転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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お ま た せ し ま し た

研修やら何やらで立て込んでて投稿できませんでした。
感想返しも滞ってしまって申し訳ない。



第六十三話

 サイド3某コロニーの軍事演習場に、その光景はあった。

 遠巻きに様子をモニターしていた誰もが、うっすらと額に汗をかいている。それほどに、それらの機動は常軌を逸しているように見えたからだ。

 

 元々は、地上侵攻における市街戦を想定して組まれた築かれた仮初めの街。コンクリートと鉄骨で、“ガワ”だけを構築したビルの模型の群の中を、五機のモビルスーツが疾駆し、組合い、互いを牽制しながら鎬を散らしている。

 ザクが三機と、ドムが二機。どれもノーマルの濃緑色ではなく、ザクは赤、白、群青の三色。ドムは青と、茶と白の混じり。

 色取り取りの五機が、バーニアを吹かしながら上に下にと飛びまわる。

 

 動きをモニターする為にお観測所では二十からのディスプレイが起動されていたが、MS戦闘の常識を無視するかのような長時間の戦闘機動を続ける彼らを前にして、映像の送信元であるカメラの操作をするオペレーターが動きを追えなくなってきていた。

 

「すげぇ……」

 

 観測所の指揮を任されていた中尉が、我知らず喉を鳴らす。

 そも、始まりからおかしかったのだ。地上侵攻で人が出払い、使われることの少なくなっていた都市戦用演習区画の突然の使用申請。それも、上層部からの命令書付き。

 最初はきな臭いと感じた。特殊部隊あたりが極秘作戦の前に演習をするのだろうとあたりをつけ、極力人を絞るなどの配慮もした。

 

だが蓋を開けてみればどうか。

特殊部隊? とんでもない。思っても見なかったドリームマッチだ。

中尉はMSパイロットの名簿を与えられていないが、それでもパーソナルカラーから中に乗っている者の名前は簡単に推測できる。

“青き巨星”ランバ・ラル。“白狼”シン・マツナガ。そして“赤い彗星”シャア・アズナブル。いずれもジオンのエースだ。

 残りの二機、群青と、茶と白の混じりについては思いあたるところが無かったが、どちらも並の技量では無いように見える。

直近では、ビルの上から奇襲をかけた白いザクが勢いを殺さぬままにヒートホークを叩き込もうとした瞬間、狙われた側の青いドムがナックルシールドを横に振り抜きいなし、逆にヒートサーベルでカウンターをかけ、マシンガンを持っていたザクの左腕を機能停止に追いやっていた。

 これが、呼吸一つ分の間に起きたこと。次の間には、既にどちら共が距離を取り、ビルの影へと姿を消している。

 

 ちらり、と時計を見る。戦闘が始まってから、およそ十五分。この間、ほぼずっと相手を替えながら戦い続けている。

 

「すげぇや……」

 

 現在の状況は、赤いザクと青のドムが大きな損傷もなくほぼ完全な状態。

 白いザクは左腕が判定により機能停止。群青のザクは機体は無事だがマシンガンを失っている。

 そして、茶と白の“混じり”のドムは。

 

 ヒートサーベル、ビームカノン、グレネード各種。武装と呼べるおおよそ全てを、失っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 時間を二日ほど戻して、サイド3の某コロニー某所にて。

 表層から少し潜った所に、とあるバーがある。

 薄暗い店内。カウンターの一席に腰掛けて、ランバ・ラルはウィスキーを煽った。

 この店は、元々ラルの行きつけであった。マスターであるクランプという男も、元々ラルの部下で、縁が深い。

 気心の知れた部下に、情の深い相手もいる店。常ならば、上手い酒をほどよく引っ掛けて……といくところだが、この日ばかりはそうもいかない。

 原因は、肩を並べる男達のせい。

 

 一人は赤い軍服を着た男。シャア・アズナブル。普段身に付けている鉄メットこそ外しているが、その白い仮面は着用したまま。

不敵な笑みを浮かべてラルの手の中にあるものと同じ銘柄のウィスキーにちびりちびりと口を付けている。

 

一人は白い軍服を着た男。シン・マツナガ。ラルも面識のある相手で、名家の生まれもあって見栄えがするためパレードなどでもよく見かける有力株だ。最近は髭を伸ばし始めたこともあって、貫禄が出てきている。こちらは口を付ける回数こそ少ないが、一度に全部飲み干してしまうので、回転が速い。

 

 一人はむっつりと腕を組んで瞑目している男。アナベル・ガトー。髪をオールバックできっちりまとめて後ろで縛り、眉間には何が不満なのか深い皺が寄り、出された酒のグラスに触れることもなく、ただただ口を開くことなく沈黙している。

 

 そして最後に、フユヒコ・ヒダカ。地上に降りて何かしらの工作をしていたらしい、とラルは伝手で聞いていた。

 これだけの面子を集めたのも、この男だ。以前に見かけたときよりも随分こざっぱりとした格好になったが、一人薄い水割りを頼んでいる。

 

 バーの中に居る客は、この五人だけ。完全な貸し切りで、従業員も今日に限ってはクランプ一人。

 

「それで」

 

 誰も喋ることなく、店の主であるはずのクランプでさえ居心地の悪そうな顔をするなかで、これでは何も始まらない。

 故に、ラル自身が口火を切った。

 

「何の為に儂らを集めた。暇ではないのだろう。ただでさえ、きな臭いこの時に」

 

 この言葉に反応し、横並びにカウンターに座っていた男達の意識が、左端のフユヒコ一人へと集中する。

 話を振られた冬彦は、水割りで舌を湿らせてから口を開く。

 

「まあ、各各きな臭いというのはわかっているようなのでそのあたりの説明は省くが……端的に言うと、ドズル閣下は無理を押してでも大きな方針転換を図る御積もりのようだ。ともすると、一戦やることになるやもしれん。その腹づもりをしておいて欲しい」

「ほう。大きな方針転換か」

「講和。それに向けて……だそうだ」

 

 また、沈黙。

 冬彦の言葉をそれぞれが吟味する中、一番始めに発言したのはガトーだった。

 

「気に入らん」

 

 切って捨てる言葉に澱みは無い。

 姿勢はそのまま、流し目で左隣にいる冬彦を睨みつける。

 階級差もあるのだが、そんなことは関係ないと言わんばかりだ。

 

「気に入らんな。それはドズル閣下の職分を逸脱している。如何にザビ家の一員と言えど、その職は一軍の長。国家の方針はあくまで総帥府、ひいてはギレン総帥かデギン公王が最終的に決定するはずの物。それを己が意見を押し通そうと武力を用いるならば、それは――」

「クーデター、と言うのだろうな。それは」

 

 ガトーの言葉を継いだのは、シャア。この場において唯一笑みを崩さぬ男は、あっけらかんとそう言った。

 

「なるほど。確かに講和……停戦でも良いが、それが成ったなら素晴らしいことだ。だが、クーデターとなると穏やかでは無い。私は、総帥府にでも駆け込まねばならないのかな」

 

 そう嘯くと同時に、シャアは笑みを深くする。それを見ていたクランプが、一歩後ずさった。シャアからではない。シャアを含めた、カウンター席の全員からだ。

 ことジオンは実質上の独裁体制にあるだけあって、国内の不穏分子に対する締め付けは入念に行われている。さわりだけとは言え、今の話の内容が漏れれば即座に総帥府は即座に身柄の確保に動くだろう。

 

「物騒なことを言うのは、止めて貰おうか」

「無理を押し通そうと言うのだろう。綺麗事はやめて貰おうか」

「そうは言うが。俺はどこの誰と一戦交えるかは言っていないぞ。どうしてすぐに総帥府などと出てくるのか。連邦の強硬派あたりを想定していたのだが? それとも少佐は他に思う所がお有りなのかな」

「ほう」

「まあ、実際の所仮想敵は親衛隊辺りを想定しているわけだが」

「……!」

 

 この一言に、また一層室内の重圧が増す。

 今集まった面々は軍の所属こそ同じものの、それは相当に幅広い視野で見た時の話である。実際には寄る派閥も大きく異なるし、思想信条もバラバラだ。

 ラル家の先代当主ジンバ・ラルはダイクン派であり、ザビ家から排斥を受けた。ランバ・ラルも同様だが、ザビ家の中でもドズルに関して言えば比較的近い所にいる。

 シン・マツナガもドズルに近い。これは上流階級の内での繋がりがあったためであるが、個人的な友人と言うこともありラルよりもその距離感はずっと密な物だ。

 

打って変わって、シャアに関してはややこしい。

 エースと言えば外せないのがこの男だが、その実はジオン・ズム・ダイクンの息子キャスバルその人。宇宙攻撃軍に所属し、ドズルから一時は艦隊旗艦として使われていたファルメルを与えられるなど覚えが目出度い一方で、本人に忠誠心があるかと言えばそんなこともない。

何せその目的がザビ家の打倒。今それをするつもりはないだろうが、後の歴史を鑑みればダイクン派を纏めてクーデターを起こすことも容易だろう。

 この話にも、目がないと思えばすぐに冬彦を売りにかかるだろう。自分は関係ないという顔をして、自分は国家に忠実な軍人であるからと。そしてそれが間違いではないところが実に手強い。

 ガトーは良くも悪くも理想と職務に殉じる気質であるから、憤りながらも自分から情報を売るようなことはしない。ドズルを知るシンは沈黙するだろうし、味方になること充分有る。ラルは軽々しくは動かない。機を見るはず。故に、問題は動きの読みづらいシャアである。

 冬彦の仕事は、他の三人はともかくシャアに“目がない”と思わせないことになる。

 

「それで。結局の所貴様は何の為に儂らを集めた。情報を垂れ流しにしたいわけではないのだろう」

 

 話が進まないと思ったのか、ラルがそう言った。

 腹の据わり具合は、ジオン建国前後の混乱時に最前線にいた人間だけ会ったこの中の誰よりも一等だろう。

 

「万が一のその時に、敵に付かなければそれで結構」

「それだけか?」

 

 間に人を三人挟み、視線が交錯する。

 

「……わかった。好きにさせて貰う。が、敵にはならん。これでいいな」

「ええ。あ、一つだけ別件でお願いが――」

 

 

 

 ――暗がりの店内での密談を経て、時間は進む。

 

 

 

 





レア博士がたゆんたゆんだったのが悪い。


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