二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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AL作戦第ニ段階のようです

 霞に駆け寄ったフラワーズと天龍に龍田。

 紛れもなく轟沈一歩手前の霞は那珂の腕へと崩れかかり、意識を失った。

 

「ごめんね……! ごめんね……!」

 

 口から出るのは謝罪の言葉、そして胸に溢れるのは何の気持ちだろうか。

 

 霞の献身とも無謀とも言うべき行為は那珂率いる第三艦隊に理性的な心を呼び戻した。

 囲む暁達六駆にしても、謝れば良いのか、それともありがとうと言うべきか判断がつかず曖昧な表情を浮かべている。

 

 ただそれでも一つ言えることが暁にはあった。

 

「借り、ちゃんと返してもらったわ……お釣りはあなたを無事に連れて帰るってことで許してね」

 

 那珂へと目配せをして、暁が霞の身体を支える。

 一人では少し身に余るその態勢を、ちょうどいいんだからと強がりながら、絶対無事にと目には強い意思を浮かべて。

 

「天龍さん」

 

「あぁ、よくやってくれたよ……第三艦隊は時期に来るだろう後詰の艦隊が来れば撤退、それまでオレ達が周囲警戒にあたる」

 

「うん、ごめんね? 急ぎたいのに」

 

 那珂の謝罪に首を振る天龍。

 実際、戦艦棲姫を倒すために消費した弾薬は多く、この先を考えると心許ない。

 後詰艦隊を待って補給作業を終える必要があった。

 

「どのみちこの周辺の確保は必要だったんだ、この先は第二艦隊が先行して突破口を開けなきゃオレ達は動けねぇしな」

 

「そっか……じゃあ、お願いするね?」

 

 任せろと頷き、天龍と龍田はその場を離れる。

 

 その姿を見送った那珂達の下へとやってきたのは鳳翔率いる第二艦隊。

 

「……お疲れ様でした、無事のようで何よりです」

 

「鳳翔さん……うん、霞ちゃんが、がんばってくれたよ」

 

 那珂の言葉に頷き、優しく暁に抱えられる霞の頭を撫でる鳳翔。

 そんな光景を穏やかに……いや、穏やかすぎる位静かに優しく見つめるのは古鷹と加古に大淀。

 

「鳳翔さん」

 

「なんでしょう?」

 

「私……見失ちゃったんだ。その結果が霞ちゃんの轟沈一歩手前っていうこの惨状。だから、ね?」

 

 ミスをした、過失だった。

 そんな認識が那珂の心に、フラワーズの心にはある。

 

 ただ、予め理解していてなおそうなった原因の気持ちを抑えられたかはわからない。

 それでも、今の状態が間違いなく防げたものでもっとよりよい結果が生まれていただろうということだけは理解できる。

 

 もしも、普段どおりの出撃なら。提督が執る指揮の下戦えていたのなら。

 

 苦戦はしただろう、危険もあっただろう。

 だが間違いなく今よりももっと良い結果になっていたと那珂は思う。

 

 提督という存在。

 

 海で戦う艦娘を指揮する人物。

 その存在の大きさが想像以上に実感として理解できた。

 

「難しいけど、鳳翔さん達はいつもどおり戦って? 第一艦隊の皆には……ちょっと、言えないから。鳳翔さん達は、絶対」

 

 指揮の内容が具体的にどう違うのかなんて言葉にできない。

 いつもどおり戦えなかったことでいつもどおりとは違う結果が出た、出るだろうという想像だけが容易に出来る。

 

 そんな那珂が口にした言葉。

 

「はい……ありがとうございます。出来るなら、そう……したいと思います」

 

「……うん」

 

 鳳翔は少し困ったように笑って頷いた。

 

 那珂の言わんとしていることを理解できた、だがそれでなお抑えられるかどうか自問して、わからないと答えを出した。

 

 第二艦隊は泊地強襲という役割。

 強襲し、第一艦隊が提督捜索中敵の相手をし、奪還後そのまま泊地壊滅を目的としている。

 

 それはつまり、十中八九提督拉致の主犯格と相対するということで。

 その相手を前にして、冷静でいられるかどうかの確約は無かった。

 

 よしんば鳳翔が冷静であれたとしても。

 

 古鷹と加古。

 二人は出撃してから一言も声を出していない。

 ただひたすら暴れそうになる心を抑えることに集中しているのか、時折胸を抑えて深呼吸をするその姿は今にも破裂しそうな風船にも思えて。

 

 そんな二人を見ているだけで摩耶と神通の頬に汗が伝う。

 

 第三艦隊とはまた違った雰囲気の中、AL作戦第二段階開始が近づいていた。

 

 

 

 第三艦隊と第二艦隊のやり取りを背に、深海棲艦……戦艦棲姫の援軍としてやってきた艦隊を前にしているのは時雨と夕立。

 

 深海棲艦は動かない、いや、動けないでいた。

 

「……」

 

 静かに、自分たちへと視線を投げかける時雨の姿に。

 

「……」

 

 もう来ないのかと挑発的にも関わらず、冷えた視線で睨みつけ続ける夕立に。

 

 二人が放つ、あまりにも濃密すぎる殺意を前に、動けない。

 

 四つの目が言っている。

 射程距離に入れば沈めると。

 

 故に、こうして駆逐艦の射程距離に入らない位置から散発的に砲撃をするだけ。

 それも、しなければならないという深海棲艦の本能に辛うじてしがみつくように。

 

 そして当然そんな砲撃はかすりすらしなかった。

 

 合流を防ぐように立つ二隻の駆逐艦。

 

 当然ではあるが、会敵した瞬間は攻撃しようと試みた。

 正確には、試みる意思はあった。

 

 会敵した瞬間、旗艦である重巡リ級フラグシップは前に進もうとする意思とは裏腹に足を止めた。

 普通じゃあないと、危険を感じて。

 もしも深海棲艦達が言葉を交わしながら艦隊行動をしているのであれば、足を止めたリ級に対して何らかの罵声を浴びせていただろう随伴艦の駆逐イ級と軽巡ホ級。

 もしも。そう、もしも、その言葉に対して慎重に行こうと声をかけられていたのならば。

 

 時雨と夕立の射程距離に入った瞬間轟沈などしなかっただろう。

 

 駆逐艦。

 そのはず。

 

 そのはずの二人は、ありえない火力……いや、理解できない何かでイ級とホ級を撃沈した。

 辛うじてリ級が理解できたのは、時雨と夕立がそれぞれ別の対象に向かって魚雷を撃った、ということだけ。

 気づけば、二人の砲撃が直撃していて、決まっていたかのように魚雷が吸い込まれた。

 

 故に、リ級達の足を止めているのは恐怖。

 深海棲艦の本能に隠れて気づけない恐怖そのものに足を絡め取られている。

 

 ――ニゲタイ。

 

 それはリ級だけじゃないだろう随伴艦も。

 一刻も早くこの場から立ち去りたい、生きたい。

 

 海はずっと続いているはずなのに、一歩先にあるのは断崖絶壁、死への崩落口。

 そんな錯覚すら覚えた。

 

 だから戦艦棲姫が沈んだ時、助かったと思った。

 これで戦わないで済む、そうとすら思った。

 

 あの提督を奪われてはならない。

 そう思っていたはずなのに。

 あの提督の下で力を振るいたい。

 そう思っていたはずなのに。

 

 その思いは時雨と夕立が放つ殺意のカーテンによって容易く覆い被さられ感じられなくなってしまった。

 

「――もったいないよ」

 

「……うん」

 

 踵を返した艦隊に対して踏み出そうとした夕立に時雨が一言、それで身体の力を抜いた夕立。

 それでも視線を外さない夕立に時雨はため息を一つ。

 ちらりと横目で第三艦隊の方を伺えば、別鎮守府の後詰艦隊と入れ替わるように海域から離脱していく姿が見えた。

 

 安心は、している。

 

 誰も沈まなくて良かった、提督を悲しませずに済んだ。

 当然、時雨も夕立もそう思っている。

 

 ただそれ以上に一刻も早く提督を助けたい。

 その思いが強すぎてそう思っているようには見えなくなっているだけ。

 

「ふたりともー? 補給物資が届いたよー、補給しましょう?」

 

「龍田……」

 

「……」

 

 だから実際の所第一艦隊内に確執は生まれてはいない。

 ただ、それをそうと示すことが出来ないだけ。

 正しくお互いのことが見えなくなっているだけに過ぎない。

 

 そして。

 

「龍田さん」

 

「何かなー? 夕立ちゃん」

 

「夕立、もう我慢しなくていいっぽい?」

 

 古鷹と加古が強い感情を詰め込んだ風船なら、夕立は危険を詰め込んだ爆弾。

 いつもの明るく無邪気な夕立から想像もできない位に静かで鋭い。

 

 そんな様を見ているからこそ、余計に互いの理解が及ばなくなっていた。

 

「……補給が終わって、作戦開始したら、ね?」

 

「……わかったっぽい」

 

 それでも龍田が天龍のよき理解者であるように、時雨もまた夕立のよき理解者で。

 危うすぎる夕立の状態をはっきり理解しているとすれば時雨のみに他ならない。

 

 普段なら危ない夕立を嗜めるとすれば提督か時雨で。

 その片方は今居ない、そして。

 

「僕も……そろそろ、限界、かな?」

 

 夕立以上に静かに、密かにその導火線を縮めている時雨にそんな言葉は浮かばなかった。

 

 

 

 補給をしている第一艦隊に先立ち、第二艦隊が出撃した。

 今回の主眼は港湾基地強襲、すなわち泊地攻略。

 対陸に重きを据えるため、大淀は二基陸軍より接収したWG42――ロケットランチャーを装備した。

 また、古鷹が三式弾、加古に徹甲弾と余念もない。

 

「す、げぇ……」

 

「はい……」

 

 また、鳳翔が改に至ったことにより今まで二種の艦載機しか搭載できなかったが、三種目。艦戦機を搭載することが可能になり、制空権の維持、確保が可能となった。

 それにより古鷹、加古は大淀の偵察機に頼ることなく自前の偵察機により弾着観測射撃を行えるようになり、大淀もまた相手の砲弾撃墜に集中することが出来る。

 

 初めてその戦いを同じ艦隊として体験した摩耶と神通。

 二人は驚きに目を見開いていた。

 

 翔鶴、瑞鶴の艦載機運用は何度も近くで見てきた二人だが、全くもってそれとは別種。

 美しいとすら思える鳳翔の射出、艦載機を指揮する力。

 摩耶の対空射撃等必要なのかと思ってしまえる位、相手の艦載機を艦戦機が撃墜し、後に控える攻撃機、爆撃機が正確に敵艦隊へと襲いかかる。

 

 その攻撃から逃れられたと思えば古鷹と加古の弾着観測射撃。

 無慈悲に、逃れたことを許さず確実に撃沈へ追い込む。

 挙げ句遮二無二撃ち返したところでその砲撃を落とす大淀の存在。

 

 完璧。

 

 摩耶と神通がこの場にいる必要性を見失ってしまうほどに、第二艦隊の艦隊行動は完璧すぎた。

 

 一切の被害を、損傷を出さずに進軍し続けるこの姿。

 かつて夢物語として思い浮かべた自分たちの姿そのもので。

 

 決して届き得ない姿ではないと心を震わせながら。

 

 恐怖で身体を震わせた。

 

「摩耶さん、神通さん」

 

「お、おう!」

 

「はい!」

 

 冷たく、冷静に。

 機械のように正確に、言葉も必要とせず、ただただ敵を撃沈せしめる。

 

「お二人の役目は敵本丸に辿り着いてからです……気を引き締めて、集中力を切らすことのないように注意してくださいね」

 

「わ、わかったぜ! 摩耶様にまっかせとけ!」

 

「は、はい! 了解しました!」

 

 夢で描いた自分の姿はこうだっただろうか。

 憧れた墓場鎮守府とはこうだっただろうか。

 

 二つの疑問。

 

 その二つ、両方に首を振ることが出来た。

 

 理解できてはいない。

 それでもこうじゃない、こうじゃないはずだという思いが胸でしこりとなる。

 

 確かに那珂の言った通り、いつもどおりの戦い方。

 艦隊運用をシステム的に極めた形こそが第二艦隊の武器。

 

 第一艦隊のように奇抜な行動でもなく、第三艦隊のように守り合い戦う形でもない。

 華々しくなくとも確実に、それでいて大きな戦果を上げる戦い方。

 それに、違いはない。

 

 摩耶と神通に不安はない。

 

 確実に港湾基地強襲は成功するだろう。

 相手をかわいそうにすら思える。

 この艦隊を相手にして、誰がその身を海で浮かべ続けることが出来るのだろうか。

 

 先程まで相手をしていた敵艦隊とて弱い等とても言えない。

 それすらも無傷で勝利した艦隊だから。

 

 そう、不安はない。

 

 だが、それ以上に胸のしこりは恐怖を訴えかける。

 

 霞のように自身の失敗に怯えるわけでもない、仮に失敗したとて成果に変わりはないだろう。

 

「あぁ、そうか……そういうことか」

 

「摩耶さん……?」

 

 自身が失敗したところで結果に変わりはない。

 そこまで考えた時、摩耶は胸に宿る恐怖の正体に気づいた。

 

「わかったよ、神通。あたしが怖いって思ってる理由が」

 

「……摩耶さんも、怖いと思っていましたか」

 

 神通の言葉に頷く摩耶。

 神通も感じていた恐怖の種、だから続きを促した。

 

「あたしが居ても居なくても同じだから怖いんだ。あたしが何もしなくてもこの作戦は成功する、そう思えることが怖い」

 

「……居ても、居なくても?」

 

 万が一にもありえないとわかっている。

 自分が危機に陥っても気づかれないなんて。

 

 だから見殺しにされると言った恐怖じゃない。

 

「意味がないんだよ、ここに居るって言うのに」

 

 鳳翔が言った本番は後にあるといった言葉。

 その言葉に摩耶が言うような意図は無い。

 

 真実そこで力を発揮してもらうことでより確実な勝利への道筋が鳳翔の頭には浮かんでいる。

 

 ただ、それを伝える、理解し合うという余裕とも言うべきものが無い。

 

「ちくしょう……っ! このままじゃ……終われねぇぞっ……」

 

 同じように。

 第三艦隊と、同じように。

 

 提督が居ないという弊害は、こうして現れたまま。

 

「っ!! 目標発見! 皆さん! 戦闘準備っ!!」

 

「了解っ!」

 

 港湾棲姫待ち受ける泊地へと辿り着いた。

 

 

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