二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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不思議な艦これのようです

 意味はあったのかも知れないけどあてはなく。

 走り続けて探し続けた世界。

 だけどそれは欠片も無かった。

 

 横須賀鎮守府という存在の後ろには跡という言葉がついていて。

 慣れ親しみつつあった墓場鎮守府って存在は影も形もなかった。

 

 横須賀鎮守府跡についた時、そこにいた人間へと艦娘の存在について聞いてみれば。

 

 ――現実、見ような?

 

 なんて。

 二次元と三次元をごっちゃにしてしまった可哀想なヤツを見るような目で見られてしまって。

 

 そうしてようやく、ここがついさっきまでいた世界とは違うということを認められた。

 

 ここが、何処なのか。

 

 もしかしたら、元々俺がいた、俺が生まれた世界なのかも知れないし、そうじゃない艦これの世界じゃないだけの場所なのかも知れない。

 だけどそんなことはどうでも良くて。

 

「どういう、ことなんだよ……」

 

 家に入って項垂れてしまう。

 これが海の審判とかいうヤツなんだろうか? だとしたら一体何を下されるというのか。

 

 審判の途中なのか、下った後なのか。

 

 それすらもわからない。

 

 喪失感。

 

 こんな気持を抱いたのは何度目だろうか。

 捨て子の意味を知った時、孤独を知った時……爺さんが、死んだ時。

 何回感じても、慣れることはない。

 

 それが、今回得た教訓であったり、審判の結果なんだろうか。

 

「そうだ、こんな時は……」

 

 そう、ただそうやって失って得たものの中に一つだけ光明がある。

 

 艦これ。

 艦隊これくしょん。

 

 こうやって俺が生きていられる理由。

 

 ここを出る時に画面はメンテナンスを記していたけど、それは確かに艦これというブラウザゲームが存在している証明だから。

 

 感触がない地面を歩いてパソコンデスクへ向かって、開けたくない瞼を持ち上げて。

 

「……え?」

 

 映っている画面にそれ以外の言葉が出なかった。

 

「時雨……夕立……?」

 

 母港画面に本来一人しかいないはずの艦娘。

 それが、二人。時雨と夕立が居て。

 

「いや……持っていた時雨と夕立に改二じゃないのは……ってか、え? 資材……三百?」

 

 カンストさせていたはずの資材量。

 白露型で未改造の艦娘なんて居ないはずで。

 

 というか、なんだこれ。

 出撃以外のアイコンが反応しない。

 

「待て……いや、待てよ……俺の、俺の艦これは……? 大和は? ビスマルクは?」

 

 躍起になって編成アイコンをクリック連打しても、なんの反応もない。

 補給も、入渠アイコンも。

 それどころじゃない、戦績表示やアイテムすら開けない。

 

 じゃあ出撃アイコンをクリックすれば、未開放の文字で埋め尽くされている海域選択画面。

 演習も、遠征も選べない。

 

 ただ、鎮守府正面海域、近海警備……1-1だけが選べる。

 

「は、はは……冗談、だろ……?」

 

 あれだけ。

 あれだけの時間、熱意……全てを込めた俺の艦これ。

 

 見る陰もない。

 

 尻に感じる衝撃。続いて顎を何処かで打った。

 痛いとすら感じない。

 

 どれだけ。

 

 どれだけの喪失感を重ねられれば、こんな気持ちになるのだろう。

 目を開けているはずなのに、広がるのは黒い黒い世界。

 

「っ!?」

 

 そんな時にスピーカーから響いたのは、いつか聞いたことのある音。

 

 警報音。

 

 ――深海棲艦見ゆ、直ちに迎撃して下さい。

 

 画面が赤く点滅しながら、そんな文字が流れてきた。

 

「は……はい?」

 

 こんな演出、見たことがない。

 改めて、母港画面に艦娘が二人いることだってない。

 

 強調される出撃アイコン。

 

 震える指でクリックしてみれば。

 

 ――そんなのダメっぽい!

 ――僕を犠牲にするんだ、三割じゃなくて十割にしてよね。

 

 聞こえてくる、いつか聞いた言葉。

 

「――っ!!」

 

 あの時。

 俺は、どうやって勝利した?

 沈みゆく夕立を、どうやって助けた?

 

 画面は進行する。

 そして。

 

 ――沈むよ?

 

 これはきっと妖精の声。

 そうしてようやく開くことが出来たアイテムの欄。

 

 俺があの時したことは、きっと艦これで言うのであれば。

 

 応急修理要員。

 

 新たに強調されたのは改装アイコン。

 さっきまで選べなかったアイコンが選べるようになっていて。

 出撃中という札がかけられた夕立に、装備を変えられないはずの夕立に。

 

「っ!?」

 

 そうしてみれば画面は見慣れた出撃中画面。

 

 敵艦隊見ゆの文字。

 

 戦闘画面に入れば、確かに俺が指示した通り時雨しか居なくて。

 戦艦は居ない、一巡で終わるはずの攻撃は時雨が一発も攻撃しないままひたすらに回避し続けて五巡。

 

「時雨っ!?」

 

 回避し続けていた時雨が被弾した。

 時雨のアイコンが右にずれた瞬間被弾して中破。

 

 1-1では見られないはずの敵艦隊構成。

 その全てのアイコンが左へと一斉にずれた瞬間。

 

「ゆう、だち……」

 

 時雨の下に夕立のアイコンが加わった。

 

 夕立のアイコンはずっと右にずれたまま。

 攻撃して、被弾して。

 次々と敵艦隊に撃沈の文字が刻まれていく。

 

 大破。

 同じく夕立にそんな文字が刻まれたと同時に。

 

 敵艦隊の全滅を確認。

 そして、応急修理要員が発動したことを示す演出。

 

「機能、した……」

 

 装備出来ないはずだったそれ。

 装備欄には主砲と魚雷が装備されていたはずで、応急修理要員を積める場所なんてないはずだったのにも関わらず。

 

 切り替わった母港画面には相変わらず二人の艦娘。

 そのどちらも服が破けていて。

 

 強調されたアイコンは入渠。

 

 まるで、ここまでがチュートリアルかのように。

 母港に映っていた二人が入居すれば画面から居なくなって、先に時雨だけが再び現れて。

 

 ――ありがとう。

 

 そんな言葉を紡いでくれた。

 

 

 

 海は、繋がっている。

 

 深海棲艦……いや、港湾棲姫が言った言葉。

 それがまさしく言葉通りだとするのなら。

 

 艦これは、一つの海。

 

 空想から生まれたゲーム、妄想から生まれた海。

 ゲームという形を通して、繋がっている。

 

 今俺は、あの世界で紡いだ軌跡を辿っている。

 

 新たに現れた、着任したのはやっぱり天龍と龍田。

 編成画面で龍田を入れることが出来たのはやっぱり資材がギリギリになって、にっちもさっちもいかなくなった時。

 

 遠征には行けず、資材も自動回復しない。

 

 あぁ、確かに。

 出撃してその先へと望みを繋ぐことしか出来ないだろう。

 

 崖っぷちとも言えるこの状況。

 間違いなく今やっている艦これにはゲームオーバーが存在していると確信できた。

 

 思い返しながら、海へと形を変えて挑む。

 天龍達が出撃して、応急修理要員ではなく、応急修理女神が何故か装備欄に現れていて。

 応急修理要員と同じように何故か機能して。

 

 1-1を突破した。

 

 ボスマスではドロップ確定のはずなのに、誰も着任してくれなかったのは予想通り。

 だけど1-1を攻略したことで遠征を選べるようになって。

 

 ゲームは進行する。

 大淀と六駆が着任して、何故か演習以外選べなくなって、時雨と古鷹の一騎討ち演習が始まって。

 

 那珂ちゃんが着任して。

 

 製油所地帯を開放して。

 

「あぁ……そうだ、そうだった」

 

 そんなに時間は経っていないはずなのに、懐かしさを覚えたり。

 それでもやっぱり時間が経っていないことを示すかのように鮮明に思い出せて。

 

 六駆にカランコエを育ててもらったこと。

 その六駆が那珂ちゃんと一緒に出撃してくれたこと。

 金剛達がやってきたこと、早速の演習が行われたこと。

 一丸となって、1-4……南一号作戦へと臨んだこと。

 

 全てが、目の前で繰り広げられていた。

 

 だから当然。

 

「AL/MI作戦……」

 

 大規模作戦が発令された。

 

 確認できるようになった戦力。

 改二になれるはずの練度に至ったのにも関わらず、反応しない改造アイコンが気にはなったが、改に至った時の事を考えるとそれもそうなのかも知れない。

 

 艦学のメンバーは改にすら至っていないが、それもきっと実戦や何かの気づきで至ることだろう。

 

 改二になるための条件。

 それが何かはわからない。

 ただ、それを探すためあれこれしていると……。

 

「!?」

 

 急に、操作を受け付けなくなった。

 急に、画面が勝手に動き出した。

 

「ま、待て!? いや! なんで!?」

 

 マウスカーソルすら動かない。

 勝手に編成される様、出撃する様。

 

 何でAL作戦に第一艦隊や第二、第三艦隊を連れて行くのか、何故第三艦隊に霞が、第二艦隊に摩耶と神通が編成されているのか。

 

 俺ならこうはしない。

 実際の情報がどうかはわからないが、艦これイベントの事を考えればきっとこうはならない。

 

 理解できない編成。

 それでも進んでいく画面。

 

 練度が一際低い霞、摩耶、神通。

 間違いなく危ない。

 

 今動いている画面があの世界だとすれば、尚更。

 ありえない敵艦編成が出てくるあの世界なら、間違いなく。

 

「沈む……っ!」

 

 認められない。

 絶対に認められないそれだけは。

 

 どうすればいい?

 これは歩んだ軌跡じゃない、未だ見ぬ未来の軌跡。

 

 そうか。

 

「俺が……いないから……っ!」

 

 このタイミング、俺は深海棲艦の基地に居た。

 そりゃ当然、俺は指示出来ないのも当然で。

 

 つまり。

 

「出来ることは……俺が出来ることは、何もない」

 

 指を咥えて見ているしかない、おそらく沈むだろう誰かを。

 

 ……見ているしかない、本当に?

 

 認められないものを、認めろと?

 

「そんなの……っ!!」

 

 断じて許せない。

 

 こいつらは、俺の家族だ。

 ずっとずっと欲しかった、望んでいた本物だ。

 我が子我が嫁を仕方ないを理由に見放すなんてあってはならない(・・・・・・・・)

 

「止まれっ……! 止まれっ!!」

 

 必死に願う、考える。

 どうすればいい、どうしたらいい。

 どうすれば、こいつらは沈まずに済む。

 

 もしかしたら大丈夫かもしれないなんて都合のいいものになんて縋れない、縋るつもりもない。

 あそこで学んだ、実感したのは途方も無いリアル。

 そんなリアルに都合のいい夢物語は存在しない。

 

「っ!? 戦艦棲姫っ!? てか霞っ!?」

 

 第三艦隊と一緒に動いていたはずの霞が一人、戦艦棲姫と相対する。

 霞のアイコンが動き砲撃をしても、表記されるダメージは雀の涙。

 対する戦艦棲姫の攻撃は。

 

「霞いいいいい!?」

 

 表示されている体力を大幅に上回るモノ。

 

 つまり。

 

「……っ!?」

 

 沈んだ。

 そう確信できたところから見えた未来はご都合良く体力満タンの霞。

 

「まさか、改……?」

 

 確認は出来ない。

 それでも察した、霞は天龍達と同じように、土壇場で改に至ったということを。

 

 それは、つまり。

 

「装備スロットっ!!」

 

 それが一つ空いているということ。

 

 霞も、摩耶も、神通も。

 改へと至れば装備できるスロットが一つ増える。

 

 なら……!!

 

「くそっ! これくらい!! させろよ! やらせろよ!! 俺は……俺はただの傍観者じゃねぇぞ!!」

 

 動け、動け俺の思い通りに!

 

 出来るだろう? やれるだろう?

 これが俺の歩みの先だというのなら、何も出来ないなんて嘘だ。

 

 言われるがままの道を歩んできた俺だけど。

 反発しているようで結局諦める理由に飢えていた俺だけど。

 

 もう二度と、失いたくない、諦めたくないことだってあるんだから。

 

 味わいたくないんだもう。

 大事なものをそうと気づく前に失うのは。

 理由もわからない、棚ぼただったのかも知れないけど、もう間違えたくなんだ。

 

 だから……!

 

「っ!?」

 

 一瞬見えた気がする装備変更画面。

 それと同時に鳴り響いたチャイムの音。

 

 高まっていた熱が一気に冷たくなったのがわかった。

 いつの間にかドアを力強く睨んでいたんだろう目をモニターに戻せばそこには通信エラーの文字。

 

「なん、だよ……」

 

 更新し直しても、ログインし直してみても、変わらない通信エラー表記。

 

「くそっ!!」

 

 苛つく。

 思い通りどころか何の選択も出来なかったことも、今尚なり続けるチャイムの音も。

 

 そんな場合じゃないのに、分かってるのに。

 

 苛立ちを抑えつけて玄関ドアへと向かった。

 

「書留です。サインお願いします」

 

「……はい」

 

 一通の手紙。

 ご丁寧に書留で届いたこれ。

 

「……そっか」

 

 記されている住所は見覚えがありすぎるけど最後まで見慣れなかったモノ。

 そんな文字を見て、現実感に近い何かが頭と心を埋め尽くした。

 

「そんな時期、だったのか」

 

 こうして一人暮らしをするにあたって唯一出された条件。

 年に一度、あそこへと顔を出さなければならないという日を知らせるもので。

 

 最後にもう一度パソコンを見ればやっぱり通信エラー。

 それがまるで行ってこいと言っているよう。

 

「行かなきゃ、な」

 

 

 

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