艦これ短編集――艦娘のごった煮――   作:fire-cat

30 / 47
雨と和菓子と三人と(村雨・時雨)

 梅雨前線が居座る日本。

 とある鎮守府でも雨の音が屋根を打ち、外に出る気にもなれない午後だった。

 提督は古びた冊子を開いたまま、静かに立ち上がった。

「……よし、今日はアレを作るか」

 そう呟くと、書類を片付け静かに執務室を出て行く提督。

 

 

 村雨は一階の廊下の窓に腰かけ、ぼんやりと景色を眺めていた。

 次第に濃くなる雨粒。

「雨の日も風情があるけど、こう毎日じゃ」

 そんな村雨の視界に見覚えのある背中が映った。

「提督?」

 声をかけても気がつかない提督にこっそり後ろから近寄り、勢いよく飛びつく村雨。

「て・い・と・く」

 提督は驚いた顔で振り返る。

「おっと。村雨か」

 前に回り込み提督の顔を覗き込むように見上げる村雨。

「どこか行くの?」

「いや。今帰ってきた所なんだが……」

 ふと、悪戯気な表情を見せる提督が

「村雨。いま暇か?」

 と問いかける。

「暇じゃないけど……。何だか面白そうな予感もする」

「なら、これから二時間程つきあえ」

 その言葉にドキッとする村雨。

「えっ」

 視線を逸らした村雨に提督がぶら下げている袋が映った。

「これは?」

「ああ、これか?」

 袋を見せる提督

「粉と小豆……?」

「甘味を作ろうと思ってな。出来るまで二時間程かかりそうだ。付き合ってくれるんだろ?」

「そう言う事かぁ。ちょっと残念。でも何を作るのか気になるからついてくわね」

 彼女はため息まじりに言いながら、結局うれしそうについてきた。

 

 台所に並んだのは、小豆・米粉・砂糖。

 小豆を鍋に入れ、水を張って火にかける提督。

「何を作るの?」

「お楽しみだ」

 小豆が丹念に洗われ、大鍋に入れられる。

 ぐつぐつと音を立てて煮られるうちに、皮がふわりと開き始める。

「沸騰したらその湯を捨ててまた新しい水を加えて中火で小豆を炊くんだ」

「ふ~ん。お湯を捨てたりするのは任せて」

 村雨が腕まくりをし、ムンと気合を入れる。

 その仕草に微笑ましさを感じながら

「指で軽く潰せるくらいまで……う~ん、これだと40分がら1時間くらい煮るようだな。やっぱり2時間くらいはかかりそうだ」

 

 煮上がった小豆を、ざるにあけて冷水でさらす。

 村雨が指先でそっと小豆を潰していく。

「このざらざら……なんか、気持ちいいね」

「こらこら。豆をそんな風につぶすんじゃない」

「だって、気持ちいいんだもん」

 頬を膨らませながらも豆をつぶす手は休めない村雨。

「そ~か~。そんな行儀の悪いお手手は……こうしてやる」

 窘めるように村雨の手を包み込む提督。

「あっ」

 そのまま村雨の手をにぎにぎとする提督。

「おっと、こんなおふざけしている場合じゃなかった」

 提督が村雨の手を離す。

「あ、もぅ」

 少し頬を赤らめた村雨に

「これは指じゃなくて裏漉し網で丁寧にすりつぶすんだ」

 飄々とした口調の提督。

 

「これって提督のオリジナルなの?」

「そうだったらいいんだが、残念ながらそうじゃない」

「へぇ。なんて名前?」

 口元を緩め、悪戯気な表情を見せる村雨に

「村雨」

「なぁに?」

「あー。村雨。村雨っていう和菓子、知っているか?」

 提督が村雨を見つめる。

「え、えっ!? ま、まさか。さっきの村雨って私のことじゃ無くて……?」

「村雨は泉州地方の銘菓だ。昔、甘味処で出されていたものだが、雨を見ていたら君の顔が浮かんでな」

 提督が手を止めると、村雨は顔を赤らめてそっぽを向いた。

「な、なんか……うれしいような、照れるような」

 話題を変えたい村雨。

「それにしても、このお菓子って手間がかかるのね」

「ああ。誰かさんみたいだな。扱いは繊細にしないと」

 その言葉に悪戯気な表情を見せる村雨。

「いかにも村雨って感じでしょ?」

「そうかもしれんな」

 提督がふっと笑う。村雨の頬が赤くなったのは、その微笑に気づいてからだった。

 裏ごしした生あんに米粉と砂糖を加え混ぜる。

「このそぼろ状にくずれる生地って雨みたい」

「ああ。雨の名は、伊達じゃないな」

 村雨のつぶやきに応じる提督。

 蒸し器の蓋がゆっくり閉じられた。

「もうすぐ出来上がる。甘すぎず、でもやさしい。君に似た味だ」

「……それ、反則」

 村雨は唇を尖らせたが、目尻が綻んでいた。

 

 蒸し上がった【村雨】を切り分ける。

 ふわりと立ち上る湯気。

「いただきますっ」

 村雨が頬張ると、思わず目を閉じた。

 触れた瞬間に崩れそうな、儚くもしっとりとした食感。

「これ……やさしくて、あったかくて……なんか、泣きそう」

 その言葉を、提督は黙って受け止めた。

 やがて、空の向こうから陽が差し込む。

 雨はすっかり止んでいた。

「晴れたね」

「そうだな。……村雨のおかげかな」

「もー、またそうやって、口がうまいんだから」

 そう言う彼女の瞳はきらきらと輝いていた。

 雨上がりの空に似た、透明な微笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

<FIN>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、そのままバックしてくださいね。尾張、違った。終わりですよ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、この先は見ない方が良いですよ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうですか~。見ちゃいますか~。仕方ありませんね~。どうぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

 

「それじゃあ、今度の休み、提督と――」

「――その日、僕も空いてるけど」

 突然響いたその声に、村雨の言葉が途切れた。

 振り返ると、時雨が腕を組んで立っていた。眉ひとつ動かさず、じと目でじっと見ている。

「いいタイミングだったみたいね」

 時雨の言葉に村雨が僅かに肩をすくめる。

 提督は、思わず額に手をあてた。

「……時雨、どうしてここに?」

「さっきまで扶桑と演習の予定だったけど、山城が扶桑と演習するんだって言い出したからキャンセルになっちゃったんだ。……そしたら偶然聞いちゃった、デートの話。良いなぁ村雨ばかり」

「違う、あれはだな……」

 言い訳を探すように視線を泳がせる提督に、時雨はふん、と鼻を鳴らす。

「いいんだ。僕のことなんて忘れて、二人で甘いものでも作ってれば――」

「あちゃ~。今日はまた一段とご機嫌斜めね」

「時雨はこうなると後が怖い」

 コソコソと耳打ちする二人に

「ふん。仲がいいんだね」

 少し拗ね気味の時雨。

(やれやれ、どうしたもんかね)

 しばらく考え込んでいた提督が

「ふむ」

 と、立ち上がる。

「追加で甘味を作るとするか。時雨、君も手伝ってくれないか? 三人で作ろう」

「……へ?」

 時雨の鳩が豆鉄砲を喰らったかのような声に内心でニンマリと笑みを浮かべる提督。

(時雨の名前を冠した和菓子。あれをつくるか)

 

 提督の脳裏に浮かんだ菓子―黄身時雨。白餡に卵黄を混ぜて練り上げ、蒸して作る優しく儚い和菓子。

 ふわりと浮かぶような質感と蒸し上がったときに生じるひび割れが、どこか危うさを感じさせる時雨そのものだ――提督はそう思っていた。

「まずこの村雨餡にに水を適量加えて、どろっとしたやわらかい状態にするんだ」

「え~。もったいない」

「それを火にかけて、しっかり沸騰させる。手につかなくなるまでな」

「火は、弱めだよね」

 時雨が横からつぶやく。

「焦がしたら、台無しになるからな。気を付けてな」

 当然だと頷く提督。

「わかってるよ。村雨、少し餡取って裏ごししてもらっていい?」

「任せて。まったくもう、うちの提督ってばどれだけ……」

 それでも、顔はどこか嬉しそうだった。

「時雨、こしあんの材料を鍋にかけ、一まとめにできる固さに練り上げておいてくれ。練り上げたら丸めておいてな」

「全部まるめるとかなり大きくなるけど、いいの?」

「ん? ああ、済まん。12個ぐらいに分けて丸めてくれ」

「わかった」

 時雨の作業を見届ける提督。傍らの村雨を振り返る。

「こっちは卵黄と同量ぐらい餡を取り、溶いた卵黄と混ぜ合わせる」

「直接鍋に加えちゃダメなの?」

「卵黄が固まってしまうからな」

 そうなんだ。とメモを取る村雨。

「ん? メモなんか取ってどうするんだ」

「ん? 今度作って見ようかなって」

 そんな村雨に、そうか。と頷き。

「卵黄を少しづつ加えて耳たぶくらいの固さに調整する」

 説明を続ける。

「提督、こしあんできたよ」

「そうか」

 提督を挟むように両脇にたつ時雨と村雨。

「この生地を丸く広げ、その上に丸めておいたこしあんをのせる。のせたらこしあんを覆うように包むんだ。ふたりでやってみるか」

 頷き作業に取り掛かる二人。

「コツは底の部分の生地が薄くなるように包むんだ」

「は~い」

 手を休めることなく応えを返す二人。

「形を整えたら蒸し器で蒸すからな」

 

「できた……」

 提督が蓋を開けた瞬間、

「わぁ。きれい」

 時雨の目が見開かれた。

 村雨も思わず声を飲み込んだ。

「黄身時雨。君のための和菓子だ」

「え? 僕の名前?」

 提督は照れくさそうに、黄身時雨を差し出す差し出す。

「ねぇ、今度の休み、三人でどこか行こうよ」

 時雨の声は、少しだけ弾んでいた。

「そ、それってデートじゃ――」

 村雨が慌てて言いかけたところで、時雨がぺろりと和菓子をひと口。

「せっかく二人の名前がついた和菓子を作ってもらったんだし」

「ひどぉぃ。元はと言えば私が――」

 二人が騒いでいる姿を見ながら提督は黙って笑っていた。

 やさしくて、めんどうで、だからこそ愛おしい二人。

 

 提督が口にした和菓子は、まだ温かさをまとっていた。

 

 

<今度こそFIN>

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。