二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル
流石に銃と言うか、兵器を突きつけられてノーとは言えない日本人。それが俺。
つかそんな状況で誰が断れるんだよ。バカなの? 家族でも人質に取られてるの? 俺に家族は居ねぇから無駄だな! はっはっは!
……。
あーまぁそんな風に無理矢理テンション上げてごまかすのもやめようか。
あの場で頷いた後は早かった。
すぐに軍服が手渡され、着替える。その間に用意されていたのか一室に連れて行かれ今は提督講習とやらを受けている。
未だに半信半疑ではあるものの、艦これの提督になれる。なんて思ったら後で大成功看板出されても、悔しい! でもっ! できる位には割り切れた。
「本来であれば……いえ、少し前までは一年の養成期間を設けられていたのですが。……申し訳ありません、現在は一日だけとなっております」
だそうな。
意味分かんないよ、一年がどうしたら一日に短縮されるんだよ。まじでどんだけ切羽詰まってるんだ。
そんな風に白目を剥きながら講習を受けていた。
そして色々とわかったことがある。
まず基本的にはブラゲー艦これと変わらない。
艦隊を揃えて出撃して海域を開放する。
それだけだ。
出撃して、傷ついた艦娘を入渠させて回復したらまた出撃して。それの繰り返しだ。
そんな中でもびっくりしたのが、そうだな、言ってしまえば任務が無い。
出撃セヨと言う任務を受けて、達成して報奨を得る。そんなやり取りがまず無いのだ。
大指針として、海域開放を掲げているだけでそれに向かうためにあれこれしろという物がない。
要するに、ここ大本営から資源を貰えることは無い様だ。
ありえん。ほぼ完全自給自足じゃねぇか。
ディリー任務全て達成するだけでどんだけの資源が手に入ったと思うんだ。クソが、狂ってる。
そんな俺の視線を柳に風と受け流して、大淀は続ける。
「艦娘は基本的に建造ドックにて生まれますが、それ以外に鎮守府へと艦娘を着任する方法があります。おわかりになりますか?」
「海域で深海棲艦を倒した時に発見できる……とか?」
自信なさげに言ってしまったが、常識だろう。何年艦これしてたと思ってるんだ。
「……いいえ。そのような事例は確認されていません。他鎮守府より異動という形で着任させることが出来ます。これは鎮守府同士の交渉や大本営が発する辞令により行われます」
は?
え、まじ? ドロップしないの? 建造だけ? まじかよ……。
「異動が打診された際には拒否権が認められています、が。数少ない艦娘ですので、可能な限りご協力いただければと思います」
「え? 数が少ないって?」
いやいや、おかしいだろう。
それこそ言い方は悪いが、同じ艦娘なんて沢山居たぞ? 色々な理由で。
「そのままの意味です。艦娘は現在確認されている種類だけで百隻を超えていますが、既存の鎮守府に着任している艦娘は三十を超えていません」
「三十を超えていない!? って、いや、それも驚きなんだけどさ、そうじゃなくて……! 例えば大淀さん! 君は他にどれくらい居るんだ?」
入手機会は限られているが、俺は大淀を二隻持っていた。友人メガネスキー提督は何を思ったのか十隻集めて日替わり大淀秘書艦回しとか意味不明なことをしてたぞ。
「さん付けは必要ありませんよ。あぁ、そういう意味ですね。確かに同じ艦娘は存在しています……ですがそうですね、大淀がこうしてここに居るのならば、ここに大淀は現れない。同じ鎮守府に同じ艦娘は現れないのです」
「なる、ほど……」
何処ら辺がこれくしょんなんだ……。
ていうか、他の鎮守府で着任している艦娘が三十を超えていない? 同じ艦娘が着任しないってルールがあるにせよ少なすぎるだろう。
「どうされましたか? わ、私の説明が何かおかしかったでしょうか?」
「い、いや……大丈夫、よく、わかった。ありがとう」
わたわたと慌てる大淀になんとかそれだけ言った後、深呼吸を一つ。
……まぁ、確かに。
ゲームだからあり得た光景だ。ってのはわかる。
少し想像してもみるが。自分の鎮守府に同じ顔が二人も三人も居るほうが不気味だし不自然だ。そう思う。
だとするなら、
「轟沈した艦娘は轟沈する前に所属していた鎮守府には二度と帰ってこない。建造しようとしても着任しない。ですので、くれぐれも貴重な戦力である事を留意し必要ない轟沈を避けるようにお願いします」
「……わかった」
俺はしなかったが、置き換えてみれば、バイト艦や牧場なんて呼ばれる行為が出来なくなったとも言えるだろう。
「では次に――」
大淀が手元の資料を捲る音と言葉を続ける中、考える。
そりゃ、深海棲艦によって大きな危機も迎えるし、多くの提督は散るだろうよ。一つの鎮守府に三十隻? 少なすぎる。仮に艦隊制限が無いとしても六隻編成を五隊だ。遠征に向かい兵站の維持に務めなければならない隊もいるだろう。それらを差し引いても実戦部隊は二つか三つ。
その隊だって、入渠時間、交代を考えれば必ず間が空く。
ドロップしない、同じ艦娘が現れない。
つまり、それは艦これではあり得なかった建造失敗が起こり得ると言うことのようだ。装備開発と同じ様に。
確かに、大型建造は言うに及ばずだが通常の建造であっても戦艦、空母の開発をする時の資源使用量は少ないとは言えない。加えて艦隊司令部からの任務達成報奨が無いならば、建造とは二の足を踏む行為だろう。
あくまでも予想でしか無いが、だというのならば着任艦娘が少ないというのも頷ける話なのかも知れない。
だが、改めてもう一度言おう。少なすぎると。
思った以上に……いや、思ってもみなかった。制限があるだけで、こんなにも厳しい状態になるのだと。
予想以上のショックから立ち直ろうと、耳に入って来なかった大淀の声に耳を向ける。
今は、艦隊への指揮について話しているようだ。
同航戦、反航戦。T字有利に不利。
単縦陣に複縦陣。
モニターで何度も見て、選んでとした言葉。
それぞれを改めてそういう意味があるのか。なんてもっともらしく頷いてみる。
俺の理解が進んでいると思ったのか、大淀は一つのDVDを取り出した。
「それは?」
「これは演習光景の映像を収めたDVDです。先程説明しました事、これをご覧になられればよりよくご理解出来るかと思います」
なるほどな。確かに説明だけじゃぱっとしない。
艦これをやっているうちになんとなく実際の陣形や戦闘態勢なんかも調べてイメージは出来ているけど、百聞は一見に如かずとも言う。
そうして映し出されたのはまさに演習風景。
演習風景ですと言われなければ、艦これのアニメか映画だなんて思ってたかも知れない。
そんな事を思いながら、思わず食い入る様に観てしまう。
迫力があった。生唾を飲み込んだ事も気づかないほどに。
映像に映っている艦娘達は皆真剣で。演習用のペイント弾にも関わらず、必死で回避運動を試みたり、旗艦をかばったり。
反航戦のすれ違いざま、高速で動く相手に狙いをつけようと集中力が高まっている事が手に取るようにわかるし、T字不利な状況に陥ってしまった時の「しまった!」という表情は本気で悔やんでいる事もわかる。
これだけ艦これとは違うという事を突きつけられても、俺は頭の中でやっぱり金剛がバーニングラーブ! なんて叫びながら砲撃したり、阿武隈がやめてよぉ~! 艦首直したばかりなのにぃ~! なんて声と共に、和気藹々とした風景を思い描いていた。
そしてそれを尽く裏切られた。
――あぁ、戦争をしているんだ。
そう理解した。
巫山戯てなんかいない、ゲームなんかじゃない。
わかった。理解した。
何よりも、演習に臨んでいる艦娘達の、あの目。
鬼気迫る。とはこういう事を言うんだろう。
護国、深海棲艦の打倒。国の平和を護るため。強い決意と……追い詰められたような悲壮感。
よく、知っている。あの目を俺はよく知っている。
かつて、何度も見たことがある。あれは、そう……俺が――。
「……決めた」
「はい? どうされました?」
――こんなの艦これじゃねぇ。
和気藹々と可愛い女の子達が沢山居て、てーとくー! と呼び慕って。ある艦からはクソ提督! なんて言われながらも支えられて。そしてそんな子達を侍らせて。
それが艦これってやつだろ? 自分のお気に入りの艦娘を愛でるのが艦これだろう?
俺は、とことんこれをゲームにしよう。とことん艦これにしてやろう。
もしこれが、艦これの世界だというのなら。俺の望む艦これに生まれ変わらせてやる。
半信半疑でもいい。夢オチが待っていようと構わない。
俺は、全力で可愛い艦娘達との艦これライフを送ってやる。
「大淀」
「は、はい」
「俺、なるよ。提督に。俺が思い描く最高の提督に」
そう、なってやるさ。
艦娘全員俺の嫁っ! 皆幸せ、ハーレム大提督にっ!!