二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
○月△日
他鎮守府で、白露型駆逐艦が沈んだらしい。
僕もいつか沈む時が来るのかな? いや、きっと来るんだろうね。
祈っていいならせめて悔いのない最期を迎えたいと願う。
○月△日
一緒に出撃した軽巡洋艦の川内が沈んだ。
どうしようも無かった。どうしようも無いってわかったから川内が僕達を逃してくれた。自分の身を犠牲にして。
夜戦は私に任せて。
その言葉が最後の言葉で、今も僕の頭に残っている。
でもそれ以上に。
――どうして許可されていない夜戦をしたのか。貴重な資材だけではなく、あの軽巡洋艦も無駄になったではないか。
そう言われた。ボロボロの身で帰投した僕達を叱責する言葉に最後まで川内の名前は出なかった。
悔しい。
提督がもっとこの海域について調査を行っていれば。って言おうとした瞬間、僕の目が気に入らなかったのか頬を張られた。
しばらく入渠も許されないらしい。
辛い。
一緒に出撃した同室の白露が慰めてくれたけど、辛い気持ちは晴れなかった。ごめんね、白露。
○月△日
少し間が空いちゃった。
こうして日記がつけられなかったのは少し落ち着かなかったから、こうして筆を取れるようになって良かった。
あれ以来、危険な海域への出撃を命じられる事が多くなった。
周りで轟沈する艦娘をもう何隻見ただろう。
僕を残して。
こんなに辛いのに、提督は轟沈してしまった艦娘の名前を一度も出さなかった。
あの人は、辛くないのかな。
落ち込んでいく僕が辛うじて気をしっかり持てたのは白露が声をずっとかけてくれたからだ。ありがとう。
でも僕は、もう沈む艦娘を見たくないな。
残ることが幸運なんだって言うなら、こんな運いらなかった。
○月△日
同じ白露型の夕立が建造された。元気いっぱいの可愛らしい子だ。
これで今まで失った駆逐艦の穴を埋められるなんて誰かが言ってた。でも、提督は不満気だ。
――あれだけの資材を投入して駆逐艦か。
よくわからないけど、失敗したって顔に書いてあったからきっとあの人にとってはそうなんだろう。
僕はと言えば、すっかり前線を離されてしまった。
戦意も低く、出撃すれば一緒に出撃した誰かが沈む疫病神だと言われた。
でもそれを悔しいと思う事は無かった。
これで出撃しないで済む。誰かが沈む姿を見なくて済む。そう思った。
その分の皺寄せは白露が請け負ってくれてた。
謝ったら、一番艦だから一番出撃するのは当たり前よ。って笑ってた。
でもそのかわりに夕立の面倒を自分の分まで見てあげてねって言われた。
せめてそれくらいはしっかりやろう。
○月△日
白露が沈んだ。
○月△日
夕立が大破姿のままで僕に大泣きしながら謝ってきた。
自分が突出したから、それを庇ってしまったせいだからって。
さっきまで胸元で泣いてた夕立は気力も体力も尽きたのか、そのまま眠ってしまった。
夕立を責めるつもりは無い。
けど、あの人にこれだけは確認した。
今日轟沈した駆逐艦の名前を覚えていますか? って。
答えは……。
○月△日
出撃しないって宣言をしてしばらく。僕と夕立はどうやら別の鎮守府に異動するらしい。
別に、出撃しないでいいならもう何処でもいい。なんでもいい。もうこの日記も止めよう、気分が落ち込むだけだ。
○月△日
思わず止めたつもりだった日記を手に取っちゃった。
思い出したらちょっと恥ずかしいけど、それでも嬉しい気持ちのほうが強い。
あの人なら、あの提督なら。
信じたい。
○月△日
ちょっと正直どうしようもない鎮守府だった。
戦艦ル級って……駆逐艦二隻でどうしたらいいのさ。
夕食の後、自室でそんな事を思ってたら提督に道場へと呼ばれた。
竹刀なんて初めて触ったよ……まだ身体が痛い。
こんな事何の役に立つんだろう? ただ単に僕達に八つ当たりしたいだけなんじゃ?
ううん、夕立も言ってた。どうすればいいかわからないけど、信じることは出来るって。
だったら僕だって出来るはずだ。信じよう。
明日は近海警備の後皆で勉強会だ。早く寝て身体を整えよう。
勉強会って……不謹慎かもしれないけど、ちょっとワクワクしちゃうね?
○月△日
無駄じゃなかった。あの訓練は。
そうだよ、何で気づかなかったんだろう。何も駆逐艦らしく動く必要はないんだ。
僕は駆逐艦時雨っていう艦娘だ。
艦であって、艦ではない。人じゃないけど人の動きができるんだ。
それに、提督のあの言葉。
夕立は早速何かに思い至ったみたいだし、僕だって。
探してやる、強くなるんだ。もう二度と誰も沈めないために。
○月△日
約束、守ってくれた。
どうしよう、嬉しい。それしか言葉が出ない。
夕立、助けてくれた。白露との約束も守れた。
あぁ、もう……! こういう時どう言ったらいいのかわからないよ!
今までいい人だなって思ってた提督は。どうやら僕の理想の提督だったらしい。
そう思ってから、確信してから初めて提督の顔を直視したんだけど……うん、顔、きっと真っ赤になってたろうな……恥ずかしい。
でも、かっこいいなぁ……僕の提督。
○月△日
新しく艦娘が着任した。
提督に槍を向けた瞬間胸が真っ黒になったけど。夕立のおかげだね、すっきりしたよ。
……でもきっと。龍田も、僕達と同じ様に何かあったんだろうなって事は分かる。
じゃないと、あんなに悲しそうな目は出来ない。
きっと、龍田の雨は止んでないんだ。
提督……。雨はいつか止むけど、僕は提督が龍田の心に降ってる雨へと傘を広げてくれるって信じてるからね。
○月△日
間引き作戦はいまいち。それは提督もわかってるみたいだ。
仕方ないって言ったら嫌だけど、こっちの戦力上大物を釣りすぎても対処出来ないし。うーん。
資材の量も流石にこれ以上は……提督、どうする?
○月△日
やった! 正面海域の制海権を獲ったよ!
あそこに龍田が居た事にびっくりはしなかった、だって提督だもん。きっと何かしてくれたんだ。
その龍田のおかげで僕達は大活躍出来たし言うこと無いよ!
ううん、正直途中天龍はダメかと思ったけど。高速修復材? そんな物があるんだね、初めて知ったよ。
龍田も天龍も嬉しそうと言うか、何かを完全に吹っ切れたみたいだ。ちょっと龍田の目が気になるけど……。
まぁいいや、皆の入渠が終われば打ち上げ。楽しもうっと! 提督のチャーハン、美味しいからねっ!
○月△日
くっ、やっぱり龍田は提督が……。もうっ! 提督がかっこいいのはわかってるけどさっ! だから仕方ないけどさっ!
……うん、いいよね、提督。
日本男児らしい黒髪に鍛えられた身体。まるで艦娘全てが愛おしいって思ってるんじゃないかってくらい優しい瞳。
あんな優しい目をされてころっといかない艦娘なんているのかな? いや、いないね。間違いない。
だって、僕も……。
……。
はっ!?
いけないいけない。つい想像が一軒家に白い犬……じゃなくて夕立だったけど。そんな事に勤しんでる場合じゃない。
えーと?
そうだ、明日新しい艦娘が来るらしい。
建前は今回の活躍に対する報奨的な意味があるとか言ってたけど……そうじゃないよね、きっと。
また、何か傷を負った艦娘がやってくるんだ。
でも、心配はしてない。
提督はきっと、そんな子を救ってくれる。そう信じてる。
僕だって、そのためには何だってする覚悟さ。
……でも、これ以上艦娘を惚れさせないでね? 提督。
提督は僕が……
「な、なーんちゃって! なんちゃって!」
「何がなんちゃってっぽい?」
「うわああああぁぁ!?」
ゆ、夕立!? いつの間に僕の後ろに!?
「ちゃ、ちゃんとノックしてよ? 取り込み中だったらどうするのさ」
「夕立ちゃんとしたっぽい! でも返事無かったから入ったの!」
そ、そうなの? 全然気が付かなかった……。
「それより時雨、何書いてるっぽい?」
「ん? あぁ、これ? 日記だよ」
表紙を夕立に見せると、それをきらきらっとした瞳で眺める夕立。
「夕立もするっ!」
「えー? 夕立、ちゃんと出来るの? ご飯のお品書きになったりしない?」
「時雨は失礼っ!」
あはは、怒られちゃった。
そう怒らないでよ夕立。そうだなぁ。
「じゃあそうだね、次の物品依頼に書いとこっか? 僕も、そろそろこれも書ききれちゃうし」
「うんっ! 一緒にするっぽい!」
そうだね、一緒にしよう。
そうやって僕達を記録しよう。これからはきっと、嬉しいことや楽しいことがたくさんかけると信じてるから。