艦これ短編集――艦娘のごった煮――   作:fire-cat

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故郷、大淀さんで公開しましたが元は扶桑さんが主役でした。
続きと合わせると、思いっきり不幸にしてしまうので大淀さんに代えたんですが、やっぱりもったいないので公開w


故郷(扶桑版)

「ずいぶん変わったな……ここも」

 

 私は思わず呟いていた。

 

 提督という地位を退いてもう何年になるだろう。

 初配属となった鎮守府の古くからの戦友―扶桑―と仮ではない婚姻をし、提督という地位を退いた後、大元帥陛下直々に乞われ軍学校で教官に対する指導教官となってからも長い事経つ。もう教えられることは全て教え尽くした。

 当代の大元帥陛下に引退する意思をお伝えしたのは枯葉も舞い散る昨年の暮れのことだった。

 当然、強く反対され過分な遺留の言葉もいただき、軍事参議院の軍事参議官への打診も頂いた。

 しかし……私を取り巻く周囲の人も環境もずいぶん変わってしまった。

 先代の大元帥陛下もお隠れになり、見渡せば戦友の顔も随分減っている。胸を去来する寂しさに、もうここらが潮時、と私は決めていた。子供達も立派に成長し巣立って行った。教え子たちも十分な風格を備えている。もう私がいなくとも大丈夫であろう。

 妻とも相談し、私達は私が生まれ育った地に帰ることにした。両親の葬儀以来何十年ぶりかの帰郷であった。

 

 道中、妻からせがまれ私は生まれ育った故郷の話をしていた。

 かつて暮らした故郷、よく虫取りに行ったあの林。そして、懐かしい友と遊んだあの小川。どれも私には掛け替えのない思い出だ。

 そんな風景を思い浮かべ、汽車に揺られながら懐かしい地へ向かった。

 しかし、幼いころ遊んでいた懐かしい風景も年月の経過と共に様変わりしていた。

 

 

 元はビルが立ち並んでいた一帯は錆び付いた鉄骨がむき出しの崩れかけた瓦礫の山やかろうじて壁面が残った建物が立ち並ぶ廃墟と化していた。

 崩れかけた家が続く住宅街とそんな中にぽつぽつと点在している未だ生活の匂いが感じられる家。

 私が離れたときは交通量が多い、地域の幹線だった筈の道路はところどころに穴が開いたままの廃道と化している。

 記憶にある林は健在だったが、虫取りに行ったり登って遊んだ大木はそびえたつ炭と化し、緑が色づいている木々もよく見ると焼けた跡があちこちに残っている。

 

 

 度重なる戦争の傷跡で昔の面影は全く消えてしまっていた。

 ……そう、私の故郷は古くから軍とともに在り、深海棲艦との戦いでも鎮守府と苦楽を共にして来た。それ故に幸いにも提督の適性のあった私は軍人になり、家族に楽をさせようと、故郷の発展に貢献しようと励んできた。それなのに……。

 残っていた住民の話を基にすると、5年前にあった深海棲艦の大攻勢が故郷に止めを刺したらしい。

 鎮守府が壊滅し放棄が決まった後、そこに住んでいたものは殆どがここを捨てて他の新天地に移っていったということだった。

 ここにいるのは故郷を捨てきれなかった者ばかり。

 私の故郷はなくなってしまったのだろうか。

 やはり、帰ってくるべきではなかったのかもしれない……。

 昔登っていた丘に二人で腰を掛け眼下の風景を見つめて、そんなことを考えていた。

 妻にも随分苦労をかけてしまうだろう。もしあのまま軍事参議官の地位を受けていれば苦労はしなくても済んだはずだ。

 

 

 どのくらい坐っていただろうか。

 妻が私に話しかけてきた。

 

「……いい景色。あそこの川はなんて言う川かしら?」

 

 ……私はその名を思い出せなかった。子供のころよく遊んでいた川なのに……。

 

「……行ってみようか……」

 

 妻を誘い、川原に下りる。

 水辺では無邪気に燥ぎ戯れる子供たちの姿があった。

 ……故郷の街並みは既にないのに、この川のせせらぎだけは昔と変わらない。

 少し大きめな石に腰をかけ、ぼんやりと流れを見るとはなしに眺めていた。

 

 

 

「……なた、あなた」

 

 妻の呼ぶ声に我に返る。妻は少し上流の水辺で子供たちと一緒に何かを拵えては流している様であった。

 妻の射干玉の髪が水面に広がっていた。

 

 何をしているのだろう……。

 

 ふと、眼前の石に何かが引っ掛かっているのに気がついた。

 小さな葉で作られた舟のようなものだった。

 ――草舟。

 私の脳裏に幼い日の記憶が鮮やかに甦る。

 そうだった。私も昔、ここで、いくつもの草舟や笹舟を流した。いくつもいくつも。

 舟は、頼りなく川面に揺れていた。

 私はゆっくりと歩み寄ると、その妻が流したらしい草舟を手に取った。

 舟は小さな肉厚の葉で作られていた。どことなく愛らしい雰囲気を持つ舟だった。

 改めて流れに手を伸ばし、そっと置いてやると、それは静かに進み始めた。どこまでも、どこまでも――。

 




 

 じっとその男の表情を見守る女。男の顔には穏やかな笑顔が戻っていた。

 子供たちに手を振り男の下に近づく。

 

「……あなた」

 

 女が呼びかける。

 

「……もし、あなたさえよかったら、私の家へ行かない?」

「え……?」

 

 男が女の顔を見つめる。

 

「ここみたいに小川はないけど、高原で湖に面した白樺林の中に小さな家を買ってあるの。……知らなかった?」

 

 男の態度に言葉を続ける。

 

「私が現役の艦娘だった頃、無事に引退できたら住もうって買った小さな家だけど、私達二人くらいなら不自由なく暮らせると思うわ。艦娘の頃から時々外泊届を出して様子を見に行ってたから家の造りには問題ない事はわかっているの。貴方と結婚したときにも売ろうって思ってたんだけど一度売りそびれちゃうとなかなか売れないのよね。日常の管理は業者任せだったわ。子供達と行く機会もなかったから、もう売ろうって思ってたんだけど売らなくて良かったわ」

 

 その妻の言葉に男は瞑目し空を見上げた。

 そして深く息を吐き、思い出に別れを告げる。

 視線を変えると、水を掛け合ったり燥ぎ続けていた子供たちが二人に手を振っている様子が男の目に映った。

 不意に一陣の風が吹きつけた。

 

 

 

 こっちこっち。ほら、早くこいよ~

 ちょ、ちょっと待ってよ。ここすべりやすい...あぁ~!

 なにやってんだよ~。だいじょうぶか? ほら手出せ。ち、ちょっと。そんなに引っ張…うわぁ~

   

  

 これでも喰らえぃ

 ぅわっぷ。やったなぁ~ このっ

 きゃっ! ちょっと、私達にかけないでよ。服が濡れちゃうじゃない、もぅ 

 へっへ~ん。そんなところにいるのが悪いんだろ~ うりゃ! 

 きゃっ! もぅ、あったまきたっ! 冷たいじゃない! このっ! 

 ぅわっぷ。やったなぁ~ うりゃ!

 

 

 

 男の脳裏に失われたはずの光景が、在りし日の光景が確かにそこに見えた。

 男が風の中に立ち尽くす。

 不意にこぼれた涙に気づきこれを拭うと

 

「……行こうか」

 

 二人は寄り添うように川原を後にした。

 

 

 暖かい春の日差しの中、彼等を見守るかのように小鳥が頭上を舞っていた。

 

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