二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル
「演習結果に不満は?」
「……ないわぁ~」
そうかそうか。なら良かった。
しっかしすげぇな、龍田。
あんな勢いで突っ込んで来た夕立に全弾当てるとは。普通ビビる、むしろ俺ならビビってる。
やっぱ昼行灯っつーか、影の実力者っつうか。
そんなイメージは間違いじゃなかったか。
最後の一発は惜しかったな。
夕立の艤装を投げるって発想がやばかった。あんなん誰も思いつかねぇよ。
まぁともあれ。
「じゃ、最初に言った通り俺を殺すのはやめてくれな」
「ほんとに、それだけでいいの~?」
あん? 何だよ、最初に言っただろうに。
それとも何か? ナニしてもいいってか?
……あ、そんな事言ったら息子切り落とされる未来しか見えねぇわ。
「あぁ。構わない。出撃させるつもりもねぇよ」
「……別に構わないわよ~?」
「生憎貧乏鎮守府でね。燃料、弾薬も艦娘も無駄に捨てる気はないんだ」
真面目な話。
もし無理やり龍田を出撃させたとして。
間違いなく、失敗するだろう。
いや、沈むと断言してもいい。
盲目的に何かに必死になってるやつとか。悲壮な覚悟を胸に秘めているやつとか。……目的を見失ってしまったやつとか。
そういうやつは限りなく確実に近い確率で失敗する。
平たく言えば余裕が無いやつは失敗する。
ほれ、よく言うだろ? 死亡フラグって。ありゃあマジだよマジ。
俺はよく知ってるんだ。そういうやつの顔を何度も見たことがあるからな。鏡越しに。
ともあれ、龍田はそんな顔をしてる。この顔が変わらない限り言われても出撃させるつもりはねぇな。
「……別に死にたがってる訳じゃないけど~。それにそう言うならあの子なんてもっと危ないんじゃないの?」
「私の事っぽい?」
話を振られたと気づいた夕立が首を傾げながら俺に聞いてくる。
うん、お前のことだよ。
「夕立はなぁ……まぁ色々言いたいことはあるけど。上手くなったな」
「褒められたっぽい! わぁい! 提督さん! もっと褒めて褒めて~!」
きゃっほいと俺に抱きついてくる夕立。
うむ、改造前にもかかわらず中々のボディ……。
「だけど夕立。あんまり心配をかけるなよ? 時雨に怒られるのは俺なんだからな?」
「うんっ! 夕立、提督さんの為ならどんどん強くなれるっぽい!」
とのこと。
龍田の方を見ると、何か言いたげな表情をしている。
「ロリコンなの~?」
「違います」
イエスロリータノータッチ。
だが、向こうから来る分には勘弁なっ!
「まぁいい。とりあえず二人共風呂入ってペイントしっかり落としてこい」
「はぁい!」
「……わかったわ~」
二人を追いやれば、執務室に残るのは時雨と天龍。
「さて、天龍はどうする?」
「どうするって何だよ?」
なんか睨んでる? フフフ、怖いよ。
「出撃に関してだよ。うちとしてはお前に旗艦を任せて出撃したいんだがな」
「オレが……出撃艦隊の旗艦?」
おかしいかね? 軽巡洋艦を旗艦にして水雷戦隊。普通だよな?
「あぁ、仮に龍田が出撃してくれるとしても。旗艦は天龍にするつもりだ」
「……何でだ? 形だけの水雷戦隊に意味なんて無いだろ?」
何いってんだコイツ。形だけの意味がわからん。
「オレの大破率は知ってるだろ? そんなのが旗艦だなんておかしいだろ!」
「あー、なるほどな」
そうだな、確かに旗艦が大破したら航海続行不能になっちまうしな。
旗艦絶対轟沈しないルールはどうやら無いみたいだし? 仕方ないね。
艦これでも天龍はよく大破していた。
ぶっちゃけた話、任務で天龍、龍田を使わなきゃならないというものが無かったら、ずっと遠征に改造もせず使ってただろう。
任務で使うから育てた。
割とレベリング中はマジで不思議に思ってた。なんでこんなに大破するんだよって。
んで、だ。
大破する理由を脳内妄想で補完することで解決させた。
「なぁ、天龍。お前の左目は見えるのか?」
「あぁ? 眼帯の方か? ……いや、見えねぇけど」
それがこれだ。
元ネタは探照灯が片方割れたから的な話があったけど、まぁ詳しくは知らん。
だけどそう。
片目だから遠近感が狂い、左側の死角に対応出来ないんじゃねぇかって妄想した。
その感覚を調整していってるんじゃねぇか。それで練度が上がってるんじゃねぇか。そんな風に。
そして見えないなら……活路はある。
「時雨、今日もいつもどおりに訓練をするぞ」
「うん、もちろんだよ」
「天龍、夕食後のフタマルマルマル。鎮守府内の道場に集合だ」
「あ? 道場? んな所で何を……」
「返事は?」
「っち。フタマルマルマル。天龍、道場に向かう」
「よろしい」
にっこり笑って返事をしてくれる時雨とは対象的に、訝しげな表情のままとりあえず返事をしてくれた。なら来るだろう。
「あぁ、時雨?」
「うん? 何だい? 何でも言ってよ」
あぁ、なんつーかあれだな。ほんとに何でも言って良いって感じだ。
ナニでも……。
んっんっ! イエスロリータノータッチ!
「龍田にも伝言頼む。その時間、皆ここに居るってな」
「来いとは言わないんだね」
「あぁ。後、事前に言っていた組み合わせは却下だ。気が済むまで、考えが済むまで好きにさせてやれ」
「うん、わかったよ」
察しましたと頷く時雨。
いや、ほんとに優秀だね。
多分、龍田は今なら命令に従ってはくれる。けど、従いたい、こなしたいと思ってはいない、くれないだろう。
俺というヒキニートとはまた違うが、通ずる物がある。
強制されると、余計に反発したくなるもんだ。
なら気が済むまで好きにさせたら良い。
……余裕は全く無いけどな。
鎮守府が潰れるのが先か、龍田がやる気になってくれるのが先か。
今俺に出来ることは、その時が来た時にすぐ動けるように天龍を鍛えるだけだ。
さて、道場についた。
そこには龍田を除く全ての艦娘が揃っている。
「さて、今日も始めよう。夕立、演習の疲れは無いか?」
「全然大丈夫っぽい!」
「よし……なら夕立は時雨と組み手だ。時雨は回避に専念。夕立はその状態の時雨にどうすれば攻撃が当たるかしっかり考えながら行うように」
「わかったよ」「はい!」
そう言って少し離れた所で早速組み手を始める二人。
夕立はどうもダメージトレードで優位に立つってのを意識しているようだが、それだけじゃあ駄目だ。
それは言い換えれば、自分がダメージを受けなければ相手にダメージを与えられないという事。
出撃して一回だけの戦闘ならそれで良いかもしれないが、やっぱりそう上手くは行かないだろう。
二戦目、三戦目があって然るべきだ。艦これでは1-1攻略はどうやっても二戦で終わるが、それでも二戦だ。ここではそれ以上戦う可能性だってある。
一戦目で大破して進むなんて出来ない。大きいのは大破進軍への抵抗感だが、夕立の気質だってある。
回避する相手にダメージを与える技術はそういった部分を補ってくれるだろう。夕立に回避しろ、それでいて相手にダメージを与えろと言うのはまだ早いと思う。
「で? 提督。オレはなにすりゃ良いんだ?」
「あぁ。今から説明する」
さて、天龍だ。
天龍の可能性。それは隻眼であるという事。
健常者にはわからない感覚かもしれないが、五感の一つが機能しない人は機能している感覚が鋭敏になるという話がある。
例えば、全盲の人間は道を歩く時、白い杖の先から伝わる感覚、足の裏に感じる道の感覚。点字を指で感じる感覚。
要するに触感がかなり鋭敏になる。
無論それだけじゃない、聴覚だって鋭敏になるし嗅覚だってそうだ。
閉じられた機能を補うためにより他の機能が進化するのだ。
「天龍。これから行う訓練は慣れるまでは痛い。もしかしたら慣れる事無く何も得られないかも知れない。それでも、出来るか?」
「……よくわからねぇけど。それが出来るようになれば、オレは強くなれるのか? 出撃出来るくらいに」
「あぁ」
「なら、やる。強くなってみせる」
実際わからん。
時雨も夕立も。
今は徒手空拳であったりするが、やっぱりこれが力になっているのかどうかはわからない。
ただそれでも、あの二人はやっている。
無駄ではないと思っている、くれているからだろう。そう信じているのだ。
だったら俺も信じるべきだ。
「じゃあこれを眼帯をしていない方に」
「え……? これって眼帯? これじゃあ何も見えなくなるぞ?」
「あぁ。その状態で俺がこれを振るから避けてくれ」
「はぁ!?」
天龍は隻眼だ。
それによって距離感や空間把握能力が健常な者よりも劣っている。それは間違いない。
そして、それでも片目での情報に頼ってしまっている。
だから、自分の他の感覚の訴えに素直になれない。
ここで避けるべきだ。いや、まだ砲は遠いはずだ。
身体が訴えても、視覚はそう言っていない。だから、砲撃を雷撃を食らってしまう。
だったらいっそ閉じてしまうべきだ。
視覚情報を身体に反映するんじゃない、正確に感じることの出来る感覚を視覚に反映させるんだ。
もちろん、実際に出撃する時に両方眼帯をさせるつもりはない。
ただ、自分の他の感覚をもっと信じるべき、耳を傾けるべきだ。
「自分の勘と感覚の違い。それに悩まされたことは無いか? 危ないと思っていてもすぐに行動出来ない、もしくは行動したはずなのに手遅れだったとか」
「そ、それは……」
思い当たるフシがあるのか、二の句が継げない様子。
「これはそれを調整……矯正とも言うか。そうするための訓練だ。……どうだ? やれるか?」
「……これをすれば、強くなれるんだな?」
「あぁ」
手に持った眼帯をじっと見つめる天龍。
そして意を決したのか。もう片目に着けた。
「ならやるさ。提督、オレを強くしてくれ」
「よし。それでこそ、だ。最初は打つ方向を口にしてからゆっくりと打つ。だが、いつ打つかは言わない。危ないと思ったら回避するか防御するんだ」
「わかった」
ぐっと構える天龍に向かって、左から打つと言ってからゆっくりと振る。
そしてそれを。
「……ここか?」
「お? 出来るじゃないか」
当たる寸前で俺の竹刀を手で取った。
「フフ、なんだ結構簡単だな」
「よし、じゃあ少しずつ早くしていくぞ?」
「うっし! ドンドン来い!」
そして早くなっていく竹刀をキャッチ、時に躱していく天龍。
正直、驚いた。
まるで見えているかのように難なくこなす天龍。
「すごいな、天龍」
「フフフ、オレの才能が怖いか?」
「あぁ、流石世界水準を超えた軽巡洋艦だ」
「フフフ、まぁな!」
なんか調子に乗ってるな。
よし、ここは一つ。どっちから打つか言わないで……。
「あいたっ!?」
「……調子に乗らなければ、な」
「ず、ずるいぞ提督! 言わないで打つなんて言わなかったじゃねぇか!」
諦めろ、俺は天龍をいじめたい欲を持ち合わせているゲスだ。
正直真面目なシーンをこなすよりも自信満々なお前をいじりたくて仕方ないんだよ。
「ちゃんと感覚を信じろ。今だって一瞬ちゃんと避けようとしたのに躊躇しただろう?」
「う、うぐっ!」
「改めてここからは言わないぞ? しっかり意識を張り巡らせろ」
そう言うと大きく深呼吸をする天龍。
吐き終わって顔を上げた天龍の目は。
「よしっ! 来やがれ!」
「おうっ!」
眼帯で見えないのにも関わらず、前に進もうと言う意気に溢れている様に感じられた。
道場の入り口でこっそりと、迷いの晴れない目をこちらに向けている龍田とは対象的に。