二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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提督は龍田の事を煽るようです

 あれから少し経った。

 

 幸いというべきか。深海棲艦の攻勢は見られなかった。

 ただ一度攻められた、偵察艦隊が帰投しなかったという結果だ。ある程度の戦力がここにあるというのはわかっているはず。

 ならば、相手方も相応の準備をしているのは間違いないだろうな。

 

「そうだね。鎮守府近海は静かだけど、警戒ライン付近でやってる間引き作戦もそんなに大きな戦果はあげられてないし……そろそろ、こっちからも攻勢をかけないと危ないと思うよ」

 

「わかってる……んだけどなぁ」

 

 日々の哨戒任務。それに加えてうちの艦娘同士の演習や防衛ライン付近で深海棲艦の間引き作戦を行うようになって、資材の減りが少し加速した。

 特に燃料がやばい。今では残り100を切ってしまった。

 

 ……ゲーム開始当初を思い出さなくもないけど。ここまでかつかつじゃ無かったよなぁ。

 まぁこれも任務達成報奨が無いことや、遠征で資材回収を出来ないからだけど。

 

 燃料とか弾薬とか。

 それ以外の補給物資。言ってしまえば食料とかそういうのは送られてくるんだけども、な。

 

 遠征経験が豊富な天龍にも聞いてみたけど、やっぱり鎮守府近海で資材が手に入ることはあまり無いらしい。

 一度時雨と天龍で哨戒ついでに鎮守府近海のマッピング、資材回収出来そうなポイントの探索を頼んだがやっぱり資材は見当たらなかったみたいで。

 

 マッピングはしっかり行えた。

 面白いことに艦これの1-1……鎮守府正面海域と同じ海図が出来上がった。もしかしたら敵出現ポイントなんかも同じだったりしないかね。

 どちらにしてもこちらの態勢が整えば確認出来るんだろうけど。

 

 来る正面海域開放に向けて、天龍を旗艦とし、夕立、時雨によって行われる間引き作戦もあまり効果的とは言えない。

 戦力上の問題であまり深海棲艦を釣り上げて撃破するって行動が取れないからだ。半ばただの哨戒に近い。ゲーム的に言ってしまえば1-1-1周回してるようなもんだ。

 

「ジリ貧なんだよな……態勢が整えばなんて言っていたらキリがないし」

 

「うん……僕もあの資材量を見るとやっぱり怖くなってきちゃうよ」

 

 だよなぁ。

 そろそろ腹を括るべきなんだってのはわかってる。出撃して、鎮守府正面海域を開放しないとどうにもならないのはもうずいぶん前からわかってる。

 

 正面海域のボス……要するに戦艦ル級を撃破し、制海権を奪取。その後に戦力、資材の補強を行いつつ掃討戦。

 

 まさに言うは易し。

 

 あれから、さらなる戦力補充の打診、建造を行うための資材の融通等はやれるだけやってみたがどれも却下。

 近い鎮守府への交渉っつっても相手にすらしてもらえない。マジで大本営も近海鎮守府も、ここ守る気あるのかよ。

 

 龍田が言った、破棄って言葉。それが頭を過る。

 

「天龍と龍田の様子は?」

 

「天龍さんはそうだね。間引き作戦出撃はもちろん、演習や訓練に積極的に精を出してるよ、僕も見習わないとって思うくらいに。龍田さんは……ちょっとわからないかな」

 

 龍田、なぁ。

 

 毎日何やってんだろうかね。

 時折姿を見つけては、俺の方をじっと見つめた後何事も無かったかのように立ち去る。

 ほんと、よくわかんねぇ。

 

 天龍に関しては驚きの積極性というか才能の開花と言うか。

 

 あの訓練を続けていく中、あいつは目隠ししたままで夕立とやりあうレベルまで辿り着いた。

 これが俺や時雨相手ならまだまだ一方的にやられる天龍だけど、夕立の様な攻撃する意思ってのがハッキリしてるヤツ相手とは五分の立ち合いが出来るようになった。

 

 五分のやりあいが出来るようになって、夕立もまた少し変わった。

 

 素直過ぎる攻撃に工夫を凝らすようになった。回避に優れる時雨に対してもどこか動きを誘導させ自分の思う壺にはめようとしたりする努力が伺える。

 

 体捌き自体は誰よりも優れている。正直、俺でももう追いつけない。知識や経験で相手出来ているに過ぎないって断言できた。

 

 間違いなく、夕立はエースと呼ばれる存在になるだろうな。そんな確信がある。

 

「む……僕だって頑張ってるんだよ?」

 

「……わかってるよ」

 

 時雨さんちょっと怖いっす。

 

 ともあれこんな察しが無駄に良い時雨。

 

 天龍は自分の直感と言うかそういうのに従って相手の攻撃を避けたり返したりするのに対して時雨は相手をコントロールしようとしているように見える。

 

 自分の挙動で相手の攻撃を誘発して後の先を取る形。平たく言ってしまえば計算高い戦闘方法だった。

 時雨と夕立が訓練している光景は大体決まって完封か完敗のどちらか。最後まで夕立をコントロール出来れば時雨の勝ち、その思惑を超えることが出来れば夕立の勝ち。

 天龍に対しては、やや時雨が一方的に勝つ。相性的な問題が大きいけどこうしたらこうするでしょ? という時雨の思惑にすっかり天龍がハマってしまう形だ。

 

 天龍は。

 

「いや、自信なくすぜ……?」

 

 なんて落ち込んでいたっけな。夕立との訓練でいい結果を出してきているから余計にだろう。

 

「時雨がすごいのは言うまでもないさ。ただ、あんまりやりすぎるなよ?」

 

「よ、喜んで良いのか省みるべきなのかわからないよ?」

 

 それはお好きなように。

 

 

 

「あ、提督さーん! 何してるっぽい?」

 

「夕立か。ちょっと資材の確認にな」

 

 執務室で時雨と今後の事を話し終えてから。俺は資材集積所に足を向けていた所、哨戒に出ていた夕立と天龍に出くわした。

 

「夕立もご一緒していーい?」

 

「あぁ、もちろん。天龍はどうする?」

 

「そうだな、俺も行くか」

 

 とのことで一緒に向かう事になった。

 

「ふんふーん。しっざいーしっざいー」

 

「ご機嫌だな? 夕立」

 

「提督さんと一緒だと嬉しいっぽい!」

 

 ニコニコと笑顔を向けてくる夕立は可愛い。いや、ほんとに可愛い。

 

 好意っつーか、信頼っつーか。

 まぁプラスな感情を向けられるのは嬉しいもんだ。

 

「ほんっと、戦ってる時とは別人だな」

 

「そうか? どっちにしても可愛いもんじゃねぇか」

 

「あれを可愛いって言えるお前がすごいよ、提督」

 

 苦笑いしながら俺にそういう天龍。

 

 まぁ実際俺が夕立と相対するのは訓練の時だけだしな。実戦ではまた違うのかも知れない。

 少し先をスキップしながら行ってる夕立を見ながらぼんやりそんな事を思う。

 

「なぁ、提督。お前はあの夕立を轟沈から救ったんだろ?」

 

「ん? あぁ、まぁそう、なのかな」

 

「何でだ? 話は聞いた。正直、駆逐艦の一隻を失っても結果から見れば十分すごい戦果だ。なのによ……わざわざ危険を冒してまで」

 

 んなこと言われてもな。

 あん時は妖精に脅されて……って言ったら変な言い方になるか。

 

 危険だと教えてくれたから。危険だと知れたから。

 あれは間違いなく、夕立が沈むと教えてくれたんだろう。

 

「天龍には言ってなかったか。俺はな、誰も沈めないって約束したんだよ。それが仕方のない犠牲であっても認めないってな」

 

「約束、ねぇ。それは、時雨と、か?」

 

「口に出して約束したのはそうだな。だけどまぁあれだよ。ポリシーってのかな? 俺は俺に約束したんだ、誰も失わないって」

 

 艦これをやった時。俺はそう心に決めた。

 

 やり始めた時、何もする気が起きない無気力な毎日。

 それを救ってくれたのが艦これだ。

 

 なんて言ったら大げさに聞こえるかもしんねーけど。艦これがあったから、俺はあん時生きていられた。

 

 毎日思ってた。

 

 この艦娘のレベル限界まで育てたら、この海域を突破したら。もう終わっても良いって。

 

 でも艦これは終わらせてくれなかった。

 

 次から次に可愛い艦娘が登場したし、イベントは鬼畜だったし。

 腹立つ事なんて何回もあったけど、それでも。

 

 俺は艦これのおかげで救われた。

 

 少なくとも、ヒキニートしていられたんだ。

 

「ふぅん……ならオレも、さ……沈みそうになったら助けてくれるか? 夕立、みたいによ」

 

「何言ってんだよ?」

 

「え?」

 

 やれやれ、何を心配してるんだか。んなもん……。

 

「聞かれるまでも無い、当たり前のことを聞くな。覚悟しろよ? 天龍。俺の下じゃ沈めねぇんだ。つまりそれは俺にずっとこき使われるってことなんだからな」

 

「あ……う……。そ、そうか! だったら良いんだ! へ、変な事聞いて悪かったな!」

 

「もー、二人共遅いっぽい~! 早く行くっぽい!」

 

 夕立がわざわざ戻って来て、俺の手を引く。

 

 いや、今ちょっと艦娘ハーレム計画を遂行中なんだ、ちょっと待ってくれ。

 

「ほらほら~! 急ぐっぽい!」

 

「あぁ、もう。わかったわかった!」

 

 ぐいぐいと手を引っ張ってくる夕立に足を取られている中。

 

「……とよ」

 

 後ろから天龍からお礼を言われた様な気がした。

 

 

 

 資材のチェック。

 その時に妖精が寄ってきてあーだこうだと無駄話をする俺に口を開いて呆然としてた二人が印象的だった。

 どうやら、妖精をはじめて見たらしい。いやいや、なんでやねん。

 

 そう思って聞いてみると、以前の鎮守府では妖精なんぞ居なかったらしい。なんでやねん。居て当たり前の存在やがな。

 

 いや、俺もつい最近まで忘れてたけどさ。やっぱ普通は居るもんだろ?

 

 まぁいいか。

 

 とりあえず丁度良かったんで考えてた事を妖精に相談してみた。色よい返事だったので期待できそうだ。

 

 天龍はなんかビビってたけど最後には恐る恐る触ってたし、夕立はすぐに妖精と追いかけっこしてた。問題ないだろう。

 

 そうして夕食を食べて、龍田を除くメンバーで訓練をし終わって。

 

「そろそろ、か」

 

 風呂に行った三人を見送って、執務室に戻る途中。俺は出撃の決心を固めていた。

 

 ここまでの資源消費量から考えて、出撃出来るのはもう後一回か二回。もう後が無い。

 

 戦艦ル級、か。

 

 確かに、軽巡洋艦と駆逐艦でも倒せないことはない。が、それは高練度の艦娘に限る。

 

 この毎日の訓練で高練度になったなんて言えないし、よくある練度測定器なんて、実在するのかもわからない以上確かめる術もない。

 

 それでも出撃しなくちゃいけない。

 

「ほんっと……きっついなぁ」

 

 正直、うだうだ考えているせいで臆病になってしまってる部分がある。

 

 出撃命令が命を賭けてこいって命令である事を正しく認識出来る程度には。

 

「守りたい、沈めたくない。そう言っておいて、命賭けて来いなんて矛盾してるよなぁ」

 

 これが上に立つ者っつーか、上官の辛さなんかね。

 それとも、軍の上官ってのはそこらへんを上手く割り切る事が出来るもんなのかね。

 

 わっかんねぇ。

 

「あー! くっそ!」

 

 頭で悩むのは苦手だ。ポチポチゲーが良いんだよ、俺は! 脳筋で何が悪い!

 

「もうちっと、汗流してくるか」

 

 足を反転し、もう一度道場へ向かう。

 

 すっかり電気を落としたその道場。

 

 当たり前だ、もう誰も居ないんだから。

 

「……っ! ……っ!」

 

 そのはずなのに、その中から聞こえる物音と微かな声。

 

 足音を殺して、中の様子を伺えば。

 

「えいっ! はぁっ!」

 

「……龍田?」

 

「っ!?」

 

 驚いた顔と、手に持った竹刀を俺に向けている、龍田が居た。

 

「てい、とく~?」

 

「……暗い中でやらなくてもいいんじゃないか?」

 

 驚いたまま、どこかばつの悪そうな顔をしてる龍田を尻目に、灯りを点ける。

 

 そしてそのまま壁にかけている竹刀を手にとって、素振りをはじめた。

 

 面を一回、二回……。

 

 随分と鈍ってしまった腕。

 時雨や夕立とはじめて訓練するために握った時よりはマシになってきたが、全盛期には程遠い。

 

「……何も、言わないの~?」

 

「ん? 何か言って欲しいのか?」

 

「一人でこそこそこんな事してる私だよ? 皆と一緒にやればいいじゃないか、とか~」

 

 あぁ、なるほど。

 言ってほしいのね。かまってちゃんめ。

 

「別に、この鎮守府にいるのなら誰が何時ここを使おうと、それは自由だぞ。皆と一緒にやるより一人がいいと思ったんだろう?」

 

「そ、それは~……」

 

「それとも何か? 恥ずかしがり屋だなぁとか、素直になれないやつだなぁとか。そんな事を言って欲しいのか?」

 

 素振りをしながらそういうと、龍田は少しむっとした顔になった。

 

 ふふ、ヒキニートの煽り能力を舐めるでないぞ。

 

「まぁそうだよな。着任早々あんな事言っておいて……しかも夕立との演習では負けて。どの面下げて混じれるのかって話だな。俺なら耐えられんな」

 

「……っ」

 

 そこまで言うと、苛立ちを隠しもせずその場を後に……俺から逃げるように道場から出ようとする龍田。

 

「何だ? こう言って欲しいってわけじゃねぇのか? それとも図星を刺されてもう嫌になったか?」

 

「そんな事っ……!」

 

「ならよ……」

 

 わかってるさ。そんな言葉が欲しいわけでも無いくらい。ましてや優しい言葉が欲しい訳でもない。

 意固地になる気持ちはよく、よぉくわかる。

 

 発散したいんだろ? やり場のない胸の内を。吐き出してすっきりしたいんだ、納得したいんだ。

 

 だったらよ。

 

 ぴしっと竹刀の先を龍田に突きつける。

 

「ちょっと相手してくれよ。お前もこんなとこ一人で来るくらいだ、汗流したかったんだろ? 俺も同じさ、だったら付き合ってくれ」

 

「……」

 

 明らかに戸惑った表情を浮かべる龍田。

 

 やっていいのか。悪いのか。

 

 ぶつけて良いのか、悪いのか。

 

 甘えて良いのか、悪いのか。 

 

 そんな思いが手に取れる。

 

「それとも、他に理由が必要か? 俺に勝てたら、俺を殺していいとか?」

 

「そ、それは……」

 

 瞳が揺らぐ。

 

 それは龍田が俺に向かう為の最初の動機だったはずだ。

 そして押し殺された動機でもある。

 

「なぁ龍田知ってるか? 訓練ってのは事故が付き物なんだぜ?」

 

「っ!」

 

 そうだ。

 命は、安い。

 

 だったら曝け出そう。

 まな板の上に。砲塔の先に。

 

 それが海に出て戦うことの出来ない俺の出来ること。

 

 そして、何があったのかは知らねぇけど。信頼するって言葉を失ってしまったこいつらにその言葉を思い出させる事が出来る唯一の事。

 

「後悔しても……知らないからっ!」

 

「はんっ! 上等っ!」

 

 そうしてようやく、龍田は俺に信頼という名前の刃を竹刀に乗せて向かってきた。

 

 


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