思いが通じたのかどうなのかはわからないが、ハマーンは抵抗をやめた。

 俯いてしまったが、それでも先ほどまでのような頑強な抵抗はなく、手を引けばそのまま身体は引いた方へと素直に動いた。

 やっと諦めてくれたかと下士官は握りしめていた手を緩め、先ほどとは違い軽く促すように手を引いていく。

 

「祈ることしか、できないなんて……」

 

 自分の為に戦う誰かの為に、自分は何もできないという無力さに打ちひしがれるハマーン。彼女がこの時抱いた無念さが、後々どのような影響をもたらすのか。

 

 この時においてはまだ、誰にもわからない。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 それは、士官学校に在籍した、最後の年。

 教授に呼び出されて、自分の将来が決まった時の、ちょっとした小話。

 

『シュトロエン候補生、君の卒業後の配属先が決まった。宇宙攻撃軍だ。おめでとう』

『ありがとうございます!』

『うむ……。いや、だがな……』

『なにか?』

『……ああ。君が配属される部隊の隊長について、少しな。彼のことは、我々としても強く印象に残っていてな』

『優秀な方だったのですか』

『三席だった。それなりに優秀ではあった』

『どんな方だったのですか』

『問題の多い期の中にあって、大人しい方だった。むしろ騒ぎが起こるとそれを収めよう、もみ消そうと動く気質があったな。そういう面では重宝した』

『はぁ』

『それなのに……いや……』

『何でしょうか?』

『……何でも無い。ただ、間違いなく苦労はするだろうから頑張ってくれたまえ』

『ええ!?』

 

 担当教官であった老人がため息混じりに口ごもったその先に、何があるのかフランシェスカは今も知らない。しかし、言われたことの意味はよくよくわかった。

 配属された部隊はあれよあれよと言う間に新たな装備が与えられ、規模が拡充し、戦場を転々とする宇宙ではそれなりに忙しい部隊の一つになった。階級も上がった。副官に抜擢され、名の知れた高官と会う機会もあった。

 そして、敵も味方もなく、被弾し、爆沈するさまを目にする機会も、いやという程に増えた。己が行く道を見失い、惑うほどに。

 

(貴方の部隊でなかったら、こんなに悩みはしなかったのかも知れない。けど……)

 

 ジオンは二度の会戦に勝利した。宇宙攻撃軍は、ルナツー攻略戦も含めれば三度。その中で、勝利したジオン側にも当然犠牲が出たのだ。戦闘が終わってから、リタイアした者もいる。

 しかしフランシェスカは、変わることなくザクを駆る。

 戦隊と、それ以外にはそれこそエースと呼ばれるごく一部にのみ回された、バックパックを背負った少々値の張る特別なザク。

迷いは未だ断ち切れず、しかし立ち止まる暇も無い。

あるいは惰性なのかもしれないが、それでもザクの目に灯った光は消えることなく、こうして今も宇宙を飛んでいる。

 

 時に、人は宇宙を静かだと感じるらしい。真空では振動の波である音は伝わらないのだから当然だとか、そういった科学的な話ではなく、目について動く物がほとんどない黒い背景の宇宙を見て感じる感覚的な話だ。

 広々とした宇宙。白い大地と、覆い尽くすような黒。星々は遠く、砲火が掠める。

 今この時。敵の視線は、敵意は、全てが彼らの眼前へと向かうフランシェスカに向いている。角を戴き、梟の陰を翳す緑の影に。

 静かな宇宙は、騒々しくなりつつあるか。

 

「この苦悩の答えは、いつか……!」

 

 一方的にがなり立てられてはかなわない。誰かの声に埋もれては、自分の答えなど探せない。不愉快極まる。

 心の内で思っていようと、上げられなかった声は、無いのと同じ。そして、騒音に紛れて伝えられなかった声も、また同じ。

 自分が発した問いの答えを、自分で見つけて、問いかけたその人に見つけましたと伝えるまでは、死ぬつもりはさらさら無い。

 

「くそ……思ってたより忙しいな」

 

 ぼやきながら、フランシェスカはザクを操作しロールさせてサラミスからの砲撃を回避する。

メガ粒子砲の黄色い残光が通り過ぎたのはまだ機体から遠い位置だが、いつまでも外れる訳では無い。こまめに機動を変更し、位置を変えながら敵艦へと近づいていく。

 ミノフスキー粒子様々と言うべきか、レーダー頼りだった連邦の火器管制はまだ隙があり、遠距離にいる内は母艦からの支援があるザクの方が分がある。

もちろん近づけば近づいただけその優位性は失われ、敵の弾幕の密度も上がっていくが……それでもまだ隙はある。

 

「でも……!」

 

 腰にマウントされていた、グレネードのロックを外し、投擲。加速はそのままに先頭のサラミスへと回転しながら飛んで行く。

たかがグレネードと言えど、それがMSの扱う物となればその大きさは人の背丈と比べても遜色ない。物によっては人より大きく、当たり所によってはMSも行動不能に陥る。

そんなシロモノを二個も投げれば、迎撃も幾らかそちらを向く。四方へ飛び回るザクの機動を予測するのは難しいが、推進装置の無いグレネードであれば話は早い。

大きさはデブリとそう変わらず、オマケに“確実”に一方向に、自分達の方へ飛んでくるのだから、さぞミノフスキー粒子の中といえど観測しやすかろう。

 

その間にフランシェスカのザクはサラミスの右側面へと回り込んだ。普通の機動ではない。ザクの正面をサラミスに向けたまま、サラミスを中心にして振り子の如く円の機動を描いて、船体の側面を正面に捉えることの出来る位置に移動したのだ。

 戦隊のザクは、バックパック最大の目玉である可動アーム型スラスターによって、通常のザクではできない動きが幾つか出来る。

この機動もその一つで、早い話が加速を維持したまま行える横っ飛びなのだが……簡単そうで、その実なかなか難しい技術なのだ。

 そんな技術を駆使してまで側面へと回り込んだザクの目の前には、サラミスの横っ腹が晒されている。

 砲塔も旋回を始めているが、この瞬間にもそのまま駆け抜けようとしているザクへと照準を合わせるには間に合わない。そして、フランシェスカのザクはサラミスの方を向いている。

 この機動の最大の利点。それは、敵とすれ違う際に減速して旋回する必要が無いということ。駆け抜けザマに、対艦狙撃砲などと言う長物を側面から撃ち込むことができ、そのままパスすることができるのだ。

 

「次……!」

 

 一隻目に都合三発撃ち込んで、そのまま横滑りさせて次へと向かう。

去り際に着弾したグレネードが駄目押しとなり、サラミスの船速と抵抗が目に見えて落ちた。止めをさしたいところだが、後に続く後続が今は居ない為に、この場は通り過ぎる。

 とりあえずは、これでいい。

相手をしなければならないサラミスはもう一隻。のこりは艦隊の方が受け持つことになっているし、時間を稼げばMS隊も戻ってくる。今を耐えれば、状況は有利に転ずる。一隻を無力化し、数の上では一対一。

 

《――~尉、こちらヒダカ! 無事か!?》

「……中佐!?」

《本隊に帰還した際に状況は聞いてある! 現状報告を》

 

 二隻目を視界に捕らえ、さぁどこを攻めたものかと思案を始めたその時に、しばらく沈黙していた通信機が復活した。

 相手は、先の主力を叩きに出ていたフユヒコである。

 

「はっ、サラミス一隻に打撃を与え、これから二隻目にかかるところです!」

《損害はっ》

「ありません!」

《……わかった。今向かっているが、くれぐれも落とされるな!》

「はっ!」

《……中尉》

「何でしょうか」

《……大丈夫なのか》

 

 問いかけの意味するところはわかりきっている。答えは、まだ変わらない。

 

けれど。

 

「――大丈夫です。今は、問題ありません」

 

 

 

 また、戦うことはできる。

 

 

 

  ◆

 

 

 

《ほう、そんなことがあったか》

 

 時間は少しだけ後に移り、ソロモン要塞の一室。

 秘匿回線を用いて通信を行っているのは、他ならぬドズルである。

 

「ああ、何とかソロモンに帰還した。よくやってくれたよ。これでやっと式もあげられるし、マハラジャ殿も安心していただけるだろう」

《これから荒れるだろうが、おめでとう。それで、これからどうする?》

「奴には悪いが、地上へ降りて貰う。ソロモンに置いては何か理由を付けて他所へやられかねんし、ヘタに本国に送っても姉貴のシンパに動かれてはかえって手がだせなくなるからな」

《なるほど、悪くは無い》

 

 私室であり、その格好は随分とくつろいだ物である。ガウンを羽織り、傍らには名の知られた高級酒の入ったグラスが置かれている。

 しかし表情はと言えば不釣り合いなまでに真剣で、よく見ればグラスに酒を注いではいるものの、まったく減っていないのがわかるだろう。まだ口につけていないのだ。

 

《悪くはないが、どこへやる気だ。場所によってはそれこそ元の木阿弥だろう。悪手を打って強力な駒を失ってはもったいないぞ》

「できれば、ガルマにつけてやりたかったが……」

《まぁ、やめておくのが無難だろうな》

 

 後を引くのは、件の士官学校時代の因縁である。あれから数年になるが、志し高くプライドもまた高いガルマにすれば、未だ忘れられない事件なのだろう。シャアの様に、終わったことだと済ませてくれれば良いのだが、本人も半ば忘れつつ、それでも引っかかる物があるようだ。

 

《となれば、どこだ? 北米を除けば、アジア、アフリカ、ヨーロッパ……どこもキシリアのシンパは多いぞ》

「そのことについては腹案がある。また今度、もう少しまとめてから話す」

《ほう、あのドズルが腹案ときたか。まあ良い。それでは今度の時まで期待してまつとしよう》

 

 

 

「ああ。それじゃあな……サスロの兄貴」

 

 

 

 




ちなみに、08のコジマ大隊長も中佐だったそうな。







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