二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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やっぱりまだまだ問題は山積みのようです

 鎮守府正面海域ノ制海権ヲ得タリ。

 

 墓場(あの鎮守府)からその電文が来た瞬間目を疑った。

 もしもこれが本当だというのなら、日本、横須賀鎮守府方面の前線を僅かながらにも押し返したと言うことだ。

 

「あり、えない」

 

 敵強行偵察部隊が鎮守府近海の防衛ラインを割った時。

 あの時でさえその敵艦隊を駆逐艦二隻で屠った事に驚いた覚えはある。

 ただその時は驚き以上に安堵の気持ちが大きかった。

 

 だけど、今回は違う。

 

 駆逐艦二隻、軽巡洋艦二隻それも旧式。それだけの戦力で開放出来る程あの海域は甘くない。

 あそこに鎮守府を建設するのにどれだけ多くの艦娘を犠牲にしたのか私はよく覚えている。

 

 それを、僅かな戦力で。

 

 信じたい気持ちはあったし、無事を祈る気持ちもあった。

 

 だけど、まさか戦果をあげるなんて、思ってもみなかった。

 

 確かにあの海域へ不要と断じられた艦娘を投入し、鎮守府を建設してから間は空いていない。つまり、敵の数は揃っていないと思われる。

 

「か、確認をっ!」

 

 理性的な自分は言っている。ありえないと。

 だが艦娘の本能が叫んでいる。信じていたと。

 

 板ばさみの大淀という私はどちらを信じて良いか判断がつかなかった。

 

 酷く動揺している自分が居る。それがよく分かる。

 だから急いで海域管理部へと連絡を入れて、当該海域の確認を依頼した。

 

 幸いあの鎮守府とは距離が近い。二時間もすれば大本営から発艦した偵察機の情報は手に入る。

 

 それで、もし。

 もしそれが真実であったなら?

 

 喜ばしい事なのは当然。

 

 何よりも、嬉しい。

 

 大本営に身を置いてはいるが、私だって艦娘だ。

 あの場所に鎮守府を建設するため……しかも、他鎮守府の戦力を整えるための時間稼ぎというだけに命を犠牲にさせられた艦娘達も、少しは浮かばれる思いだろう。

 本懐とも言うべき、全深海棲艦の駆逐。今まで日本防衛に必死だったにもかかわらず、初めてほんの少しではあるけど私達の牙を突き立てられたのだ。

 

 これを嬉しいと言わずなんと言うのか。

 

「やはり……あの人は」

 

 胸に手を当てて思い浮かべるのは初めて民間から選ばれた提督。

 

 あの時提督を前にして感じた気持ちは間違いじゃなかった。命令違反をして警報を鳴らしたのは間違いじゃなかった。

 私ですら。大本営の歯車として組み込まれてしまった大淀ですら共に戦いたいと思えたあの人は。

 

 決して失ってはいけない人だ。

 

 だけど、それでも。

 

「……司令長官の所へ行こう」

 

 言わなければならない。

 

 不当で不遇な扱いを行っている場合じゃない。あの鎮守府を墓場等と蔑している場合じゃない。

 

 軍人ではないから使えないに決まっている等と断じている場合じゃないのだ。

 

 今は好機で、あの鎮守府に戦力を集め海域開放に乗り出す時なのだ。

 

 

 

「どうしてですか!? 今こそ千載一遇の好機といえる時っ! どうしてやらないのです!」

 

「落ち着き給え、大淀。何を勇む事がある。鎮守府近海の制海権を得た……うん、実に素晴らしい、称賛すべきことだ。これでより各鎮守府は安全に戦力拡大に努められる事だろう」

 

 勇み至った私に告げられた言葉はする必要がないというにべもない言葉だった。

 

 それは海域管理部が確認し持ち帰った報告書に目を通しても変わらない。

 

「今はあそこが最前線ですっ! 後方鎮守府の戦力を拡大するのではなく、最前線に戦力を送るべきです!」

 

「だから落ち着きなさい。……大淀、今度は一週間じゃ済まないぞ?」

 

 司令長官の口から出た言葉は脅し。本気でそうするつもりは、まだ、無いと思う。

 ただ、司令長官の瞳には僅かに怒りの色が含まれていて、これ以上言えばその言葉は本当に実行されてしまうだろう。

 

 深海棲艦の姿見ゆの警報を鳴らした私は、営倉に入れられた。その時の事を思い出して思わず震えた。

 改めて延々と自分がただの兵器である事を散々と教え込まれた一週間の営倉生活。

 

 あそこに戻りたくないという思いで、口を思わず噤んでしまう。

 

「で、ですがっ!」

 

 だがそれがどうだというのか。

 あれっぽっちの戦力であの海域にいた深海棲艦へと立ち向かう事に比べれば。わけがわからないまま提督として使われたあの人の事を思えば。

 

 食いしばれ。あの人が、あの艦娘達はこんな事で臆したりしないでしょう?

 

「やれやれ、冷静なキミらしくもない。わかっているだろう? あんな故障を疑う様な提督適性値と、たかが鎮守府近海の制海権を確保した事だけを根拠に博打をうつよりも、しっかりと実力、実績のある者たちへ戦力、時間を割き海域攻略に乗り出すほうが確実だと」

 

「う……」

 

 それもわかる。

 

 いや、司令長官の言う私らしい私はわかる。

 

 だけど駄目なんだ。駄目と言っている。

 

 軍人至高主義とでも言うべきか、艦娘を使った軍事行動は軍人が誰よりも上手く行える。さらに、その中でも取り分けエリートとでも呼ぶべき人間が提督として着任した。

 素質、適性、戦果。それがたかが民間人に負ける等、認められない、あってはならない。

 

 そんな選民思考に塗れたままじゃ駄目だと。艦娘の本能が叫んでいる。

 

「……あの鎮守府に戦力を集約し、より大きな海域開放を行う事が出来れば各主力鎮守府の戦力はより大きなものになります。長官、どうか……どうかお考え直しを」

 

「ほう……」

 

 そう一言言った後、司令長官は私の目をじっと見つめた。

 兵器如きに、ここまで言われた事で自尊心を傷つけてしまっただろうか。

 

 だけど、その瞳に先程まで少し見えていた怒りの炎は見えない。

 

 むしろ。

 

「……やれやれ、わかった。今までここに尽くしてきてくれたキミの言うことを尊重しよう」

 

「で、では!?」

 

「うん。あの鎮守府に艦娘を送ろう、ある意味ちょうどよかったしね」

 

 一瞬見えた失望の色は気のせいか。

 その言葉にすっかり舞い上がった私は言葉を続ける。

 

「では横須賀鎮守府の戦艦長門、陸奥等如何でしょうか! 練度も戦意も高い彼女たちならきっと……!」

 

「いやいや、その必要はない……ん? どうやら到着したようだ」

 

 司令長官に身を乗り出しながら具申しようとした勢いを殺すかのようなノックの音が響いた。

 

 誰だろう? それにちょうど良かったとは……?

 

「うん、僕だって考えていたんだよ。あの鎮守府にさらなる戦力を……とは。入ってきたまえ」

 

「そ、そうでしたか。申し訳ありません、それにも関わらず失礼を……」

 

 それもそうか。

 あぁ、良かった。方針を変えなくとも戦力の追加は考えていたのか。

 だったらとんだ失礼をしてしまった。先走ってしまった。

 

 本当はもっとしっかりと謝罪をしたかったけど、入室者だ。ドアへと向き直ろう。

 司令長官の口ぶりから察するに、あの鎮守府へ異動を行う艦娘だろうか。

 

 ……まって。

 

 方針を、変えない?

 

「……」

 

「あ……あなた達は……!」

 

「やぁ、よく来たね」

 

 私の背後からいつもの人の良さそうな笑顔を浮かべている司令長官の気配がする。

 

 でもそんな事すら気にならず、私はドアを開けて入ってきた艦娘達を見て……。

 

「第六、駆逐隊……まさか!?」

 

「……うん、君達も大変だったね。今の鎮守府では大変だろうと思って、新しい場所を用意した。君達にはそこで心と身体を休めて欲しい」

 

「……」

 

 司令長官の言葉に誰一人として反応を返さない。

 

 全員の目が死んでいる。

 

 ただぼうっと、音のするほうへと目を向けているだけだ。

 

 彼女たちは、あの鎮守府に送られた天龍が率いていた――。

 

「どういう、こ……」

 

「そして大淀、キミもだ」

 

 は、い?

 

 思わず振り返ってしまった言葉がヨクワカラナイ。

 

 待って下さい。

 今、長官。貴方は何と……。

 

「戦力を送るべきと言ったのはキミだろう? 今までよく……良すぎるくらいに補佐してくれていたキミだ。送り出すのは心苦しいが……立派な戦力として活躍してくれることを祈ってるよ」

 

 そう言って嗤う。先程一瞬見た失望の瞳を私に向けながら。

 

 あぁ、そうか。つまりこういう事か。

 

 ――私も、不要艦とされたんだ。

 

 背後から第六駆逐艦隊の誰かが私に視線を向けているのがわかる。

 だけど、それに振り返ることは出来ない。

 

 あなた達と同じ様に不要と断じられた私もまた、あなた達と同じ目を今しているだろうから。 

 

 




これにて鎮守府正面海域攻略編は完結です。
閑話を一日に一本の計三本挟んで次章開始になりますが、その前に書き溜め期間下さし。
また再開前には詳しい日時とか活動報告でも書いときます。
二章開始したらこの後書きは消します。

ではでは、またお会いしましょう。
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