&題名一部詐欺
父島鎮守府の食堂。鉄板の前に立つ提督は、もんじゃ焼きの準備に余念がなかった。
「提督、そろそろ午後の執務時間になります」
手伝いを買って出ていた秘書艦の矢矧が声を掛ける。
「ふむ、もうそんな時間か。丁度いい。そろそろ焼き上がるぞ。矢矧、一緒に食べないか?」
「あら、ありがとうございます。それでは遠慮なく頂きますね」
キャベツ、桜エビ、切りイカ、そして特製の出汁。手際よく混ぜられた具材が鉄板に広がり、ジュウジュウと音を立てる。
「この縁の焦げ目がまた旨いんだよな」
「ホントに」
「飯のお焦げも美味いしな」
「ええ。阿賀野姉もお焦げは大好きと言ってますね。時々お焦げ食べたさに態とご飯を焦がしているのではと思う事もありますけど」
「なんだ、あれは素で失敗しているわけではなかったのか」
「恐らくは……」
そんな話をしていると、香ばしい匂いに誘われて、大阪の鎮守府から物資の護衛に来ていた黒潮達がふらりと現れた。
「ええ匂いやと思ったら……なんや、もんじゃかいな」
黒潮が目を細めて鉄板を覗き込む。
「提督はん、関東の粉もんって、なんやこう……
広島の鎮守府から来ていた浦風達もふらりとやってきた。
「黒潮? あんたらも来てたんか。……って、もんじゃ焼き? 邪道じゃなぁ、これは」
冗談交じりの笑い声。黒潮がすかさず突っ込む。
「邪道て。浦風、提督はんに怒られるで。ここの提督はんは東京下町育ちや。まぁ、うちも正直、粉もんは焼いてこそやと思うけどな」
「広島のお好み焼きは、層が命じゃけぇ。生地、キャベツ、もやし、肉、麺、そして卵。全部が重なってこそ、芸術なんよ」
「関西は混ぜて焼く。広島は重ねて焼く。関東は……流すんやな」
「流す言うな!」
一緒に来ていた艦娘たちもそれぞれの「粉もの愛」を主張し始め、火花を散らす論争へと変わっていく。
「うちらのはソースの香りがたまらん!」
「わしらのはボリュームが違うけぇ!」
「もんじゃは食べながら焼くのが醍醐味なんです!」
しかし、そんな熱気の中で、提督の焼くもんじゃが静かに存在感を放ち始める。
ヘラを操る手際は見事で、具材の配置、火加減、焦げ目の調整まで完璧。
鉄板の上で、もんじゃがまるで生き物のように踊っていた。
黒潮がぽつりと呟く。
「……うちの提督はんも、こないな風に美味いもん作ってくれたらなぁ」
浦風も感心したように頷く。
「父島の提督殿は、料理がお上手なんじゃのう。見惚れてしもうたわ」
そして、運命の一口が訪れる。
提督が小さなヘラで、香ばしく焼けたもんじゃのおこげをすくい上げる。
「ほら、君らも食べてみるか?」
黒潮が一歩前に出て、目を潤ませながら言う。
「提督はん、アーンしてくれへん?」
浦風も負けじと、甘えた声で囁く。
「提督殿、わしにも一口、お願いできるかのう?」
提督は、二人の熱い視線にタジタジになりながらも、なんとかもんじゃを焼き続ける。
「え、えっと……じゃあ、順番に……」
「順番て、先に来とったうちからやろ?」
「いやいや、広島から父島まで遠路来たんじゃけぇ、わしが先じゃろ?」
そこにコホンと小さな咳払いが聞こえる。
「その様なことは、ご自分の提督となさってくださいね」
そういう矢矧の圧力に気押される二人。
そ、そうじゃの。と引きかけるが、自分達の携行食を思い出し、態勢を立て直す。
「提督はん、うちのソース焼きそばも食べてみぃや。うちが焼いたんやで?」
「提督殿、広島のミニお好み焼き、持ってきたけぇ。食べてみんさい」
「ですから、提督は私の提督です。粉をかけないでいただけますか?」
「私の? 矢矧はんは指輪をまだ貰っていないと聞いとるんじゃがのぅ」
艦娘たちの喧騒の中、鉄板の上ではもんじゃが静かに焼き上がっていた。
そして、提督が一言呟く。
「……たかが粉物、されど粉物か。奥が深いものだな」
その言葉に、黒潮と浦風は顔を見合わせ、ふっと笑った。
「せやな」
「ほんまじゃのう」
こうして、鉄板の上で繰り広げられた粉もの論争は、提督の焼くもんじゃによって一つに溶けていった。
「ところで、粉物は、主食かおかずか、はたまたおやつか。
と、提督が新たな火種を投下するまでは、だったが。
自分の場合、昨年までは、時々コンビニのお好み焼きを主食に、たこ焼きをおかずにしていました。
白米を主食、お好み焼きをおかずにして食べる人ってどこから増えるんだろう。