転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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 予定を変更してキンクリ。申し訳ない。

 キキはそのうち出てきますが、出会い編はグレイッシュ作戦とあわせていつか番外編でやります。

 次回はちゃんと戦闘やります!


第五十一話 無理に高空から降下しようとするから失敗する。

 八月中旬。他の地域に先駆けて、アジア地域で連邦軍による反攻作戦が始まった。

 

 まず先陣を切ったのが、戦力の再編を終わらせた連邦アジア方面軍残存部隊。

ビッグトレー級陸上戦艦を中核に、戦車隊を前に出してシベリア方面から重要拠点である北京を目指し進軍を開始。

 MSに対して被害を出しながらも極力遮蔽物の少ない平原地域を戦場に選び、航空機との連携した面単位での砲撃で確実にジオンの戦力を減らしていった。

この動きに呼応して、南米から日本列島まで太平洋を越えた部隊も動きを見せる。

未だジオンの勢力圏に入っていなかった関東地方に一時寄港し休息を取った連邦艦隊が東南アジア島嶼部の軍港を目指し南進し、随伴していた航空機による輸送部隊の多くはアジア方面軍の援軍として海を越えて北京へ。

 

航空輸送機の部隊が運んだ連邦制のコピーザクは本家ジオンのザクともまともに戦い、部分的にザクⅡにおとる性能差とパイロットの熟練度の差から苦戦はしたものの善戦。

連邦初のMSを投入した機械化混成大隊二四機はその半数近くを失いながらもジオンのMS隊相手に出血を強い、失った数以上の大破、損害を与え連邦が戦えることを示した。

 

このことが負け続きだった連邦軍に追い風となる一方、後に連邦のMS開発に対立と混沌の嵐を巻き起こすことになるのだが……これはまた別のお話。

 

とにかく、連邦のMS投入によるジオン軍北京司令部の混乱と、連邦製が何する物ぞと甘く見たパイロットの驕りにより北京は陥落。部隊は西へと撤退した。

 

 一方の連邦艦隊の方も好調だった。ジオンの潜水艦隊に何隻か沈められはした物の、ジオンにまだ本格的な海戦のできるMSが無いのに対し、無いよりましと水中戦用に改修したボールを投入。

これが予想以上の戦果を上げ潜水艦隊を突破し東南アジア島嶼部に到達。グアム、マニラ、シンガポールなどへ侵攻しこれを奪還、橋頭堡とした。

 

 この攻勢に対し、ジオン公国アジア方面軍は全体的に対応のまずさが目立った。初動の遅さ、相手の戦力の過小評価など本来避けるべき要素ばかりである。幾ら勝ち続けていたからといって、慢心の一言で片付けていい事態では無い。

 北京一帯に布陣していた部隊は西へ敗走。南でも、島嶼部の北側が連邦に落とされたことでオーストラリアとの連絡が脅かされている。

 連邦の反攻は一旦動きを止めたが、勢いに乗るようにそう間をおかず動き出すことは眼に見えていた。

 ラサ基地のギニアス・サハリン少将はこの事態に友軍の無能を呪いながらもMA実験については続行することを関係各所に通達し、南北からの攻勢に対して防衛線の構築を麾下のノリス大佐に指示。MAの準備もあって、動きを慌ただしくしていた。

 ギニアスの悲願の為には、まだまだ時間が必要で、ここで連邦に勢いづかれるわけにはいかなかったのだ。

 

 そして、月がかわって九月。

 

欧州などでも連邦が反攻の動きを見せ始めた頃、北京の陥落を受け気を引き締めたジオンと、勢いに乗る連邦の、激戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 それは、地上から見上げる人々に星のように見えたかも知れない。けれど、少しよく見ればすぐに違うとわかったはずだ。

 赤と緑の二色の光は、短い周期で点滅を繰り返しており、ましてや高速で移動していた。

 まかり間違っても流れ星であるはずもなく、その正体は識別灯だった。

 夜に紛れて低空を飛ぶ、ザンジバルの両翼の端の、識別灯だった。

 

 

 

「装備、言われた通り一番強いの乗せておきましたよ」

「ああ、ありがとう。スペックは」

「長砲身百八十ミリカノン砲。装弾数五、予備弾倉は一つだけ最大射程は二万。スコープが無いのと、反動が大きいのとでこいつで撃つなら一万がせいぜいだと思って下さい」

「わかった」

「わかってるでしょうが、あくまでまともに飛ばせる範囲ですからね。狙撃狙いなら、こいつのセンサー範囲の内でも怪しいです」

「そこは腕でなんとかするよ」

「……くれぐれも残弾に気を付けて。予備を入れても十発こっきりです。使い切ったら、後はデポのヒートソードでなんとかしてください」

「わかっている」

 

 戦隊の中にはいい加減出撃ばかりでは無く、ザンジバルから落ち着いて指揮するのに専念すれば良いと思う者もいるのだが、冬彦の姿はやはりザクのコクピットの中にあった。

 本人からすると、十二機でも手が足りないのに装備に恵まれたカスタム機の自分が抜けるわけにはいかないという意識がある。

 だから、今日も冬彦はザクに乗って、出撃するのだ。

 

冬彦は笑って、キャットウォークからザクのコクピットへ顔を覗かせる髭の整備員に武装の仕様書を突き返した。

 コクピットの中はいつにもまして色鮮やかで、両脇のスイッチ周りが賑やかになっていた。重量超過の警告灯だけが、注意を促す黄色でもって発光している。

 原因は、無理を言って装備させた百八十ミリのカノン砲。本来であれば対空砲であり、ザクキャノンやザクタンクに乗せて砲撃支援に使われることになる大物だが、急ごしらえで取っ手を付けてザクでも使えるようにした物だ。

 加えて砲身を伸ばした為に更に重量が増し、ザクⅠでは武装の殆どを下ろしてやっと扱える重量になってしまった。

 

「他に何か注意点は」

「絶対に両腕で保持して下さい。移動時でもです」

「それほど重いか」

「ええ。Ⅰ型では最悪肩から先がいかれます。必ずマニュアルの射撃体勢を取ってから砲撃して下さい」

「了解。ハッチ閉めるぞ、下がれ」

「ご武運を」

「まかせろ」

 

 綺麗とは言えない髭の敬礼を見送り、ハッチを閉める。暗いのは一瞬で、眼はすぐになれて灯りが浮かぶ。

 両手の操縦桿とフットペダルの具合を確かめると心なしか少し固く、モニター越しに見える動作もやや鈍い。これも、地上の重さゆえ。宇宙であれば慣性で振り回されることはあっても、鈍重さに難儀することは無いと言うのに。

 

『中佐、右舷ハッチから発進お願いします。現在高度八十、いつでも出られますが、よろしいですか?』

「一番乗りか、了解。ハッチ開け」

『ハッチ開きます』

 

 戦隊旗艦ウルラの右舷ハッチが音を立てて開いていく。扉の向こうは、暗い闇。艦の中が明るい分、光りを見いだすことができず暗く見えるのだ。

 

「ヒダカ機、発進する」

 

 カタパルトが加速し、衝撃でシートへ身体が押しつけられる。

 飛び出せば、次に待つのは重力に引かれての自然落下。ブースターでの抵抗で、落下速度は緩やかになっていく。

 夜間の降下だ。頼りになるのは計器だけ……と言いたいところだが、冬彦のザクには二つの眼がある。

 

 今日は偶々月がない。雲のせいで星もない。光の乏しい、暗がりの夜。

 

輝く眼を持つ梟は、熱帯の樹林に降り立ったのだ。

 

 

 

「よし、後は待つか」

 

 降下地点から少しばかり東へ移動したところで、冬彦はたまたま見つけた窪地にザクを入れ射撃体勢で待機していた。

 射撃体勢と言っても、膝立ちでカノン砲を抱え込むように持ち、やや砲口を上向きに向けて保持しているという状態で、動こうと思えばいつでもポイントを変えられる。

 だが、一度腰を据えたらしばらく動くつもりは無かった。連邦がいつ来るかはわからない長丁場、腰を据えて待つつもりだ。

水ばかりでは味気ないと持ち込んだ魔法瓶を開けば、湯気と共に緑茶の臭いがふっと広がる。しばしのくつろぎタイムだ。

 

「あー……」

 

 蓋をカップ代わりに一服付いて、冬彦はサブモニターの一つに映った周辺のマップを見た。近くのつまみを左に回してより広範囲の物にすると、マップ上を幾つもの光点が動いている。

 光点の数は全部で十。自機のすぐ後ろから来るのが三つ。南で停止しているのが三つ。北を目指して移動しているのが三つ。

冬彦はインカムのスイッチを入れた。

 

「各員、位置知らせ」

『A小隊フランシェスカ中尉、中佐の後ろです。すぐに合流します。盾の配置は少し待って下さい』

『B小隊セルジュ少尉。配置完了』

『C小隊ケリー曹長、足場が悪くて少し手間取っています。予定より時間がかかるかもしれません』

「B小隊は少し早いが主機を落としておけ。探知されたくない。C小隊は多少時間がかかってもいい。間違ってもすっ転んだりするなよ」

『了解しました』

 

冬彦を先頭に戦隊のMSが陣取っているのは、ノリス大佐によって計画された半円状の防衛線の一番外側、その東端だった。

 連邦の攻勢に一番最初にぶつかるとんでもない場所である。

 本来であれば交渉してもう少しましな場所につけてもらうところなのだが、兵の奪還作戦に結局周りの部隊を動かしたり少々を無茶をしたために、その対価として最前線を仰せつかってしまったのだ。

 オマケにノリス大佐だけでなく、ゲリラの重鎮にも周辺の押さえの為に力を借りた為に、そちらにも借りができている。

 物資を渡そうとしたが、今はいいと突き返されてしまった。

 物資で済ますことができていれば後腐れ無かったのが、借りを残したことになる。後で何を要求されるか今から憂鬱だ。

 おまけに、今は前線にいて煩わされることはないが、件のゲリラの村にいるオレンジ頭のやかましいのにつきまとわれそうになっている。

その事を思い出していると、また自然と頭が重くなった。

 

「ああ、いやだいやだ……。はー……」

 

 もう一杯茶をいれて、半分ほどを一度で飲んでしまった。

 幾らいやだいやだと言っていても、来てしまっては逃げられないのに。

 第二十二戦隊が得意とするのは、待ち伏せからの奇襲、そして一撃離脱だ。

 しかし今回のは、完全に待ちの戦法。

待ち伏せまでは良いとして、そこから突撃せずに撃ちっぱなしで相手に合わせてじりじり後退、焦れてきたところに別部隊が突撃という戦術。

 どうも今回の連邦の攻勢には北京でいなかったガンタンクもいるらしいので撃ち合いをするには分が悪く、できれば冬彦も突撃側が良かった。

しかし残念ながら冬彦機にはジオンでも有数の光学機器の権威が手を入れたそれはもうすばらしい光学センサーがついている。

おかげで敵攻勢の“目取り”も兼ねて最前線の更に先頭に布陣させられたのだ。

戦隊で見ても対艦狙撃砲を多くした布陣で、各小隊を構成する三機の内二機は狙撃砲を持ち出している。“やられる前にやる”と“アウトレンジから一方的に”を地でいく偏りすぎた編成だ。

 いったい誰が考えたかと言えば、冬彦自身であるから笑えない。

 

「さて」

 

 戦場にあって、戦闘以外のことに悩まされる。ある意味実戦指揮官が一番嫌がる状況だろう。

 だがいつまでもぐちぐち言っていられないのが指揮官だ。

 ましてや乗機はカスタム機。うっかり落とされようものなら全体の士気が下がりかねない。となると、気合いを入れなくてはいけない。

 

 これまた新装備の狙撃用のスコープを上から下ろし、目線の高さで調整する。

 

「狙撃は得意じゃないんだけどなあ」

 

 魔法瓶は三本持ち込んでいる。

 

無くなるのと、敵が来るのとどちらがはやいか。

 

 

 

 




無限航路で浮かんだ一発ネタ。

どちくしょおルートのキャロが逆行して、トラッパをぶちのめすことを目標に家を飛び出して名をはせていく名付けて女傑ルート。

なお書くかどうかは(

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