転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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第八話 分岐点

 

 

 宇宙世紀0078、十月。

 

 一年戦争勃発まで残り二ヶ月ほどとなり、いよいよサイド3では戦争にむけての動きが活発になりつつあった。

 ザクⅡCの制式配備や、士官学校の繰り上げ卒業。街中には戦意高揚のためのプロパガンダが溢れている。

 そんな中、冬彦はどこかに出かけるでもなく、ズムシティにある自室にて、机の上に置いたある物を目の前にしてじっと考え込んでいた。

 

 一つは、ケースに入った“大尉”の階級章。

 

これは、年度明けにザクⅠ改修が評価され中尉に昇格した後も、ズムシティでそのまま固定となった第六開発局の面々とせっせと武装の改修や開発、他にツインカメラの運用データ報告などを続けた結果、さらなる昇進が決まったのだ。ただやはりというべきかツインアイは冬彦機のみの採用となってしまったが。それ以外は他の機体にも順次行われるらしい。

ザクⅠ改修以降の成果は細々とした物が多くそう目立つものはないが、ザクマシンガンの銃身を延長して集弾性と弾の初速をあげたロングバレルタイプの新型MGや、クラッカーに代わるグレネード。他に二ヶ月に及ぶツィマッドとの交渉の結果勝ち取ったヅダ用の対艦狙撃砲のライセンス生産と改造の許可などがそうだ。

 

ただ、前世でもって色々なアニメを見た冬彦としては、他にも造ってみたい兵器は幾らでもあるのだが、残念ながら彼は技術将校ではなく、技術将校みたいな見た目をした普通の将校(MSパイロット)である。

ズムシティに居着いて早数ヶ月、周りからも技術将校と勘違いされつつ在ろうと無理な物は無理。

案はあれどもそれを実現するための理屈や理論がいまいちわからず、概要を第六開発局の面々に伝える事しかできないのだ。

 もっと言えばたかだか一中尉の言うことでは、余り大きな計画は承認が降りない。艦船の新造計画などもってのほかである。

 

 とにかく大尉ともなれば、将校として実感がもてる階級である。いよいよ次は佐官であり、金属製の徽章を光にかざし、燦然と輝いているのを見るのはなかなか乙な物だ。

 

「……現実逃避はここまでにしておこう」

 

 徽章の下にある、『配属先希望書』と銘打たれた一枚の書類。

 

「どうしたものか……」

 

 十月に入り、公国軍にも大きな動きがあった。国家総動員が発令されたのにともなって、軍が分割され、新しく宇宙攻撃軍と突撃機動軍が設立されたのだ。

 

 それに合わせてアルベルト・シャハト技術少将からズムシティ内のオフィスに呼び出しを食らって直々に渡されたのがこの『配属先希望書』である。大尉への昇格通知と一緒に来たあたりたちが悪い。

 なるべく早く提出するように、とも言われたが、中学校のプリントでは無いのだからそんなことは言われずともわかっている。

 

 しかし、中々判断が難しい問題であるのもまた事実。

 ジオン公国軍が分割されたことにより、随分と冬彦もよく知るジオン軍の形になってきている。そんな中で、今書ける選択肢は四つ。宇宙攻撃軍、突撃機動軍、総帥府、技術本部だ。

 宇宙攻撃軍はドズル・ザビの麾下にあり、公国の中でも規模では最大を誇る。

 突撃機動軍はキシリア・ザビの麾下であり、後々出来るガルマ・ザビの地球方面軍も形の上ではここに属することになる。

 ギレン・ザビの総帥府は親衛隊、首都防衛隊を擁していて、新設された二軍の上位に位置する。さらには技術試験隊を運用する技術本部も直接の管轄下に置いている。

デギン・ザビ、及びサスロ・ザビ両名は直下の戦闘部隊を持っていないので、ここでは関係ない。 

 

 別に、冬彦個人としてはシャアのようにザビ家の面々に思うところは無いので、そういう意味ではどこでもいいとも言えるのだ。強いて言うなら、流石にガルマ麾下として設立される地球方面軍は居づらくなるような気がするので、避けたいという程度のこと。

 しかし、これがどこなら生き残れるか、という視点で考えると、とたんに話難しくなる。どこに所属しても、初期は問題は無い。戦争初期は勝ち戦が続く。問題は中盤以降、特にガンダムが開発されてからはいろいろと酷い。

 宇宙攻撃軍は最終的にソロモンで壊滅するし、生き残ってもさらにもう一回試練が残っている。

突撃機動軍は部隊の種類が多岐にわたるため所属先によっては生き残れる確率は充分に高いものの、部隊ごとのくせが強かったり、ニュータイプ研究機関であるフラナガン機関が属しているなど、どうも死亡フラグ以外にも嫌なフラグが付きまとう。

 さらに、キシリアその人がギレンといまいち仲が悪く、今から配属されたとして、どのような扱いになるかがわからない。

 ここで親衛隊に目をむけてみても、ギレンの親衛隊と言えばみんな大好きデラーズ・フリートである。配属先に希望するには中々勇気がいる。技術試験隊も死亡フラグの連続でありもしかすると一番キツイかも知れない。

 

 まぁ、結論を出してしまえばどこを選ぼうと一長一短。死ぬ確率が0の所など存在しない。

 何せ、戦争だ。テレビの向こうの事では済まされず、ザクに乗りたいというふざけた理由で自ら首を突っ込んだ。

 殺す覚悟なんてものは無いが、かといって死にたくもない。モビルスーツに載っている間は、モニターの向こうのことだと言い訳もできる。

 後は、冬彦がまだ覚えている範囲の原作知識と、僅かばかりに成し遂げられた少しのジオンサイドの強化で、スタートダッシュをどれだけ稼げるか。

 後は、なるようにしかならない。かといって、天に全てをまかせるなんて気もない。

 

 できることは限られている。思いつく限りはやったつもり。

 

 上手くいくかはわからない。だが、終わった後で、生きていたなら思いっきり笑って締めくくってやろう。

 

 願わくば、見知った仲間が多少なりとも一緒にいたなら、ついでに酒でも酌み交わそうか。

 

 そう考えた時、ふっと冬彦の頭にある考え浮かぶ。

 

 どうせ、自分には目の前の物事をまともに考えることはできない。どうしても、機動戦士ガンダムとしての色眼鏡を外せない。

 

 だから、どうせなら。どうせ現実を非現実としか見れないなら、一番楽しそうな所はどこだろうか。

 

 俗に生き残りフラグが最も高いと言われる、一本気の通ったドズル麾下の宇宙攻撃軍か。

 

ニュータイプ研究機関に強化人間、非正規部隊まで抱える、何が起きるか予想もできないキシリア配下の突撃機動軍か。

 

 はたまたギレン擁する親衛隊に入って、エリート街道とやらを目指してみるか。その場合は、せっかくのザクⅠ改は置いていかなくてはならないだろうが。

 

 いっそ、開発局に居座って、ザクⅠをどこまでいじれるか、探求の徒を真似してみるか。

 

 可能性だけは、幾らでもある。やはり、それに大小が付随するだけだ。結果を見ることができるのは一度だけ、死ぬのと同じで、目が出るまでは五分五分だ。

 

 

 

「――よし」

 

 

 

 意を決して冬彦は、己の意志を書き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただこの時冬彦は気づいていないが、『配属先希望書』はあくまで希望をとるためだけのもの。

 

人事部が参考にするだけであって、これを書いたからといって、それで決定するわけではないのだ。

 

 要は、悩み損である。

 

 

 

 




 レッツキンクリ回。今回は短いです。眠いんです。勘弁してください。

 次回あたりでいい加減戦闘もやってきます。0079だぁ。

 ご意見ご感想誤字脱字の指摘その他諸々ありましたらよろしくお願いします。


 追記。ほとんどの人は、サイコガンダムMk-3なんて知らんのでしょうね。私も昔に小さな絵を見たことがあるだけで詳しいことは何もしりませんけど。

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