二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
「異常なし……っと」
夜間帯の鎮守府近海警備。
龍田と時雨、夕立のおかげで防衛ラインの制定作業は終わった。
妖精とか言う奴らのおかげで防衛ラインにちょっとしたセンサー設備もつけられて、深海棲艦共が入ってくれば鎮守府の警報が鳴る仕組みにもなっている。
だから、この警備も今日で終わり。
最終確認として見回りの最後に防衛ラインのセンサーがちゃんと作動しているかを確認して、終わり。
この警備にだって、オレが出る分の燃料やもしもの際を考えての弾薬配給。その消費はある。
実際、はぐれとも言えるような駆逐棲艦と会敵したことはあるしな。
自分でも驚いているけど、その発見はオレのほうが随分早く、相手に気づかれる時は相手が沈む時であることの方が多い。
「これも、あいつのおかげなんだろうな」
天龍として……艦娘として。劇的に強くなったって実感はねぇ。だけど確実にオレは強くなった。
随分と苦労した目で見える感覚と本能が訴える感覚のギャップ。
提督と相談しながら、夕立や時雨に協力してもらいながらそれを埋める訓練。
それが出来るようになっただけでこうも変わるもんかね。
いやいや、簡単な事じゃねぇってのはわかるさ。
ただ、それをオレなら出来るって。
そう信じることが出来たあいつらがやばい。
「もっと役に立ちてぇ」
信頼されるって心地よさをもっと実感したい。
もっともっと必要とされる自分になりたい。
皆に、提督に使われたい。
「はっ! オレは玩具かってぇの!」
笑っちまう。この天龍様が、使われたいなんて思うなんてな。
あの出撃を経て。
今ならよく分かる。
これが誰かの為になるって事だってのが。
やらせることがないからと回された遠征で、顔も見たことのない艦娘の弾薬を燃料を確保して。
そして、それこそが自分の役目だと自分を無理やり奮わせて、現実を突きつけられて。
あれは充実している様に見えてその実。すっげぇ空虚な事だった。
でも今は違う。
あいつの、あいつらの為にオレの持ってる全てを使いたい。
自分の為じゃない、あいつらにオレを使って欲しい。
「なぁ? 提督。こんな事を思うオレは怖いか?」
兵器ってやつは使い手を選んじゃいけねぇ。選ばれる側なんだ。
それを、オレが、オレこそがと主張する兵器なんざ、聞いたこともない。
だから、絶対にもう自分から使えなんて言わない。
あいつに使われる為に、オレは使えと言わない。
「おっと、ここか……。ったく、妖精って一体何だってんだ? こんなモンまで作りやがって」
手に持ったのは無線機。
前の鎮守府でも持っていた事はあるが、これは違う。あの時持っていたものとは性能が段違いだ。もう一種の電話のそれに近い。
このセンサーだって、どうやったらこんなもんまで作れるもんかね。
「あーあー。こちら天龍、聞こえるか?」
「あぁ、聞こえるぞ」
ザザッと言う少しのノイズ後、無線機から聞こえたのは提督の声。
「今ポイントについた。どうだ? そっちで感知出来ているか?」
「えーっと……おう。バッチシだ」
なんでもあいつは、オレ達が来る前にあった出撃が大層心臓に悪かったらしくこの設備開発が成功した時、馬鹿みたいに喜んだらしい。
詳しくは知らないが、大本営から警報を鳴らしてくれなかったらやばかったとかなんとか。
「ありがとう天龍。これで日中生活に戻れるな?」
ありがとう、か。
フフフ、悪くねぇな。
こんな事オレに言うのはこいつくらいなもんだろうさ。
――ここに来れて、良かった。
きっかけはオレの大失敗からだったけど。
それでもやっぱり。そう思えるのはこいつのおかげなんだろう。
「あぁ、いい加減皆で朝飯が食いてぇよ。後ゆっくり休みてぇ」
「そっか、まぁ朝飯は食えるようになるけど。すまん、休みはちっと待ってくれな? まだまだお前にやってもらわなくちゃいけない事は山ほどあるから」
あぁ、そうだ。
使えと言わない理由。もう一つあったな。
「はっ! しょうがねぇなぁ? この天龍様に任せとけっ!」
「頼もしいわ。それじゃ、気をつけて帰ってこいよ? んで、皆で飯の前に俺と飯食おう」
んなこと言わねぇでも、こいつはオレを使ってくれるって信じられるからだ。
「いいから寝てろよ。いい時間だぜ? 明日起きられなくて時雨に怒られても知らねぇぞ?」
「ま、いいだろ。時雨もわかってくれるさ。一段落した打ち上げしようぜ。チャーハン位しか用意できねぇけど。んじゃ、待ってるからな」
ノイズと共に無線が切れる。
ちっくしょう、のんびり帰るつもりだったのによ。
「やれやれ、艦娘使いの荒い提督様だこと、ってな!」
しゃあねぇ、急いで帰ってやるか。我が愛しき鎮守府へ。
─────
目の前で時雨ちゃんが撫でられてる。
「うん、ありがとう。もっと頑張るね」
わ~。すっごいキラキラしてる。
私も頑張ったんだけどなぁ、確かに今回の掃討戦でMVP取ったのは時雨ちゃんだけど~。
「夕立もっ! 撫でて欲しいっぽい!」
「おわっ!? ったく、しょうがないやつだなぁ」
あ、抱きついてる。むしろ飛びついてる。
う~……。なんだろう~、もやもやするわ~。
「えへへ。夕立ももっと頑張るっぽい! 次はMVP取るからね!」
「ふふ、次も僕が取るよ。負けないからね、夕立」
可愛らしく張り合う二人は可愛いんだけど~。
その二人を率いてたのは私で~。
つまり~。
「あ、あの龍田さん? この物騒な槍は何でしょうか?」
「あら~? うふふ~提督には危害を加えないけど~ロリコンならいいよね~? 旗艦の私は僚艦を守る義務があるから~」
私を褒めてくれてもいいのよ~?
なんて、口に出来たらいいのになぁ。どう頑張っても言えそうに無いって思ったら自然と槍を突きつけてた。どうしてこうなったのかしら?
「あー! 龍田さん! ダメっぽい!」
「あはは、夕立。良いから良いから! ほら、僕達はちょっと損傷しちゃったんだから入渠に行こう?」
「し、時雨っ! 放すっぽい! 提督さんが……もごもご」
――ほどほどにね?
なんてすれ違いざま時雨ちゃんに目で言われちゃった。
うぅ、あの子色々察しが良すぎて困っちゃう。
バタンと扉が閉まる音。
なんだか顔が熱いわ~。提督の目も見れない。
「あー……その、なんだ? 龍田。頭、撫でて欲しいのか?」
「そ、そんにゃ事……」
か、噛んだ……! は、恥ずかしいっ!
も、もう良いや~。早く私も出ちゃおう……。
「あはは。別に撫でないなんて言って無いじゃねぇか。もう」
「あ、う……」
何で私は提督の方に進んでるの!? あ~ん!
あ、でも……気持ちいいわぁ。
あの二人が何で頑張るのか、その原因がわかった気がする。
うん。安心する。
帰ってきたってことも分かるし、帰ってきてくれて嬉しいって思ってくれてるのがよく分かる。
「……私、やっぱり怖い?」
「んー? よくわからんやつだなとは思う」
よ、よくわからんって……。
うーん、もうちょっと態度を改めるべきかなぁ?
「でも怖いって思ったことは……あぁ、最初の時位か」
「そこはっ! ……ごめんなさい」
うー。こういう時は怖いなんて思ったこと無いって言って欲しかったわ~。もう。
「いやいや、すまんすまん。謝って欲しいわけじゃねぇんだ。ちと言い訳したかっただけでな」
「……言い訳~?」
何の言い訳だろう?
提督は私から視線を外して、恥ずかしそうに頬を掻いてるけど。
「まぁ、なんだ。龍田は可愛がるには綺麗すぎるから、さ」
「き、綺麗!?」
「ちょまっ!? 槍は止めて!?」
綺麗って何!? 綺麗ってことは、綺麗ってことね!?
フー! フー!? フー?
お、落ち着こう、落ち着きましょう龍田。
私は龍田、天龍型二番艦の龍田よ。うん、それで? 目の前の人は提督。その提督に私は槍を向けて……って。
「あ。ご、ごめんなさい~」
「あ!? お、おーい?」
私は尻尾を巻いて逃げ出した。
そして部屋から出た先に居たのは。
「夕立、安心したっぽい!」
「ね? 僕の言った通りでしょ?」
「な、何で? 入渠しにいったはずじゃ~?」
すっごく生暖かい目で見られてる。
なんと言うか同類というか、仲間に向ける目というか。
「夕立が心配してね。ちょっと中の様子を伺ってたんだよ」
「龍田さんも提督さんの事が好きっぽい! 安心したっぽい!」
「好きっ!?」
好きって何!? 好きってことは、好きって……ふぅ、それはもう良いわ~。
「そ、そうね~。信頼できる人だと思うわ~。そういう意味では好ましいかも~。安心したなら二人共入渠にいってらっしゃいな。私は天龍ちゃんともう一汗流してくるわ~」
うん。おかしくない。おかしくないわ~。
「はぁい!」
「ふふ、そういう事にしておくよ」
うんうん。大丈夫。
何が大丈夫なんだろう?
でも、大丈夫。
「それじゃあね。ご飯の時に会いましょう~」
「うん。あ、後ね、龍田」
「何かしら~?」
「天龍、資材回収に向かってご飯まで居ないって朝提督が言ってたの、忘れちゃった?」
「……」
大丈夫じゃなかった……。
うぅ、早く帰ってきて~天龍ちゃーん。