転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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第七話 第一次改修

「あー、エイミー伍長。アレは、何かな?」

 

 早朝。ズムシティ工廠の一角。ザクⅠの改修計画を担当する、第六開発局が占有するブロックでのこと。

 薄暗いハンガーの中で、天井から入る光が、一機のモビルスーツを照らし出していた。

 左肩のペイントは、04。これが他所から新しく運び込まれた機体でない限り、紛う事なき冬彦の愛機である。

 

「改修を終えた、少尉殿のザクⅠです」

「……赴任したのが、いつだっかな」

「二週間前です」

「要項と改修計画草案をすり合わせて、とりあえずの方向性を決めたのは?」

「十日前です」

 

 ハンガーにいるのは、早朝にたたき起こされた冬彦と、たたき起こしたエイミーと、あと隅の方の邪魔にならないところで雑魚寝しているプロジェクトチームである。

 

「……もう、出来たの?」

「できましたね。これが少尉殿の新しいザクⅠです。まあ、これならⅡA型となら張り合えるでしょう」

「早すぎるわっ! 俺も幾つか案を出したりしたけど普通十日で出来るのか!?」

「もちろん、普通はできません。しかしここは天下のズムシティ工廠ですよ。プロジェクトチームにローテーション三交代の体制をしいて不眠不休で仕上げました。所詮はバリエーション機、“ガワ”が同じならそう難しいことではありませんでしたね。まぁ、それで何人か倒れたので、残念ながら試験は明日になりますが」

 

 それでも明日やるんかいっ、という冬彦のツッコミも、エイミーはどこ吹く風で、雑魚寝しているメンバーも起きる気配はみじんもない。

 

 

 

 宇宙世紀0077、いよいよ年の暮れといった頃のことだ。ジオン驚異の技術力。あるいは枷を外された技術者の行動力。その一端を、冬彦はまざまざと見せつけられていた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「ちゃんと動いてるよ……爆発とかしないだろうな、コレ……」

 

 生まれ変わった?乗機との対面から、翌日。冬彦は早速機中の人となっていた。

 案を出した冬彦自身が言うのもあれなのだろうが、こんな早くに出来るとは思わなかった、というのが本音である。

 というか普通は二週間程度で改修が完了する方がおかしいのだが、そこら辺を担当したプロジェクトチームに言わせるならば、なんやかんやの部材さえ揃っていれば試作機の一機や二機はすぐにできるのだとか。その辺りはジオンが誇るズムシティ工廠だけあり、少し隣のブロックの知り合いや上司に頼めば割とすぐに回してもらえたそうだ。

むしろ難しいのは、そこから実際に動かしてみて本当に問題がないか、想定外のエラーが発生しないかをチェックする行程らしい。

 

《失礼な》

 

 通信機越しに、今回のテスト試験でモニターを務めるエイミーの憮然としたようすが伝わってきた。

 なお、彼女の担当箇所はセンサー系である。

 

《大丈夫ですよ。万が一の際はこちらからでも緊急停止ができるようにプログラミングしてあります。安心して噴かしてみて下さい》

「……わかった。MS―05先行改修試験型、ヒダカ機発進する」

 

 一抹の不安を残しつつ、冬彦は機体を試験隊用の観測機器が増設されたパプアから発進させた。

 

 ここで、先行改修試験型についての説明をしておこうと思う。

 

 冬彦が改修を請け負うに当たり、まず考えたのは任務ごとの仕様特化である。

ザクⅠ、ザクⅡともに、分類でいうならば汎用機。ザクⅠでザクⅡ並に全ての場面で活躍できるようにしようというのは、流石に外見の大きな変化無しには難しい。だからギレンも運用方法の刷新を前提に計画を振ってきたのだ。

そこで、冬彦が選んだ運用法は、一つは対艦戦用として特化させた雷撃仕様。もう一つは、艦隊直掩としての対空防御仕様だ。

それらの仕様を満たすための改修によって目指すところは大きく四つ。

 一つ、防御力の向上。

 一つ、機動力の向上。

 一つ、火力の向上。

一つ、コクピット内装の見直し。

 あくまで限られた用途でのことであるから、要求される数値もそう厳しい物では無い。もし仮にここでコンペに落ちたツィマッド社のヅダ並の最高速度を要求されたなら、冬彦は匙を投げ、技術者は新たな難題、その先の未知に狂喜乱舞するのだろうが、あくまで目的は先の二つである。

 

 まず、防御力の向上についてだが、これは要所への装甲の追加と新規の盾の追加でもって成されている。

 装甲の追加箇所はあくまで生存性の向上の為に胸部に。重量の関係があるため、特に正面装甲のみに限って改造が行われた。

 さらに盾についてだが、これは対空防御仕様のみの装備となった。既存のナックルシールドのナックル部分を切断。平面な鋼板にしてそれを三つ並べて、大きな防御専用の盾に。さらに重量を少しでも軽くすべく片側の表面を曲線を描く傾斜をつけるように削り、完成とした。

 この大盾の目的は懐に入ってきた敵戦闘機、セイバーフィッシュの攻撃から身を挺して艦船を守ることである。機銃よりも、どちらかといえばミサイルへの対抗措置だ。

 懐に入られる前に迎撃できれば良いが、一度ミサイルを発射されてしまってはなかなか迎撃するのは難しい。

かといってザクをそのたびに犠牲にしていてはすぐに数が足りなくなる。

なので、仮に数発であろうと正面から受けても耐えられる仕様にしたのだ。もちろん艦船に接近される前に迎撃し、攻撃を受けない方が良いのは言うまでも無いのだが。

 

 次に、機動力の向上だが、これは仕様の違いで大きくことなる。一応両者共通の改修としては主機が一部の部品交換でやや小型になったという点がある。

防空戦闘仕様の方が背部のランドセル上部に後のF2型のような小型バーニアを二つ追加して、最高速度よりも旋回能力、小回りを優先したのに対し、雷撃仕様は完全な最高速度を求めた形だ。

 最高速度の増加を目指し技術陣が行った事を簡潔にまとめると、小さなランドセルの中に諸々を納めることを諦め、ハードポイントの増設で外付けの使い捨てロケットブースターを設置できるようにしたのだ。当然、この方式なら本体出力を気にする必要も無い。

要は、一年戦争後半に出てくることになる水陸両用機用のロケットブースターを宇宙で使おうと言うのだ。ある意味ではヅダ並と取れなくもない。片道切符だが。

 

 そして、火力の向上だが、これはもう武器依存しかなかった。マシンガンはⅡと共通の物を使い、バズーカは雷撃用に弾種と炸薬の種類の変更、他閃光弾やクラッカーの携行量増加など。残念ながら、マゼラ・アイン空挺戦車の方を流用する案は没になった。

 

 最後に、コクピット内装の見直し。必要無いようにも思えるが、これは非常に重要で操作性に直結する。そして操作性は機体の防御力以上に生存性に直結する。

某彗星さんも言っていたように、当たらなければ良いのだ。しかし、これが案外くせ者だった。主機の若干の小型化でやや空きが出来たが、あくまで微々たる物。

そこでやるべきことは、機体内部の電装系のスリム化である。しかし、これに関してだけはプロジェクトチームをしても難しかった。

 ハードの方は部品の交換やら端末の統合やら、現状の見直しで何とかなるが、ソフト、特に操縦関係はヘタにいじれないのだ。

 ただでさえ、二足歩行だけでなく戦闘行動を可能にするために非情にデリケートなプログラムが組まれている。改良できれば革命的な何かが生まれるかもしれないが、ヘタにいじるとかえってバランスを損ねてしまう。

 

 この分野は某恋愛原子核が身を以てその重要性を証明してくれたため、冬彦としても多少なりともいじりたかったのだが、やはり難しかったらしく、今回は断念となった。

モビルファイターとまではいかずとも、レイバーのような細かな動作も実現はまだ先になるらしい。

 しかし、その分ハード分野を徹底していじった結果、それなりの物が出来ていた。サブモニターを幾つか統廃合し、その分メインモニターを薄く大型に。

 さらに、他でも無いエイミー伍長の発案で、センサー系を強化することになったのだが、これが冬彦も含めたプロジェクトチームの中で大論戦を巻き起こした。

 

 外観は、基本的に大きくいじれない。当然、外部センサーを装甲の上に増やすのは難しい。防弾性も落ちる。そこで、モノアイレール前の支柱を取り払った上で、同軸上にもう一つ、センサーカメラユニットを追加しようというのだ。

 

 ジオンのモビルスーツの象徴たるモノアイが、モノアイで無くなる。論戦が起こって当然である。死活問題と言って良い。

 

 確かに、機能的な面で言えばセンサーユニットは多い方が良いのは良いのだ。ミノフスキー粒子下で物を言うのはレーダーではなく光学機器類であるし、後に開発される偵察特化型のMS―06E―3、ザクフリッパーなどはその最たる物で頭部に三連カメラモジュールが搭載されている。シルエットそのものも大きくは変わらない。

 

 しかし、だからといってモノアイをそうそう簡単に捨てて良い訳では無い。ジオンといったらモノアイ。これが基本なのだ。そこには、ジオニックやツィマッドのような会社間の問題さえ置き去りにされるくらい大事な事なのだ。

 例外的に、偵察特化型や、アッグガイの複眼などがあるにはある。しかし、この時代はまだMSと言えばザクⅠ、ザクⅡ、ヅダ、クラブマンに至るまで、全てモノアイ。それを捨てるというのがどういう意味を持つか。

 今後のモビルスーツシリーズのセンサー系、その全てに影響を与えかねない事案なのだ。

 

 この論争をまとめるのに、三日かかった。よく三日でまとまったと見るべきだろう。これが完全な新型の開発だったら半年かけても絶対にまとまらなかっただろうから。

 

 結果、試験的な意味も兼ねて、例外的に、極めて例外的に対空防御仕様の冬彦機にのみ採用され、ツインカメラのザクⅠが生まれたのだった。

 

 

 

ちなみに冬彦は、意外や意外容認派である。後のジオンモビルスーツがツインカメラになりかねないこの事案になぜ冬彦が乗ったのかというと、提案が補佐であるエイミー伍長だったために人間関係を壊したくなかったこと、冬彦が決断しなければほとんど不採用で決まりそうだったことから、グフやドムなど後のモビルスーツではおそらく採用されないだろうという半ば確信があったこと。

そして、案外霊子甲冑みたいで格好良くなるかもしれないという期待があり、ちょっと見て見たくなったことがあげられる。

 

 

 

これで改修はひとまずの完成となるのだが、ここで一つ問題が出てくる。の二種の仕様はどちらも宇宙空間での戦闘しか想定していないのだ。

地上ではまず運用が難しい、というかおそらく何かしら不具合が出るだろう。地上においてこの大盾など持っていては、まともに動けず良い的になる。

 

 さらに、対空防御仕様は盾以外にはそう目を引く変化は無いため要項を概ね満たせているが、雷撃仕様は後部にブースターユニットをつけたせいで外観が結構な割合で変化してしまったためそうはいかない。

実際に対艦戦闘が起こるまでは実機を運用する機会がないため、問題無いと考えているが、実際に判断するのはギレンの総帥府だ。稟議書を提出しているため、その返答待ちにはなるが、おそらくは通るはずだ。

 

 

 

 とにかく、これで一応試作機は完成した訳である。今回の実証試験に当たり、用意されたのは対空防御仕様のみだ。雷撃仕様は稟議書の結果待ちであり、今回は試験を行わない。

 

 パプアのブリッジからは、試験機そのものは見えずとも、噴射光が白い尾を引いているのはよく見えた。

 そして、それ以上に彼らは増設されたモニターを食い入るように見つめていた。情熱が冷めぬ間に、出来ることは全て打ち込んだつもりであるが、やはり結果が出るまでは安心できないのだ。

 例えば、使用した部材に表面からではわからないような内部の損傷があったら。

 例えば、更新したプログラムにほんのわずかな打ち間違いがあったら。

 

 ほんの小さな一つの異常が、全てを失わせるのだ。一瞬で、全てを。

 

 それら異常と正常の境界を、モニター上のめまぐるしく変化する数値とグラフが、全て教えてくれるのだ。

 

「……少尉殿、どうでしょうか」

《――――》

 

 エイミーが、通信を送るが、返答は無い。しかし、異常が起きたようにも見えない。

 

 遠くに見える噴出口は左右に軌跡を振りながら、時に緩く、時に急な角度で持って旋回や加速を繰り返している。

 

「……少尉?」

《――ああ、うん、聞こえている》

 

 今度はちゃんと返答が返ってきたことに、エイミーのみならず、ブリッジにいる誰もが安堵する。

 少なくとも、故障では無かったらしい。

 

「少尉、先ほどの通信の返信が無かったのは、何か異常が起きたからですか?」

《――いや、そういうわけじゃないんだけっ、どっ……》

「何かあるなら、ちゃんと報告していただきたいのですが。情報の把握は必須ですので」

 

 多少、険のある言葉。だが、しょうがないことだ。先の理由から、些細な違和感も今は見過ごしてはいけないのだから。

 

 冬彦の返しは、そういったものではなかった

 

《――あー、その……これは、良いよ。これならきっと、今までのザクⅠよりずっと楽に戦える。これまで乗ってたのとは、かなり違う。小回りがきくし、予想した通りの機動ができてる。成功で、いいと思うよ》

 

 モニターの数値は、規定値をどれも超えていない。心配していた、腕部関節箇所の負担も、想定値内だ。

 

《――ヒダカ機。これより帰投する。胸を張って帰ろう》

 

 何人かが、無言のまま、ガッツポーズを取っていた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「……ふむ。対艦戦を目的とした爆装と、連邦の宇宙戦闘機に対抗する為の対空防御仕様、か」

「こちらが、さきほど届いた実証試験の結果です」

 

 つるりとそられた顎に手をあて、ギレンはあげられてきた稟議書を見る。既に試作機も完成している、とある。

 

「いかがなさいますか」

「対空防御仕様の方は良かろう。だが雷撃仕様は駄目だ。ザクⅡに戦意高揚のための華を持たせる必要がある。そのための新型だ」

「では、片方のみの採用と?」

「そうなるな。……しかし、うむ……」

「……何か、いたらぬところがありましたか」

「こう、目が二つあるザクというのも、思いの外違和感があるものだな」

 

 ギレンの言葉に、補佐官はなんとも言えない曖昧な相づちしか返せなかった。

 

 宇宙世紀0077、年の瀬の一幕である。

 

 

 

 




 疲れた。こういうのは楽しいけど疲れます。
 あとネタをぶっこみすぎた感がありますけど、気にしてはいけません。
 レイバー?霊子甲冑?わからなければ調べましょう。全部知ってた人はちょっと友達になれそうな気がする。

 それと、近々タイトルとサブタイトルを変える可能性があります。ご注意ください。

 ご意見ご感想誤字脱字の指摘その他諸々、何かありましたらよろしくお願いします。

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