艦これ短編集――艦娘のごった煮――   作:fire-cat

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2017年12月23日(土) に投稿したものです。

同僚の結婚式に出席する春風。
彼女の想いは……。


同僚と、恋と、失恋と(春風)

 その日は朝から穏やかな風が舞う暖かい日でした。

 残念ながら、寝起きはあまり良くありません。

 体にべっとりと張り付いた夜着が不快で頭も痛みが激しいです。

 那智さん達に勧められるがままに飲みすぎたようです。今日は大事な日だというのに。

 痛む頭を押さえながら、湯浴みをしました。

 湯浴みをしながら寛いでいると色々な事が浮かびます。

 飲みすぎた昨日の酒宴――荒れた末の妹に、止めなかった長姉――

 まあ、気持ちは分かるのですが。

 姉妹にとっても提督は特別な方でした。あの鎮守府にいた娘の誰にとっても――。

 一言で言うなら「叶えられるはずのない奇跡を起こした人」

 あの絶望的な深海棲艦戦役を戦い抜けたのはあの方が起こした「奇跡」だったのかもしれません。

 

 奇跡ですか……。

 考えればあのカレー洋リランカ島沖で、春風があそこから解き放たれたのもあの方が起こした奇跡のようなものだったのでしょう。

 あの時、あの方に出会わなかったのなら今の春風はありませんでした。

 今も尚、深い海の底で囚われ続けていた事でしょう。

 湯を掬い顔を洗う。流れるお湯が全てを覆い隠してくれるでしょう。

 それでも、涙が流れることだけは分かるのです――。

 

 思い切って涙を流しつくすと、少しだけ気分が晴れました。

 

『ん? あら? 司令官様。春風をお呼びで御座いますか?』 

 分かっていたのですよ、春風。

 司令官様が春風をお触りになる時、何をお求めになられていたのかは。

『ん? ああ、花弁がな』

 それでも、司令官様の拙い誤魔化し方に

『花びらですか? うふふ、風流ですね』

 と、返してしまい、覚悟が決められなかった春風です。

 それが、今日の出来事に繋がってしまったのですね。

 正直、嫌ではなかったのです、司令官様に髪を触られている時は。

 司令官様が春風の髪を梳いて下さる感触は、気持ちよくて、そのまま寝てしまいそうな感じだったのです。

 でも、

『夕立さん? 此方に入らっしゃい』

『ぽい~』

『きちんと手入れをされませんと。すぐに髪が傷んでしまいますよ』

『痛いっぽい?』

『そうではありません。艶やかさがなくなり、髪が綺麗ではなくなってしまうのです。綺麗な髪を司令官様に見て頂いて、触れて頂きたいのでしょう?』

 夕立さんの髪をいじっている時も本当に幸せだったのです。

 何故か私になついてくる白露型の四番艦の娘。

 その甘えてくる様子と髪型でペットの様な印象を受ける、妹の様な、娘の様な娘。

 夕立さんの桜色の綺麗な長い髪に、ゆっくりと櫛を入れて髪を解かし、整える一連の流れ。

 司令官様は夕立さんの髪形も相まって『毛繕い』とか仰っておりましたが、実に羨ましそうなご様子でしたわ。

 

 

 髪を乾かし部屋に戻ると、旗風が眠ったまま。目蓋からの一筋の流れがまだ乾ききっていませんね。

 そろそろ起こしましょうか。旗風も、このような相貌で人前には出られないでしょうし。

「旗風、起きなさい。そろそろ時間よ」

 そう旗風を揺り起こし、湯浴みを促しました。

 今日の服は予め決めて置きましたので、ありがちな服装で悩む必要はありません。

 司令官様がお褒め下された着物です。

 薄紅に桜の花びらが舞う柄の着物。帯も桃色で全体的に明るい印象があり、司令官様の仰られたように春風という名前を表していると思います。

 下着については迷いましたが、和装用下着を着ける事にします。

 大正の頃は着けないことが多かったのですが、この御時世ではやはり着けないと落ち着きませんし、恥ずかしいです。

 着付け終わると姿鏡を覗き、身だしなみを確認します。

 髪に簪を刺せれれば、もう少し映えるのでしょうが、あまり派手になってもいけません。

 全身を確認して、机の上に置いておいた祝儀袋を懐に入れ、旗風に声をかけ先に家を出ます。

 

 

 式場には一番に到着するつもりでしたが、着いたときには鳳翔さんが来られていました。

「おはようございます」

「おはようございます。本日はおめでとうございます」

「ふふふ。ありがとうございます」

 鳳翔さんは母親の顔でした。娘を送り出す母親の顔――一杯の嬉しさと少しの寂しさ――。

 やはり鎮守府の母親です。風貌も心も綺麗な方でした。

「春風さん、今日はありがとうございます。ごめんなさい、こんな面倒な事をお願いしてしまって」

「いえ、そんな事はありません」

「それでは、始めましょうか」

「はい」

 そう言って、春風達は用意された記帳本の前に座ります。

 今日、春風は受付係を拝命しました。

 白露型の皆さんが居れば皆さんが行ったのでしょう。

 でも最後まで春風どもの鎮守府に在籍されていたのは主役を除けば時雨さんと五月雨さんだけ。他の皆さんは戦力が整わない他の鎮守府に移籍させられてしまいました。

 五月雨さんではほぼ全員が「無理」と仰っているという事、運悪く長期出向の時期が重なり日本にいない時雨さんが間に合うか微妙と言う事で春風が務めます。

 五月雨さんは「もうドジっ子なんて言わせません! お任せください」と仰っていますが、まず無理でしょう。

 記帳し、ご祝儀を置きます。

「ありがとうございます」

「いえ、当然ですから」

 あんまり入れていないから、本当は恥ずかしいのです。

 身内だけだからそんなもの要らないと二人とも仰いますがそういうわけにもいきません。

「ところで、今日の主役は今どちらに?」

 姿が見えません。同居している鳳翔さんにお尋ねします。

「実はまだ二人とも家にいるのです」

「二人ともですか?」

「ええ。昨日眠れなかったみたいです」

 正直申し上げ、このようなお話を聞くたびに春風の司令官様の印象が崩れていくようです。

 ……主役が家にいてどうするのでしょう? 特に夕立さんは時間がかかるというのに。

「大丈夫ですよ。ちゃんと起こしてきましたから」

 しばらくすると、航空母艦を代表し、飛龍さんと加賀さんが来られました。

「本日はおめでとうございます!」

「おめでとうございます」

 明るく、太陽をイメージさせる笑顔です。

 お二人とも内心は少し違うのかもしれませんが、そんなそぶりは見せません。

 この二人はもう吹っ切れているのかも知れませんね。

『大好きだった人の結婚式』

 どうなのでしょうか? 辛いのでしょうか、悲しいのでしょうか、それとも何ともないのでしょうか。

 お二人とも美人で、性格も良いのです。活躍したお二人はそれこそ引く手あまたでしょう。

 あの鎮守府にいる多くの艦娘は間違いなく、司令官様を好きになっていました。

 皆さま同性の春風から見ても素晴らしい女性です。

 その女性たちに選ばれた司令官様は、やはり素晴らしい殿方なのでしょう。

 顔は普通で、女性のご機嫌を取るのに常に食べ物で釣るという、春風から見ると性格にやや難のある方なのですが。

 でも、確かに素晴らしい殿方です。皆さまが好きになり、春風も引き付けられて、周りを常に笑顔でいっぱいにしている方なのですから。

 

 それからさらにしばらくして、私の姉妹の他、戦艦を代表して大和さんや金剛さんに榛名さん、重巡洋艦を代表して熊野さんに古鷹さんに愛宕さん、軽巡洋艦を代表して五十鈴さんに大淀さんに夕張さんが来られました。他の鎮守府に行かれた白露型の皆さんも無理を押して参加してくださいました。

 ですが、肝心の花嫁、花婿はまだです。

「遅いですね」

「大丈夫ですよ」

「はい」

 そして、5分前。

「お前が二度寝するからだろうが」

「そんな事言ったって、昨日寝かせてくれなかった提督が悪いっぽい」

「君たちには失望したよ。何だってこんな日に遅刻寸前何だい? 二人とも言い合っている暇があったら、急いだ方が良いね」

 そんな賑やかな声が足音と共に聞こえてきました。

「ようやくですね」

「ええ。まったく」

 そこには、御自宅で着替えられたタキシード姿の司令官様と、はしたなくもウエディングドレスの裾を持ち上げなら懸命に走る夕立さん、それに今朝ほど日本に着いたと連絡がありました、綺麗な着物を着て走りながらも着崩さない時雨さんの姿がありました。

「二人とも急いで下さい。あと5分で始まります」

 新郎新婦がいないと式は始まりませんが、一応予定では後5分です。少しばかり急がせても良いでしょう。

「おう」

「ありがとっぽい、春風」

 そして、夕立さんが春風の耳元で囁きました。

「ブーケは絶対、春風に投げるっぽい」

 

 そんな酷なことを仰らないでください、夕立さん。春風は今でも……。




夕立と春風と提督の関係……。


発掘した何処かの個人サイトに投稿した(筈)ものの改造版
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