二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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エピローグ
あなただけの艦隊これくしょん


 ――艦娘解体法、ならびにケッコンカッコカリ法。

 

 艦娘が望めば艤装を解体されることが出来る。

 

 艦娘のためだけの法律。

 そんな、海へと挑む意思のためだけに生まれた法律が少ないながらも誕生した。

 

 とある将校主導で進められた艦娘解体計画。

 悲劇を生まないために、傷を深める前に。

 

 提督が望めば通常業務より遥かに膨大な手続きを進めなければならないこれは、艦娘が望めば簡単な調査、聞き取りのみで受理される。

 

 解体された艦娘の記憶は無くなり、普通の人間として第二の人生を歩むことに。

 また、解体を望んだ理由によっては、厳しい処罰が提督には待ち受けていたし、全うなものであったとしても提督は現司令長官による厳しい指導から逃れられない。

 

 曰く。

 

「僕が間違っていました、艦娘最高です」

 

「クズ? はいっ! ご褒美です!」

 

 等と教育を受けたものは口を揃えて発言し、上層部の頭を抱えさせたとか。

 

 閑話休題。

 

 解体され、記憶を失った元艦娘はとある場所にて同じ境遇の者との共同生活を送りながら社会復帰に向けた教育を施される。

 年齢の割に溢れすぎている元気の下、竹刀を振り回す人間と、いつでも嫋やかな笑顔を携えた人間によって。

 

 今では既に僅かではあるが、元艦娘が働いている一般企業、あるいは元気に学校へと通う姿が見受けられるが、それぞれのプライバシー保護という視点から詳しく語られる術はない。

 ただ言えることは、色々な人間としての問題に、人間らしくぶつかり、立ち向かって、幸せな毎日を過ごしているということだけだろう。

 

 そんな解体法にも例外があった。

 

 ケッコンカッコカリ。

 

 提督と艦娘の間に築かれた強い絆。

 それが認められた場合、数に限りなくその儀式が認められる。

 

 現状、その絆を示すための方法として、現司令長官の艦隊と演習を行いそれに勝利することが挙げられているが。

 

「お父さんそんな男認めねぇぞっ!!」

 

 という言葉と驚くべき力を誇る艦娘によって、ケッコンカッコカリを認められる提督は少ない。

 

 とはいえ演習後に対象艦娘による泣き落とし作戦という裏技もあったりするが、それは語るべきことじゃあないだろう。

 きっと今も尚軍部が何か新しい方法を生み出すために頭を抱えているのだろうから。

 

 認められた艦娘の左手薬指輪は軍支給の物ではあるが、中には個人で給料三ヶ月分を叩く提督もいるらしい。

 また、ケッコンカッコカリを迎えた艦娘は一つの権利を手にすることが出来る。

 

 それが、解体法の例外。

 

 指輪を嵌めた艦娘は、解体することにより記憶を保持したまま人間になることができる。

 

 それはつまり、カッコカリの先を目指すことが出来るというもので。

 

 とある提督はその事実が判明してから大変な思いをしたとかなんとか。

 

 解体法。

 そしてケッコンカッコカリ法。

 

 まだ、二つ。

 整備された法律はただそれだけ。

 

 それでも、多くのことが変わった。

 

 人間を見てみれば、やはり目覚しい変化は提督養成校。

 軍人だけではなく一般人からも提督を志したいという人間を受け入れ始めた。

 学校に蔓延していた思想は取り払われ、教導を行う人間もあらゆる思想を持ち、生徒を導く。

 生徒は基本的な鎮守府運営や艦隊運用、艦娘の特徴を学びながらもそれに触れ、自由の発想、思想を持って提督を目指す。

 

 中には、効率を求めてかつての誰かがやったような運用を目指す者もいる。

 

 それを咎める人間はいなかった。

 だが、そうじゃないと議論が生まれた。

 

「それじゃあ満潮ちゃんとちゅっちゅ出来ねぇだろうがっ!!」

 

「はぁ!? 駆逐艦より大人の魅力っ! 高雄様に踏まれてぇと思ってこそだろうっ!」

 

 そんな、議論。

 

 ……駄目だこの国早くなんとかしないと。

 

 そう思える場面も確かにあるが、それだけではなく、あらゆる議論の下、それは磨かれ現場へと新たな風を吹き込ませている。

 

 艦娘を見てみれば、同じく艦娘養成学校だろう。

 

 ドロップ艦娘。

 

 ゆっくりと、少しずつ。

 確率で言えば本当に僅かなものでしかないが、海で邂逅するという光景が色々な場所で散見されだした。

 

 そして鎮守府で建造された艦娘とは違い、ドロップ艦娘は誰が出会おうと養成学校へと入学する。

 

 学校で自身を知り、磨き、知識を蓄え、力を手にする。

 そうして、自身で着任したい鎮守府を選ぶ。

 

 選んだ鎮守府に着任できるとは限らない。

 双方の希望が食い違い、別の何処かを再度選ぶことだってある。

 

 それはまるで求職活動にも似た何か。

 

 だが、多くの経験を積んだ艦娘、元艦娘が教員として存在する養成校。

 一人一人、親身に相談に乗って、満足出来る結果につながっている。

 

 そして、今。

 

「お、おっきぃ……」

 

 とある鎮守府へと面接にやってきた、一人の艦娘が。

 門前にて、呆然と建物を見上げている。

 

 

 

 別名として英雄のハーレムだとか、艦娘結婚支援所だとか色々な名前がついているが、一番通りある名称は墓場鎮守府。

 その場所から募集の張り紙が出ればすぐに埋まるどころか溢れてしまう人気企業。

 

「な、何でここにいるんだろ……私……」

 

 未だに信じられない想いで胸を詰まらせているのは駆逐艦、吹雪。

 

 養成校での成績はドンケツ、ビリもビリ。

 周りの艦娘や教官は笑ったり蔑んだりこそしないものの、ずっと困った表情を吹雪に向け続けていた。

 そんな艦娘。

 

 墓場鎮守府は所謂求人を行わなくなった。

 理由としてはやはり、あまりにも多すぎる応募のせいと言えるだろう。

 艦娘側としても、有名な鎮守府だから、英雄と呼ばれている提督がいるからといった理由から、とりあえず応募しとけと言った意味合いが多く含まれているものもあって。

 提督が想う居場所でいられなくなるという危惧があったから。

 

 だから墓場鎮守府は自ら指名することにした。

 いわばドラフトみたいなもの。

 うちに来ませんかと声をかけて、艦娘が了承すれば着任できるという形になった。

 

「那珂ちゃーん! 早く来るのですっ!!」

 

「ま、まってー! 電ちゃん、早いよぅ!!」

 

 門前で固まっている吹雪の横を、今では誰でも知っている国民的艦娘、艦隊が通り過ぎていく。

 

「ふ、フラワーズ!?」

 

「ん……? あぁ、そう言えば新しい子が来るって朝言ってたっけ……こんにちは」

 

 テレビ越しに何度も観た、フラワーズ(国民的アイドル)

 主に漁を生業とする人間を護衛し、その後地域でライブを行っていくその姿。

 

 驚く吹雪の声に足を止めたのは響。

 

「こっ、こんにちはっ! お、お会いできて光栄ですっ!!」

 

「あ、あぁ……いや、そういう堅苦しいのは……」

 

「ちょっと響っ! 何やってるの! どうせその子もすぐあのクズに染まっちゃうんだからっ! さっさと行くわよっ!」

 

「霞みたいに?」

 

「っ~~~!? うっさい! 行くわよっ!」

 

「はいはい」

 

 足を止めているうちにフラワーズ、響以外は既にバスへと乗り込んでいたらしい。

 やれやれと肩をすくめた後。

 

「うん、これからよろしく。一緒に戦う仲間としても、ライバルとしても」

 

「ラ、ライバルっ!?」

 

 驚きが止まらない吹雪にそんな事を告げてバスへと乗り込む響。

 その姿を固まったまま見送った吹雪へと。

 

「遅くなって申し訳ありません。吹雪、さんですね?」

 

「ぴゃいっ!!」

 

 背後から聞こえた声にようやく動き始める事が出来た。

 振り返ってみればそこには。

 

「はじめまして。墓場鎮守府、秘書艦の大淀です。申し訳ありませんが、提督は只今軍部との会議中でして……その間、先に鎮守府の案内を申し付けられています。どうぞ、よろしくおねがいしますね」

 

「ひゃ、ひゃいっ! と、とく、と……特型駆逐艦の一番艦、吹雪ですっ! ど、どうかよろしくおねがいします!!」

 

 なんとかと言った様子で、穏やかな笑顔を浮かべる大淀へと敬礼を向けた。

 

 

 

「いっくよぉ!!」

 

「甘いですわっ!!」

 

 真っ先に案内されたのは、ちょうどやっているからと演習場。

 

 海上で演習を行っている艦娘はいずれも改二の姿。

 

「……」

 

 一瞬で釘付けになった吹雪。

 演習は、確かに学校で何度もやった。

 まだまだ練度が低いと自認してもいるが、それでも演習の内容と、言葉の意味は知っている。

 

「吹雪さん?」

 

「……はい」

 

 それでも目の前で行われているものが何かわからなかった。

 

 あまりにも次元が違いすぎる。

 

 確かに改二という至高の頂に昇った故の力でもあるだろう。

 実戦経験の差が、知識の差が大きく離れていることもあるだろう。

 

 軽空母へと至った熊野が艦載機を発艦、それに合わせて航空巡洋艦鈴谷が瑞雲を。

 迎え撃つのは蒼龍と飛龍。

 正規空母の艦載機数に飲まれて一方的な航空攻撃になるかと思われた時。

 

「はんっ! まっかせとけぇ!!」

 

「くぅっ! 伊勢さんっ! 摩耶さんを抑えて!!」

 

「任せてっ!」

 

 冴え渡る摩耶の対空砲撃、それにより制空権は拮抗。

 対空砲撃の驚異を減らそうと、伊勢が摩耶を狙うが。

 

「九三式酸素魚雷やっちゃってよ!」

 

「しまっ――!!」

 

 大井の放っていた魚雷に邪魔をされる。

 

「ふぅ……ご安心をっ! お任せ下さいっ!」

 

「ありがと朝潮っ! よぉし、砲雷撃戦だよっ!!」

 

 魚雷が伊勢の姿を捉える刹那、朝潮がその窮地を救った。

 

 一瞬。

 一瞬で終わった開幕。

 

 その一瞬でどれだけのやり取りがあったのか。

 

 両艦隊、無傷。

 

 どうすれば、あの苛烈すぎる開幕のやり取りから無傷でいられるのか。

 

「す……ごい……」

 

 吹雪には想像もつかなかった。

 

 何よりも。

 

「これが駆逐艦の本分です! 艦隊、増速! 突入します! 勝利を、置いていけっ!!」

 

「ふふっ、浜風さん……油断、しましたね? 次発装填済みですっ!!」

 

 戦っている艦娘、全てが真剣で、真剣な笑顔を浮かべていた。

 

 楽しい。

 

 真剣に演習へと打ち込んで、自身の力を高めようとしているはずなのに。

 そうだと言うのに、何故かあそこで戦っている艦娘全員がそう思っているように感じられる吹雪。

 

「皆さん、真面目ですから」

 

「そう、なんですね」

 

 吹雪には理解できない。

 大淀が言った真面目の意味。

 提督のために力をつけようと真面目であるという意図。

 

 演習中の全員が、それを深く想っていて、それが嬉しくて楽しいと感じてしまっていることを。

 

「私……あんな風に……なれるの、かな?」

 

 俯く吹雪。

 

 努力はしていたし、している。

 それでも置いていかれていた学校時代。

 

「私、ほんとにここへ着任しても、いいのかな?」

 

 もしもここに着任して。

 それが、変わらないままだったら?

 

 ただただ足を引っ張るだけの存在にしか、なれないのじゃないか?

 

「吹雪さん、お腹すきませんか?」

 

「は、はぇ?」

 

 唐突に大淀は言う。

 そんな切り替えに意識がついていかず、変な返事をした吹雪だが、緊張か他の何かでまだ何も食べていないことに気づく。

 

「え、えぇと……」

 

 何か返事をしなくては。

 そう考えた瞬間。

 

「……行きましょうか」

 

「は、はいぃ……」

 

 身体が先に返事をして。

 その返事の音に顔を赤く、先とは違う意味で俯いてしまった。

 

 

 

 ――ここには食堂がない。

 

 道すがら説明された言葉の意味はすぐに理解できた。

 

 食事処、龍鳳。

 

 おそらく食堂を改装したのだろう、入り口にかかっていたそんな看板。

 そして暖簾をくぐればどうしてなかなか雰囲気のある、食事処。

 

「ごちそうさまっぽいー!」

 

「ごちそうさんっ! 相変わらず美味かったぜ!!」

 

 勢いよく皿をテーブルに置いて立ち上がったのは天龍と夕立。

 

「あ、あれって! 天眼さんと赤鬼さんじゃっ!?」

 

「あ、あはは……そ、そんな風に呼ばれてもいますね?」

 

 まさかこんなに早く会えるとは思わなかったと目を輝かせる吹雪。

 

 全てを見通して最高の結果を手にし続ける天龍。

 紅い眼を踊らせて戦場を鬼神のように駆ける夕立。

 

 そんな姿から誰が呼び始めたかそんな呼称。

 

 テレビに映り始めたのは何もフラワーズのような活動だけではない。

 各鎮守府で行われている演習や艦娘の紹介と言った内容もお茶の間に届けられている。

 

 その中でも一際人気があるのがケッコンカッコカリ許可戦。

 法に則り、墓場鎮守府の艦娘と対決する演習が予定されればすぐさまにテレビで特集が組まれるほど。

 

 そしてその相手はいつだって天龍か夕立で。

 

 その姿は幅広く世間に認知されていた。

 

 ということを二人が知ったのはつい最近。

 無邪気に喜ぶ夕立とは対象的に顔を赤らめて小さくなっていた天龍の姿は必見と言えただろう。

 

「……頼むからその名前で呼ぶな」

 

「えー夕立、天眼もかっこいいと思うっぽい!」

 

 項垂れながら吹雪に近づく天龍と、きゃっきゃと笑いながら夕立も続いて。

 

「えと、あの、すいません! 以後、気をつけます!!」

 

「あ? あー……いや、まぁ……おう、よろしく頼むわ」

 

「ふふっ、天龍にも見えないもの、あるっぽい! 私は夕立っ! 赤鬼さんでもいいっぽい! よろしくねっ!」

 

 吹雪の手をブンブンと握って振る夕立と、苦笑いのまま挨拶をする天龍。

 手を離せばまじまじと繋いでいた手を眺める吹雪。

 

「出撃でしたか?」

 

「あぁ、珍しく古鷹から救援要請だ。金剛さん達もいるのにな? フフフ、楽しみだぜ」

 

「夕立も楽しみっぽい!」

 

 好戦的な笑顔を浮かべる二人に、吹雪はふと思う。

 

「救援要請……って、早く行かなきゃ駄目なんじゃっ!?」

 

「ん? そうだな。んじゃ、さっさと行くか、夕立」

 

「りょーかいっぽい! じゃ、またね!」

 

 言葉とは裏腹に、のんびりと歩みを進める二人。

 そんな姿をハラハラしながら、大丈夫なのかと心配そうに見送る吹雪。

 

「ご安心を。当鎮守府では絶対に破れない、破りたくないルールの下、色々な決まりがありますから」

 

「破りたくない、ルール、ですか?」

 

「それは是非提督から。あの様子を見るに救援要請も段階一……念の為程度のものでしょう、段階三程でしたらもっと素早いですから、さっきの姿からは想像もつかない程」

 

 段階一は出撃した艦隊、誰か一人でも危険と感じたらいつでも救援できるように海で備えるもの。

 鎮守府から最低二名の艦娘がそれに備える。

 三人以上が危険と言えばニとなり、一つの艦隊が備える。

 段階三は戦闘前に全員の危険という感覚が一致したとき、すぐに一つの艦隊が合流に向かい連合艦隊となり対応する。

 そして段階四は極めて緊急、鎮守府のその時持てる戦力全てで該当海域へ出撃する事になっている。

 

 このシステムが考案されてから、元々少なかった被害は更に見られなくなり、また定めた第四段階は一度も発令されていない。

 

「そう、なんですね」

 

「ましてやあのお二人……うちの鎮守府の最大最強と言っていい戦力、問題ありません。さぁ、それじゃあ食事にしましょうか」

 

「は、はい」

 

 吹雪にしてみれば、それは慢心なのではとすら思える余裕ではあった。

 

 だが、龍鳳から出た瞬間、夕立と天龍は歩みを走りへと変え、慣れた手付きをより素早く、準備を整えた。

 単純に、新人へと余計な心配をかけないようにという配慮。

 

 その時間を取り返すかのように、全力で出撃した。

 

 二人の本分は新人を慮ることなどではない。

 提督の意思と力。

 それらを海に刻み、示し続けることなのだから。

 

 それが二人の選んだ道。

 提督に捧げる愛の形。

 

 いずれ、その様を吹雪は見て、理解するだろう。

 

「ふふっ」

 

「え? どうしましたか?」

 

 その時、吹雪は何を思うのだろうか。

 

「いえ、楽しみだなと思いまして」

 

「はい?」

 

 吹雪の成長が、今から楽しみだと本人にわからないよう笑みを零した。

 

 

 

「いらっしゃいー」

 

「すいません、緊急でもないのに」

 

「大丈夫よ-? それにもうちょっとしたら演習組が帰ってくるだろうし、逆にタイミング良かったわ-」

 

「え……?」

 

 席に着けば水を運んできてくれた、一人の女性。

 ひと目で分かる妊娠しているであろう大きなお腹を何処か庇うかのように。

 

「だ、大丈夫ですか!? に、妊婦さんがこんなことしてて!」

 

「あらー? あなたが噂の新人さんねー? 優しいのね、ありがとう。でも大丈夫、安定期に入ったらちょっとは動かないと駄目だから-」

 

 ふんわりと笑いながら言う女性。

 そうは言われてもとまだ慌ててしまう吹雪を余所に、大淀は優しげな瞳をお腹へ移す。

 

「どうですか? 最近の調子は」

 

「一時のつわりを考えたらねぇ……動きにくいけど、随分マシよー。それに……」

 

 そう言いながら、女性は、表情を変えてお腹を撫でる。

 

「最近、お腹をよく蹴られちゃうの。とん、って。それがとっても幸せなのよ」

 

「ふふ、それは羨ましいことです。また、後学のためにも是非お伺いしたいですね」

 

 二人して笑い合っている光景を吹雪は不思議に思う。

 艦娘と一般人の距離が近くなったと言われて久しいが、これほどまでに親しげでいることがあるだろうかと。

 

「あ、もしかして、あなたは……」

 

「うん? あぁ、そう、そうだよー。元、艦娘だよ」

 

 正確に言えば、世界で初めて艦娘から人間となった存在。

 

 人間になることが出来る。

 それは特に波紋を生まなかった。

 平たく言ってしまえば人間になってどうするんだという思い。

 

 人間になれば海で戦うことは出来なくなる。

 それはアイデンティティとも言えることで、その先どうするのかなんて全く想像がつかなかったからだ。

 

 確かに、今も尚、提督とのすれ違いで心を傷つけて解体という道を選ぶ艦娘は存在する。

 そういった後ろ向きな想いに囚われて、解体を考えたことがある艦娘だって存在している。

 

 だからこうして人間になった艦娘は極めて少ない。

 

 だが。

 

「さ、触っていいですか?」

 

「お腹? うん、いいよー」

 

 吹雪も、想像でしかないが、解体を選ぶとすれば辛い思いからの選択だろうと考えていた。

 現に、未だ一度も実戦を経験してないのにも関わらず、教官に解体をと相談した経験だってある。

 

 やくたたず。

 

 誰に言われたわけでもない、ただただ自分で自分の事をそう思っていた、いるから。

 

 恐る恐る手を伸ばす吹雪に女性は笑う。

 自分も、人間になってから初めて気づくことは多かった。

 

「あ……」

 

「うふふ、赤ちゃんも、こんにちはだって」

 

 触れた手のひらに伝わった小さな衝撃。

 衝撃が伝えた幸せという確かな力。

 

 幸せを守りたいといつかの彼女は言った。

 そしてそれは戦うことだけで守られるものではないと思い立った。

 

 だから、彼女は人間になった。

 

「さて、それじゃあそろそろご注文をどうぞ?」

 

「あ、じゃあ私は日替わりで」

 

「……私も、それでお願いします」

 

 はぁいと返事をして女性は伝票をカウンターに持っていく。

 

「日替わりだとっ!? ふふふ、ついにこの磯風の腕を……」

 

「はいはい、磯風さんは盛り付けだけお願いしますね」

 

「んなっ!? 何故だっ!?」

 

 厨房から聞こえる賑やかな声。

 

 今も尚、押し返した手のひらを眺める吹雪。

 

「私も、あんな風に笑えるのでしょうか。あんな幸せそうに笑っている人を、守れるのでしょうか」

 

 初めて感じた、守らなければ、守りたいという想い。

 形作られてはいるが、まだ世界へ出てきていない小さな小さな命。

 誰かが守らなければ、簡単に消え去ってしまうだろうそれ。

 

「守りたい、な……」

 

 理屈じゃなく、考えたことでもなく。

 吹雪はそう思った。

 

 

 

「だから何で君はそう無茶をするのかな! 司令長官が海に出るなんて――」

 

「はいはーい、すいませんでしたー」

 

「あぁもうっ! 聞いてるのかい!?」

 

「反省してまーす。あ、それだけ? じゃ、どうぞ? おーい」

 

「あ、ちょっ!? あーもうっ! また来るからね!!」

 

 廊下に聞こえてきた声。

 そして部屋から追い出されるように出てきたのは。

 

「げ、元帥閣下っ!?」

 

「全く……ん? あぁ、そっか、それでか……」

 

 慌てて敬礼をする吹雪と、微笑みながら敬礼をする大淀。

 二人の姿を認めて咳払いを一つした後、答礼を返す元帥。

 

「お疲れさまです、元帥」

 

「君にそう呼ばれるのは未だに慣れないね。だけど、久しぶり、大淀」

 

 二人の間柄がいまいちよくわからず困惑する吹雪を余所に会話は弾む。

 

「君からも彼に言ってくれないか? 父さんと母さんも心配してるし、いい加減無茶はやめろって」

 

「私がどちらの味方をするかなんて聞くまでもないでしょう? それでこそ提督ですから。それに、兄としてと言えばきっと言うことを聞いてくれるって分かってるのでは?」

 

「うぐっ……」

 

 大淀の言葉に鋭いと胸を抑える元帥は苦笑い。

 

 現司令長官……提督は、名実ともに大きな権力を手に入れた。

 元高名な海軍大将の息子、そして現元帥の弟。

 血の繋がった絆ではないが、それは確かに強力で。

 

「そ、それにしても悪かったね吹雪君。会議を長引かせてしまって」

 

「い、いえっ! とんでもありません!」

 

 兄の言うことを聞かない弟ではない。

 仕事中だから、私事を持ち込まないようにしているだけの話。

 

 家族にだけは弱い提督だからということは元帥、艦娘共に周知のことで。

 それを利用しないのは新しく出来た家族に戸惑っているのか、それともやっぱりそうだからこそあの提督だと認めているのか。

 

 旗色が悪いと感じた元帥は吹雪へと水を向ける。

 そんな元帥へと小さく笑う大淀を気にしないように。

 

「彼は……僕が知る限りでは、最高の提督だ。ちょっと向こう見ずでお調子者だけど……それでも」

 

「は、はい……」

 

「きっと今感じている据わりが悪い想い……それすら解消してくれるって、僕は確信している。これから、頑張ってね」

 

 そう言って吹雪の肩を一度叩き、元帥はその場を後にした。

 

「大淀さん……」

 

「はい、どうされましたか?」

 

 最高の提督。

 その言葉が吹雪の頭を駆け巡る。

 

「私、本当にここへ着任していいのでしょうか」

 

 最高の提督の下で働く最低の艦娘。

 それでいいのだろうかと。

 

「私より優秀な人は、いっぱいいました。それこそ同期から、長門教官や、陸奥教官がずっと褒めちぎり続けるような艦娘、最高の提督にふさわしいと思える艦娘なんて、山程」

 

 吹雪は、思う。

 

 提督の歩みを、自分如きで煩わせてはいけないと。

 

 自信。

 そんなもの欠片も存在しない。

 そんな吹雪だから。

 

「提督、よろしいですか?」

 

「おう、大丈夫だ」

 

「えええええええ!?」

 

 そんな吹雪をさくっと無視して大淀は執務室のドアをノックした。

 

「ちょ、ちょっと大淀さんっ!?」

 

「吹雪さん」

 

 ――提督の前で、そう言えるなら言ってみて下さい。

 

 そう笑って、大淀はドアを指す。

 

「此処から先の案内は、秘書()へと変わります。……私は、吹雪さんと共に海で戦えること、楽しみにしていますよ」

 

「ひしょ、かんって……え? ちょっと、置いていかないで下さい!?」

 

 去っていく大淀は一度も振り返らず。

 去り際に見せた笑顔だけを吹雪の心に残して。

 

「い、いか、なきゃ……」

 

 ここで逃げるなんて失礼は出来ない。

 

「そ、そうよ、挨拶だけしてごめんなさいって言えば……」

 

 あくまでも着任するかどうかは艦娘に委ねられている部分が大きい。

 鎮守府側が、その提督がどれほど望んでも、最終的な決定は艦娘が出来る。

 

「な、なら、大丈夫……い、行こう、行くのよ、吹雪」

 

 簡単な話だ。

 こんにちは、ごめんなさい。

 それだけでいい。

 

 だから。

 

 

 

「よく来てくれたな、吹雪」

 

「――」

 

 

 

 一歩踏み出しドアを開けた。

 

 そして考えていた言葉を全て失った。

 

 椅子に座りながら優しい顔を覗かせる提督らしき人間。

 その隣で柔らかい笑顔を向けてくる人間。

 

 その左手薬指に鎮座した輝きは、ここで出会った人、艦娘、全てが所持していて。

 

 ――あぁ、この提督と……海を征きたい。

 

 理由なんてない。

 

 あえて言うなら、目の前にいる二人。

 二人の間には深い、深い絆を感じた。

 

 きっと、この二人だけに限らず、この提督はここにいる全ての存在と、強い絆を育んているんだろう。

 

 その絆を自分も、目の前の人と結びたい。

 

 そう思った、そう出来ると根拠なく理解できた。

 

 だから。

 

 

 

「特型駆逐艦の一番艦、吹雪ですっ! よろしくおねがいしますっ!」

 

 

 

 

二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 了

 

 

 

 

 




 後書きにまで目を通して頂きありがとうございます。

 まずは、ここまでお付き合い頂けました読者さんに感謝の言葉を。
 ありがとうございます。

 二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました。

 如何でしたでしょうか? 楽しんで頂けましたでしょうか?
 少なくとも、作者はとても楽しんで執筆することが出来ました。
 これも読者さんのおかげ……というのは結びの言葉に取っておきたいのでまだ。

 作中出てきた艦娘、ならびに軍人であったりなんなり。
 こんなんじゃない! なんて思われる方もいるでしょうし、なんならこんなご都合主義認めない! なんて方も居られるとは思います。
 そしてそれらに対して私はその通りだと答えます。
 何故ならこの作品は私が考えた最高に面白い艦これ二次小説でしかないからです。

 私は、艦これ……艦隊これくしょんが大好きです。

 そう明言した上で、誤解を承知でいいますと、艦隊これくしょんというのはつまらないゲームです。

 もっと美麗、秀麗なグラフィックで。
 もっと感動して心に刺さるストーリーで。
 もっと画期的で、飽きないシステムで。

 そんなもっとで彩られたゲームはたくさんあります。

 それらに比べて艦これはどうでしょうか。
 可愛い艦娘は大勢います、むしろ出てくる艦娘全てがそうです。
 ですが、出撃して迎える戦闘画面は美しいグラフィックでしょうか。
 感動できるストーリーはあるでしょうか。
 画期的な、飽きないシステムはあるでしょうか。

 私は口を噤んでしまいます。

 確かに。
 ひたすら同じ海域を繰り返して出撃して、資材が底をつかないように工面して、確実に手に入るわけじゃない新しい艦娘を求めて周回する。
 それだけとは言いませんが、まぁこういうゲームです。

 そういった行為だからこそいいという方も居られると思いますが、私はそれに対してそこまで面白みを感じたわけではありません。

 じゃあ何で艦これが大好きなのか?

 それが自分でストーリーを妄想できる、ということです。

 本作で描いたように、私はそれぞれの艦娘にちょっとした、あるいは壮大な設定を付与し物語を妄想しました。
 時には悲しく、時には笑える。そんな物語に沿って勝手に一人で自家発電。
 そういうプレイヤーです。

 そしてそれが何よりも楽しいと感じています。

 要するに、艦これは自由なのです。

 途中でプチ引退をするのも、毎日ひたすら画面をクリックするのも、お金をジャブジャブ使うのも。
 出撃を控えめにしてひたすら画面を見てニヤニヤしてもいいし、ひたすら同じ艦娘を育ててもいい。

 母校画面に映る艦娘と、感動的な物語を紡いでも良い。

 そんな自由に向き合えるゲームです。

 自由だからこそ、プレイ中に抱いた思いや考え。あるいはそのキャラへの理解、設定。
 百人いれば百人、とは言いませんが多くの解釈があっていいと思いますし、それに違うと言う気持ちもありません。

 だから私は、二周目提督がハードモードに着任しましたという、艦隊これくしょんに至る物語を書きました。
 俺たちの戦いはこれからだっ! 二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました、完っ!!
 そして始まるあんたの艦隊これくしょん!

 それだけを書きたくて書きました。

 これは艦これをやろうかな? なんて何故思ったのかを大げさかつ壮大にしただけの話です。
 
 私は、ゲーム中に抱いた各プレイヤーの想いを代弁もしませんし、こうあるべきとも言いません。
 そしてその想いから来た何かを本作に対して違うと、クソだと言われてもそうだよなぁと答えます。

 重ねて言います。
 そうだから良いのです、と。

 まぁ嫁艦に対してどうしてこうしたし! と怒っておられる方がいましたら土下座する準備はいくらでもあります。いやほんとに。

 もしも万が一。
 艦これを未プレイの方がいましたら是非プレイして下さい。
 動機がなければ本作の主人公ロールしてみて下さい。
 きっと、楽しめると思いますよ。

 そして本作。
 何気にここでこうしていれば。なんてポイントがたくさんあります。
 ありがたくも感想などで頂けましたように、深海棲艦側につくルートなんてのもあるでしょう。

 それを私が書くかどうかは未定です。
 なんなら、書いてもらってもオッケーです。

 むしろ書いて? 読みたい。

 まぁそうじゃなく。
 色々と納得できない部分があったりもするかと思います。
 作者の力が足りなかった部分もあります。

 あるいは、この艦娘をこの世界でもっと見てみたいなんて思ってもらえてるかも知れません。

 ですが、それは私の考えた最高に可愛い艦娘でしかないので。
 そんな素敵なあなただけの艦娘はあなただけの脳内に存在していてほしいのです。

 そうして、こうして。
 本当に私は、楽しめましたと改めて言えます。
 自分の自己満足を貫けました。ありがとうございます。

 最後になりますが、改めて、重ねて。
 本作を楽しめたのは間違いなく読者さんのおかげです。
 多くの感想、ご評価、応援を賜り、未だに小躍りしてしまうくらいです。

 そして完結まで辿り着くことが出来たのも、一緒にそうして盛り上がれたおかげです。

 今後艦これの作品を書くことは間違いなくあるでしょうが、しばらくは短編で。
 他にも色々皆さんと一緒に盛り上がりたい原作なんしお話がありますので、そういった作品で再び出会える事を祈りながら。

 今作はここで筆を置きたいと思います。

 ありがとうございました!
 ベリーナイスメル、次回の作品も乞うご期待っ!


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