転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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 最近、昔は時々見かけた気合の入った不遇キャラの救済ものや、こう、前書きやプロローグだけでも「あれの二次をやるのか!」って具合にカッと笑わせてくれるものをあまり見なくなったような気がします。
 たまに見かけても、昔から活動されている、見覚えのある方だったり。新しい方ってのは中々ないです。寂しい限りです。

 にじファン閉鎖からもうすぐ三年。

 悪い方に偏った玉石混交の時代でしたが、スコッパーとしては、まあ楽しい時代でしたねぇ(懐古)



第六十四話

 

「演習ぅ? 何でこのぴりぴりした時期にまたそんな……」

 

 ウルラⅡに帰還し、次の予定を伝えた冬彦に、彼がいない間気を揉んでいたアヤメは責めるような口調でそう言った。

 

「しょうがないだろう。他に何も思いつかなかったんだから」

「だからって、ね。……うわ凄い。何この面子」

「副官級以下部隊員はどこも出さない。“がちんこ”だ」

「ふーん……これでうまく行けば良いけど」

「いかないなら、いかないなりにも得る物はあるさ」

 

 許可申請の為に用意した、関連する人員の名前がずらりと載った書類を受け取り、冬彦は頭を掻く。

 目論む所は、演習を通してとりあえず『顔は知っている』程度の仲になっておくこと。ジオン軍人は良くも悪くも軍人と言うより武人然としたところがあり、武闘派として知られるドズル麾下においては他所よりもその傾向が顕著だ。

 軍人と武人。良く似ているようで微妙に違う。

 命令を第一とするか、命令の中でも己の信条を全うするか。

 今回の面子で言うなら、シャアなどは普段から飄々としたものだが、あれで任務は確実にこなすし、深入りを嫌う用心深さもあって軍人寄り。

 ラルなどは自由裁量の及ぶ範囲における行動を見る限りは武人寄り。

 ガトーも、終戦以後も戦い続けた辺りを見るに武人よりとしてしまって良いだろう。

 武人よりの者の中には、情に厚い者が多い。

 この面々がどうかはわからないが、少なくとも、見ず知らずよりはいざという時に何かしらの動きが期待できるはず。

 それ故の、MSパイロット同士による本当の意味での面通しの為の演習だ。

 

「ところでさ」

「うん?」

「冬彦、勝てるの? この面子。凄いよ、ランバ・ラルが表に出るなんて何時ぶりだ?」

「無理。勝てん」

「……あっけらかんと、よくもまあ」

 

 アヤメの言うとおり、悔しげな表情一つ見せず冬彦は言う。

 例えば、話の口に出ていたのが士官学校の同期であるとか、同時期に着任した同僚であるとかならば、冬彦も敢えて口にはせずとも、心の内では勝つ気でいられたのだ。

 しかし相手が悪い。勝てる気がしない相手というのは、どうしてもいる。

 筆頭はシャアだ。シャア・アズナブル。階級は少佐。言わずと知れたニュータイプ。

 一部界隈で散々アムロを倒せなかったとなじられているが、裏を返せばアムロをして撃破出来なかったパイロットがどれだけいるか。

 撃破出来るとは思えない。相打ちの絵すら思い浮かべるのは難しい。そういう手合いばかりが揃ってしまった。

 

あるいは、冬彦自身が揃えてしまった。

 

「誰も彼も勘が良い奴らばっかりだ。いったい誰を狙えば良い? マツナガ家の坊ちゃんか、若手のホープと名高いアナベル・ガトーか? どっちも正面からだと手強そうだ。

アンブッシュは好きだが、そういうのはランバ・ラル大尉のが幾らも上手だし、シャアは何をするかわからん。ついでに、コロニー内の演習場なのに新しい機体は狙撃型。慣らし運転にもなるかわからないな」

「出たとこ勝負じゃ無理そう?」

「厳しい。意表を突ければ何とかなるかもしれないが、むしろ向こうが専門家」

「意表を突ければ、どうにかなるの?」

「少なくともワンチャンスできる。ものにできるかどうかは別だけど」

「……冬彦。“とっとき”の手があるよ」

 

 気怠い、と言うかいっそ無気力に見える冬彦に、アヤメはにたりと笑って耳打ちする。

 二三言呟くと、冬彦の目がかっと見開かれ、

 

「正気?」

 

 割と真顔で、そう言った。

 

「そりゃ、褒められた作戦じゃないってのはわかってる。で、やるの? やらないの?」

「……やってみようか。荷が重いような気もするけど」

 

 そう言うと、アヤメはかっと笑い、内線電話へと手を伸ばすのだった。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 アナベル・ガトーは軍人である。

 ルウム会戦など主立った連邦との大規模戦闘を一通り経験し、MSパイロットとして一角であるという自負もある。

 そのガトーをして、気に入らぬ相手が居る。

 フユヒコ・ヒダカという男。

 ドズルに気に入られながら、その活躍を今ひとつ聞かぬ男。

 それでいて、中佐という高位にいる男。

 風の噂で地上に降りたと聞いてはいたがいつの間にやら宇宙に帰還し、素知らぬ顔でまたぞろ日陰で動き回っている。

 

 そんな男が、突然直接会ったこともないガトーを呼び出した。

指定された場所に行ってみれば、そこにるのは名の知れたMSパイロットばかり。

何事かと話を聞いてみれば、酷く陰謀の臭いのする話。否、むしろ陰謀そのもので。

軍人にとって、命令は絶対だ。

事の善悪。事の好悪。その判断すらも命令を下す者が判断する。

しかれば、今回の事はどうだ。

ドズルは間違い無く一軍の長。その有様は、ガトーの信奉するところ。

しかし、彼が弓を引こうとするギレンは、今の戦時下にあっては国家の長である。

 

ガトーは悩む。

一度認めた以上、それを覆す気は無い。

しかし、かといってそれが正しいものなのか。

 

これがランバ・ラルやシン・マツナガであれば、状況を見てその場においての最善であろう行動を取るだろう。

シャアであるならば、名分の立つ範囲で、自分にとって都合の良いように動くだろう。

 

ガトーは、軍人である。

判断すべき基準は、平文による命令の中にしかない。

命令であって命令でない、陰謀の中の何処に事の正しきが存在するのか。

 

答えを得ぬまま、苛立ちと焦燥は茶と白のドムへと。

その中にいるであろう男へと向かう。

アナベル・ガトーは軍人であり、前であれ、後ろであれ、進むことしかできないのだ。

「まずは小手調べといこうか」

 

 演習は五機ともが別の場所から開始される。

 示し合わせていた時刻に合わせて活動を始めたガトーが最初に発見したのは、茶と白の機体色を持つ、フユヒコ機であった。

 直前に垣間見たランバ・ラルの機体よりもずんぐりとして、一回り大きい様にも見える機体。それでいて頭頂高はほとんどおなじだというのだから不思議に思う。

 馬鹿みたいに大きな砲を提げ、ジェネレータまで担いだ姿はいかにも鈍重そうだ。

 モノアイが捉えるドムに照準を合わせ、トリガーを引く。

 マシンガンから発射された弾が光を引いて飛翔するが、ドムはビルを模した立方体の陰に姿を隠し見えなくなる。

 目標を失った訓練用の弾丸は進路上にあった物を破壊し煙を上げるが、ドムには当たらなかった。

 

「躱すか。だが、やはり思ったほどの反応速度ではない。新型と言うには鈍重にすぎる」

 

 移動しながら、そう独りごちた。

 マシンガンの弾を躱したドムの動きは、予想した物と同じか、それより少し遅い程度。

 装備からしても宇宙戦をメインに想定した機体だとあたりはつけていたが、このコロニー内では人工重力が存在する。地に縛られては、思った通りの動きはできない。

 

「早速だが、決めさせて貰おうか」

 

 相手が鈍足で、得物も取り回しの悪い長物と来れば、ここで仕留めておくにこしたことはない。

 バーニアを吹かし、百二十ミリの銃口を正面に向けたまま障害物を回り込む。

 

 ガトーの推測では、角を抜けたタイミングでドムの持つ長物の砲身の先が見えるはずだった。

 そこからマシンガンを撃てば、丁度出がけのドムのコクピットに弾丸が吸い込まれる様に命中する。

 ――そのはずだった。

 

 だが、角を抜けたときにモニターに映ったのは、迫り来る大きな影だった。

 

「ぬおおっ!?」

 

 衝撃。ただでさえ重MSであるドム。その装甲を増したカスタム機に正面からタックルを叩き込まれては、その衝撃はいかほどか。

 ガトーも、機動を横に抜ける物から背後への跳躍へと変更しタックルの威力を殺そうとする。

 しかし充分に加速しきったドムの威力を殺しきることなどできるはずもなく、機体同士の間に挟まれたガトーのザクのマシンガンが破損し、破片が飛び散った。

地面に跡を引きながら着地し、マシンガンの代わりの武装にヒートホークを選択する。

 

「どうやって!」

 

 間合いがどうのという話ではない。

 距離にして百メートル近く計算を外したことになる。

 その答えを、ガトーは見た。

 

「――得物を捨てたか!」

 

 両手で提げていた砲と、バックパックのジェネレーターが無い。

 

「だが、武装も無しに何が出来る!」

 

 ドムは無手、一方でガトーはマシンガンを失ったが、まだヒートホークがある。

 今回の演習では、弾薬などを補給できるデポジットも用意されていない。

 ドムがパージした武装を再度装備するには、砲はともかくジェネレータは設備が必要になるはずだ。

 

「取った!」

 

 必殺を期し、振り下ろしたヒートホーク。

 演習用に出力を落として居た刃は、胸部装甲の先を掠めるに留まった。

 外した原因は、ドムがその場で行った旋回機動。

 ホバー機だからこそできる動きだ。

 そして、更にスピーカーから聞こえて来た声が、ガトーを硬直させる

 

《はああああああ!》

 

 覇気を纏った、気勢のある声。

 だが、それは決して冬彦の物では無い。

 甲高く伸びのあるそれは……

 

「女だと!?」

 

 一瞬呆け、またすぐに我に返ったガトーがヒートホークを戻そうとした瞬間。

 ドムの拳が、ザクの頭部に叩き込まれた。

 

 

 

「くっくっく……」

 

 数秒間だけ入れていた無線のスイッチを切り、冬彦は後部座席で不敵に微笑む。

 アヤメの策にのり、あえてハマーンに操縦を任せたままにする。

 ハマーンの操縦技術がエースにどれだけ通用するかが問題だったが、不意をつけたことでガトーのザクにダメージを与えた。

 

 ここまでは、予定通り。

 

「これから、どうすればよいのですか」

 

 いつものような無線ではなく、肉声でもってそう問われた。

 問うたのは、前の席に座るハマーンだ。

 バイザーが上がっているために、無線ではなかったのだ。

 

「どうすればいいと思う?」

 

 問題は山積みだ。先ほど補足したシン・マツナガはランバ・ラルの方へと移動したのを確認しているが、シャアはまだ姿を見せていない。

ガトーもすぐにでも立て直してくるだろう。

 おそらくは、ハマーンが冬彦に操縦を明け渡すのが正解だ。

 

 だが、ハマーンは答えない。

 

「お嬢さん。どうしたい?」

 

「私は――」

 

 

 

 





にじふぁんから継続して今も活動してる方ってどれくらいいるんでしょうね。

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