二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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相変わらず着任する艦娘はワケありのようです

 大本営に艦娘着任依頼を出して少し。意外にもそれはすぐに受理された。

 

 轟沈艦が居ないことに対して随分驚いていたみたいで、戦闘内容の詳細を提出する事のみを条件とされた程度。

 

 正直拍子抜けしたとも言える。それがより一層援軍を寄越さなかった事への疑問を深める事になるのだが、まぁ良い。

 

「良かったね。それで、誰が来てくれるんだい?」

 

「あぁ。天龍型軽巡洋艦、天龍と龍田だ」

 

 執務補佐をしてくれている時雨。いわゆる秘書艦ってやつだな。と言ってもやるべき執務なんて殆どないのが悲しいが……俺は形から入る主義なんだよっ!

 夕立は近海の警備に行ってくれている。帰ってきたら3人で昼ごはんの予定だ。ニートなめんな、チャーハン位なら作れるんだぞ。味は知らん。

 

 その後昼過ぎ……ヒトサンマルマルに二人が来てくれる予定になっている。

 

 しかし、天龍と龍田か。

 

「時雨は二人と面識はあるか?」

 

「うーん。前の鎮守府でちらっと見かけたことはあるけど話したことは無いかな? あの二人はいつも他の駆逐艦を率いて遠征に行っていたし。それに僕達が所属していた所とは別のとこから来るみたいだから姿格好を知ってる位でしか無いよ」

 

 やっぱりそれはここでも変わらないのか。燃費良いからなぁ。

 

 うちは近海を攻略するまで遠征できないし、しばらくは水雷戦隊旗艦をどちらかに務めてもらうことになるだろう。

 スペック的な部分は気になるけど……戦いは数だよ、なぁ?

 

「そうか。これで近海攻略に乗り出せる……とは言い切れないが、目指すことは出来るだろう。当面の間は天龍と夕立、龍田と時雨でコンビを組んでもらうぞ」

 

「うん、わかったよ。提督の言う通りにする」

 

 そう言ってにっこり笑ってくる時雨。

 

 ……厚い信頼を感じる。

 

 あの作戦が終わってから。

 夕立もそうなんだが、ものっすごい信頼というか好意というか。そういうプラスな感情を向けられているのがわかる。

 

 悪い気どころか心地いいんだけどな。でもまぁ人間の妄想力は豊かなもんでついつい病まない雨というフレーズが頭を過ってしまう。

 

 まぁそんな兆候は見られてないし、どちらかと言えばしっぽをぶんぶん振られてるというか。

 

 忠犬?

 

 そんな感じ。これは夕立が顕著だったりするんだが、行動を表に出すか出さないかの差で多分二人とも同じ感じ。

 

 凡そなんでも頼めばすぐに頷いてくれそうな雰囲気がある。夜戦もオッケー? いやいやせめて改二……。げふん。

 

「近海攻略に向けて、第一艦隊旗艦を天龍、以下夕立。第二艦隊旗艦を龍田、以下時雨。そういった形を取って二艦隊同時出撃を考えているから。しっかり相互理解に努めてくれな」

 

「うん。……でも、同じ艦隊に組み込まないのは何故だい? 軽巡洋艦一隻を旗艦にする水雷戦隊にこだわってるの?」

 

「いや、そういうわけでもない」

 

 確かに四隻編成で取れる陣形を増やし作戦行動にあたるというのももちろん考えた。

 

「現在戦力を纏めて連携を深めるという時間が不足していると思う。だったら相手だけの事を考えればいい二隻編成を二つの方がいいと判断した。時雨は夕立の考えていることとか、なんとなくわかるだろう? 天龍と龍田も同じだと思う」

 

「でもそれだったら、姉妹艦同士で組んだほうがいいんじゃないかな?」

 

 もちろんそれも考えている。

 戦隊なんて言うほどの数じゃないが、バランスを考えてのことだ。

 

「そうすることで、第一艦隊と第二艦隊で大きく力量差が出てしまってはいけないからな。二艦隊同時出撃した所で片方が極端に強かったり弱かったりすれば、穴となる艦隊への一点突破で済んでしまう」

 

「なるほど。バランス次第ってことだね」

 

「ああ。まぁあくまでも予定ってだけの話だよ。時雨の言った通り一つの艦隊に全員纏める可能性だって十分にある」

 

 時雨が顎に手をあててうんうんと頷く。

 

 流石に軽巡洋艦二隻編成が駆逐艦二隻編成に劣るとは思えないが……まぁ机上の空論に精を出しても仕方がない。実際に会って実力を見て、それからだ。

 

 

 

「天龍型一番艦、天龍だ。……フフフ、怖いか?」

 

「龍田だよ~」

 

 これだよ。これ。

 あーなんか安心するわ、フフ怖頂きました! 内心ちょっと怖かったんだよなぁ。天龍が、じゃなくてだな。なんかこう、艦これでよく見た事やってくれると安心するわ。

 

「私がこの鎮守府の提督だ。異動要請に応えてくれて感謝する。我が鎮守府はまだ戦力も整っていない弱小鎮守府ではあるが、どうかこれからよろしく頼む」

 

「提督さん、やっぱりその喋り方変っぽい」

 

「しっ! やりたいようにやらせてあげようよ。自己満足って大事だよ」

 

 時雨さん? 夕立さん? 聞こえておりますことよ?

 

 あーったくしまらねぇなぁ……。

 

「まぁ、なんだ……。二人の着任、心からうれしく思ってる。これからよろし……」

 

 そう言いながら天龍に握手を求めようとした俺に。

 

「あら~提督? それ以上近づかないでくださいね~?」

 

 龍田が艤装を展開し、その槍っぽい穂先を突きつけてきた。

 

 ……まじかよ。よっぽどこっちのが怖いよ。

 

「!! やめなよ!」

 

「提督さんに何する気っぽい?」

 

 俺の背後に控えていた二人もまた艤装を展開し、殺気と警戒を身に纏った感触。

 あーここ海じゃねぇんだけどなぁ……。

 

「時雨、夕立」

 

「っつ……わかったよ」

 

「っぽい……」

 

 俺の声にその雰囲気を収めて艤装を解く二人。

 

 んで? これは一体どういうことなんですかねぇ。薄い本よろしく、天龍ちゃんに近づく全てぶっ殺祭り開催中かな?

 

「さて、俺は握手を求めただけだが……あぁ、一応二人に会う前に手は洗っているぞ?」

 

「あらそうなの~。でもそういう事じゃないわぁ……ねぇ? 天龍ちゃん」

 

「あ、いや……。まぁ何だ。オレ達みたいなの呼んでよ、一体何させようってんだ?」

 

 天龍が頭を掻きながら聞いてくる。相変わらず龍田は俺に穂先を向けたまま。

 

 警戒されてる? 

 

「この鎮守府近海では戦艦ル級の存在が確認されている。今うちには俺の後ろにいる二人しか居ない。単純に現状を打破するために戦力を求めた結果、君達が来た。そう、俺は二人に出撃してもらおうと思っている」

 

「ほんとかよ! オレを出撃させてくれるのか!」

 

 その言葉に喜びを露わにしたのは天龍。バトルジャンキーかな?

 

 やっぱあれかね。遠征ばっかりで出撃に飢えていたとかそんな感じ?

 

「……なるほどねぇ~。そうやって私達を破棄するのね~」

 

 はい? 破棄?

 何言ってるんだ龍田は。そんなつもり欠片もないが。

 

 龍田は手に持った槍に力を込めたようで、ぎりっという音が聞こえた。

 

 あらやだ、殺意満々ね。

 

「おかしいと思ったの~。私達みたいな役立たずが異動なんて~。……弱小鎮守府に危険な海域。よぉくわかったわ~」

 

 俺は全く理解できてないんだが? 

 いやいや、龍田ってまぁよくわからんキャラだってのはよくわかってるけど、これは流石に意味不明すぎるぞ。

 

「どうせ沈まされるなら~……いっその事……。天龍ちゃんはやらせないんだからっ!!」

 

「提督!!」 「提督さん!!」

 

 瞬間、龍田は槍を自分の手元に引き、俺に向かって突き出そうとして……その穂先を時雨が叩き落とし、夕立が龍田に襲いかかった。

 

「何をするのかしら、あなた達? 二人だって、そう望まれてるんでしょう~? 無理しなくていいのよ~。私と一緒に……逃げちゃおうよ~」

 

「ちょっと意味がわからないっぽい!!」

 

「そうだよ! 僕の提督はそんな事望んでない!」

 

 ごろごろと夕立と龍田がもつれ合い、ドアの所で止まる。組み敷かれているのは龍田、その目は変わらず穏やかな形をしているが、俺に向かって殺意をしっかり飛ばしてくる。

 

 いやいや、呆気に取られている場合じゃねぇな。おいフフ怖さん。お前もだ。

 

「やめろ、夕立。時雨も艤装をしまってくれ」

 

「そ、そうだ! 龍田もしまってくれよ!」

 

 睨み合っていた三人だが、俺達の言葉が聞こえた少し後、しぶしぶと言った様子で艤装をしまった。

 

「龍田」

 

「……何かしら~」

 

 何を勘違いしてるのかわからないけど。これだけは言っておかねぇとな。

 

「俺はお前たち二人が沈む事なんて望んでいないし、沈めたいとも思っていない。それは夕立、時雨にも同じく、だ」

 

「……信用出来ないわ~」

 

 まぁそりゃそうだわな。

 言って信じられるなら最初っからこんな真似しねぇわ。

 

「んじゃあこうしようか。龍田と夕立で演習をしよう」

 

「はい? そんな事して、何になるの~?」

 

「もしお前が勝ったら……そうだな、俺を殺していいぞ」

 

「提督!?」「提督さん!?」「はぁ!?」「……へぇ?」

 

 四人とも驚いてら。まぁ一番驚いてるのは俺だけど。

 

 なんでこんな事言ってんだか。

 あの船で二人を助けに行った事もそうだけど、どうも自分の命を安く扱ってしまうな。

 

 でもなんだろ。

 それが当たり前だと思ってる自分が居る。

 

 あの時、羅針盤の妖精は言った。命くらい賭けろって。

 

 多分。

 命ってのは安い。

 

 艦娘の命ってのは、多分この世界では限りなく安い。

 

 艦これでもそうだ。

 一隻轟沈しようが、新たに手に入る。そしてどれも同じ様に自分に対して接してくる。損失ってのはその艦娘にかけた時間と労力だけだ。それに対してショックを覚えているだけで、再び手に入れることが出来る命なら、命を損失したという事にショックを受けた訳じゃない。

 なら、その一隻にこだわる理由もない。だから効率の良い捨て艦だったり、バイト艦だったりそんな考えが浮かぶ。

 

 俺も含めて、そういったプレイを嫌う人間だって多いけど。感情論を抜きにした、それは事実だ。

 

 そうやって命を扱ってきた俺の命もまた、安い。

 

 だったら賭けるべきだ。

 命が安いんだ。言葉なんて、態度なんてもっと安い。

 

「無論、それですぐお前達が捕まるなんてしないようにしよう。せめて安全に逃げることが出来る位にはな」

 

「じゃあ私達が負けたら? 大人しく礎にでもなったらいいの~?」

 

 あぁ、あれだな。

 意外と龍田って短絡的なんだな。それもまた良しだけど。

 

「別に何もしなくていいさ。俺の命令に従えとも、沈めとも言わない。……あぁ、そうだなとりあえず俺を殺そうとしないでくれたらいいか」

 

「はい?」

 

 引き換えに言うことを聞かせたって仕方ないだろう。ニートで学んだ意地汚さへの理解力舐めんな。

 

「じゃ、そういうわけで。えーと、今がヒトヨンマルマル……じゃ、ヒトゴーマルマルにすぐそこの近海でやろう。時雨と天龍はすまないが、演習を行っている間その付近の警備を頼む」

 

「……わかったよ。提督の言う通りにする」

 

「お、おい! いいのかよ!」

 

 すんなりと……では無いけど頷いてくれた時雨に天龍が驚く。まぁ驚くか。

 

「うん。……夕立、わかってると思うけど……」

 

「任せるっぽい! ……これでも夕立、とっても怒ってるんだから!」

 

 慌てる天龍を尻目に、ギラギラと戦意に満ちた瞳を龍田に向けている夕立。

 

「っつ……あら~旧式とは言え、駆逐艦如きに負ける私じゃないわよ~?」

 

 その戦意に一瞬息を飲む龍田だが、負けじと戦意を宿し夕立を煽るように言う。

 だが夕立はそんな龍田にふっと一笑み向けた後、執務室を後にし、それに時雨が続いた。

 

「……提督? ちゃんと首は洗っておいてね~?」

 

「あぁ。じゃあ風呂にでも入っておくよ」

 

 そう返すと、面白くなさそうに鼻を鳴らした後執務室を出ていった。

 

「ふぅ……」

 

 やれやれ、困ったもんだ。

 

 とりあえずそうだな。

 

「風呂にでも入るか」

 

「ちょっと待て!」

 

 ツッコミを入れてくれた。うんうん、いいぞそのツッコミ。天龍、キミをツッコミ大臣に任命しようじゃないか。

 

「いいのか提督! あんなこと言って! 知らねぇぞオレは!」

 

「なんだ。あれ以外に場を収める方法があるのか? よしんば収めたとしてもお前たちがすんなりここに馴染めるとでも?」

 

 何かを胸に宿しているやつは、それが叶わない限り絶対に引かない。そういうもんだ。

 

 俺だってそんな気持ちがなけりゃ甲勲章全部取ってねぇよ。

 

「そ、それはそうだけどよ! 駆逐艦が軽巡洋艦に勝てるわけがねぇだろ! お前、死んだも同然なんだぞ!?」

 

「何だ? 心配してくれるのか? 優しいな、天龍ちゃんは」

 

「ぶっ殺すぞ!?」

 

 まぁまぁ落ち着きなさいな。

 何々出来るわけがないってのは、言い訳に過ぎないんだよ。保険とも言う。

 

 俺もそのフレーズはよぉく使ってたからな、痛いくらいに理解してる。

 

「……あんなヤツに勝てるわけがない。そう言えば、深海棲艦は攻めてこないのか?」

 

「っ!」

 

 んなわけないわな。

 白旗を上げて引いてくれる相手なんかじゃないってのは、艦娘のお前たちが一番よくわかってるはずだ。

 

 打倒する。撃沈する。

 

 そうしないと引かないんだ。守れないんだ。

 

「だったらやらなきゃ。その結果俺が沈むなら、それはその程度の事に過ぎないんだ」

 

「……っく! オレは知らねぇからな!」

 

 何に怒ってるやら。天龍もまた執務室から出ていく。

 

 ほんとにさ。

 

 もうちょっと簡単に事を運べないもんかね。あんまりハード過ぎると俺諦めたくなっちまうぞ?

 

 まぁいいさ。

 

 なんでも始めたては苦労するもんだわな。早く落ち着いてハーレムライフを満喫したいよ。

 

 


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