艦これ短編集――艦娘のごった煮――   作:fire-cat

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艦娘の名前が出ていないのは仕様です。決めてなかったんです(2回目)


還らざるあの日々(??)

 艦娘について聴きたい? 貴方も物好きなのね、わざわざこんな御婆ちゃんのところまで聴きに来るなんて。

 

 200年も前の事なんてもうあんまり覚えていないけど……そうね、少しだけならお話しましょ?

 

 

 あの頃の私達は生まれたての未熟な少女だったわ。年齢じゃなくて精神的にね。

 

 戦う事だけがすべての何も知らない、知らなかった子供だったの。空母や戦艦の艦娘も、ね。

 

 私も、そう。

 

 私は建造によってこの世界に生を受けたわ。

 

 建造の事は知っているわよね。

 

 そう、初めて提督の前に立った時は工廠の扉が開いてから執務室に行くまで私たちはふるえすぎて歩くことも満足に出来なかったわね。

 

 そう、同時に建造されていた艦娘―姉だったのよ―と妖精さん達に渡された真っ白な軍服を互いに握り合って手あかで汚してしまったわ。

 

 え? そうは見えない? ありがとう。でもね、初めてはそんなものだったのよ。艤装もなかったから年相応の娘だったの。

 

 初めて挨拶をした提督は私達の袖が皺になっているのを見て苦笑いしてね、今でも思い出すわ……。

 

 初めて艤装を着けて海に出たのがそれから4日か5日後だったわね。初めて湾内を一回りして気分が高揚したのは鮮明に覚えているわ。ああ、これが私の生きる意義だって。

 

 それから随分月日も流れていったわ。月日は流れたけれどもいつでも私達は手をとりあい励ましあってきたわ。

 

 え? 恋はしなかったのかって? 随分聞きにくいことも聞いてくるのね。まぁ良いわ。

 

 そうね……最初に恋をしたのは工廠長だったわね。え? 意外? いいじゃないの。あの人に出逢って愛されることも知ったわ。提督もすぐに気が付いて一緒に暮らせるように取り計らってくれて……。

 

 その人とはどうなったかって? 普通は聞きにくいことを本当に訊いてくるわね、貴方。答は、その愛をたち切って泣いた事もあったとだけ言っておくわね。

 

 何故って……淑女にそんなことは訊くものじゃないわよ。まぁ良いわ、教えてあげる。

 

 今でも忘れられない、忘れてはいけないって今でも悔やむ事がね、起きたのよ……。

 

 ええ、前線の鎮守府ではあった事よ、聞いた事があるでしょ? 深海棲艦による空襲って。その顔なら察していると思うけど、提督がその空襲で戦死されたわ。工廠長も下半身不随の重傷を負って。

 

 一時は工廠長を支える為に引退も考えたのよね。でも私は艦娘だった。あの人も私の引退は望まなかった。

 

 そして、互いに納得の上で別れたのよ。もちろん最初は艦娘の我が身を嘆いたわ。初めて愛した人だったもの。一緒にあの人と同じ道を歩みたかったって。でも、あの人と最後に逢った時に諭されて、想いの丈をぶつけ合って、それで認めたの、これが私の歩む道だって。

 

 それからは戦う事と戦いに備えての演習や遠征の繰り返し。

 

 今思うとあの時傾けた情熱は何のためだったのかしらね。

 

 私達が言う事じゃないかもしれないけど、何らかの存在に導かれて目隠しをされたままの様に私たちは戦ってきたわ。生まれた最初から深海棲艦が滅びる最後までね。

 

 戦う事が私達の生きている証だって大本営や提督達のいう事を素直に信じてね、文字通り死力を尽くして戦ってきたわ。

 

 そしてあの最後の日を迎えたの。

 

 いつまでも思い出すわ、あの日の事は……。

 

 ――――

 

  私たちの戦いは漸く終ろうとしている。長きにわたって続いた深海棲艦との戦いが。

 

  明日から始まる私達にとっては経験したことのない不思議で素晴らしい日の為に奮戦した最後の艦隊が戻ってきた。

 

  そして――勝利の喜びと私達艦娘全ての人間化という大きな知らせが齎された。

 

―――― 

 

 

 鎮守府がなくなるって聞いた時は私達の間でも随分戸惑いもあったけど、最後は皆笑顔でお別れをしたわ。

 

 鎮守府の彼方此方ですすり泣きながら言葉を交わす子達で、卒業式のようだったわね。もっとも闘いの日々からの卒業って意味ではぴったりだったのかもね。

 

 私達が最後に鎮守府艦娘の代表としてあいさつをして。

 

 え? ああ、言わなかったかしらね。同時に建造されていた姉とは最初から最後までずっと一緒だったわ。

 

 今でも思い出すわね。あの当時、姉は良き友で良き姉だったわ。

 

 最後の挨拶の前はお互いに、二人で一緒の挨拶もこれが最後ねって笑って。

 

 挨拶を終えてもお互いに、さよなら姉さん、さよなら妹、さよなら親友って声があちこちで囁かれていたわね。

 

 鎮守府を出た私達の目の前で門が閉められた後も、さよならよき友よ、さよならよき人よって手を振りながら最後に、再会を約束して別々の道に。

 

 ええ、私達も全員の姿を見送って、さよなら姉さん、さよなら妹ってね。

 

 あの時で二人で一人の人生ともお別れだったのよね。

 

 え? その後はって? ああ、皆と会っていたりしたのかって? ええ、もちろん。同窓会的なものを開いて互いの近況を報告して、時には励ましあったり、惚気話に燥いだり。でも、そのうち皆愛する人や家族が出来て次第に会うことも少なくなっていったわね。最初の十数年はね。

 

 貴方も何となく判るでしょ? ええ、私達元艦娘と一般人との結婚ってある意味残酷なものよね。私達はいつまで経っても年を取らないのに、愛する人は次第に年を取り衰えて、最後は看取ることになって。

 

 愛する人が先に逝った頃からまた鎮守府にいた元艦娘同士で集まることが次第に多くなって。

 

 私も愛する夫を3人見送って子供も15人、孫も60人、曾孫を30人も見送ったら流石に堪えたわ。だから共同生活施設に入って今はここにいるの。姉も一緒にいるし。

 

 ええ、ここから出ていく気はないわね、たとえ昆孫の貴方の誘いでもね。

 

 ごめんなさいね、貴方の言いそうなことはわかっていたの。でもね、もし昆孫の貴方にまで先に逝かれちゃったら私もさすがに耐えきれないから、ね。

 

 このまま、ここで暮らして先に逝った提督や工廠長、一緒に暮らしたあの人たちのお墓参りをしながらお迎えが来るまで生きていくわ。

 

 

 

<Fin>




 艦娘の引退=人間化です。
 引退(=人間化)した艦娘は、人間と比べてかなり緩やか(老化速度が人間の3分の1くらいの速度)ですが、同じように年を取ります。
 本文で「私達はいつまで経っても年を取らないのに」と言っているのは普通の人と比べるとという意味程度に捉えてください。
 人間化した際、海防艦娘や駆逐艦娘といった人間ではまだ成人に達していない外見の艦娘はかなり緩やかですが成長期を迎え、成長期を終えてから緩やかに老化していきます。


 登場する艦娘は最初のパートナーと出会った時の外見は10代後半でした。死別した時の外見が20代半ば。
 次のパートナーと死別した時の外見が30代前半
 3人目のパートナーと死別した時の外見は40代前半。

 3人目のパートナーと死別した時は童顔で同じ艦種だった元艦娘の外見の年齢よりだいぶ若く見えたこともあり(同じ艦種の一般的な元艦娘の外見は50代前半)再婚を勧める人もいましたが、3人目のパートナーを亡くした時点で人間化して165年の歳月が過ぎ、最初のパートナーの曾孫も亡くなり始めると流石に堪えた様で以後再婚することもなく艦娘の共同生活施設に入所してしまいました。
 昆孫が訪れた時の外見は60代前半を想定しています。


 最初のパートナーの昆孫=二番目のパートナーの玄孫=三番目のパートナーの孫が同世代です。あ、家系図なんて書けませんからね、面倒くさいので。

 因みに元艦娘は最後まで心身壮健で、最後は眠るように逝くという設定です。
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