転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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と、投稿だー(小声)
え、えたりはせんぞー?(小声)


第六十五話

 

 

 

「――私は。私はまだ、戦います」

 

 どうして、と彼は問う。

 問われて、振り返る。操縦桿から手を離し、両手を膝の上で組んでいる。

 その様は、まるで教師のようだ。

 

「はっきりいって、残りの連中はお嬢さんが相手にするには荷が勝ちすぎるぞ。俺のやったことだが、武器がないからだいぶ分も悪い」

 

 奇襲だからこそ、ドムでザクを殴り倒すという格闘戦ができた。

 けれど、次はもう同じ手は通用しない。

 懐に入り込んでも、決め手と成る“武器”が無い。

 それに、近づくにしても、そうやすやすとはいかないであろうことは、残りの面子を見れば明白である。

 

 某老パイロットの如く、武器が無くとも拳とショルダーで格闘戦を挑む訳にもいかないのだし。

 

「それでも、やるか」

「彼らは、皆エースと呼ばれる者達なのでしょう?」

「その通りだ。俺なんぞとは違う、優秀なパイロットだ」

「なればこそ、戦うのです。名の知れた者達と刃を交えたなら、それはきっと、得難い経験になるはずです。貴重な機会を、逃したくありません」

 

 ――ハマーンの視線を真っ向から受けて、冬彦はついと目を反らしたくなった。

 

 瞳の奥で揺れる、緋色の炎。

 或いはそれは、本物のニュータイプだけが持つ答えのない“何か”の片鱗か。

 

 数ヶ月前の月軌道で初めて会った少女は、年相応に恐怖に怯えていたというのに。

 

 埒もない。少女の目を見返して、冬彦は笑う。

 強がりである。けれど同時に余裕の現れだ。

 

 何の為に戦うか。誰の為に戦うか。

 少女の答えはどちらでもない。

 よって、少女の答えは答えにはなり得ない。

 

「それで経験を得て、どうする?」

「それは……もちろん、戦います」

「戦うか。そうだな、そのための専用機だ。遠からず、お嬢さんもこの機体で戦場に出るだろうな。けど、それは何の為だか、わかっているのか?」

 

 光が翳り、揺らぐ。

 映るのは、きっと迷いだ。

 

「MSの操縦だけなら、俺一人で事足りる。元々操縦と火器管制を一人でこなせるMSを複座にする旨みはさして無いにもかかわらず、こいつは複座だ。

そもそもお嬢さんに回すべき仕事は無く、ただ座っているだけでも大きな問題は無い。

それをコクピットを拡張して装甲を増してまで、席を増やしてお嬢さんを乗せたのは何でだと思う。何を期待してのことだか、わかるか?」

 

 本当は、きっと言うべきでは無い言葉。

 けれど、敢えて口にする。

 

 言葉にしなくても伝わる物もあるとは言うが、言葉にしてもなおすれ違うことのどれほど多いことか。

 だからこそ、冬彦は彼らエースと対峙するよりもなお強い恐怖を抱きながら、それを言葉に紡ぐのだ。

 

「ニュータイプ。それを期待されている。それでもMSに乗り続けるか?」

 

 ハマーンの顔が歪み、その目には明らかな怯えが浮かぶ。

 思い出しているのだろう。

 月のグラナダの無機質な研究室。人としてではなく、まるで物として扱われた二年間を。

 

「……それじゃあここらで交代だ」

 

 手元のスイッチを切り替え、操縦系を掌握する。

 ハマーンの目が少し見開かれるが、ここからは冬彦自身の挑戦だ。

 

「戦場に出てまで欲しい物が何なのか。わからないなら考えておくように」

 

 

 

 

 

 

「おのれ……謀ったか!」 

 

 ガトーが一瞬の意識の空白から立ち直った時、胸の内から沸き上がったのは怒りだった。

 互いに余人を交えず、実力を知るための演習であったはずが、通信越しに聞こえたのは少女の声。

 モニターに映る、こちらを見下ろす白と茶のドムに乗っているのは、ヒダカでは無かったのか。

だとするなら、声の主は、いったい誰なのか。

実際に剣を交えてこそ見えてくる物もあるであろうと演習に応じたというのに、手ひどい裏切り。これではまるで道化でないか。

 

《人聞きの悪いことを言わないでくれ。私は確かにここにいる》

 

 心中の問に答えるように、通信が入る。

 どこかで聞いた男の声は、紛れもなく冬彦の物だ。

 

「貴様……ヒダカ! これはいったいどういう事だ」

《どうとは?》

「とぼけるな! 先ほど聞こえた声は女の物だ。貴様が操縦するのではなかったのか!」

《だから、ちゃんと俺はここにいるよ。確かに操縦しているのは俺ではないけどね。この機体は複座仕様。操縦はもう一人がしてくれていたよ。

ドズル閣下の秘蔵っ子でね。他所に見せるのは初めてだ》

「詭弁を並べるな! 外道めが!」

 

ドズル麾下においては、武断の風潮が強い。

 気っぷの良い者がいれば、そうでない者も居る。

 しかしそのどちらであろうとも、奸計を用いるような者をガトーは知らない。

 

 カメラを動かして見れば、ドムがヒートホークを拾っているところ。ガトー機が装備していたものだ。

 つまり、武装を捨てた後、相手の武器を回収することを最初から計算にいれていたのだ。

 くみしやすい。そう思われたというのなら。

 

「何たる屈辱……!」

 

《それよりも、いつまでも倒れたままで良いのか?》

 

 ドムのモノアイが一際強く発光し、はっとする。

 ガトーのザクは、仰向けに押し倒されている。

 射撃武器は無く、悪いことに頭の側にビルの模型があり、スラスターによる緊急回避もできない。

今更歯がみしたところで、手遅れだ。

 

「貴様……!」

 

 重装甲MSであるドムの足がザクのコクピットに振り下ろされ、衝撃がガトーを襲う。

 衝撃は一瞬だったが、コクピット内の照明が落ち、メインモニターに大破判定を示す文字列が流れる。

 

 それを見て、ガトーはコクピットに拳を叩きつけた。

 これが実戦であったとして、この一回でコクピットが踏み抜かれたとは考えづらい。

 しかしこれは模擬戦であり、システムはその衝撃から大破判定を出したのだ。

 

「これが貴様のやり方か!」

 

 後のソロモンの悪夢アナベル・ガトーが、冬彦を明確な敵と見なした瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「さて、これで武器は手に入った」

 

 ガトー機が行動不能になったことを示すログを確認し、冬彦はやっと一息ついた。

 ヒートホークを手に入れたことで、とりあえずは戦える道筋はついた。

 後ろの座席にいるままであるため、少々モニターが見づらいが戦闘ができないほどではない。

 むしろ問題は、見えなくなってしまった少女の方。

 

 どうもハマーンはコクピットシートの上で膝を抱えこんでいるらしく、声をかけても返事もない。

 悩んでいるのか、怯えているのか。

 いずれにしろ過去に囚われているらしい。

 

 どうしたものかと悩んでも、原因は冬彦であるから自己解決は難しそうであるし、演習中であるから誰かに投げることも難しい。

 

「おっと?」

 

 悩んでいるウチに、アラームが鳴る。

 振動センサーと熱源反応によるそれが示すのは、ひどく見慣れたシルエット。

 先ほどコクピットを踏みならしたのと同じ、ザク。

 

 けれどその色は赤。

 ピンクのような薄赤と彩度の低い褐色の赤の二色で塗装されたザク。

 

《なるほど、直感には従ってみるものだな》

 

 わざわざ通信を入れてから、姿を晒して位置を知らせる酔狂さは、絶対の自信から来るものだろう。

 

《一度直接まみえる必要があると思っていたところだ。ここは一つお相手願おう》

 

「……シャアが、来ちゃったか」

 

 赤い彗星、シャア・アズナブル。

 彼の駆るザクがその砲口を向けた瞬間、冬彦はフットペダルを蹴り飛ばした。

 

 

 

 




負のスパイラルに陥ってる気がする。
どうすればいい?
景気づけに短編か!?
それとも無謀にも新連載か!?

わかった!
ダンまちにイセリア・クイーンを突っ込もう!(錯乱)

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