二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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提督が遂に我慢できなくなったようです

「三人以外の艦娘はいないのか?」

 

「はい。少し前まではもう少し居たんですけど」

 

 うっ。そう言われると辛いな。

 うちからしてみれば諸手を上げて喜ぶ事だけど、ここの人達からすれば微妙っちゃ微妙な事だよな。

 

「すまん。俺が盗ってしまったようなもんだ」

 

「あっ!? いえ! そういう意味で言ったんじゃないです!」

 

 わたわたと俺の前で案内してくれている古鷹が勢いよく振り向いて両手を振ってくれる。

 

「……正直に言ってしまえば、別の環境に行けるなら行ったほうが良いと思いましたから。私では……私達では、どうすることも出来ませんでしたので」

 

 そう言って少し俯く古鷹。それに続くように時雨の隣にいる加古、俺の隣にいる鳳翔も悔やむような表情を浮かべる。

 

 どうすることも出来なかった。という事は突っ込んで聞いてはいけない事だろう。それは彼女たちの後悔を赤裸々に話せって言ってるようなもんだし。

 何より、俺自身話す内容を間違えたと思っている。

 

 こんな顔をさせたいわけじゃないのに。

 

「そうか……」

 

 かと言ってじゃあ笑える話題があるのかって話で。

 

 そもそも俺がここに来た理由はそういうポジティブな理由じゃない。

 今もそうだ、俺がこの子達の顔を暗くさせてしまった事を棚に上げて言うが。三人が落ち込んでる、傷ついているって事をここの提督は理解しているはずだ。他ならぬ自分が招いた事なんだから。

 なのにも関わらず何のケアもしていないと思われる現状。

 

 その事に腹が立つ。

 

 いや、本当に俺はコミュニケーションが下手だと思う。

 

 こういう時にこそこんな雰囲気を吹き飛ばすような話題を出せないといけないと思う。

 

 この世界に来て少し経つとは言え、俺はやっぱりヒキニートをこじらせた、ただの一般人何だなんて自嘲してしまいそうになる。

 

 だけど、今は違うだろう? 俺は、提督なんだ。

 

「ふぅ……そうだ、工廠……建造ドックを見せてもらえないか?」

 

「建造ドックですか? 大丈夫ですけど……ええと、多分何処も変わらないと思いますけど」

 

 まぁそりゃそうだろうけど。少し間を置きたいんだよ。

 

 それに気になることもある。

 

 妖精。その存在。

 

 ここに来るまでに見てきた施設では出会うことのなかった妖精。

 

 場所が悪かったのかも知れないと思いながらも、装備開発や建造を行う工廠なら確実にいるかいないかが分かるだろう。

 

 うちの妖精は大体その多くが工廠にいる。

 たまに執務室でお茶していたり、道場で俺達のマネでもしてるのか妖精が扱えるサイズの竹刀でチャンバラしてたりするけど。基本的には工廠。

 

「あぁ、うちはまだ一度も建造ドックを使用したことがなくてね。良ければ使い方から教えてもらえると嬉しい」

 

「えっ! 使ったこと無いんですか!?」

 

 目を丸くする古鷹。可愛いなぁ。鳳翔も加古も驚いてら。

 

 そりゃ驚くよなぁ、うん。

 

 だけどまぁそんな余裕なかったのは確かだし。いや、今もねぇけど。

 

「なぁ……あんたのとこの艦娘ってこの時雨と、天龍さん龍田さん。六駆の子達に後誰がいるんだ?」

 

「あぁ、大淀が六駆のみんなと一緒に来てくれたよ。天龍達の前には時雨と夕立……最初はこの二人だけだった」

 

「え……? そ、それでも建造を行わなかったのですか!?」

 

 加古の質問に答えてみれば、思わずといったように鳳翔が身を乗り出して聞いてきた。

 

 えぇ、すいません。資材無くて無理だったんですよ。

 

「流石に着任した時、各種資源が三〇〇程度しか無い中で建造出来るほど肝は据わってなくてな……俺は臆病者なんだよ」

 

「さん、びゃく……?」

 

 呆然としたように数字を呟く鳳翔。

 

 え、何? 皆そんなもんだろ? なぁそうなんだろ? そうだと言ってよ。マジで。

 

「……なぁ、加古さん? キミがここに着任した時、資源ってどんなもんだったの?」

 

「あー……うん。ごめん、その五倍。あたしは古鷹と一緒に初期艦の次に建造されて着任したらしいから多少減ってるはずだけど」

 

 おーまいがっ……!

 

 つまりなんだ。うちだけか、あんな環境だったのは。

 

 ほんとさ、どういうことだよ大本営さんよ。

 

 捨て艦だけじゃなく、捨て鎮守府だとでも言うつもりか? 巫山戯てる。

 

「そうか……いや、ありがとう答えてくれて。まぁそんな感じだったからさ、見てみたいんだよ建造ドック」

 

「わ、わかりました。今丁度四つある建造ドック全てが稼働中ですし、ご案内しますね」

 

 四つ!?

 

 いやいや、うち一つだけだわ。

 

 課金かな?

 

 じゃなくて。

 

「その四つってのは最初からあったのか?」

 

「え、はい。そうですけど……」

 

 オッケー。もういいわ。とりあえずそういうのは後で考えよう。ぶっちゃけこれ以上考える事増やしたら身動き取れねぇレベルだし。

 

 まずは、見学。そして、目的を達成しようじゃねぇか。

 

 

 

「こちらが、建造ドックです」

 

 はー、でっかい。

 何がでかいって部屋がでかい。流石に四つあるだけあるわ。うちと同じ規模の鎮守府なのにどうしてこんなに差が出来た。

 

 艦これでは建造中の文字と共に妖精がカーンカーンってやってるもんだから、てっきりそういうもんかと思ってたけど。俺がいる現実(世界)では違うらしい。

 

 資材をセットする釜みたいなのから、ぶっといケーブルが大人一人入れるくらい大きなシリンダーみたいなのに繋がってる。

 これはうちもそうだけど、思わずホムンクルスやら、アンドロイドやらそういった言葉が浮かんでくる様な設備。

 うちと違うのは、釜から伸びるケーブルが四つに分かれてる以外違うところはない。

 

「稼働してると、こんな感じになるのか」

 

 使ったこと無いからわからんけど、今は中に綺麗な青色の液体が入っている。

 

 思わず見惚れる位綺麗な色だ。

 

「この液体は、海の意思と言われてます」

 

「海の、意思?」

 

 なんだそりゃ。燃料やら弾薬やらが混ざった液体が海の意思?

 

「各種資源が混ざった液体、そこから艦娘を発生させる……私達は海上を征く艦娘。海を守る意思を持つ者を生み出すことからそう呼ばれています」

 

 鳳翔が教えてくれた。

 

 へぇ……そんな風に言われてんのか、この液体。まぁそう言われてみればものすっごく綺麗な海水に見えないこともない、か。

 

「なるほどな。……それで? 今は誰を建造しようとしてるんだ? 軽巡洋艦? 戦艦? それとも正規空母? あぁ、鳳翔と古鷹、加古。軽空母と重巡洋艦だけならやっぱ駆逐艦を狙ってるのかな?」

 

「え? 狙う、とは?」

 

 んんん? 

 

 あ、あぁ。言い方悪かったのかな。

 

「いや、レシピと言うか……どれ位資源を投入したらどの艦種の艦娘が来てくれるかってあるだろう?」

 

「い、いえ。そういったものは……えっと。確か、それぞれ現在は三〇〇ずつ投入しています。本来ならば、五〇〇以上の資源を使用するのですが……今はうちも資材不足でして」

 

 は、はぁ? 常に五〇〇以上? しかも資材足りてねぇってのに三〇〇ぅ?

 

「そ、それは何か理由があるのか?」

 

「り、理由ですか? 資源を投入すればするほど艦娘が着任する確率が高いから……と、聞いていますが」

 

 あかんこれ。

 

 俺の建造知識がガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのが分かる。

 

 え? いやまじかよ。

 

 むしろ、そうじゃないと建造できないの? だったらうち絶望的じゃん。出来るようになるまでどんだけ時間いるんだよ。

 

 思わずふらふらとシリンダーに近寄ってしまう。

 

 近くで見た海の意思とか言う液体は僅かにキラキラと光っているようにも見えて。

 

「……あたしと古鷹が建造された時には、八〇〇使ったって言ってたな。そう言えば」

 

「私の時は投入できるだけ投入したと聞いています」

 

 は、はは。まじかよ。

 そしたらあれか? 仮に戦艦欲しいって思ったら大型建造に挑めってか? あの資源ブレイカーに?

 ゲームの時も清水で身を投げるみたいな覚悟の下でやったってのに。

 しかも、普通の建造でその桁だ。大型だったらそれどうなるんだよ。

 

 思わず、シリンダーに手を触れる。

 

 ――もうすぐ会えるね。

 

「え?」

 

「ん? どうされました?」

 

 触れた瞬間、声が聞こえたような気がした。

 一瞬だったから誰の声かわからなかったけど、それは艦これで聞き覚えのある――

 

「ほう? 私に挨拶も無しにこんな所をぶらついていたのか」

 

「っ! 敬礼っ!」

 

 あん? 誰だよ、俺は今さっきの声が誰か……。

 

「流石は墓場の提督、民間上がりのクズと言った所か。いやはや、艦娘運用の前に礼儀から勉強するべき……そう思わないか? 古鷹?」

 

「い、いえっ! 申し訳ありませんっ! 私が……」

 

「いや、いいよ。ごめんね」

 

 振り返ってみれば、軍服に身を包んだおっさん。大体三〇後半って所かね? 軍人の証である佩刀見せ付けて来て、暗にお前とは違うんだなんて言ってるみたいで、見るからにうぜぇ印象。パワハラとかモラハラとか素でやっちゃいそうなヤツ。

 

 慌てて弁解してくれようとした古鷹に謝って提督の前へと進み出る。あぁ、時雨。そんな目しなくていいから落ち着いて。

 

「……申し訳ありません。私は仰る通りの民間出なもので、ちゃんと運営されている鎮守府に我を失っておりました。失礼を働いたこと、謝罪致します」

 

「なんだ、やれば少しは出来るようだな? クズからただのバカに格上げしてやろう」

 

 はいはい、ありがとうございます。くっそうぜぇ。

 

 まぁ、いるよなこういうヤツ。俺も覚えがあるよ、嫌ってほどに。ある意味慣れてるからありがたい。

 

 軍人っぽい軍人ってやつなのかどうかはしらねぇけどさ。おかげで落ち着いたよ。

 

「しかし、だ。貴様の様なバカでは鎮守府運営も厳しいだろう。私の様な優秀な軍人の下で艦娘は運用されるべきだと思わんか?」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

 あー時雨、いいから落ち着いて。俺の陰に居ると言ってもそんなに殺気立ってたら駄目だって。

 古鷹も、鳳翔もさ。そんなに申し訳なさそうに俺見るなって、あいつの艦娘だろう?

 加古さん、加古さんや。俺はお前の寝ぼけ眼はとっても見たいがそんな目は見たくないぞ。

 

「やれやれ、察しも悪いようだ。無能な貴様に成り代わってあの墓場を運営してやると言ってるのだ。民間人は民間人らしく、市中に引っ込んでおればいい。どうだ? ありがたいだろう?」

 

 あー時雨さん時雨さん。艤装展開は駄目だよ? いや、ほんとに。綺麗な顔が台無しよ?

 

 落ち着けって。俺も頑張るからさ。

 

「申し訳ありません。確かに苦しい運営ではありますが、しっかり戦果もあげております。どうか、その心の下見守っては頂けないでしょうか?」

 

「たかが鎮守府正面海域攻略を戦果だと? はっ! 思い上がったか!?」

 

 いいや? 思い上がってねぇよ。

 

「確かに、貴方から見れば気にもかけないほどの戦果なのかも知れません。ですが、私達が文字通り命懸けで得た戦果です。その戦果により、私は今後より大きな戦果をあげられる、海を、人を守れると確信しております」

 

 思い上がってねぇ。確信してるんだ。信頼してるんだ。こいつらとなら何でも出来るって。

 

 なぁ? てめーはそんな思い持ってるか?

 

「それを思い上がりというのだっ! ……まぁ良い。貴様も知っているだろう」

 

 懐から一枚の紙を取り出したおっさんは高々と書いてある内容を読み上げる。

 

「その鎮守府内における出来事の一切に関してを容認するっ! なぜ上が命令としてこの見学を許可したのか疑問だったが、これで理解出来たっ!! そう! 貴様の様な無能になりかわれと言うことだ!」

 

 はー、お花畑属性もついたか。

 

 まぁ、確かにそういう風に受け取れるのかも知れないけどよ。

 

「私がそれに頷くとでも?」

 

「くっくっく……そうだな、バカな貴様だ。実際に見なければ理解できまいよ、私の有能さを。そこで、だ」

 

 お? 良いのか?

 その言おうとしてる言葉、もしかしたら俺から言おうと思ってたことだぞ?

 

「演習を行おうじゃないか、貴様の艦娘と私の艦娘で。教えてやる、私の有能さを。そして、私が勝てば貴様が奪っていった艦娘と持っている艦娘を貰う」

 

 あー、ちょっと違ったわ。

 まぁ良い。

 

 てか、そんだけボコスカ言っちゃう鎮守府なんで欲しいのさ。

 

 もしかしてそこでなら、俺の艦娘なら活躍、戦果を挙げられるとでも思ってんのかね? 俺でさえ出来た場所と艦娘だから? しらんけど。

 

 はーあほくさ。

 

「私が勝った場合は?」

 

「勝てるとでも思ったか? そうだな、万が一にもありえんが何か一つ貴様の要求に従ってやろう。資源でも艦娘でも持っていくが良い」

 

 チラリと時雨を見る。

 

 そうすれば、コクリと頷いてくれる。

 

 ――僕は、提督の為なら何でもする。何でも出来るよ。

 

 そう目で言ってくれた。

 

「……一つ、条件を出させて頂きたい」

 

「条件だと?」

 

 あぁ。俺とお前。如何ともし難い艦娘への意識の違い。

 

「私は艦娘を物だなんて思っておりません。貰う、やるなんてとても口に出来ない……ですので、私が今の鎮守府に在籍したまま。貴方の命令に絶対に従うといった内容に変えてもらいたい」

 

「ほう……? 私の傀儡となるという事か?」

 

 そそ。操り人形にでも何でもなってやるさ。

 

 ……勝てたら、な。

 

「私の鎮守府は危険海域にあります。その様な危険な場所にわざわざ赴くよりも、そっちのほうがよっぽど楽かと思いますが……顔を合わせたくない艦娘もいるでしょうし?」

 

「ぐ……良いだろう。だが、命令を破ったその時は有無を言わさず取り上げるぞっ!」

 

「はい。構いません」

 

 おうおう顔をしかめちゃってまぁ。そんなに龍田が怖いかね? あんなに綺麗で可愛い艦娘が。

 

「それで? 貴様の要求は何だ? 叶わぬ願いだ、せめて口に出すこと位許可してやろう」

 

 あーあー……言っちゃったか。お礼位言わせてほしいんだけどなぁ。

 

 うん。まぁいいさ。

 

 俺、よく我慢したよ、ほんとに。

 

 その言葉が聞きたかった。

 

「……うちの艦娘に謝罪しろ。目の前で、頭を垂れろ。あいつらが許すと言うまで何度でも」

 

「謝罪ぃ? 貴様は本当に愚かだなっ! たかが兵器を人間扱いか!? クハハ! まぁよかろう! どうせありえぬ事! 約束してやろうではないかっ! 古鷹っ!!」

 

「はっ、はいっ!」

 

「お前が相手をしろ……嬉しいだろう? 私の役に立てる機会だ……わかっているな?」

 

「……っ! 了解しました!」

 

 提督に背を向けて、俺と目を合わせる古鷹。

 

 ――ごめんなさい。

 

 その目はそう言っていた。

 

「……謝ることはねぇよ。むしろ謝るのは俺の方だ。すまん。お前のやりたい事……あの提督の役に立とうってのを潰そうとしてんだからさ」

 

「……」

 

 悲しそうな顔をしながら首を横に振る古鷹。

 

 その古鷹を心配そうな、複雑そうな表情でみやる鳳翔と加古。

 

 ほんとすまねぇと思ってる。

 こうして俺も、お前たちを道具みたいに扱ってしまったことを。

 

 だけどさ。

 

 やっぱり俺も許せねぇ事ってのはあるんだ。勘弁してくれな。

 

「時雨」

 

「うん。わかってる」

 

 にこやかに返事をする時雨。

 

 その笑顔が少し、夕立とだぶる。

 

「任せてよ、提督。わかってるから。それにね?」

 

 ――僕もいい加減限界だったから。

 

 そう言った。

 

 あぁ、初めて見たよ。時雨。

 

 お前の獰猛な笑みってヤツを。

 

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