太古からこの国の闇に蠢く存在。夕張の安易な開発により、その存在が生み出されてしまった。
――鎮守府を襲う存在に大淀達が立ち向かう。
タグ通り、タイトル・前書き詐欺です。
私は今、重大な危機に瀕している。
朝、目覚めた時はまさかこんな事になるなんて、思いもしなかった。
鎮守府が、私達の鎮守府が、あの太古から生き続けてきた闇に蠢く者に占拠されてしまったなんて……。
いったい何が原因でこんな事に……。
いえ、原因は判っている。
夕張が手掛けていた実験の失敗が原因であると。
あれは……そう、提督と首席秘書艦の飛龍と次席秘書艦の榛名・摩耶・五十鈴、艦隊旗艦と補佐艦の長門姉妹と妙高姉妹が揃って近隣の鎮守府に赴き、白露姉妹と陽炎姉妹が揃って出かけた後の事……。
「夕張、明石、何処?」
私は夕張から或る実験の副産物で念願のモノが開発されたと昨晩聞き、今日、再度開発したものを有志に配布すると話していたから朝からその姿を探していた。
「大淀、こっちよ、こっち!」
夕張と私――大淀は互いを実の姉妹のように扱っていた。最初期からこの鎮守府にいた私にとって建造された夕張は実の妹のような存在。
その夕張の声はしても姿が見えず、私は少し焦りを覚えていた。
この鎮守府は侵入者防止の細工があって、初期からいる村雨や潮、羽黒も何度も迷った事があるって聞いていたから、建造されて半年余りの夕張では、迷う可能性もある。もし夕張が迷ったらと思うと……。
ようやく鎮守府の地下室に向かう扉が開いているのを見つけた私は迷わず下へ向かった。
地下では夕張の他、阿武隈や龍驤が待っていてその傍らには変わり果てた瑞鳳が……私が来て瑞鳳の姿を確認したと同時に装備開発用機械のスイッチを押して……。
そして、アイツが、選りによってあの忌むべき者が姿を顕してしまったの……。
一騎打ちなら負ける事は無かったと思う。でも……私は……悲鳴を上げる夕張達を助けられずに……。
何とか地上階に戻れた私は、すぐに弾薬を補充する為に補給庫へ向かった。
……今にして思うと、あの時扉を閉めておけば、後の惨劇は防げたのに……迂闊だった。
艤装に弾薬を補充して戻ったときには既に惨劇が始まってしまった……。
初めに瑞鶴、次に北上、そして頼りにしていた熊野までも奴等の餌食になってしまった……。
私達の悲鳴を受けて空母寮と戦艦寮から扶桑姉妹と飛鷹が駈け付けてくれたけど、夕張達を助け出すのが精一杯だった。
私達は二階の隅の部屋に追い詰められてしまった……。
私達に出来る事といえば、扉の前にバリケードを作る事だけ。奴等の前では無力だったわ、私達。
辺りが闇に閉ざされると、あいつ等は活動を再開させたわ。
「もう、これ以上長引けば私達が圧倒的に不利になるわ。朝になれば打つ手はあるでしょうけど、それまでこの部屋が持つかどうか……」
扶桑が部屋を見まわす。
「そうね。それに……」
山城が私達の脇に横たわる北上たちを見ていた。
「7人の容態も気になるし……」
辛うじて助け出せた7人の意識は未だ戻らず、時々何かを拒絶する――何かを振り払うかのような仕種を繰り返している。
「……飛龍か五十鈴、いえ、榛名か摩耶でも誰でもいい。誰かが帰ってきてくれれば……」
「何か聞えなかった?」
山城が耳を
「え? 奴等?」
声が震えているのが自分でもわかる。
「いえ……。いけない! 玄関を誰か開けたわ!」
一瞬の静寂。扉を閉める音。そして……。
闇を裂くような悲鳴が響き、沈黙が訪れた。
「……飛龍の声ね。……やられたわ」
重苦しい沈黙が私達を捕らえる。
「こちらから行くしかないわね」
そんな沈黙を振り払うかのように扶桑が提案してきた。
「そうね。時間が経てばそれだけ悲劇が繰り返されるわ。飛龍も助けないと……」
高雄の一言で、決まった。
……それしかないのね。あいつ等と戦うしか……。
私の中に、今までの事が走馬灯のように思い出される。
初めて鎮守府に配属された時の事、初めてのお給料、皆で行った買い物、そして激しい訓練。
穏やかな提督、色々と相談出来た飛龍、そしてくじけそうな私を励ましてくれた熊野や瑞鶴達。皆を護るには……私達がやるしか、ない……。
「いい? 行くわよ」
みんなが頷く。こんなに頼もしい仲間が私には居る。絶対に生きて帰るんだ……。
扶桑が作戦を立てている。
「私達が援護するから、飛鷹と大淀が突撃。階段の隣の部屋を取り返した後、そこで私たちを待って。私達が7人を部屋に入れたら、大淀が階段下まで何とか行って。一緒に行きたいけど低速の私達じゃ足手纏いになっちゃうわ。援護は必ずするからお願い。階段下までいったら明かりをつけてすぐに階段まで避難。明かりを目印に奴等が来るからね。明かりが点いたらすぐに私が階段の真中まで行くわ。明かりの近くに来た奴等から殲滅。これでいいわね?」
皆が頷く。
「じゃ、開けるわよ。準備はいい?」
無言で頷く。
心の中で、タイミングを取る。
(……1……2……3……!!)
扉が開けられると同時に私と飛鷹が同時に廊下に躍り出る。すかさず扶桑と山城が援護をしてくれる。
……結構いいコンビね、私達って……。
そんな事を考える。飛龍や金剛たちには戦いで余計な事を考えるな。と厳しく言われるけど、周りで面白い様に奴等が飛び散るのを見るとそんな事も考えてしまう。
時をかけないで階段隣の部屋に来た。
ここからは援護は期待できない。……やるしかない。
飛鷹と視線による会話。
……飛鷹が先陣、私が援護と決める。
タイミングを見計らい、私が部屋に砲弾を叩きこむ。
すかさず飛鷹が突入。部屋はすぐに取り返せた。
「何とかここまでこれたわね。でも、問題はここからよ」
合流した扶桑達とこれからの作戦の確認をする。
「逃げてくるときに判ってたけど、ここの階段は螺旋階段だから一気に下へは降りられないわ。それに天井に段差があるから下から上がるのが人型の侵入者だったら上りにくいけど、奴等は違う。逆に頭上からの攻撃もありえるから油断はしないで」
今更ながら、奴等の力に気づかされる。
奴等は並外れた生命力を持っている。
そして、その力を武器に奴等は、私たちが艦だった時よりもはるか昔――この国が誕生する遥か昔から……そう、神代の時代から存在してるってことを。
そして、土に埋もれた生命が石になるほどの時を経た奴等に知性があっても不思議はない。
私は勝てるのだろうか?
……いえ、勝たなければならないのよ、大淀。
「じゃ、開けるわね」
無言で頷く。
心の中で、タイミングを取る。
(……1……2……3……!!)
すかさず援護の砲弾が飛び交う。
階段の中央まで来れた。
ここから先の援護は……無い。
階下から奴等の気配が伝わる。
蠢く気配。
その階下の様子を覗う内に私は意識が闇に囚われ掛けている事に気がついた。持つ筈のない質量を増大させ続けた静寂が、全ての存在を重力の井戸に飲み込んでしまう。そんな気持ちに……。
……いけない。しっかりしなさい、大淀!
気合を入れて階下に、無限の闇の領域へと足を踏み入れる。
……近い。気配が一段と近くなった。来る!
しかし、奴等は狡猾だった。私達を嘲笑うかのように、全く予期しない方向から攻撃を仕掛けて来た。
背後から爆発音が聞えた。振り向く私の目に映ったモノ――たった今私が居た部屋から煙が流れている光景。
まさか!! 裏をかかれた!?
部屋に戻りかけた私に、山城の声が聞える。
「私たちの事はいいわ! 早く下に行って! あなただけでも逃げなさい!」
再度の爆発音。
「早く行きなさい! 早く!」
扶桑の悲痛な声が聞える。
「早く! あなただけでも逃げてよ!」
さっきまで、背中を預け合った飛鷹の声も……。
何処を走ったのだろう。
戦友の悲痛な声を背後に聞きながら、私は階段を駆け下りた。
戦友を失い、私にはもう何もない。
広間に出て、私は得物を探した。初めの作戦では私は階下に明かりを燈す筈だった。そこを仲間の砲撃で……。
しかし、今はもう仲間は居ない。
私の中に言いようの無い悔しさが湧き上がる。
……アイツラハゼッタイニユルサナイ……
私は……探照灯に明かりを燈し……奴らに立ち向かった。
……奴等は明かりを目当てに来る。私が明かりを持ちつづければ、奴等とは否応なしに戦える。
私は少し冷静さを欠いていた。
冷静に考えれば、私はすぐに逃げ出して、応援を呼ぶべきだった。
所詮、女の身では奴等に勝つことは至難の事だった。
数にものをいわせた奴等に探照灯は無用の長物と化し、暗闇の中、私は奴等から嬲者にされている。
……奴らが飛ぶ事を予想していなかった私は奴等から思いがけない方向からの攻撃を受けつづけ、肉体的にも精神的にも限界だった。
……ここは……玄関……?
朦朧とする意識の中、目を凝らすと薄らと飛龍の身体が奴等に覆われている様子が見えた。もう意識は無いようだ。
……飛龍、ごめん。私がすぐに助けを呼んでいれば……。
私は後悔の念に苛まれていた。
そんな私の身体を奴等が、足元から次第に覆ってくる。
……提督……大淀はここまでのようです……また、いつかどこかで…きっと…。
そんな中、私は微かに扉がきしむ音を聞いた。
誰かが、この建物に、奴等が蠢いているこの建物に入り込もうとしている。
いけない……。扉が開かれてしまう……扉を開いてはダメ……。
私の願いも届かず、開かれる扉。
……もうだめ、奴等が……外に出てしまう……。
「誰かいないのか?」
……聞き覚えのある声。……誰でもいいから、逃げ……て…。
最後に私の見た光景は、外への扉に殺到する奴等と聞きなれた声、動き回る幾つかの影、そして……閃光。
気がつくと私は自分の部屋に寝かされ提督や五十鈴達が私を見つめていた。
「気がついたか……?」
提督の声に、私は自分が助かった事を知った。そして、事情を尋ねる提督に、昨日の出来事を残らず語った。
「……事情はわかった。開発の失敗か……それで奴等があれだけ居たんだな……」
頷く提督。
「アレを見たとき、何事かと思ったぞ。奴等は摩耶と五十鈴が殲滅したからな。安心しろ。身体に異常は無いようだし、動けるようになったら降りてきなさい。皆も心配していたぞ」
私が幾分元気を取り戻し階下に降りると仲間達も起きていた。
……よかった、無事だったんだ。
広間に集まり、周囲を見渡す。
昨日の悪夢はその影も無かった。
「……それにしても……派手にやってくれたものだな……」
提督たちが呆れたようにため息をつく。
……見渡す限りのごみの山。……ちょっとやり過ぎたかもしれない。でもあの時は仕方のない事だったわ、奴等を殲滅するためには。
でも……摩耶と五十鈴の声が痛い。
『……ゴキブリ相手にこれだけ暴れるの……?』
「今日は全員でここの後片付け! 夕張、龍驤、大淀は3か月の減俸! 今後開発する際は私か飛龍、不在時は時雨か雪風と一緒に行う事!」
提督の声が響いた。
……後で聞いたところ、ゴキブリにあっさりと敗退した瑞鶴・北上・熊野も飛龍と一緒に神通からの猛特訓を受けたらしい。
巻き添えになった瑞鶴・北上・熊野には悪いことをしてしまった。おまけに夕張が豊胸剤の開発をしていたこともばれて、私と瑞鶴・北上・熊野の他被害者の瑞鳳までも色々と言われてしまって……。
夕張の豊胸剤ができたなんて口車に乗らなければ……。
「もう、私に内緒にするからですよ! 私なら失敗しませんでしたよ。大淀、欲しいときは私に言ってくださいね」
明石……持てる方のあなたには、わからないわよね。この虚しさ……。
半分以上疲れています。こんな時はろくでもない物が浮かんできます……。
2002年頃に個人サイトに投稿したものの改造版。