二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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三人称視点注意


正面海域突破のため出撃するようです

 ヒトマルマルマル。

 

 鎮守府正面海域攻略の命が発せられた。

 

 夕立は戦いに対して気炎を上げ、時雨はそっと目を閉じて覚悟を改めた。

 

 天龍もまた、時雨と同じ様に覚悟を決めた。

 いつものように、いつかのように大破するかも知れない。それでも今度こそと。

 

 命令の通り、期待されている通り正しく完璧に遂行できる兵器としてではなく、天龍型軽巡洋艦の一番艦としてやれるだけの事。いや、それ以上のことをやってやると。

 自分の存在価値を知らしめたい、そしてその価値を認めて欲しい。この海に、人類に……提督に。

 

 その思いを決めた天龍は迷いの無い瞳を提督に向けた。

 

「各艦出撃準備」

 

「「「了解っ!」」」

 

 龍田がこの場に居ないことをこの場に居る艦娘達は残念にも思った。

 ただ、それ以上に今回の作戦が無事に終われば、いつか龍田と共に海を駆ける日が来るはずだと信じていた。

 

 それぞれの過去。

 きっとこの鎮守府にはこうして傷を持つ艦娘がこれからもやってくるという事を理由なく確信していた。

 そして自分たちが救われた、救われつつあるこの居場所を守りたいと思っている。ここに来ればきっと再び前を向くことが出来るだろうから。

 

 その信頼という瞳は各艦程度の差はあれ、確実に提督に向けられていた。

 

 この人ならば。

 

 何年も培った絆ではないかも知れない。単なる気の所為だったり、運が良かっただけなのかも知れない。

 それでも、艦娘の本能とも言える何かが心にそう訴えかけるのだ。

 

 敬礼と答礼。

 

 その意味を正しく交わした後それぞれが出撃準備を行う。

 以前の緊急出撃と違って、妖精の手を借りながら行うそれは随分と手際よく、また確実に行われた。

 

 夕立は12cm単装砲を二基装備し、今回は魚雷を持たない。これは未だ突っ込み癖が抜けきらず自分を魚雷爆破に巻き込んでしまう事から。

 少し拗ねた夕立に対して。

 

「この次までに出来るようになればいいだろ」

 

 と、なんでもないように提督は言った。

 その言葉を夕立は心から喜ぶ。次がある事を当たり前の様に言うその事を。

 

「夕立、提督さんの為なら……何でも出来るようになるっぽい」

 

 出撃準備を行いながら、戦いに昂ぶる心を獰猛な笑みに変えて。誰にも聞こえない声でそう呟いた。

 

 時雨は夕立とは真逆、61cm三連装魚雷を二基装備した。

 自身の持っていた12cm単装砲を夕立に渡したからでもあるが、何より自分の戦い方には砲撃よりも雷撃の方がマッチしていると考えたからだ。

 

 相手の攻撃を誘導できるならば、相手の行動そのものも誘導、コントロール出来るはずだ。そう時雨は考える。故に、行動、進路予測が重要な魚雷を手にした。

 

「時雨。俺は嘘つきになるつもりは無いぞ?」

 

 そっと手を胸に置き、その言葉を想う。

 

 それは約束。

 時雨はその言葉をありったけの自分で信じている。

 

「任せてよ、提督。僕だって嘘つきにさせる気なんて無いさ」

 

 出撃準備を行いながら、心を温もらせる言葉に微笑みながら。気持ちよ提督に届けと願い呟いた。

 

 天龍は14cm単装砲と7.7mm機銃を一基ずつ装備した。単純に自分が持っていた物以外に装備がなかったからだ。

 

 改めて劣悪と言ってもいい状況の鎮守府に苦笑いを浮かべる天龍。

 

 役立たずである自分が送られる場所としては相応しい。

 なんて思っていたこの場所は、もしかしたら何よりも、何処よりも自分らしく居られる場所なのかも知れないと思いはじめたのはつい最近。

 

「世界水準を軽く超えた天龍なら、こんなもんじゃねぇだろう?」

 

 バカにしてるのかとも思った提督の言葉。

 

 そんなバカな言葉に発奮させられた自分はなんて単純なんだろうか。

 

 ――見せてやりたい。お前が望んだ天龍ってやつを。

 

 そう思った。

 

「あぁそうだ。オレの名は天龍……フフフ、怖いか?」

 

 出撃準備を行いながら、お前が信じた天龍ってやつを見せてやると、ニヤリと口元を歪ませながらかつての挨拶を呟いた。

 

 

 

 出撃準備を終えて、波止場に集まった人影は5人分。

 

「……で? 何でお前が居るんだ? 龍田」

 

「あら~? 居たら駄目なのかしら~?」

 

 全く悪びれず、出撃準備を完全に終えたその姿。顔はにっこりと笑みを携え、他の三隻からチラチラと視線を受けながら敬礼を提督に向けている。

 

「言ったはずだけどな……龍田、出撃は――」

 

「させて欲しいの」

 

 させないと提督が言う前に遮った言葉は出撃志願の声。

 

 浮かべていた笑みを潜め、至極真面目な表情で龍田は続ける。

 

「確かに、出撃する理由は見つからなかったわ」

 

「なら」

 

「でもね。出撃したいの、ソレを見つけるために」

 

 龍田が言った言葉に提督は声を失う。

 提督から見れば、今の龍田の目はここに来てから一度も見せたことのないもの。それがどういった意味を孕んでいるのかがわからない。

 

 ただ、天龍から見ればそれはかつてよく見ていた目で。

 どうすれば戦力になれるかを必死に二人で考えていた時に見せていた、見慣れた目だった。

 

「行かせてやってくれねぇか、提督」

 

「天龍?」

 

「こいつは死にたがってるわけじゃねぇ。ずっと一緒だったんだ、それくらいわかる。それに何より、一隻だけでも戦力を勿体ぶっている余裕はねぇはずだぜ?」

 

「……天龍ちゃん」

 

 天龍の言葉にじっと考え込みながら、龍田の目を真っ直ぐに見る提督。

 

 その目を龍田はまっすぐ見返した。

 

 やがて、提督は溜息をつき、呆れたように笑った。

 

「はぁ、わかったよ。だけど約束してくれ龍田」

 

「何かしら~?」

 

 ここで断られたらどうしようかと内心冷や汗をかいていた龍田は提督の苦笑いと言葉に安心――したのも束の間。

 

「必ず戻ってこい」

 

「……っ! 了解よ~」

 

 思わず背筋が伸びた。

 戻って来い、その簡単な言葉以上に込められた思いを感じたから。

 

 そんな龍田に頷きを一つした後。

 

「やれやれ、予定が狂ったな。作戦内容を一部変更する。龍田が艦隊に加わった事で四隻、これで陣形が取れる様になった。事前に言った通り、本作戦は海上にて二戦予想されるが共に、複縦陣を取ってほしい」

 

 二戦という予想。

 

 これは艦これゲームを経験し、何度も見た鎮守府正面海域と時雨達が作成した海図がぴったり一致したこと。提督がそれに基づいて会敵が予想されると示したポイントが天龍、時雨と一致したこと。

 一戦目は鎮守府正面海域の防衛ライン直ぐ側、敵艦隊の哨戒部隊と会敵する可能性が一番高く、二戦目は正面海域を抜けて、南西諸島へと向かうために通らなければならないポイント。

 

 提督自身はそこまで予想をしておらず、ただ艦これでここらへんだったというあやふやな物だったが、天龍、時雨によるそこだという理由の後付けが出来た故の予想だった。

 

 そして一戦目は敵の哨戒部隊となれば軽い編成――水雷戦隊と予想した。提督自身も戦艦ル級が現れる海域故、単なるはぐれの駆逐2,3隻とは考えていなかった。

 回避性能の高い水雷戦隊を相手にするのであれば、複縦陣を取り命中精度を高めるという意図。

 その言葉を受けて、出撃メンバー全員が頷き異論は無いようだ。

 

「天龍の後ろに時雨、龍田の後ろに夕立が来るように陣形を取ってくれ。二戦目は正直予想が立てられない、戦艦ル級がいるであろう事以外はな。従って会敵し、戦艦以外に軽空母等見られる際はそのまま複縦陣、軽空母が居らず重巡洋艦や軽巡洋艦、駆逐艦が見られる場合単縦陣で」

 

 流石に空母はいないと思いたい提督だが、念の為砲撃戦の命中率を確保しつつ防御機能もある程度保証される複縦陣。

 

 それ以外にも保険としての意味合いがあった。

 

 天龍の眼帯側――左舷の死角。

 それをよく知るはずの龍田がフォロー出来ればという意味もある。

 

「もっとも、陣形を実際に組んで行動する経験はまだまだ浅い。だから全艦散開しての戦闘行動を禁止はしない。会敵して戦闘が始まったら……天龍、お前に現場の指揮は任せる」

 

「おうっ! 任せとけっ!」

 

 自信満々と言った風に頷く天龍だが、その実自信は見た目ほど無く、プレッシャーが大きくかかっている。

 だが、それを求められたという喜びがプレッシャーより遥かに大きく天龍を包んだ。

 

 ――応えたい、応えてみせる。今度こそ。

 

 そう強く思った。

 

「具体的な戦闘行動に関しては伝えた通りだ。……龍田」

 

「はぁい」

 

 何処か間延びしたような返事をする龍田だが、目には真剣な色合いが強く映されている。

 龍田自身は照れ隠しや……こうして出撃に向かう艦娘の見送りをするという事。具体的な作戦行動の指示に驚き、動揺を悟られないための口調。

 

「龍田は戦闘運動に入ったあの夕立に対して砲撃をあてる技術を持っている。本作戦でお前に求められているのは広い視野と必要に応じたフォローだ」

 

「広い視野と……フォロー?」

 

 戦況は一時一瞬で変化する。

 具体的にどう変わるかなんて提督はまだちゃんと理解していない。そういうものだと時雨や天龍に教わったからそうだと思っているだけ。

 だからこそ、龍田に具体的な指示を出さないで、指針のみを伝えた。

 

「あぁ。今回の作戦、余裕は無い。いや、無かった。龍田が来るまではな」

 

「えっと、つまり~。私は他の子達が余裕を持って動けるようにすればいいのね~?」

 

 龍田の返事に頷く提督。

 

 実にあやふやなやりとりではあるが、これもまた仕方ないことではあった。

 提督がまだ提督として未熟であること。そして、龍田が天龍達と合同で訓練、演習を行っていなかった為、具体的にどうすればいいのかが見えなかったのだ。

 

「龍田以外の艦は指示通りかつ、動けるように動け。龍田は自分の判断を大事にしてくれ」

 

「……わかったわ」

 

 責任重大だと龍田は考える。

 自分以外の三隻が戦果をあげられる。無事にここまで帰ってこられるかは、その余裕を持たせるための自分にかかっている。そう思った。

 

「最後になるが……。大破進軍は許さない、危険だと判断すれば絶対に帰ってこい。確かに二度目の出撃は難しいかも知れないけど……そん時は皆でヒキニートしよう、漁師でもいいぞ」

 

 にへらっと真剣な表情を崩して提督はそんな事を言う。

 実に軍人らしからぬその格好に、全員がふふっと笑った。

 

「では、全艦出撃っ!!」

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

 そうして、四隻は海を征く。それぞれの胸に宿した思いを艤装に乗せながら。

 


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