転生者迷走録(仮)   作:ARUM
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不安を煽っていくスタイル。



第六十一話 サブシナリオの可能性

 

地球から最も離れたサイド3。

 途中寄港を行わないという強行軍でもって通常の四分の三程度まで道程を短縮し、ついに辿り着いたジオン本国。艦橋の複層強化特殊ガラス越しに見える輝く物は星ではない。

規則正しく一定の間隔に並ぶ光の列。太陽の光を受けて輝く三枚のコロニーの“羽”を目視できる所まで、冬彦達は辿り着いたのだ。

 

 思えば、ウルラⅡのクルー、そして戦隊の人員が最後にこのサイド3を見たのは何時の頃であっただろうか。

年明けすぐの開戦。二度のコロニー落としの後ソロモンに移り、ルナツー攻略戦、月軌道の攻防戦を経て、それから地球降下。

 湿気を伴う熱波。したたる汗。唸る扇風機と呻く人々。戦闘に及んでいないのに、戦闘以上に消耗していく日々。密閉性に優れたテントに参謀部への恨み言を堪え、降下試験に失敗し、暗闇の中で戦った数ヶ月。

 一年に満たないとは言え、密度の高い時間だった。階級を問わず、郷愁の念を覚える者も、少なからず出てくる。地球に降りてからは特にそれが強くなり、楽観的な者は、この帰国で多少なりとも特別休暇がもらえるのではないかと期待したりと、全体的に明るい見通しを持っていた。

 

 しかしである。こと一部の将校、特に上級士官においては、この本国への帰還に対して悲観的な者が多かった。

 戦隊首脳部は冬彦から政治事情が混沌としていることを聞かされているし、それぞれにつてのある士官達は明らかにジオンの技術が流出したとしか考えられない外観の連邦製MSの出現や度々臭わされる複数地域での大規模反攻作戦について当然耳にしている。何より、彼らはアジアでのその当事者であるし。

 そんなわけで、彼ら将校は明らかにきな臭い時勢での本国の引き上げには何かあるのだろうと薄々察しており、休みは望み薄だろうと検討を着けていた。

 

 果たしてその予想は的中する。ジオン本国サイド3に辿り着いた第二十二独立戦隊を待ち受けていたのは休暇などではなかったのである。

 

 待っていたのは、国の行く末を左右する鉄火場だ。

 

「ほっ、ほげっ……」

 

 驚いたことに、この奇妙なうめき声を漏らしたのは他ならぬ冬彦である。ノリが完全に学生時代のもので、口がぽかんと開いたままになっている。

 その隣では、アヤメが紅茶を気管に入れて盛大にむせていた。

 それでも彼女は冬彦寄りかはまだ幾分かまだましであり、むせながらもブリッジ要員にすぐさま望遠による分析、それと“認識番号”と“艦名”を確認するよう指示を出していた。

そして、戦隊旗艦にその席を持つ優秀なオペレーターはそう間を置かずその答えを上司、つまりアヤメに報告した。

 彼らのアイデンティティと威厳を木っ端微塵に破壊した、コロニー群の側に浮ぶ赤い艦の正体を。

 

「ほ、本国警備隊に確認しました。サイド3付近に駐留しているグワジン級は、グワラン、グワザン、グワデン、グワジン、アサルムの五隻、です」

「……五隻?」

「……いいや、本国にはグレート・デギンが常駐されているはず。だから六隻、だね。それもここしばらくで新造艦が就役していなければ、だけど」

「六隻かー。そうかー……グワジン級って全部で何隻だっけ」

「さあ? 正確な数は軍機だよ。僕も知らない。ま、二十を越えるってことは無いんじゃないかな。どんなに多くて十四、五ってところだろう」

 

 グワジン級戦艦。ジオン公国、共和国時代を通して現状唯一の戦艦であるこの艦が、サイド3宙域に六隻も揃っていた。尋常ならざる事である。

 以前(二十六話参照)に説明したことだが、このグワジンは数が少ない。一般的に認識されているのは数隻、正確な数は参謀本部か、ザビ家とその近辺にいる者だけだろう。

 フラグシップである一番艦「グレート・デギン」の艦名からもわかるように象徴的な意味も強いが、既存の艦船の大半を上まわるMSの運用能力、戦艦の由縁たる強力な主砲による打撃力、そして旗艦運用を前提とし司令部として機能するだけの艦隊指揮能力を併せ持つ持つ非常に高性能な艦である。

 ただし、その分非常にコストがかかる。特に資源の面ではその点が顕著であり、強力ではあるものの開戦までに一定のMSと取り回しのよい運用母艦を必要とした為、ムサイなどの建造が優先され、その数は抑えられてきた。

 運用としてはザビ家かそれに連なる要人、もしくは要所要所に配置されている。

 連邦のルナツー、旧ユノーを抑えたことで広く見れば資源事情は良くなったのだが、それでも象徴的な意味を維持したいという思惑と、ルナツーが落ちた以上はグワジン級を増やさずとも現状の規模で充分ではないのか、という判断によりやはり追加での建造には慎重であった。

 それが五隻、姿の見えないグレート・デギンも含めて六隻、一つの宙域に揃っている。

 グレート・デギンは公王デギン・ソド・ザビの専用艦であるからこれについては本国にいることはおかしくない。グワデンも親衛隊の旗艦であるから同様である。

 しかし、残りの四隻。

 グワランとグワザン、それにグワジン、アサルムはそれぞれ宇宙攻撃軍と突撃機動軍の所属である。冬彦が聞かされた話には、こんな事態は含まれていない。

 ついでに言うと、宇宙にはもう連邦の目立った拠点は残されては居ないが、未だ残存勢力はコロニーの残骸や月の中立都市に潜んでいる可能性があるため完全に安全が保証されたわけではない。

 そのため、それぞれが随伴する護衛艦隊を引き連れている。ムサイが主だが、中には数隻のチベやザンジバル、突撃機動軍にはウルラⅡと同型のティベ型の姿も見える。

 

 切っ掛けさえあれば、内戦待った無しである。

 

「艦長! 親衛隊からこちらの目的と所属を誰何する通信が入っています!」

「間違っても通信には出るな!」

「は、え、しかしそれでは」

「返信を電文で行え。定型文で良い。操舵手、グワザンかグワランか、どちらでも良い、近い方へ寄せろ。急激な進路変更はするな。それとなくだ!」

「了解しました!」

「……で、どうする冬彦」

 

 通信手に指示を出し、アヤメが冬彦に対して訊ねる。

 ズムシティ宇宙港の管制ではなく、親衛隊からの通信である。相当ぴりぴりしている所に新たに現れた部隊であるから、相当警戒している様子である。

 親衛隊のグワデンが構える宇宙港へ進路を取る訳にもいかず、さりとて立ち往生するわけにもいかず……とりあえずは安全であろう方へ舵を切らせたが、最終的な決定権は冬彦にある。

 しかし、返事は無かった。冬彦は凍り付いたように、動かない。唇を引き結び、血管が浮くほどに椅子の背もたれを握りしめて。それは倒れるまいと身体を支えているようにも見えた。

 ウルラⅡの艦橋が静かになっていく。非常事態を示すアラームがなっている訳でもなく、人の姿が消えたわけでもなく……毒づきながらも泰然としていた冬彦が、初めて毒づくことすらしなくなったことに驚いているのだ。

 

「冬彦……ええいしっかりしろ!」

「ぶっ、熱っ!!」

 

 そんな状況を打破したのは、アヤメだった。

 まだ熱い紅茶の飲み口を無理矢理冬彦の口にあて、カップを潰したのだ。

 溢れた紅茶は、当然冬彦の顔にかかり痛みを与える。

 荒療治。階級が絶対の軍においては許されることではない。

 だが冬彦は――

 

「アヤメ……」

「よし、しっかりしたね。さあ指示をくれ戦隊長。どうするの。まだ駄目なようなら、しばらく僕が代理で動かすよ」

「……あいわかった」

 

 アヤメを叱責するでなく、己が不明を詫びるでなく、顔に手をやり、そのまま髪を掻き上げて。

 

「グワザンへ通信を。まずコンスコン少将と連絡を取りたい」

 

 

 

 




Wikiでグワジン級について調べなおしましたが混沌としてました。
なので独自解釈とねつ造も入ってます。ご了承ください。







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