二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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終わらない戦いのようです

「我々は……いや、私は一体何故存在するのだろうな」

 

「……急にどうしました?」

 

 MI作戦司令部。

 作戦は第三段階へ移行し、現在進行中。

 

 そんな中、不意に中将が口を開く。

 

「艦娘は……いや、少なくともこの作戦に参加している艦娘は、私がいなくともこの成果をあげていただろう」

 

 作戦第二段階は理想どころか最高の状態で突破できたと言える。

 損傷は軽微とは言えないものの、大破により進軍不可能へ陥った艦娘はおらず。

 第一段階で活躍した長門、陸奥にしても中破状態で帰ってきて、今も尚司令部付近の警備を続けている。

 

 平たく言えば、損害ゼロ。

 

「……それは、私にしてもそうですよ」

 

「……」

 

 長官も、中将と同じ感想は抱いていた。

 

 主に墓場鎮守府の艦娘は間違いなく、勝手に進軍したとしてもこの作戦を完遂させていただろう。

 そう、確信している。

 

「ならば尚の事。……なぁ長官? 私がやってきたこととは、何だったのだろうな」

 

 だからこそ、そんな言葉が出た。

 

 中将の、今まで、歩んだ軌跡。

 

 長官が長官という座に辿り着くまでの軌跡に憧れ、己の範とし歩み続けた。

 艦娘を兵器として、いや、己の道具、駒として捉え扱い歩んできた。

 

 提督養成学校でも己の考えを正しいものとして、役立つものとして広めた。

 

 成功者である長官。

 その軌跡を必死に学んだ結果が中将という地位。

 故に己は間違っていないと盲信することが出来た。

 

 そしてそんな自分が、今この場において、何の役にも立っていない。

 

 悔しいと感じることすらない。悔しいと思う資格がない。

 

 何故彼女たちがここまで戦果をあげることが出来ているのか。

 人によっては、あるいは艦娘にとってはひどく簡単な答えがわからない中将。

 

「間違いではない。そう思っていますよ、私は」

 

「違うだろう!? 間違いだったのだ! 正しかったというのなら! 何故私は今! 何の役にも立っていないというのだ!!」

 

 長官は理解している。

 いや、理解しか出来ていない。

 

 今海で戦っている艦娘は何のために戦って、勝ち続けているのか。

 

 それは紛れもなくあの提督のため。

 提督の意思を海に示すため。

 

 そうだと理解だけしている。

 

「わかりませんよ、中将」

 

「わからない、だと!? ならば――」

 

「私も、今……目下勉強中ですので」

 

 ただ中将と違う部分。

 それがこの戦いから自分たちの役目を探し出すことと定めている。

 

「結果論ではありますが、やはり私はこの作戦が失敗するとは思っていなかったのでしょう。彼の艦娘が敗北する光景を思い浮かべられない。そう思ってしまっていた」

 

 提督が拉致される。それにより艦娘の動揺が生まれる。

 そんなハプニングがあって尚、敗北はありえないと無意識に感じていた長官。

 

「彼が、存在している。それだけで彼の下に帰ろうと、勝利して無事に帰ろうと言う気持ちは……きっと誰にも、深海棲艦にも負けることはない」

 

「それが……それが何だというのだ! それはただ私達の必要性がないと示しているだけではないか!」

 

「だから今ここに居るのですよ、中将」

 

「っ!?」

 

 必要とされるために。

 そのためにここに居ると長官は言う。

 

「彼女たちは一つの成功例です。そう、あくまでも一つの。成功の形は一つだけじゃないはずです、私がかつて成功者と言われたように」

 

「……」

 

「元帥も言っていたように、我々は学ばなければならない。彼の成功を真似るだけじゃない、私だけの……いや、我々だけの成功の形を探すために」

 

 それこそがこの場にいる意味。

 長官は、そう、理解していた。

 新たな成功者として提督が姿を現し、かつて思った仮の理想を顕現された。

 故にその成功をさらなる高みへと押し上げることに注力しようとした。

 

「今回のように、予期せぬアクシデントがあって、それが悪い方向にしか進まないことだってこれからあるでしょう。その時、私達は無力なままでいてはならない」

 

 だがそれだけじゃ駄目だと。

 人類という大きな大きな守護対象。

 その運命を一人だけに背負わせてはならないと。

 

「でなくば、一生……我々は海に見放されたまま、終わらない戦いを続けることになる」

 

「海に、見放される……?」

 

 長官が言うのは、今のままでは深海棲艦を生み続けてしまうといった考えからのものだが、それは正しい。

 例え提督が認められても、それは人を認めたわけではなく提督だけで。

 人類を背負った一人の英雄だけが認められるというだけのこと。

 

「私にしか、我々にしか出来ないことがあるはずです。それを見つけて、海へと示さなければならない」

 

「私にしか、出来ないこと……」

 

 人として、人類という大きな括りとして。

 海に認められる。そのために出来ることとは?

 

「やってきたことは失敗だったのかも知れませんが、間違いだったわけではない。彼が一つの答えを示したのなら、それを基により良い答えを探せるはずです」

 

「失敗してきた、私……いや、私だからこそ、か」

 

 自惚れなのかも知れない。

 だが、自惚れなければならないとも長官は思った。

 

 失敗して終わりじゃない、成功したから戦争が終わるわけでもない。

 

 ならば歩みを進めるための自惚れならば。

 

「馬鹿にされましょう、蔑まれましょう。そして、新たなる一歩を踏み出しましょう。私達は、そうして良いのです」

 

「……あぁ」

 

 戦況に目を戻せば、決戦が始まる間際。

 

「頼んだぞ……!」

 

 中将は初めて、艦娘に勝利を願った。

 

 

 

「空母、棲姫……!」

 

 何度目の衝突だろうか。

 不敵な笑顔を見るのは何度目か。

 

 それでも今はかつて抱いていた感情とはまったく違うものを心に宿すことが出来ている金剛。

 

「金剛さんっ! 敵の編成わかりましたっ!!」

 

「サンキュー!」

 

 声を上げる翔鶴。

 その口から伝えられたのは空母棲姫を旗艦とする連合艦隊。

 

 空母棲姫以下、戦艦棲姫、防空棲姫一隻、軽巡棲姫と軽巡棲鬼が一隻ずつに駆逐棲姫が一隻。

 連合されている艦隊は鬼、姫級こそ確認されないものの、戦艦、空母、重巡等のフラグシップ級が揃っていた。

 

「ねぇ、金剛さん……あれって、さ」

 

「アナタノ……カエリミチハ……ナイノ……。モウ……ナイノヨォ……!」

 

「ニドトフジョウデキナイ……シンカイヘ……シズメッ!」

 

「……ええ、言いたいことはわかりマス」

 

 川内が認めたくないように、だが認めなくてはならないと金剛へ口を寄せる。

 知っている艦娘に極めて酷似している軽巡棲姫と軽巡棲鬼の姿。

 自身の妹に、似すぎているが故に、気づいた。

 

 それは川内だけじゃない。

 

「まさか、あれって……!」

 

「う、ううん……そんな、だって……!」

 

 艦隊にいる艦娘、それぞれが気づく。

 中間棲姫と戦った時、薄らぼんやりと感じた感触。

 

 それは、間違いでは無かったんじゃないかと。

 

「そうデス!! 彼女たちは! 私達が沈めばなるかも知れない姿デス!!」

 

「!?」

 

 落ち着いてとも、気にするなとも金剛は言わなかった。

 ただその想像が正しいと告げた。

 

「彼女たちは深い悲しみ、怒りを抱えて沈んだ私達デス!!」

 

 艦隊に奔る動揺。

 その一切を気にせず金剛は口を開き続ける。

 

「皆さんはっ!! そんな気持ちで戦いたいデスカ!?」

 

「っ」

 

「私は! そう思いまセン!! 笑って! 称え合って! 勝利して! 帰って提督に誇りたいデス!! そして彼女たちは! それが出来なかった! 出来なくなった艦娘デス!!」

 

 金剛の言葉で動揺に新たな色が宿る。

 

 悲しみ、哀れみとも言うべき感情。

 

「可哀想だと思いマスカ!? 哀れだと感じマスカ!? 私は! そうとも思いマセン!! だって私達には!! 彼女たちをそんな悲しみから救う事が出来る力があるカラ!!」

 

 救われた金剛。

 そして金剛が、提督が救ったあの空母棲姫。

 

 だからこそ、言える。

 

「私は! 撃つ!! 撃ちマス!! 一切の躊躇いなく! 哀れみもなく! 次に会う時笑うために!!」

 

 死後の世界か、それとも別の世界か。

 何かを考えて出た言葉じゃない。

 それでも妙な確信があった。

 

「私は……私はっ!! 戦うっ! そして勝ちますっ!! だから――!!」

 

 同じ、艦娘として。

 同じ、戦友として。

 

 また、会える。

 また、会うために。

 

 

 

「金剛、改――二っ!!」

 

 

 

「おねえ、様……?」

 

 新たな姿。

 形を変えた金剛。

 それでも呟いた比叡は間違いなく彼女が金剛であると理解していて。

 

「提督は、無事に鎮守府へと帰ってきまシタ」

 

「えっ!?」

 

 明かさなかった情報。提督の無事。

 

「なら何の心配もありまセン、私達は、彼女たちの無念を、勝利の喜びと共に、語ることが出来マス!!」

 

 モチベーションの変化を恐れたその情報。

 それを今、勝利の意思を確たる物にさせるため、明かした。

 

「だから皆さん……! 着いて来て、下さいネー!!」

 

 続く言葉に、この場にいる全ての艦娘が。

 

「――了解っ!!」

 

 理解できない何かを理解して、返事を高らかに吠えあげた。

 言葉にせずとも、提督に伝えなければならないと何かを理解して。

 新たな力を身にまとった金剛の背中に続きながら。

 

 

 

「改……二、だと?」

 

「……」

 

 驚きの表情で顔を固める中将と長官。

 

 改二だけではない、その驚きは戦闘の光景、展開に対しても。

 

 ――負ける気が、全くしない。

 

 艦娘がそう思うならわかる。

 戦場に、戦闘の最中にいる存在がそう感じるならわかる。

 

 だが、それすら越えて、思わされた。

 

「改の先が……? 待て、あの改造ですら限界目一杯だったはずだぞ!? あれの先など……!!」

 

 驚きを動揺に変えたのは中将。

 

 人為的な改造計画。

 それに携わっていたからこそ、ありえないと誰よりも感じた。

 

 出来ることは、思いつくことは全て行ったはずだった。

 その結果が不完全かも知れないが、あれだった。

 

「これが……艦娘の可能性……」

 

 驚きのまま、艦娘の戦う姿に目を釘付けにされているのは長官。

 

 金剛が、改二に至った事がきっかけなのか。

 

 比叡が、榛名が、霧島が。

 次々に改二へと至る。

 

 改二だけではない。

 

 翔鶴が、瑞鶴が、艦学の面々だけじゃなく、由良、羽黒ですら改へと至る。

 

「馬鹿な……一体、何が……」

 

 中将の声は司令部に溶けて消える。

 流れる映像は苛烈の一言。

 

 あれほど強力だと実感すらしていた空母棲姫の艦載機。

 それは次々と瑞鶴、翔鶴の戦闘機により撃ち落とされ効果を失う。

 

 防空棲姫が襲い来る艦載機を撃ち落とそうとすれば、それを邪魔するかのように鳥海や羽黒の砲撃が向けられる。

 

 軽巡棲鬼、姫にしてもその行動の悉くを躱され、反撃に晒される。

 

 敵側の連合艦隊、姫、鬼級に至っていない深海棲艦など、相手にすらならない。

 

「……勝ちましたね」

 

「……あぁ」

 

 軽々しく言って良い言葉ではないと重々に承知している。

 それでも、そう、それでも口から出てしまい、更には頷いてしまえた。

 

「これが……ヤツの艦娘」

 

「ええ、そして彼の力、でしょう」

 

 勝利を決定づけたのはやはり金剛。

 狙いすまされた一撃が、最後まで抵抗しようとしていた空母棲姫に吸い込まれる。

 

 光の粒が、画面に溢れ、その光越しに勝利へと喜びの声をあげている艦娘の姿が見えた。

 

「MI作戦……達成、成功。いや、大成功、だな」

 

「結局、我々はまた、何も出来ませんでしたね」

 

 苦笑いを浮かべる長官へと、何に負けたと思ったのか同じような笑顔を返す中将。

 

「あぁ……だが、このままでは終われんな。ここまでの成果を見せられて……心を燃やせない軍人などいない」

 

「はは、仰る通りで……ん?」

 

 そんな二人の間を裂くように、無線の音が鳴り響き。

 

「こちらMI作戦司令部……何っ!?」

 

「どうしたっ!?」

 

「わかりましたっ! すぐに!!」

 

 慌てて無線を切る長官へと声をかける中将。

 そして慌てたまま、長官は聞いた言葉そのままを返す。

 

「深海棲艦による本土強襲です!! すぐに戻りましょう!!」

 

 AL/MI作戦。

 最後の戦いが始まろうとしていた。

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