二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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提督が怒り心頭のようです

「南西諸島海域への足がかりを作れ?」

 

「あぁ。大方針としてはそうだ。南西諸島海域を目指すために俺達がすることは南西諸島沖に防衛ラインを敷く事だ」

 

 電文の内容を飲み込み、皆へ説明する。

 

 最終的に南一号作戦……艦これで言ってしまえば1-4の舞台を整えることが俺達へ下された指令。

 必要と思われる作戦行動はまず、南西諸島沖の哨戒。敵戦力の確認だな。

 そして防衛ラインを構築するために製油所地帯沿岸の確保、資材運搬を成功させるための護衛。

 

 実に艦これ鎮守府海域に沿っている。

 

「なるほどね。でも、流石に今の戦力でそんなの……出来るのかな?」

 

「間違いなく無理だろうな。正面海域でアレだ。先へ進軍して会敵する敵の予想なんて怖くてしたくないレベルだし」

 

 時雨の言葉にそう返せば、天龍はうんうんと頷く。

 そんな天龍を見て龍田は笑ってるし、夕立はあんまり良くわかってないのか首を傾げてる。

 

「同時に鎮守府の内政に努めろってのもある。これはまぁある程度鎮守府運営を軌道に乗せろって事だろう。正面海域突破の時とは違っていつ来るかわからない敵に焦る必要はない、幾分か余裕は作れるはずだ」

 

「そうねぇ~。黒字になったとはいえ、まだまだ資源足りてないものねぇ~」

 

 だな。

 

 大本営がどれ位の期間を見越してるのかわからないけど、急を要しているわけじゃないだろう。

 

 と、普通なら思うんだけど。

 

「それに合わせてこの鎮守府へ新たな艦娘が着任する。正面海域を突破した報奨的な意味と単純な戦力確保の意味で」

 

「っ……そうなのねぇ~。どんな子が来るのかしら~?」

 

 ん? 一瞬変な顔してたけどどうしたよ龍田。でも普通にすぐ戻ったし、大丈夫かな。

 

 むしろ大丈夫じゃないのはこっちだ。資材が全然足りてない中だぞ? 来てもらうのは嬉しいけど、まともな運用はきっつい。タイミングおかしいだろう。むしろ資材くれ。

 

 まぁ、それは良いとしても。

 

 ――捨て艦。

 

 その言葉が頭を再び埋め尽くす。

 

「提督さん? どうしたの?」

 

「ん? あぁいや、何でも無いよ。ありがとうな、夕立」

 

 ええい、愛い奴め! 撫で回してくれる!

 

 ……ふぅ。

 

 駄目だ、余裕ぶる余裕がないわ。

 

「提督さん? 撫でてくれるのは嬉しいけど……やっぱり大丈夫じゃないっぽい! ちゃんと言って欲しいっぽい!」

 

「そうだぜ、提督。何でも言ってくれよ? お前がそんなだと……その、なんだ。不安になっちまう」

 

「うふふ~。そうよ~。提督はいつでもしっかりしてくれないと~」

 

 ……ったく、こいつらは。

 ふと袖を引っ張られる感覚に目を向ければ、時雨もまた心配そうな目で俺を見ていた。

 

 指令の一部。南西諸島海域への足がかりを作れ。

 

 その内容に、単純な戦力補充として艦娘を送るという訳ではなく、戦力を守る盾として……文字通り身を挺した盾としての役割をこなすための艦娘を送るという一文があった。

 

 要するに、そういう事をしてでも指令をこなせ。って事だろう。

 

 ――決して、大事にしろと俺に言った事を翻した訳じゃないはずだ。

 

 それほどまでの脅威が待ち受けているのだろう。正面海域を突破したからって気を緩めてる余裕はねぇんだろうな。

 

「ありがとうな。ちっと先のこと考えてビビってた」

 

「なんだ、提督でもそんな事あるんだな。ちょっと安心したよ」

 

「提督さん大丈夫っぽい! 夕立にお任せっ!」

 

 そうだな、何とかなる。何とかする。そうやってきたもんな。

 

 絶対に艦娘を沈めない。

 そうさ、それだけのことだ。

 

 俺が不安になりゃこいつらはもっと不安になる。こんな姿を見せてる場合じゃねぇな。

 

「っし! 元気出た! やってやるぜ!」

 

「うん、大丈夫そうね~」

 

「そうだね。うん。提督? 何でも言ってね?」

 

 俺の姿を見て喜んでくれる皆。

 

 ほんっと、提督になって良かった。

 この気持ちを味わえるなら、いくらでも頑張れるさ。

 

 ありがとうな。

 

「よし。じゃあ新しい艦娘は明日のマルハチマルマルに着任予定だ。今日の仕事終わらせて、皆で歓迎の準備するぞっ!」

 

「「「「了解っ!」」」」

 

 

 

「嘘……」

 

 それは誰が言ったのか。

 

 俺かもしれないし、天龍かもしれない。

 もしかしたら龍田や時雨。夕立もそう言ったかもしれない。

 

 それくらい、誰が言ってもおかしくなかった。

 

 執務室に新しい艦娘を迎えた。

 皆が手に持ったクラッカー。それは部屋に虚しい響きを奏でた。

 

 その姿を見た瞬間、天龍は目を丸くしてたし、龍田もまた表情を固めた。

 そんな二人に驚くより、俺も、時雨も、夕立も。

 

 目の前にいる艦娘の目に、言葉を発せなかった。

 

「お久しぶりです、提督」

 

「大淀……」

 

 俺達の驚きに大淀は居ない。

 そしてその事を大淀は気にしてないとでも言うかのように笑顔を浮かべて。

 

「大本営よりこちらの鎮守府へ異動し、着任しました。艦隊旗艦として特化設計された新鋭軽巡洋艦、大淀です。どうか、よろしくおねがい致します」

 

 俺へと挨拶をしてくれた。

 

 だけどその挨拶に、誰も返事を返せないでいる。

 

「わかってます。話すことが出来ない彼女達の代わりに、私が」

 

 大淀は自分の後ろに揃って控えていた四人の後ろに回り、静かに紹介してくれた。

 

「特III型駆逐艦、第六駆逐隊とも呼ばれていました。一番艦、暁。以下響、雷、電です」

 

 瞳に何の光も宿さないで、うつろな目をぼんやり俺へと向けてくる彼女たちを。

 

 ――何で?

 

 俺が持っていた彼女たちのイメージとあんまりにも違いすぎるその姿に、動揺が抑えられない。

 

 皆を見れば、俺とおんなじ感じ。一際天龍が酷く動揺しているみたいだが……すまん、気にかけられる余裕が無い。

 

 そんな中、大淀は笑顔を浮かべている。

 

 笑顔? これを知っていて?

 

「提督……」

 

 時雨が俺を呼んでる。

 

 あぁ、わかってる。わかってるさ。

 

 俺は、提督だ。

 

 艦娘が頑張ってくれたんだ、俺が奮わなくてどうするんだ。

 

 大きく息を吸って、吐いた。

 

 そんな俺に視線が集まった気がする。

 

 やろう。

 

「よく、着任してくれた。俺がこの鎮守府の提督だ。ここに居る艦娘で全員と君達が今まで居た所に比べたら規模の小さい鎮守府かも知れない。だけど、これから一緒にもりたてて行きたいと思ってる。どうかよろしくたの――」

 

「い、いやあああああああああああああ!?」

 

 握手を求めようと手を伸ばした瞬間。

 

 暁の悲鳴が響き渡った。

 

「提督さんっ!!」

 

「!?」

 

 夕立に突き飛ばされたと思えば。

 

「まじ、かよ?」

 

「フーッ! フーッ!」

 

 艤装を展開した電。その砲塔の先にあった壁が綺麗に無くなっていた。

 

「暁ちゃんから離れるのですっ! 離れろっ! はなれろおおおおおお!!」

 

「っ!! ごめんっ!!」

 

「……ごめんなさい」

 

「ぁ……」

 

 時雨が電の後ろに回って押さえつけた。その電に当身をしたのは龍田。

 電はその場に崩れ落ちた。

 

 ――何だ? 一体、何が起こっている?

 

 立ち上がった俺の視線の先には、未だ半狂乱のまま叫び続ける暁を俺から庇うように抱きしめる雷。その様子に何も感じないのか、変わらずうつろな目を向けている響。

 

 この光景を、俺は理解できずにいる。

 

「指令は、ご覧になりましたか?」

 

「……あぁ」

 

 ぱらぱらと破られた壁の破片が床に落ちる音が聞こえる中、大淀が俺に言葉を続けてくれる。

 

「これが……この子達が提督の戦力を守る為の盾。使えなくなった艦娘です」

 

「使えなく、なった?」

 

 何だよそれ、どういうことだよ。

 

 視線で話を続ける様に促せば、大淀は顔を青くした天龍の方に視線を向けて。

 

「彼女たちは、遠征任務を失敗しました。損害を出す可能性が限りなく低い遠征で中破、大破しました。この結果にその鎮守府の提督は激怒し……彼女たちに怒りの矛先を向けた結果。こうなりました」

 

「な、なぁ……? それってよ……」

 

「まさか……」

 

 天龍と龍田が口を挟んできた。何か知ってるのか?

 

「はい、天龍さん。あの時の、第六駆逐隊です」

 

 大淀がそう言った瞬間、天龍は床に勢いよく膝をついた。

 

「そうか、オレの……オレのせいかよ……ちくしょう……ちくしょう!」

 

「あの後。営倉に入れられた龍田さんと天龍さんはそのままこちらに異動。……提督は、龍田さんに怯えてしまったことを含めて直接ぶつけられなかった怒りを彼女たちにぶつけたようです。……そうして建造されたばかりで何も知らない彼女たちは――」

 

「もういいっ!」

 

 言葉を遮ったのは龍田。待て待て、気持ちはわかるけどよ?

 

「龍田! 何処へ行く!」

 

「決まってるじゃない! あいつ……あいつの所に行って……!!」

 

 あー、はい。これは駄目ですね。どうにも出来ません。

 

 ……どうにも出来ない? 本当に?

 

 んなわけねぇだろ……!

 俺が、提督がどうにも出来ないなんて言ったら駄目だろ!

 

「龍田」

 

「何よっ!?」

 

 龍田の肩を掴んでみれば勢いよく振り向いてくる。

 その目には涙が浮かんでいた。

 

 怒りだけじゃない、何処か後悔しているような。そんな涙。

 

「ここにいろ」

 

「何でっ!? 私の、私のせいなの……! 私が感情に身を任せてあんなことしなければ……!」

 

「違うっ! オレが! オレがもっとしっかりしていりゃあ!」

 

 龍田の声を遮るように俺が悪いと言う天龍の目にも涙が溢れてる。

 

 時雨は心底辛そうな顔をして胸元をぎゅっと握ってるし、夕立は暁達と俺達の方へと視線を行ったり来たり。

 

「落ち着け。いいか? ……お前が、お前たちが感じてる想い。一旦俺に預けろ」

 

「っ!?」

 

 あぁ、わかってる。

 それが難しいことなんて。

 

 自分で晴らしたいはずだ、責任を取りたいはずだ。

 

 だけどそれは駄目だ。

 

「大淀。早速で悪いけど……」

 

「はい、どうされますか?」

 

 それで浮かばれるヤツなんていないからだ。

 

 自分の後悔を元に晴らしたって、何にも救われない。虚しさが残るだけだ。

 

「天龍や龍田……暁達が居た鎮守府に行きたい。そうだな、見学って名目でいいか。今後の運営方針の為に」

 

「それは……可能だとは思いますが。その間この鎮守府はどうされるのですか?」

 

 もちろん、運営するさ。当たり前だろう? 俺は提督だぞ。

 

「天龍、龍田はここが維持できる程度でいいから引き続き資源回収。夕立は暁達の面倒を見てやってくれ。そして時雨は俺と一緒に行こう」

 

「何で時雨なんだ!? オレを……!」

 

 天龍が反射的に……多分、俺を連れて行けって言おうとしたんだろうな。途中で止めた理由はわからないけど、口を必死で噤んでる。

 

「……提督? 私を連れて行って? お願い」

 

「駄目だっての。言うこと聞きなさい」

 

 何処か必死に自分を押さえつけて、理性的なつもりで俺に言ってるんだろうけど。目が笑ってないって。

 

「夕立? 辛い役まわりだけど……頼んだぞ?」

 

「んーん! 夕立、提督さんの言うことなら何でも聞くっぽい! お任せっぽい!」

 

 にっこり笑って言ってくれる夕立の頭を一撫でして。

 

「時雨、頼んだぞ?」

 

「任せてよ」

 

 力強く頷いてくれる時雨。頼もしいこった。

 

「そして大淀」

 

「はい」

 

 こんな状況でも笑顔を浮かべている。

 

 ……多分、必死なんだ。

 何に必死なのかはわからない。ただ、必死。

 

 手は固く握られていて、よく見ればほんの僅かに震えている。その震えは何を抑えるためだろう。

 

 俺のイメージにある大淀。

 それはこんなに必死に感情を表に出すことを抑えようとする大淀じゃない。

 

 任務を選ぶ時ににこやかに応対してくれて、しっかりもの。まさに敏腕秘書ってなもんだ。

 

 そう、それは俺と出会った時のような。

 

「無理して笑うな」

 

「……え?」

 

 そんな辛そうな笑顔で使えなくなったなんて言うな。

 

 暁達にも伝わればいいが……。

 

「誰も沈めない。沈ませない。それがここのルールだ。そしてそれは何も海にってだけじゃねぇ」

 

 悲しみにも、怒りにも沈ませない。

 もし轟沈してるなら無理矢理にでも引っ張り上げてやる。

 

 暁達を見る。

 

 俺の想像とはまるっきり違う第六駆逐隊。

 

 一人前のレディに拘る暁も、頼られようと頑張る雷も、クールな響も、ドジっ娘な電も。

 

 今はきっと沈んでる。

 

 大淀を見る。

 

 俺の言葉に尚笑顔を固めるその姿。

 

 何を思ったのかわからない。わからないけど、その思いは間違いなく沈んでいる。

 

「絶対に掬い上げてみせるさ。俺は、提督だからな」

 

 ハーレム提督に困難はつきもんだ。

 こんな事で挫けるようなら、来るべき正妻争いの仲裁だって、俺の取り合いにだって臨めるべくもない。

 

 そんためにもまずは。

 

「あぁ、覚悟しとけよ? 俺の艦娘泣かせたケジメはきっちりつけさせてやる」

 


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