転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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アイナちゃんの出番は、もうちっと先なんじゃよ。次回かな?

それと今回の後書きは痛くなかったけどちょっと痛い話(微グロ?)なので見ない方がいいかも。


第五十六話 「×2」

 

 第二十二番基地格納庫側、休憩所。

 天井の蛍光灯の明かりにつられて窓に蛾やら羽虫の集る夜も更けた頃。

 丸い椅子を机代わりに、四人の男達がカードゲームに興じていた。

警備兵が一人に、MS付きの整備兵が二人。それと、開発局の人間が一人。

 彼らは元から基地にいた人員ではなく、二十二戦隊に所属していて、冬彦と共にこの基地にやってきた者達である。

 

 前線に近いところで働いているだけあって普段は皆真面目にそれぞれの職務についてるのだが、四六時中気を張っているわけにもいかない。休憩時間は休むのが仕事だが、何もすることがないとかえってストレスが溜まることもある。基地の中で違う持ち場をふらふらうろつくこともできず、そういった手持ちぶさたな者達が集まった結果、ちょっとした運を試しているのだった。

 

……けしてさぼっているわけではない。

 

「ツーペア」

 

 警備兵が椅子の上に札を晒して、周りの顔色を窺う。出した札は、二枚の「7」と「8」、それと「A」。

 

「ツーペア」

「スリーカード」

 

 整備兵の一方が「ジャック」と「キング」を二枚、それと「6」を出したのを見て、もう一人が重ねるように「4」を三枚と「7」「2」を出す。

 

 この時点で最初の二人は顔をしかめるか天を仰ぐかしているのだが、まだ開発局の男が残っている。「7」「8」「ジャック」「クイーン」は既に出ているので、彼が「9」以上の数字でのスリーカードかそれ以上の役で上がらないかしない限り、勝利は整備兵のものだ。

 

「……スリーカード」

 

 男が出したのは、スリーカード。ただし、数字は「3」。彼はがっくりとうなだれて、代わりにやっと整備兵の顔に笑みが浮かぶ。

 

「んっふっふ。調子が良いね」

「うるさい。次いけ次」

「そうだ。速くシャッフルしろ」

「畜生め。次は負けん」

 

 勝った整備兵こそ喜色満面のしたり顔だが、他の三人はやさぐれモードだ。

 彼らは金銭こそ賭けていないが、それぞれの通算成績を記録していて、負けがある程度かさむと一杯奢る約束をしている。

 この日の勝敗は今勝った整備兵のみが勝ち越しで、残りの三人がどっこいだ。

 常道で言えば三人の中から一歩抜け出すことが第一目標なのだが、開発局の男の笑顔を見て何とかトップから引きずり降ろして団子に持っていきたい。

 そんなことを考えながら彼らはトランプをシャッフルして、配り直す。

 

「さてと、仕切り直しだな」

「おう。トップから引きずり降ろしてやる」

「やれるものなら」

「お前らな。チェンジするなら速くしろ。順番が回ってこん」

「考えてるんだよ」

 

 ちゃっちゃっと手札を変えながら、彼らは口々に思ったことを言いながら勝負を繰り返しいく。

 誰かが勝てば、誰かが負けて、時々凄い手が出て、それを何度も繰り返す。

 

「そういえば」

 

 その内に、整備兵の片方が思い出したようにそう言った。

 

「そういえば、あれどうなった。統合整備計画」

「統合整備計画ぅ?」

 

 疑問符を浮かべるのは警備兵だけだ。後の二人は、仕事上ことの存在は知っている。

 ざっくりと言ってしまえば、現在はバラバラの各MSの内装やパーツ、兵装の弾種などを規格化して生産効率を上げようというものだ。

 

「あれなあ。話はぽつぽつ聞くが……ウチの中佐も一枚噛んでるんだろ?」

「そうなのか?」

「噂だけどな。月に行ったのがそれだったんじゃないかって。でもまあ、どうなんだろうなあ。あ、お前俺達より詳しいだろ? 本国からの出向組だし。どうなのさ?」

 

 話を振られた開発局の男は、露骨に嫌な顔をする。男は確かに話の存在や、中身についても他の者よりは“つて”で聞いた分幾らか詳しくは知っている。

ただ、派閥の関係や重工業各社の思惑など、余り楽しい話ではないし、自分から話が漏れたとなると非常によろしくない。できれば触りたくはない。

 しかしかといって何も話さなかったり、知らぬ存ぜぬを通すのも、付き合いのある整備兵達がいるのですぐにバレる。

 結局、男はかいつまんでネタを小出しにすることにした。

 

「今も動いている……とは聞くが、全軍でやるのは難しいだろうし、時間もかかるだろうな」

「なんでだよ」

「既存の機体の更新にどれだけの手間と金がかかるかって話だ。宇宙ならやれなくもないだろうが、地上でドンパチやりながらとなるとな」

「あー、なるほど」

「ツィマッド社の新型で試験的にこの規格を導入するらしいが、完全に定まっていない規格だから、使うことを想定はしましたってレベルだ。不具合は出るだろうな」

「よくわからん話だな」

「お前の相棒じゃ、同じライフルでも口径が違うと使えないだろうって話だ」

「それならわかる。あ、ストレートフラッシュな」

「なにい!?」

 

 話について行けなかった警備兵の役に、残りの三人が思わず身を乗り出した。

 が、どんなに見ても役はかわらない。

 

「畜生。盛り返してきやがったな」

「一人勝ち何ぞさせんということだ。ちょっと外すぞ」

「止めるのか?」

「いいや、珈琲が尽きた。食堂でもらってくる」

 

 それぞれの出していた札を回収し、切り直している間に警備兵が席を立つ。手にはカップがあり、外で補給してくるつもりのようだ。

 

「俺達の分も頼むぞ」

「おーう。全員一緒でいいんだろ」

「ホットだぞ」

「わかってるって」

 

 四つのカップを両手で持って、警備兵が部屋を出て行く。

 

「で、実のところは?」

「遅れるだろうな」

 

 カードの山を囲んで、技術畑の男が三人頭を付き合わせている。

 表情が特に優れないのは、やはり語り手である開発局の男。

 

「本局の意向としてはGOだ。そもそも統合整備計画の方向性自体には問題が無いからな」

「となると、お偉方の派閥争いか」

「違う。いや違わないんだが……どちらかというとジオニック以外の重工業各社が抵抗している」

「ツィマッドやMIPが?……どういうことだ?」

「打ち出したタイミングが悪かったのさ。新型機の完成間近に、新しい規格を作るからってあれやそれやを取っ替えろって言われてもそりゃあ無理だ。まして、現行の機体との兼ね合いでどうしてもジオニックに比重を置いた物になる」

 

 ザク、グフ、それに数の少なさから知名度はないがイフリートと、どれもジオニックで設計開発が行われた物だ。

 同じ重工業の中でもツィマッド社はMS開発がメインであり、かつて性能でザクⅠを上まわるヅダを開発しながら、試験で空中分解を起こし、採用でザクⅠに敗れた歴史がある。その後もザクⅠの発展型であるザクⅡが軍の主力として量産され、続く機体として開発されたグフもまたジオニックの手による物。

ここに来て、やっと採用された新型機のロールアウトを前にしての大規模な規格の変更の要請。配備は大きく遅れるだろう。ツィマッドとしては当然横やりを入れられたと見るし、堪えられるものではないのだ。

 

「だが、ツィマッドは新型に規格を適応させたんだろう?」

「随分と揉めたそうだがな。聞いた話だから何とも言えないが、マニピュレータと兵装火器はとりあえず規格内に収めたらしい。それでもやはりまだ独自規格の部分も多いし、何か条件を呑ませたとも聞く」

「MIPは?」

「あそこは水陸両用機の研究をしていたらしいからな。それこそ、はいそうですかとはいかんだろう」

「ふーん。水陸両用機ねえ。しかしよくそんなこと知ってるな」

「横の繋がりは大事ってことだ。それこそお前達も何かネタはないのか」

「ないな」

「ないね。平の整備兵に何を期待してるんだか」

「こいつらときたらっ……!」

 

 整備兵二人の言い方に、開発局の男が額に青筋を浮かべた時。男が休憩室に慌ただしく駆け込んできた。珈琲を取りにいったはずの警備兵であるが、その手にはカップが無い。

 いったい何ごとか。そう問いかけるよりも速く、警備兵が叫んだ。

 

「聞いたか!」

「何をだよ」

「俺達、宇宙へ帰るんだと!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ギニアス・サハリンとの二度目の会合ということで、ノリスに案内されて冬彦とフランシェスカが連れてこられた場所は、不思議な事に会議室や執務室ではなく広々とした格納庫だった。

 親衛隊も交えての会談が行われた会議室からは随分と離れた場所である。それに、エレベーターを二度乗り継いだことを考えると、随分と奥まった、秘匿性の高さを伺わせる場所だ。

 

「何なんですか、これは……」

 

 背後でぽつりと呟いたフランシェスカの気持ちも、わからないではない。

 冬彦の心中もまた、似たようなものだ。

 知識としてはしっていた。けれど、目にする機会があるかは半々程度に考えていた。

 

(――おかしいだろうよ。それは)

 

 天井の照明によって暗闇から浮かび上がる深緑の巨影。

 横に伸びるその姿は余りにも巨大だ。余りの巨大さ故に、一度にその全容を視界に収めることは格納庫の中に居てはかなわぬほどに。おおよそ二十メートルというザクを駆る冬彦やフランシェスカのようなMS乗りが見ても、その威容には言葉を失うほどに。

 まして、曲面を帯びた装甲の狭間にザクⅡの頭部という日頃見慣れた比較対象があるせいで、余計にその大きさを認識させられる。異形の中に取り込まれたようにも見えるてしまうのだ。

 

「ところで、中佐。君はこれを見て何か思う所はあるかね」

「……どこか、恐ろしい物を感じます。少将閣下」

「そうか。恐ろしいと感じるかね、中佐。君は」

 

 うつむき加減で顔に影のかかったギニアスが笑う。

あるいは死相のようにも見えて。

 

「中佐、君にも感謝している。二度にわたる実験は、いずれも成功だった。つつがなく情報の蓄積が完了し、予定よりも早くこうして完成型までこぎ着けることができた」

 

 彼が見上げて、笑みを見せるのは未だ火の入らぬ鉄の塊。

これこそは、このラサ基地が内包するおよそ全ての機密の行き着く先。総帥ギレン・ザビではなく、公王デギン・ソド・ザビの名を以て承認が行われた一つの計画が行き着いた果て。そしてギニアス・サハリンの夢と執念の産物。

 

「だが、残念ながら問題が起きてね。中佐の手を借りたい」

「閣下。残念ながら、小官にもできることとできないことがあります」

「問題無い。何ら軍機を犯すところではない。ただ、少々貴官のつてを使いたいのだよ。ミノフスキークラフトの起動に必要な電力の不足。これを補うためには、既存の物よりも強力なジェネレーターが必要だ。流石に、このラサ基地を支えるケルゲレンの物を移植するわけにはいかないのでな」

「……戦隊のザンジバル。お貸しするとは言いましたが、渡せませんよ」

「それはわかっているとも」

 

 ギニアスの笑い声が、低く響いて消えて行く。

 

「ツィマッドの新型機。知っているかね?」

「……ドム、でしたか」

「それだよ中佐。ドムのジェネレーター重装甲MSのホバー移動を可能にするだけの出力を持っている。資料を取り寄せたが、流石ツィマッドはこの分野では強いな。一基では駄目でも複数基搭載すれば、この“アプサラスⅢ”を飛び立たせることが出来る」

「それを、私に?」

「ジェネレーターさえあればいい。最低六基。八基もあれば充分だろう。

……変事には、ドズル閣下に味方することを確約しよう」

 

 ――アプサラスⅢ。

 その脅威は、冬彦だけが知っている。搭載されている兵装の数は、僅かに一つ。たった一門のメガ粒子砲。けれど、それだけで必要とされる全てを満たしている。

 収束すれば山を貫き、拡散すればMSを焼き払う。

 

「アプサラスさえ……このアプサラスさえ完成すれば、連邦なぞ焼き払ってくれる」

 

 

 

 向かい合う“二機”のMAは、未だ静かに、時を待つ。

 

 

 

 




ガンプラビルダーズやガンダムビルドファイターズの活躍が目覚ましい昨今。
ガルパンやら艦これやらで、プラモ界隈がにぎわっていて嬉しいです。
お店の棚が充実しているだけでも、見ていて楽しいですからね。

ところで、知っている人は知っているでしょうが、エッチング鋸と呼ばれる道具があります。
薄刃の小さな鋸で、主にデティールアップの筋彫りや、パーツ分割や切り出しにも使います。

で、前書きにも書きましたが、今回は痛くなかったけどちょっと痛い話。

勘の鋭い方なら、もうわかりましたよね?





ざっくり言うと、パーツ分割してたら何時の間にかパーツ貫通して指に溝掘ってました(横幅一センチくらい?)。人差し指の爪の上、ささくれができやすいあたりです。

もう治りましたが、血が滲んでもまったく気づきませんでした。切り出しの具合を見ようと視点を替えたら「あれ……あれ指切れてる!?」って感じです。おまけに傷口の周りはプラ粉まみれ。速攻で手を洗いに行きました。
皆さんもプラモをいじるときは、うっかりミスに気を付けてくださいね。

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