二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
提督は現状を少し把握したようです
「ふひひ……」
やっぱり黒字はいいもんだ。余裕が違いますよ。思わずテンプレ的なキモい笑い方もしちまうってもんだ。
正面海域の制海権を手に入れてしばし。
早くもというべきかようやくというべきか。
我が鎮守府は黒字経営となった。
と言ってもほんっとうに僅かで、数字にしてみれば両手の指で数えられる程度の黒字だし、今も出撃してくれている結果によればトントンになるかそれ以下。全力出撃をすれば必ず赤字になる。
それでも、だ。
「いやぁ! 苦労した甲斐があったってもんだなぁ!」
どうやってもマイナスになるって状況じゃなければこっちのモンで。艦これで鍛えた資材管理能力の奮い甲斐があるってもんだ。
正面海域を脅かす戦艦ル級率いる深海棲艦を倒したことでより広い海域へと手を伸ばせるようになって、その先にはやっぱりと言うか深海棲艦が溜め込んでいた資材集積地があった。
そこに向かい資材を回収する隊。その部隊を護衛、索敵し発見した深海棲艦の残党を倒す隊。
資材消費、回収量、深海棲艦の強さ。そういった要素を考えながら色々なパターンを試す。
たまに、敵軽空母や重巡洋艦等が発見された時は全力撤退だ。
そういった時だけ改めて全力出撃。
その繰り返しでようやく黒字を収めることができたんだ。
上手くいかない時だってあるけど、皆しっかり無事に帰ってきてくれる。それだけで十分だ。
まだまだ建造を視野に入れられるほどの余裕はないけど、それでもようやく各資源は100程まで回復した。
これなら建造は出来なくても、装備開発は視野に入れて考えられるだろう。
「そうだろっ! 妖精さん!」
「きゅうにさんづけとかこわい」「きゅうにきてなにいってんだこいつ」「きゅうにきてにやけてんじゃねーぞ」
し、辛辣っ! お前らそんなキャラだっけ!?
ま、まぁいいや。
実際攻略戦では、妖精が作ってくれた高速修復材のおかげで助かったんだしな。
つーのもまぁなんだ。
どうやってあぁいうもんが作られるのかわかんなかったんだよな。
艦これでは遠征とかで手に入れたり出来るけどもさ。
聞くのは無料って事で、聞いてみた結果面白そうって言って作ってくれたんだよ。
……手をつけてなかったボーキサイト全部使ったけど。すっからかんだけど。
「いや、まぁ。改めてありがとうな、お前らのおかげで天龍を沈めないで済んだし、それは皆無事に帰って来れることに繋がった。ほんとに感謝してる」
「ことばなんてー」「やすいー」「いのちかけろー」
う、うるさいわい! お礼はチャーハンでいいっすか!
時雨と龍田が料理に興味を持ってくれて目下練習中だけど、まだまだ俺のチャーハンには及ばない。フフフ、美味いか?
ともあれだ。
ボーキサイトってのはどうやら癒やす効果があるらしい。
思えば艦載機の補充にゲームでは使用されてたし、漫画やらなんやらでは食う母されたりしてたし。そういう効果を持ってるみたいで。
駆逐艦なら100、軽巡洋艦なら300といったように消費して作れるって妖精は話してくれた。重巡洋艦以上のいわゆる重い艦ならもっとかかっていくんだろう。艦載機の補充ではもちろん消費されるんだろうし、バランスよくそれも視野に入れとかないとな。
「んで、だ。ちと相談があってな。装備開発ってどうやるんだ?」
「かんむすといっしょにつくるー」「わたしたちだけじゃだめー」「そうだんしながらつくるー」
ほむ。
予想通りと言うか、秘書艦を換えて装備開発に挑むってのはやっぱそういう事か。
話を聞いていくと、図面作成だなんだは妖精がやって、その指示に従って艦娘が着工するらしい。
で、これも予想通り失敗する可能性もあるみたいだ。
ゲームと違うのは、やればやるほど上手くなって失敗確率は減るらしい。
まぁそれもそうか。要するに手慣れていくってことだ。いつまでも同じ失敗をするわけでもなし。
てことは将来的に艦娘が揃っていけば装備開発を重点的にしてくれる存在を作るべきだな。あぁ、メロンちゃんに明石ちゃん。貴女は今何処。
「じゃあ改造は?」
「かいぞうー?」「なにそれー?」「しらなーい」
え? おいおいまじかよ。
改造だよ改造。近代化改修は絶対に出来ないだろうけど、改造は出来るだろ? 改二実装まだ?
うん。言っておいて何だけど実際改造って何してんだろ?
スロット増えるよ! 改造では一部を除いてグラは変わらないよっ! 改二でおっぱいおっきくなるよ!
……豊胸手術? やめて差し上げろ。
じゃ、なんだろ?
「艦娘の艤装に手を加える、とか?」
「うーん」「できないことはないとおもうけどー」「むずかしいねー」
そうなのか。
まぁできないことは無いと思うってんなら、おいおい相談していくかね、皆を交えて。
装備開発にせよ改造にせよ。
まだまだ資材が足りてないし、当面先の話だわな。
とりあえず装備開発は妖精と艦娘共同で作る事が出来るってわかっただけで十分だ。
……あれ?
妖精がいることで装備開発が出来るんだよな? 図面作るってくらいだし。
だったら、他の鎮守府で見たことが無いって話がマジなんだとしたら……。
「な、なぁ? お前ら妖精って他の鎮守府に居るのか?」
「えー?」「しらなーい」「でもなんだかいきたくなーい」
あー……もしかして。
「あかんこれ」
「あかん?」「あかんあかん!」「あかんこれー!」
もしかしなくても他の鎮守府に所属してる艦娘の装備って最初に持ってるやつのままなんじゃ。
まじかよ。
……まじかよ。
「あぁ、うん。とりあえずありがとう。装備開発とかまぁ色々これから世話になっていくけどよろしくな」
「はーい」「そうびかいはつはまかせろー」「ばりばりー」
天丼はやめて!
げふん。
まぁなんだ。
もしかして。
「結構どころじゃなくて、相当人類やばくないか?」
執務室に戻ってきた。
すっかり妖精のおかげで居心地の良くなったここ。ほんとに頭があがらねぇな。
自分でお茶を入れて、時雨が入れてくれる味との差に思わず顔をしかめてしまう。
いやまぁ、しかめちまう理由は他にもあるんだけどさ。
色々必死だったから頭が回らなかったけど、ようやく現状を把握できつつあるこの頃。
そして把握するにつれて思うのは。
「やばいのはここだけじゃねぇってことだよな」
そう。
ヤバさのベクトルは違うけど、間違いなく他の鎮守府もやばい。
最初に言われた所属している艦娘が三十隻程ってこと。
てっきり、少数精鋭かと思ってたけどさっきの装備開発の事といい、改造の事といい。それが本当なのであれば。
「練度以外はほぼ初期状態のままって事だよな……」
そういう事だろう。
電探、甲標的、ソナーに爆雷。
そういったものは所持していない可能性が高い。
渦潮対策、索敵値対策、潜水艦対策。
いやいや、思い浮かぶことはまだまだあるけどどうしてるんだよ。まさか、潜水艦相手にソナーも爆雷も持たせず単横陣で突っ込ませてるだけとか? ……あかんでしょ。
この国が、世界が、人類が大きな危険にさらされてるって、誇張表現どころじゃないわ。滅亡寸前もいいところだわ。
それに加えて、この鎮守府がある海域に居た深海棲艦の強さ。
定かじゃないけど、それだけ攻め込まれてるからあんな強い奴らがここらへんにでも現れるってことだろ? いや、ホントどうすんだよ。
というか夕立や時雨に天龍。最近から訓練も参加するようになった龍田。
たかだか一月程度、それもよくわからん訓練であれだけ強くなったんだぞ? いや、もとから強かった可能性だってあるけど。
こんな資源も何も無い所で、演習すらろくに出来ないこの場所であれだけ強くなって海域を突破できた。
なのにも関わらずどうしてこんな状況に陥ってるのか。
「わっかんねぇ……」
艦これで慣らした。なんて言っても所詮ゲーム。それがこの一月で痛いくらいに理解できた。
そしてどれ位深海棲艦との戦いを続けているのかわからないけど、この世界に元から存在している軍人様方は俺より遥かに経験値が高いはずだ。
だったら俺より効率よく、効果的に深海棲艦と戦えるはずだ。ノウハウだって比べるまでもないだろう。
――確かめなければいけない。
そう思った。
「でもどうやって?」
わからない。
どうやら俺はまだまだ知らなければならないことが多すぎるようだ。
そんな事を考えていると。
「ん? 電文?」
一通の電文が届いた。
そして一目見て驚いた。
――は?
「あ、提督、ここにいたんだ。出撃艦隊、帰投したよ」
「え? あ、あぁ。おかえり……」
いつの間にか帰ってきたらしい時雨。多分他にも居る気配がする。
あやふやなのはその電文から目が離せないから。
「提督さん! ただいまっ! 夕立大活躍だったんだから! 褒めて褒めてー!」
「今回も夕立にやられたぜ……ったくこいつには敵わねぇよ」
「うふふー、最後の一発が当たってたらまた違ったわよー次はがんばりましょうー?」
どうやら皆いるようだ。
……うん、すまんがちと待ってくれ。おれはこんらんしている。
「うん? 提督?」
「……いや、悪い。丁度新しい指令が届いたもんでな」
「指令? 次は何をしたらいいっぽい? 夕立、提督さんの為ならなんでもしちゃうんだから!」
あー、癒やされるー。
夕立のキラキラした目も、俺を心配してくれる様な表情を向けてくる時雨と龍田にも、任せとけと自信満々な表情の天龍にも。
はぁ、艦娘最高かよ。
そうだな、こいつらと一緒だったら出来ねぇ事なんて無いわ。
俺、一人じゃあるまいし。
たった四隻。それだけでもこの鬼畜海域を突破出来たんだ。
それが大きく広くなって多くの艦娘を迎えてもっともっと強い力になる。
そうすりゃ無敵だ。
出来ないなんて思うことが失礼だ。
「あぁ。新しい指令は――」
ただそれでも。
電文を読み浮かんだ捨て艦と言う文字。
それが俺の頭から離れない。