二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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提督が見学に来たようです

 大本営の意図がさっぱりわからない。 

 

 車の外で流れる景色にそんな思いを馳せる。

 

 見学したいという電文を送った時。その許可は一瞬で出た。

 

 どうやって伝えようかと悩んだ事を先回りするかのように、その鎮守府内における出来事の一切に関してを容認する。と言った返事を交えて。

 

 まるで、そう。

 

 俺に何しても良いよと言っているかの様な。

 

 指令に捨て艦作戦を取れと言った様な事を記す大本営、軍にも関わらず、だ。

 

「なぁ、時雨。時雨は大本営についてどう思う?」

 

「どう思うか、かい? ……そう、だね」

 

 隣で少し緊張した面持ちだった時雨に聞いてみると、顎に指を添え目を閉じて考え出した。

 時雨にしては珍しく考え込んでいるようだ。そんなに深く考えなくても良いんだけど……。

 

 初期艦の時雨と夕立。戦力補充としてやってきた天龍と龍田。そして今回の六駆と大淀。

 

 うちの鎮守府に着任してくれた皆。何か問題を起こしてしまった艦娘だっていうのは、大淀から聞いた。また、その時のやり取りも凡そは。

 

 俺がもしその提督ならまずありえない采配、運営。はっきり言って、胸糞悪い。いや、それどころじゃすまない。

 

 聞いた瞬間思わず軍に対して出撃命令をしようかと思ったくらいだ。

 

 ただ、どうにも腑に落ちない。ハッキリ理由がわかってる訳じゃない。それでも妙なしこりを感じる。

 

 違和感。

 

 そう、違和感を覚えているんだ。

 

 そもそもわざわざ捨て艦なんて指示をするだろうか。いくら戦力として見込めなくなった艦娘とはいえ、同じ艦娘は現れないしその鎮守府に所属していた艦娘が轟沈すれば二度と同じ艦娘が着任しないなんてルールがある中で。

 仮にそれが当たり前の世界であるなら尚更。提督は着任した艦娘を見てまずそれを考えるだろう。

 

 俺というイレギュラーな提督だから、上の指示をわかりやすく伝えようとしている?

 

 いや、違うはずだ。

 僅か一日の講習だったけど、それを伝える機会は確かにあったし。なんならあの時に会った司令長官自身の口から言っても良いはずだ。

 

 わからない。

 

 今の俺にはそれをそうだと結論付ける材料が無い。そんな事あるわけない、あってはならないという思いの丈しかない。

 

 そんな事を考えていると、時雨は目を開けて頷いた。

 どうやら結論が出たようだ。

 

「提督も知った通り、僕達は何か失敗してしまったり艦娘として機能不全と言うか……うん。大淀が言った通り、使えなくなった艦娘なんだよ」

 

「そんなのっ! ……おう」

 

 思わず否定しようとしたけど、時雨の顔を見て尻すぼみに。

 

 だってよ。

 

「軍、大本営から役立たずだって決められた事は辛いよ。そう決めつけられた時は間違いなく兵器としての自分が全てだったから。そうさせたのは誰のせいだっ! って憎いとも思うし、何処か自業自得だって囁く自分もいる。だけどね……感謝してもいるんだ。おかげでこうして提督と会えたから」

 

「……そっか。俺はそう言ってくれる時雨に感謝してるよ、ありがとうな」

 

 めちゃくちゃ笑顔だったから。

 

 自然と時雨の頭に手が伸びた。それを怯える訳でも媚びるでもなく自然に受け入れて目を細めてくれる時雨。

 

 そんな時雨、艦娘だから。尚更思う。

 

 もしも。

 

 もしも、この世界の艦娘が不幸に沈んでいるのなら。

 

 引っ張り上げたい。俺に出来る全てで。

 

「時雨。俺は、さ……。まだまだ何も出来ない提督だけどさ……」

 

「それは違うよ提督」

 

 細めていた目を元に戻して、何処かちょっと怒った様子で。

 

「提督は最高の提督さ。だって僕、こんなに幸せだもの。こうして頼られるのも、それに応えたいと思うのも。提督だからなんだよ」

 

「……」

 

 その言葉に、思わず震えた。

 

 嬉しいと思う。重圧だとも思う。

 

 だけどそれ以上に。

 

「ありがとう。なら俺は時雨がずっと最高の提督って誇れる様に頑張るよ」

 

「うん!」

 

 応えたいと思う。

 

「ならまずは……あいつらを、スタートに立たせてやる事から始めるとしよう」

 

「何でも言ってね、提督」

 

 俺は、確かめなければならない。いや、確かめたい、確かめなければと思っている。

 

 俺が好きな艦娘達。

 そいつらが、どんな思いで、この世界に生きているのかを。

 

 そうだ、まずはそれから始めよう。

 そうすることで俺に出来ることがきっと何かある、何か見つかる。そう信じて。

 

 その為にもまずは。

 

「あ、運転手さん。ちょっと寄り道していいですか?」

 

 

 

 横須賀方面の海域を防衛する鎮守府の一つ。

 俺達の鎮守府もそうだが、龍田、天龍。そしてあの六駆が所属していた鎮守府もまた同じ担当だった。

 

 天龍、龍田がかなり早くに俺達の鎮守府に着任出来たのはこの鎮守府が結構近くにあったからでもあった。

 

 見えてきた鎮守府の規模はうちと同じか少しだけ大きいくらいに見える。

 

 俺も紙面上でしか知らなかったけど、鎮守府にはそれぞれ建てられた場所に応じた規模があるらしい。

 

 例えば横須賀鎮守府。

 横須賀方面の海域を守る主力鎮守府とされてるそこの規模はかなりのもので。

 最大着任可能艦娘数は三百とでかい。課金しまくったんだな? わかります。正直そんなでかいのに三十隻程度しか着任してないってのがありえねぇけど。

 

 他にも海岸に沿って鎮守府が点在している。

 主に漁村を守る事等、出撃を主眼とする鎮守府じゃなくその場の暮らしを守って、日本国内に流通する海産物を守ったりする役目を担った小規模、最大着任可能艦娘が十隻程の鎮守府だったり。

 

 そのどちらの役目も行える百隻程着任可能の中規模な鎮守府。

 うちは中規模鎮守府だ、要するに艦娘が住める部屋とかはガラガラだったりする。

 他の鎮守府と少し違うのは建造された場所が出島状態になっていて、海岸沿いではなく言ってしまえば海の上。

 

 本土とさほど距離はない、まぁ車で一時間はかからないくらいだ。

 よくこんな所に建設出来たなと今でもたまに思う。

 

 そして初めて自分の鎮守府以外。その姿が大きく見えるにつれて、緊張してきた。

 

 ……正直、怒りの赴くままに行動したいという一面はある。

 

 俺自身、これから話す事になるのは正真正銘の軍人。その事に不安を覚えてだって居る。

 

 だけど。

 

「着いた、ね」

 

「あぁ」

 

 時雨が息を飲む。

 その顔は緊張していて。同時に何かの決意を宿した目をしていて。

 

 そんな時雨の前で情けない姿を見せるわけにはいかないと、腹を括って車のドアを開けた。

 

「お待ちしておりましたっ!!」

 

 っと、元気いいな。と言うか。

 

「ん? 出迎えてくれたのか? ありがとう。古鷹さん、加古さん、鳳翔さん」

 

 あああああああ!! 可愛い! 可愛い! 美人!!

 

 古鷹ってやっぱり目の色違うんだ! 大天使!

 加古ってやっぱり眠そう……じゃねぇ! 何でそんなにギラギラしてんの!

 鳳翔! おかあああああさあああああんん!! 圧倒的人妻感っ!! 

 

 ……あぁ、もうこれで良くない? 見学。三人の顔見れただけで満足だよ。なんだか眠いんだ。

 

 っは!?

 

 いかんいかん。今は至極真面目モードだったはずだ。ほら見ろ、なんか困ってるじゃねぇか。俺自重しろ。

 

 でもさ、わかって欲しい。

 誰だってさ、建造の時とドロップの時ってさこんな感じだろ? そうだろう? 新しい艦娘が着任しましたって時の心境はこうなるだろ?

 

 いや、まぁ。うちに着任してる訳じゃないけどさ。いいじゃない。

 

「ええっと? どうしたんだ? あぁ、もしかして礼の仕方が変だったか? すまん、まだ慣れてないもんで」

 

「い、いえ。申し訳ありません。その、笑顔を向けてくださるとは思っていませんでしたので」

 

 えっ。もしかして俺の顔気持ち悪い? やめろよまじ震える。ヒキニートは傷つきやすいんだぞ。

 

「……時雨、俺の笑顔って気持ち悪い?」

 

「ううん。僕は好きだよ?」

 

 よかった安心した。時雨ありがとう。

 

 言わせた感すごいけどそれで安心する位にはチョロい俺なんだ。

 

「そ、そういった意味ではなく! 申し訳ありません! 変な事を言ってしまいました!」

 

「いやいや、それなら良かったよ。こうやって他の鎮守府に来たのも初めてだし、何か無作法があったら教えてくれな?」

 

「と、とんでもありません!」

 

 いやマジで。

 ぶっちゃけ最初に大本営に連れて行かれて以来、ザ・軍! って感じの所に行ったことねぇし、知識もない。そういった面は割と不安なのよ。

 別に失礼を働きに来たわけじゃないから、ほんと遠慮しないで言ってね、マジマジ。

 

「えっと……なぁ、墓場の提督さん? あんたは一体何しにきたってんだ?」

 

 ……墓場、ねぇ。

 

 そういや言ってたな大淀も。

 

 俺の鎮守府は使えなくなった艦娘を送り、処理する為の墓場だって。

 

 ま、異存はねぇよ。

 

 よく言うだろ? ケッコンは人生の墓場だってよ。

 

「そうだな。知っての通り見学と……お礼を言いに来たんだよ。あんなに良い艦娘を異動させてくれてありがとうってね」

 

 時雨じゃないけど、感謝もしてはいるんだ。

 だってさ、資源も使わずにホイホイと艦娘を贈ってくれるんだぜ? 最高じゃねぇか。

 しかもやっぱり皆可愛いし? 最高の艦娘だし? 上の思惑はどうあれ、その点に関して言うことねぇよ。

 

 そんな事思ってたら。古鷹が不意に涙を浮かべた。

 

 ……。

 

 多分。

 

「……そっか。わかった」

 

 気を張っていたんだ。あらゆる事に。

 

 俺の知っている、イメージ通りの古鷹ならきっと頑張る。

 

 自分のいい所を伝えようと。

 

「頑張ってくれて、ありがとう」

 

 なら、お礼を言わなくちゃ。

 古鷹だけじゃない、艦娘は人間の為に頑張ってくれてるんだ。文字通り身命を賭して。

 

「突然決まった見学で迷惑をかけたと思う、すまない。だけど今日はよろしく頼む。皆の良い所を無知な俺に教えてくれると嬉しい」

 

「……はいっ!」

 

 そう言ってみれば、改めて敬礼をしてくれた。

 


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