二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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おっさんはやっぱり見苦しいようです

 やれやれと言うべきか。

 

 あぁいった戦法は時雨が苦手と言うよりは、嫌っていたはずなんだけどな。

 でもそれくらいしないと古鷹の動揺を誘えないと踏んだのかな。それとも違う意図があったのか。まぁわからん。

 

 けどその甲斐あってか、古鷹の動揺は目に見えていたし正解と言えば正解なんだろう。ただ、時雨の術中から立て直した古鷹は見事としか言えないけど。

 

 俺のわがままから始まった演習とは言え、色々気づくことが出来た実りある演習だったと思う。

 

 ……あんまり死中に活を見出すってのに慣れて欲しくは無いんだけどなぁ。要相談だな。

 

 ともあれ。

 

「馬鹿な……馬鹿な!? 駆逐艦と重巡洋艦だぞ!? この様な事、あるわけがないっ!!」

 

 モニター越しに演習観戦をしていた俺と提督。

 

 時雨の勝ち。

 まぁ賭けではあったのかも知れないけど、やっぱり俺はこの光景を見ることが出来ると確信していた。

 

 隣でわなわなと震えている提督の姿を含めてな。

 

「この結果に不服が?」

 

「貴様っ! 何をしたっ! 駆逐艦が重巡洋艦に勝てるわけがないだろうっ!」

 

 唾飛んでくるからやめろよきたねぇ。

 

 そんな事言ってるから負けたんだって何でわかんないかね。

 

「確かに彼女たちは駆逐艦と重巡洋艦です。ですが、艦娘です。こういった結果になることもあるでしょう」

 

 と言うか別に艦娘じゃなくてもそうなんじゃねぇかね。駆逐艦が戦艦に傷をつけたとかありふれた話だったと思うけど。

 

 どちらにしても、今回はこうなった。それだけの話だ。

 

「こんな、こんな事が……!」

 

「さて、信じられない気持ちもわからなくはありませんが。約束です。どうかうちの鎮守府までご同行願いたい」

 

 頭を抱えて俯いているおっさんにそう告げる。

 

 てめーがそんだけショック受けてる以上に傷ついているヤツがいるんだ。そんな暇ねぇぞ。

 

「し、知らんっ! 私はそんな約束……!」

 

 あん? そんなテンプレ許されると思ってんの? 約束は守る。これ、常識な?

 

「提督。今戻ったよ」

 

 っと、戻ってきたか。

 ペイントも落として来たようで、うん。可愛い。

 

「あぁ、ありがとうな時雨。嫌な役回りだったと思うけど……」

 

「ううん、全然。でもそうだね……そう思うなら……あっ」

 

 わかってるって。これか? これが欲しいんか? ……いやしんぼめっ!

 

 てなもんで時雨の頭を撫でる撫でる。あーむしろこれ俺がやりたくなってる感やばい。髪ふわっふわだし超気持ちいい。

 時雨も喜んでくれてるし、もうお互い幸せっ! 俺の心配とかもういいやっ!

 

「た、ただいまもどりましたっ!」

 

 おっと、古鷹達も戻ってきたか。

 

 ちょっとお前んとこの提督聞き分け悪すぎんよ、ちょっと言ってやってくれない?

 

「あぁ、おかえり。んでお疲れ様……ちょっとさ――」

 

「古鷹!! 貴様ぁーーーー!!」

 

 っておい! 軍刀抜いて何しようと……!! 古鷹!! お前も何突っ立って……くそがっ!!

 

「ってぇ……」

 

「提督!?」

 

 おっさんが振った軍刀は模造品でも何でも無く真剣だった。

 けどまぁ、力任せに振っただけで全然刃筋が立ってない。

 

 だから肩で刃先を受け止められた。

 一応刃元も手で握れたからそこまで深くねぇと思うけど……くっそいてぇ。

 

 てかそんな事はどうでも良いんだよ。

 

「あんた、今何しようとした?」

 

「決まっているっ! こんな役に立たない重巡洋艦等っ! 今すぐこの場で解体してやるっ!」

 

 ガチガチと刀を俺の身体から、手から離そうと動かすおっさん。やめろよ痛いから。

 

「て、提督っ!! そこをどいて下さい! 私が、私が悪いんですっ! あなたが傷つく事は……!!」

 

 古鷹、お前が悪いなんて事はねぇ。悪いのは俺達提督って存在だ。後、時雨。こんなとこで艤装展開すんな。

 

「いいから落ち着け。んで? 提督さんよ、てめーだよ一番落ち着かねぇといけないのはよ」

 

「んなっ!? ごふっ!」

 

 ぱっと力を抜いてやれば体勢を崩したこのおっさん。前へと倒れそうな所へ膝蹴りを一発。

 ダメだねぇ、訓練足りてないんじゃねぇか? ヒキニートにあしらわれるとかいけてねぇなぁ。

 

「いつつ……」

 

「す、すぐに手当をっ!!」

 

 言いながら鳳翔さんが手当の道具でも探しに行ったのかバタバタと走っていった。

 

「提督っ! 提督っ! 大丈夫!? ……このっ……!」

 

「時雨、やめろ」

 

 座り込んだ俺にものっすごい心配そうな表情を浮かべながら近寄ってきた後、床で呻いてたおっさんに向かって砲を向けようとした時雨を止める。

 

 ったく、いいから落ち着けってのさ。

 

 っておい、加古さんや?

 

「お前……お前ぇええええええ!!」

 

「あー! もう!!」

 

 いてぇんだってばさ! 何トドメさそうとしてんのさ加古さんや!

 

「離せっ! 離してくれよっ! あたしは……あたしはぁ!」

 

「いいからっ! こいつにはまだやってもらわねぇといけない事があるからっ!」

 

 やばいやばい、傷むっちゃいてぇ。頼むから抑えてくれマジで。

 

「加古っ! 落ち着いて! じゃないとその提督さんの傷が……!」

 

「えあっ!? あ、あ……ごめんなさい!!」

 

「い、いや。いい……大丈夫だ」

 

 はー古鷹ありがとう。まじで助かった。

 

 ふぅ……。

 

「お待たせしましたっ! すぐに……!」

 

「あぁ、悪い鳳翔さん。すまんが頼んだわ……」

 

 いてて……これ服脱ぐのも……結構……。

 

 脱いだら鳳翔がすぐに消毒、止血してくれた。手際いいねぇ。

 手の方は時雨がやってくれてる。泣きそうな表情で必死だ。すまんな、ほんとに。

 

「どうしてっ! どうして提督は……! もうっ! 死んじゃったらどうするのさっ!」

 

「あはは、大げさだなぁ。大丈夫だって」

 

 あーでも時雨手が震えてるわ。うん、ほんとにごめんな。

 やっぱさ、俺、目の前であんなことされるのは黙って見てらんねぇんだわ。

 

「……どうして、ですか? どうして私を……」

 

「庇ったのかって? んなもん、艦娘が傷つくとこ見たくねぇからに決まってる」

 

 あぁ、そうさ。

 深海棲艦との戦いで沈むってのは……認めたくねぇけどわかるさ。

 けどさ。

 

「信頼してるヤツに、ましてや提督に傷つけられるなんてあっちゃダメだろう」

 

「っ!!」

 

 俺の言葉に、古鷹が、鳳翔が、加古が一瞬震えた。

 

 なんだろうね。当たり前だよなぁ?

 

「俺はさ……嫌なんだよ。艦娘が傷つくなんて出来れば見たくねぇんだ。深海棲艦相手ならわかるさ、俺だって覚悟はしてる。けどな、ほんとに出来れば……提督と艦娘が笑い合っていて欲しいんだよ。幸せそうに」

 

 それが俺の下でってんなら最高だけどな。

 ハーレム目指して頑張ってるけども、それが一番大事な訳ではない。

 

 艦娘の誰かが何処かで幸せそうに提督と笑い合っていてくれたらそれでいい。

 

「あぁ、もしかして俺がこんな事したからそれで傷ついてるのか? だったらすまん、まだまだ未熟者だからさ……目下努力中って事で許してくれ」

 

「……」

 

 あふん。誰か何か言ってくれ。俺すっごく恥ずかしいやつじゃないか。助けて。

 

 時雨。お前もだよ。

 

 こういう時にちょろい俺を癒やすのが時雨じゃないか。

 

 あ、こら。

 お前やっぱりちょっと笑ってるだろ? 震えてんぞこら。

 あ、止めて痛い痛い。ちょっと包帯巻くのに力入れすぎぃ! なんでやねん!

 

「終わり、ました。どうでしょうか? 何処か違和感はありませんか?」

 

「ん? いやいや、ありがとう。十分だよ」

 

 うん、十分だ。まだ痛いのは仕方ねぇ。

 

 てか艦娘なら怪我しても風呂で一発だしなんでこんなにうまいのかね。人間の手当なんて……する事あんまりないよな?

 

 まぁいいや。

 

「さて、と」

 

 立ち上がり、未だ呻いてるおっさんの所へ。

 

「起きろよ、おっさん」

 

「ぐ……ぬ……」

 

 念の為に軍刀を奪ってから、起こす。

 

 どうしてくれようか?

 なんて、一瞬思ったりもするけどぶっ飛ばす為に来たわけじゃない。

 

 こいつをうちの鎮守府に居る六駆の皆、そして天龍、龍田に謝らせるためだ。

 

 それを一時の気持ちで潰しちゃならない。俺はあいつらの提督だから。

 

「貴様っ……私に何をするっ! 軍法会議にかけて……!」

 

「忘れたのかよ、ここで起きたこと全てを容認するってのは」

 

 そうそう、てめぇがそれを振りかざして言ってきた事でもあるんだぜ? 情けねぇな、それも忘れて軍頼りか。

 

「そんなもの何かの間違いだっ! 民間人如きが軍人に手をあげるなどっ……ひっ!?」

 

「てことはよ……ここであんたをこれで殺しても……容認されるってわけなんだが。そこら辺どう思う?」

 

 しないけどさ。

 

 でもまぁ脅しにしては十分過ぎたようで。

 喉元に突きつけた軍刀と俺の顔へ視線を行ったり来たり。生唾飲んだ音が聞こえたよ。

 

「別にあんたに何かしたいわけじゃねぇんだ。俺が言ってるのは最初の通り。うちの艦娘に謝罪して欲しいだけだ」

 

「そ、それだけだな!? それだけすればいいんだな!?」

 

「あぁ、嘘は言わねぇよ」

 

 そう言えば必死にコクコクと頷くおっさん。気色悪い。

 

「あの……」

 

「ん? どうした? 古鷹さん」

 

 情けなくこの場を離れていったおっさんを尻目に、古鷹が声をかけてきた。

 

「わ、私も……その、一緒にいいですか?」

 

「え? 一緒に来るの? いや、俺はいいけどさ……あんまりいい気持ちにはならんと思うぞ?」

 

 心底認めたくないけど。

 

 あのおっさんは古鷹達の提督だ。

 その提督の情けない姿なんて見たくないだろうに。

 

「いえ、その……け、見学ですっ! あなたの鎮守府を見学したいんですっ!」

 

「わ、私もいいでしょうか!」

 

「あたしもっ!」

 

 うわお、何だ何だ? 何でそんなに見に来たがるのさ。

 うちこそ何も見るようなもんなんてない、多分ふっつーの鎮守府だぞ?

 

「くすくす……いいじゃない、提督。一緒に連れてってあげようよ」

 

「だ、だけどさ。その間ここはどうするんだよ?」

 

 流石に誰も居なくなるって問題じゃないの? いかんでしょ。

 

「だ、大丈夫です! この鎮守府に下された指令はもう達成済みですからっ! 心配ありません!」

 

「あ、そうなの? ……うーん、なら、いい……のかな?」

 

 達成済みって。

 やっぱりあのおっさんそれなりに有能だった?

 

 まぁいいか。

 

「わかった。じゃあ一緒においで。だけど、無理して見たくないものは見なくていいから。うちに着いたら自由に見学してくれていいからな」

 

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 一斉に頭を下げられた。

 う、うん。まぁいいんだけどさ。

 

 なんか時雨は察したみたいだし。俺だけわけわかってねぇよ。くすん。

 

 ふぅ。

 

 ともあれ、だ。

 

「じゃ……行くか」

 

 ケジメをつけてもらいに、な。

 


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