取り敢えず急ぎ形にして投稿。
「これをこうやって……」
「提督、こっちはどうするの?」
「ああ。それは……」
「提督、何してるの? 村雨も」
いつもの穴から遊びに来た時雨が、先に来ていた村雨と自身の提督が何やら作業をしている姿を見つけた。
「ん。あぁ、これか?」
「うん。偶の休日なんだから、どこか遊びに行かない?」
「ん。これが終わったら行くか」
「ほんと? 約束だよ。じゃあ、僕も手伝うよ」
「そうか。頼むな」
そう言って頭を撫でる提督。
「わっ。止めてよ、髪が乱れちゃうじゃないか」
そう言いながらも顔に笑みを浮かべる時雨。
提督が手にしていたのは、こし餡と上新粉だった。
「柔らかく炊いた小豆を、皮を取って丁寧に裏ごして、上新粉と混ぜるんだ。ザルで押し潰すように生地を落とし、少しだけ平らに――」
生地を蒸気の上がった蒸し器で10分蒸しよく冷ます。
冷ましている間の手待ち時間で、疑問をぶつける時雨。
「それで、何で急に和菓子なんか作ったのさ」
「ああ。明後日は6月16日だからな」
「あぁ、嘉祥の日。提督、よく知ってたね」
「そりゃそのくらいはな。……よし、完成っと」
完全に冷めてた事を確認し適当な大きさに切り分ける提督。
「あ。出来たんだ」
どれどれと切り分けられた物を見る時雨。その顔が幾分険しくなる。
「……ふ~ん。それでこれは……」
ジト目で提督を見上げる時雨。
「村雨、だね」
やっちまったと言わんばかりに目を逸らす提督。
「僕に妹の名前を冠した和菓子作りを手伝わせたんだ。ふぅ~ん」
「いや、その、な」
剣呑な口調の時雨にしどろもどろになる提督。
「それで、これはもちろん食べるんだよね。村雨と一緒に」
空気に徹している村雨に助けを求めるような視線を投げかける提督だったが、村雨は必死に空気と一体化しようとしていた。
時雨からの圧力に耐えかねたかのように
「し、時雨も、一緒に食べような」
声をかける提督。
「僕に妹を食べさせるんだ、僕も村雨もケッコンカッコカリをしているのに、村雨の和菓子だけ作るなんて……」
寂しそうに俯くと
「提督…… さよなら……」
そう言い残し部屋から出ていきかける時雨。
その雰囲気に慌てて時雨の肩に手をかける提督。
「離してよ。良く判ったよ、迷惑だったんだよね、ここに僕が来るの」
「そんなことはない」
「口だけなら何とでもいえるよね。それとも身体が目的だから? まだ僕を抱いてないもんね」
その言葉が発せられると同時に頬を張る音が部屋に響く
「時雨……それだけは、その、身体が目的だという言葉だけは取り消せ、その言葉だけは許せん」
俯きながら低い声で窘める提督。
「そんなに怒るなんて図星だった?」
「まだ言うか」
そう言う提督を真っ向から睨みつける時雨。
「信じて欲しいの? 僕の名前が付いた和菓子を作ってくれたら考えるよ」
その言葉に考え込む提督。
(時雨の名前を冠した和菓子……。あれがあるか)
「ああ。作ってやるよ」
白あんに卵黄を混ぜ合わせ、ゴムベラで空気を抱き込むように混ぜ弱火にかけ、水分を飛ばします。裏漉し網で漉し、餡を滑らかに。そして粗熱をとる。
「黄身あん完成」
すでに作っていた村雨餡を小分けにし、黄身あんを芯にして生地を型に入れて蒸す。蒸しあがったときにできるひびを時雨に見立てた和菓子である。
「……これは、ひょっとしてあれ?」
「ほれ、時雨お嬢様。お求めのきみしぐれでございます。……これでどうだ?」
顔を逸らして表情を見せない時雨。
どうしたものかと思案顔の提督に
「提督、泣いたカラスはもう笑っているわよ」
時雨の顔を覗き込んだ村雨が声をかけた。
部屋には優しい甘みの香りが漂っていた。
むらさめときみしぐれ――二つの和菓子を前に、提督と時雨は静かに向き合う。
「おいしい。少し悔しいけど、嬉しいよ」
「時雨……すまなかったな」
「いいよ。僕はちょっと、拗ねただけだから」
小さな梅雨の午後、艦娘たちはそれぞれの名を冠した甘味を前に、心をほどいていった。
想いを和菓子に込めるには、少し不器用なくらいがちょうどいいのかもしれない。
村雨と小笠原旅行 の世界線。
やみしぐれ、とか、すねしぐれ、とか言わんようにw