転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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主にFFTとかFEとかね。




第五十二話 味方が失敗したことに限って敵は成功する。

 

 

 丁度一本目の魔法瓶を空にし、二本目に手を伸ばそうかと言うときに、それは来た。

 ぽーんという何時にもまして軽い電子音。知らぬ者が聞けば時報か、はたまた眠気覚ましのタイマーかと思うだろう。

 だが、それは敵の察知を示す音。長丁場のはずが、思いの外早く始まってしまうようだ。

 冬彦はさっと横へどけていたスコープを戻した。

高さは前もって合わせていたからまた調整しなおす必要はなく、スコープを覗いてすぐに倍率を上げる操作を始める。

 

 そして、見た。暗視補正を入れた緑の視界。距離があるため多少荒い映像ではあるが、見紛うはずもない丸い頭。前へ突き出た口のようノズルに、横へ伸びたパイプ。

 ザクだ。己の眼で見ても、友軍のカスタム機ではないかと逡巡しそうになる。

 けれど、装備している銃身の短いマシンガンと前へ突き出した小型の盾が、それが連邦の機体であると教えてくれる。

 周りには、連邦の戦車の姿も見える。ガンタンクらしき影は、まだ見えない。

 

(まさかこのミノフスキー濃度と距離で位置を把握されているとは思わんだろうな)

 

 ウルラが帰投前に散布していったミノフスキー粒子で敵味方ともレーダーは効かない。しかし、ツインカメラに搭載された高感度センサーは確かにその姿を捉えている。

 得られたデータをマップに反映させれば、敵の陣形が手に取るように見えてくる。

 最初に見えた一機を先頭に左右を固めた三機小隊が全部で四つ。等間隔で前後左右に展開した陣形だ。

 彼我の距離は八千。速度はそう速くない。敵もミノフスキー濃度からこちらがどこかにひそんでいることはわかっていても、そのどこかをつかめては居ないのだろう。

 ザクⅡのセンサー範囲は最大でも四千にも届かない。ましてやここは遮蔽物を始めとした悪条件の多い地上。連邦がどれだけ手を入れたかはわからないが、ことさら光学機器の分野では元よりジオンに分がある。それほど劇的な伸びは期待できない。

ようは向こうはこちらが見えていない状況で、こちらが一方的に補足している状況だ。

 多少は楽ができるかと、冬彦は一人ほくそ笑む。

 

「さて。もう少し引き込むべきか、叩ける内に叩くべきか」

 

 距離はまだ充分にある。しばし悩むうちに、先日のフランシェスカに言われた言葉を思い出した。

 

 ――導いて下さい。

 

 某大佐(今は少佐)が後に口にする言葉と大差ないが、野郎と美女が言うのでは偉い違いである。

 導く。行う以前に、意味を解することすら難しい言葉だ。

 人生はよく道やレールに例えられるが、自分は、何だろうか。

 スコープに映るコピーザクを見ながら、考える。

 貨車を引っ張る動力車、ではないだろう。自分が居なくとも、部下達は既に一流どころのパイロットであるからどこかしらで相応に戦えるだろう。動力車ばかりを引っ張る動力車など聞いたことも無い。

 

「……あー、なんつったかな、あれ」

 

 考えて考えて、ふと浮かんだのはどこかで見たレールを敷く為の特殊車両。あの辺りなら妥当だろうか。

 不確実な道筋を辿りながら、自分一人で敷く細いレール。

 誰かを引っ張ることはしたくなくて、それでも誰かの先をいかなくてはいけなくて。

 そして、歴史の分岐で途切れた道を、繋ぎ直すと願も掛けて。

 今もまだ答えは出てはいないけれど、何もしないままでは何も変わらない。

 一手。さらなる一手が必要なのだ。

 それをすることによって何が動くのか。何が変化するのか。

 まだ、選択の幅がある。見極める時間も、悩む時間も、ある。

 

「総員、傾注」

 

データリンクを行って、それから先頭のコピーザクへ照準を合わせる。

 

「距離……六千で斉射をかける。後は手はず通りに」

 

 短い返答が返ってきた。

まだ、まだとゆっくりと減っていく距離を示した値を睨む。

 じりじりと思考を削るこの時間は、嫌になるほど頭が冴える。

 好ましくもあり忌々しくもある。憎むべきは尻に火が付かねば頭もまわらぬ怠惰な自分か。

そして、一手。

 

 三重のレティクルが重なって、胸部装甲の中心を捕らえたその瞬間に操縦桿のスイッチを押し込んだ。それは、他の誰より一瞬早く。けれど、言葉に嘘は無く。

 

 不思議と、当たるような気がしていた。

 重力や風の影響を受ける地上では、実弾での狙撃は宇宙よりもずっと難しい。

 それでも――

 

 撃ち出された砲弾は弧を描いて、吸い込まれる様に正面装甲へ飛んで行き、撃ち貫いた。

 息を潜めていた味方は静かに歓声を上げ、敵は驚きと恐怖から一瞬動きが止まって見えた。

 衝撃に耐えかねるように後ろへ倒れたコピーザクは、一瞬の間を置いて爆発した。

 それが、砲火の合図となった。

 

「おお、凄いな」

 

 驚嘆するのは自身の腕などではない。驚嘆すべきは急造品でありながらその精度を見せたカノン砲と、一連の光学システム。そして、ノーマルの一三五ミリ対艦狙撃砲で同じように結果をみせた戦隊員達。

 各小隊に二機ずつ。冬彦を入れて計七機の砲撃要員で狙撃を行って撃破した敵機が二機。どこかしらに命中したらしいのが更に三機。充分な戦果と言えるだろう。

 むしろ敵を引き込むには、やり過ぎたくらいだ。

 これならば、と冬彦は早々に決断を下した。

 

「よし、それじゃあ始めるぞ。B地点まで、ゆっくりとだ。それと各小隊射手を一人に絞れ」

 

 冬彦も少し射線をズラしてから一発撃ち込んで、後ろへ下がる。変わって前に出たのは、フランシェスカだ。

 盾を構えており、冬彦に代わって殿に出るつもりのようだ。

 そんな命令は、出していない

 

「フランシェスカ」

『いえ、やらせてください』

 

 言いたいことは、わかっているらしい。

 

「……わかった。その代わり、少し左に寄れ。視界が取れん」

『了解しました』

 

 言われた通りにグフが左に寄って、冬彦のザクに合わせて後退を始める。

スコープを外すと、広いメインモニターには黒々とした夜の森が。

サブモニターには、増えつづける光点が。

 まだまだ、先は長そうだ。

 

 

 

 

 

「さて、MSは残り七機。この分なら……」

 

 冬彦はスコープで前方を警戒しながら、この後どう動くか思案していた。

 戦隊で戦端が開かれてから、他の場所でも連邦の侵攻が始まったために、作戦の変更を余儀なくされたからだ。

 

 中央から少し遅れて戦端が開かれたのは、防衛線の南側。侵攻は南東方向から。

 冬彦機の“眼”がない南の方は先手を取っての迎撃とはいかず、暗闇の中でかなり近い距離から戦闘が始まった。

不幸中の幸いというか、奇襲を受ける前に発見できたので迎撃はできたが、近距離であったために両軍に被害が広がり、双方が一度距離を取って様子を伺う膠着状態に陥った。

 

一方で中央では冬彦の指揮のもとじりじりと後退し被害を抑えつつ、ちびちびと連邦軍のMSを削っていた。

途中、戦車の増加に合わせてMG持ちを前に出して陣形を変えたり、ジグザグに移動することで砲火をくぐり抜けようとするMSに対し、半数以上が一機へと集中して狙いを絞るなどして、連邦の鉾を鈍らせながらの仕事だ。

 もちろん、戦隊のMS以外の戦力も中央には配置されており、戦況が優勢なのは彼らが活躍した成果でもあった。

 

 だが、そんな冬彦のいる中央でも問題が起きる。増援としてその姿を現した、RX-75……ガンタンクの出現である。

 ガンタンク。両肩の砲の射程と威力は勿論だが、その存在はもっと恐ろしい事実の裏付けとなる。型番のRX。

これだ。これなのだ。未だジオンでは冬彦以外に誰も知る者はおるまいが、かの白い悪魔RX-78ガンダムと同じ型番であるのだ。

つまりは、ザクのコピー生産計画と並行して、V計画も進められていることがはっきりしたのである。

 最悪である。繰り返すが、最悪である。できればガンタンクではなく戦車の範疇であるRTX-44あたりであってくれという願いはもろくも崩れ去った。

いろいろと訳がわからないとしか言いようが無いあのMSが、今この時も着々と開発されているかもしれないのだ。あるいは、既に試験稼働が済んでいるかも知れない。

 万が一アムロが乗り込もうものなら、凄まじい数のフラグが一気に立つ。ガンダムと共にフラグが大地に乱立するのだ。悪夢である。冬彦一人士気が急降下である。

 

ただ、始まったばかりとはいえ現状の戦況は中央に限れば冬彦の将来への不安とは真逆で、南を入れて見てもジオンが優勢だ。

最初に姿を見せたコピーザク十二機は狙いをMSに集中した戦隊の引き撃ちと、マゼラアタックなどからなるジオン側戦車隊の支援砲撃により磨り潰すように一機、また一機と数を減らしついには全滅。

この間に戦隊でもB、C小隊で中破を三、小破を一出したが、ど真ん中にいるA小隊は未だに無傷。

 増援として新たに戦車隊と少数の航空機を引き連れたMS隊十二機も、残すところ七機。ガンタンクは全て潰して、後はコピーザクばかり。

 新たな増援は確認されず、とりあえずのところ今回は防ぎきれそうであった。

 

『中佐。そろそろ儂らが仕掛けるか? 今なら一息に側面を突けるぞ』

 

 暇をしていたガデムから、通信が入った。

 もっと早くに投入されるはずだったのが、辿り着くまでに敵戦力を削った為に投入せずとも勝てそうなところまで来てしまった。

 

「敵が後退の動きを見せた。」

『やれやれ、出番はなしか』

「D小隊は後退して、C小隊と合流しろ」

『了解した』

「お願いする。……ん?」

 

 聞こえたのは、ロックオンアラート。機体を動かしながらどこからだと慌ててレーダーを見ると、唐突にレーダー上に新たに光点が三つ現れていた。その内二つから戦車よりも小さな光点が溢れるように広がっている。

ミサイルだ。

 

「……はぁ!? あ、A小隊散開! ミサイルが来る!!」

 

 慌てて逃げたところに、ミサイルが立て続けに降りそそぐ。ミノフスキー粒子の影響で殆ど役立たずになったミサイルだが、光学機器との連動などで射程を大きく減じたものの多少活躍の場を取り戻しつつある。

 それよりも、どうやってセンサーの索敵をかいくぐってきたかが問題だ。

 モニターは常に行っていた。それが、突然索敵範囲の内側に降って湧いたように現れた。

 他の機体ならいざ知らず、この機体で感知できなかったというのはかなりまずい。原因は究明しなければならない。

 答えは、すぐにわかった。

 友軍のルッグンが、高空を飛ぶミデアを発見したのだ。

 

「まさか、髙高度からの奇襲か!?」

 

 冬彦が九死に一生を体験した“例のあれ”を、連邦はこの土壇場でやってきたらしい。

わかったところで余裕は無い。

 ミサイルから逃げている内に、敵は降下を完了させてしまっている。距離は至近。長物を持った今の冬彦では少々厳しい。

 

『中佐、どうした!』

「敵の急襲、空からだ! 各員警戒を厳に!」

 

 言っている内に、敵が姿を現した。

 正面からでも見える大きな四角いユニットを背負った連邦製のコピーザク。

ミサイルの爆発から延焼した炎でもって照らし出された白とグレーのデジタル迷彩は、おそらく特殊部隊のもの。

至近と言って良い距離で、モノアイレールがあるべき場所に張り付いた緑の硝子が見えた。その奥で輝くのは、上下二段で左右に走る、二条の青い線。

 

人を惑わす沼地の鬼火は。幽霊が引き連れるという人魂は、いずれも燐の如く青く輝きながら夜の暗がりに浮かんでいるという。

迷信だ。昔の人間が言ったことだ。

 

だが目の前の存在は現実の物だ。

淡く緑に濃く青く。伝承の如く、厄介極まりない、ろくでもない存在。

 

 きっと“そう”なのだと、冬彦は直感的に理解した。

 ニュータイプ。今なら本気で信じてみたくなる。

ザクとうり二つのシルエットで有りながら、白く塗られたその姿。

 さながら幽霊のように現れて、砲火を飛び越えて目の前にまで辿り着いた敵機。

 

 その機体が、ぐっと機体の姿勢を低くして飛び込んで来る。

 周りに味方はいるが、それぞれ新たな敵の相手をしている。

ザクを下げようとするが、相手の動きの方が速い。

暗い森林に光が灯る。赤よりもずっと明るい、ピンクの光。ビームサーベル。

 

「なんでザクでビームサーベルが使えるんだよっ!!」

 

 罵倒しながら、カノン砲に残されていた最後の一発を撃ち込んだ。

 敵を滅ぼせと託した弾は、無情にも盾によって弾かれる。

 コピーザクの左腕は盾ごと吹き飛んだが、胴体も、ビームサーベルを持った右腕も無事。

 ビームサーベルを振りかぶる姿が、モニターを埋め尽くした。

 残弾、0。何をするにも間に合わない。

 

(あ。これは、死んだか)

 

 

 

 

 

 

――導いてください

 

 

 

 

 

 

 刹那、弾切れになった百八十ミリカノン砲を槍のように前へと突き出していた。

 

 同時に、急制動をかける。

モニターと視界が同時に揺れた。視界の端が黒くなる。

脚部が地面を抉ってなお止まらず、泳ぐ上体を腰の稼働で制御して砲の先端を敵機の胸へ。

操縦桿をどれほど握りしめても機体そのものを動かす程の衝撃を殺しきることなどできるはずもない。

MS同士の正面衝突。良い加減限界だろうが、今だけは耐えてくれとペダルを踏み抜いた。機体が酷く軋んでいる。無理をさせるのも何度目か。

スラスターが、限界(リミッター)を超えて咆吼する。

 

「らああああああっ!」

 

 気を失わぬよう、活を入れるべく声を張る。通信越しに聞こえていたならやかましかろうが、必死だ。

 

 馬上槍の如く、カノン砲は確かにコピーザクの胸部装甲を突き、貫けぬまでもつっかえ棒として機能し衝撃でもって数十トンからある機体を吹き飛ばした。

 しかしコピーザクはそれでもビームサーベルを手放さず振り下ろし、歪んでしまったカノン砲は斬り捨てられてしまった。

 おまけに右腕は肘が衝撃でお釈迦になり千切れかけている。

武器もヒートソード一本になってしまった。

 

 剣一本で格闘戦。MSに乗っている意味が無い。

 

 向こうとて、無事ではない。

盾を装備していた左腕は肘から先が吹き飛び、肩が外れかかっている。

それでもいまだ闘志は衰えていないようでビームサーベルもその光を失っていない。

揺らめく切っ先は高熱で地面を焦がしている。

 

 少し下がって、味方と合流すべきと経験が言う。

 

「流石に死ぬかと思った……が」

 

 危機はまだ去っていない。

 後退などさせるものかと言わんばかりに、コピーザクが一歩前に出た。

 冬彦でも、そうする。今しかない。

 のど笛に食いつき、獲物を狩った後で後ゆうゆう逃げようという腹なのだ。こいつは。

 自分がやられれば、次は戦隊の誰だ。

 ピートか、ガデムか、フランシェスカか。

 

「……させるものかよ」

 

 機関部の三分の二より後ろを残したカノン砲を投げ捨て、腰にマウントしていたヒートソードを左手でもって装備する。

 赤熱した刃が、空気を焦がしながら敵を屠れと囁いている。

 

「来いっ!!」

 

 聞こえたはずはない。敵機との間に通信を開いてなどいないのだから。

 だがコピーザクはそれに答えるかのように、それまで下げていた切っ先を跳ね上げ躍りかかってきた。

 

 決着は、一瞬だった。

 

 二度目の衝突。

 

 コピーザクが上段から振り下ろしたビームサーベルは、ザクⅠの頭部を割り、右腕を肩と胴体の一部ごともぎ取って。

ショルダータックルの態勢から居合いのごとく振り抜いた冬彦のヒートソードは、胴の半ばを断ち切っていた。

 

 

 

 




詰め込んだ感がありますが、勘弁してください。

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