二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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騒動は収束したようです

 あの騒動が終わって少し。

 

 俺の負傷は順調に良くなっている。幸い化膿したりなんだりしなかった。

 

 俺が負傷してるとは言え、日々の哨戒だったり遠征は穴をあけられない訳で。

 皆海に向かう時何度も心配そうに俺を振り向いてくれるのが嬉しいやら、情けないやらの日々だった。

 

 ようやく今日になって振り返るのは一度だけで済んで海へ向かってくれた。

 

 そして、詳しいことはわからないが、結局あのおっさんは提督を辞任したらしい。

 

 そう簡単に辞められるものなのかなんて思いながらも、安心した気持ちが大きい。

 これは提督としてというよりは、俺個人の思いだって言うのはわかっている。

 

 実際、日本の戦力が集まる場所一つを失った訳だしな。多分提督として、軍人としての目線なら痛手なのかも知れない。

 

 知れないっていうのは、実際俺が辞めさせたようなもんだと言うのにも関わらず、何のお咎めもなかったからだ。

 やっぱりあの電文に書いてあった全てを容認するっていうのはマジだったようで。そういった部分を含めて安心できた。

 

 提督が居なくなった事であそこの鎮守府は凍結。新たな提督もすぐには見つからないようで、溜まっていた資源等は一度大本営が預かって他の鎮守府に分配されるらしい。

 

 その話を聞いて少し後ろめたい気持ちもあったけど、現金な物で貰えるもんは貰っておこうと待っていたんだけどな。

 

 どうやらと言うかやっぱりと言うか、うちに資源は回ってこないようで……なんでやねん。

 

 流石に抗議と言うか直球でわけて欲しいと言った所、回ってきたのは資源ではなく。やっぱりと言うか、艦娘だった。やったぜ。

 

 そうしたやり取りを経て、今俺の目の前には知った顔が並んでいた。

 

「古鷹と言います。重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです!」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 あああああ!! だいってんっしっ!! 古鷹あああああ!!

 

 ふぅ。落ち着こう。

 

 あのおっさんは逃げるように帰っていった……そう、一人で。

 その後帰りの車を改めて手配しようとしたんだけど、時間的に厳しいとの事で、明日の一番で帰る予定だった時に電文がやってきてその場にしばらく待機させるようにと命令があった。

 

 戸惑っていた三人だったけど、そこは元同僚の力というべきか天龍と龍田が良くしてくれて助かった。

 

 っていうのも、だ。

 

 敬礼を受けて、答礼を返す。

 お互いの手が下がったのを見てから握手をしようと近づき手を差し伸ばせば。

 

「っ……!」

 

 身を固くして少し顔を青くする古鷹。

 

 そう、これだ。

 

「すまん、少し近かったな。皆がここに着任することになったのが嬉しくてつい」

 

「い、いえ! すいません! 大丈夫ですからっ!」

 

 無理やり俺が伸ばした手を取ろうとする古鷹だけど。

 

「っ!」

 

 その手が近づく度に顔は真っ青に、そして震えは大きくなってしまう。

 

「無理しなくていい……すまないな。本当に」

 

「いえ……いえっ! 違うんですっ! ほんとに、私は……!」

 

 ここに待機してもらってる間に鳳翔から聞いた。

 

 古鷹はあのおっさんに襲われかけたそうな。

 

 やっぱり首ちょんぱすべきだったなんて激しく後悔しながらも、理解した。

 

 その事がトラウマで古鷹はいわゆる男性恐怖症……いや、もしかしたら提督恐怖症かもしれないが、そうなってしまったそうだ。

 

 少し離れたらそれはすぐに収まる。

 ただ、さっき俺がしようとしてしまった握手然り。男性とふれあいそうな距離になると身を竦めてしまう。

 

 それでも違うと言ってくれる古鷹。自分の震える手を必死に抑え込もうとしてくれている。

 

 やっぱり大天使。

 

「古鷹」

 

「ま、待ってくださいね? 提督……今すぐに――」

 

「ありがとう」

 

「えっ……?」

 

 お礼を言うべきだろう。

 

 俺は今まさに古鷹のいい所を教えて貰ったんだから。

 

「早速古鷹のいい所を教えてもらえた。そうやって俺の……いや。誰かの為に必死になってくれる優しい艦娘だってこと。確かに伝わったよ」

 

「あ……」

 

 驚いた顔も可愛い。

 

 まぁともあれ、さ。

 

「ゆっくりでいいさ。俺は物覚えが悪いから、その方が助かるんだ。これからも、古鷹の……重巡洋艦の良い所、教えてくれな?」

 

「あ、う……。……はいっ!」

 

 うん、いい笑顔。やっぱり大天使。間違いないね。

 

 さて、次は……。

 

「古鷹型重巡の二番艦、加古ですっ! 今後共よろしくおねがいしますっ!」

 

 加古に目を向ければピシッとした敬礼にそんな挨拶。

 

 あっるぇ~? おっかしいぞぉ~?

 

 いやさ、最初に会った時からそうだけどさ。

 

 加古さんや? 絶対そんなキャラじゃねぇだろ。あたい知ってるんだから。

 

「あぁ。よろしく頼む。……時に加古?」

 

「はいっ!」

 

 そんな加古もいいけどさ、セルフイメージとのギャップ萌えってやつだけどさ。

 うん、でもやっぱりなんだか、なんだかだよ。

 

「リピートアフターミー。……古鷹型重巡の二番艦、加古ってんだー。あ、知ってた? 今後共ヨッロシクゥ!」

 

「は、はい?」

 

 え? もしかしてさっきのが素面だった? 俺間違えちゃった?

 

「いやさ、実を言うとな? 加古。俺、こういうかしこまったと言うかちゃんとした場面って苦手なんだよ。なんとなく加古から似た匂いを感じたんだけど……すまん、失礼をしたな」

 

「いっ!? いやいや! そんな事ないよっ! あたしもこういうの……い、いや! でも提督が望んでるんだったらっ!」

 

 お? これは脈アリってやつかな?

 

 どう思う? 鳳翔さんよ。

 

 ちらっと鳳翔に視線を向けて見れば。

 

「加古さん加古さん。この方は、大丈夫ですよ。きっと」

 

「鳳翔さん……うん。て、提督?」

 

 あぁ、うん。わかってるよ。

 

「ほいきた。加古? リピートアフターミー?」

 

「あ、あたし……古鷹型重巡の二番艦、加古ってんだー。あ、知ってた? 今後共ヨッロシクゥ!」

 

 イエーイハイタッチー!

 

 よっしいい音したぁ! ばっちりじゃねぇか!

 

「で、でもどうして……」

 

「なぁ、加古?」

 

「え、あ、……はい」

 

 しおらしく返事なんかするなっ! ギャップ萌えで死んでしまいそうだっ!

 

 げふん。

 

「常に気を張ってさ、ギラギラ敵を探してさ。そんなん疲れちまうだろ?」

 

「……うん」

 

「楽しく海域開放しよう、日本を守ろう。なんて言うつもりはさらさら無い。けどな、抜く所は抜こう。自分を殺してしまう前に」

 

 使命だとか、存在意味とか……価値とか。

 

 そんなもんは背負うべき物なのかも知れないけど間違いなく重荷なんだ。

 そしてずっと気張ってそれを背負っていたら絶対に潰れる、沈む。かつての俺みたいに。

 

 一回降ろして休憩するべきなんだ。気を抜かないといけない。あるいは誰かと一緒に背負っても良い。

 

「そうやって必死になってさ。重荷に潰される前に……そうだな、その荷物を枕にして昼寝でもかましてやろうぜ」

 

「ひ、昼寝?」

 

「あぁ、そうだ。なんだったらその荷物の中に忍ばせた酒でもかっくらっちまえ!」

 

 こほん。

 お口が汚くなってしまったね。

 

 ともあれ、だよ。

 

「……加古、俺はな? 加古には思う存分気を抜いて欲しいんだ。もちろん、寝てばっかり、酒に溺れろって言ってる訳じゃないぞ? メリハリつけようって話だ」

 

「メリハリ……」

 

「そうだ。そうやってメリハリをつけた姿をな、皆に見せてやって欲しいんだ。やる時しっかりやって、抜ける時は思う存分気を抜いて……それで良いんだって、それを皆に教えてやって欲しい」

 

 眠い眠いと言いながら加古スペシャルしてくれる位が丁度いいんだよ。

 さっきみたいに、しっかりやってやる。しっかりやってみせる。なんて意気込まなくていい。それこそ自分を殺してまで。

 

 まぁ、この加古がそうかどうかはわからんけどな。俺の決めつけかも知れない。

 

 けど、やっぱり慣れ親しんだ加古でいて欲しいと思うのは俺のわがままなんだろうな。

 

「……うん。わかった。じゃあ早速だけど――」

 

「皆と挨拶終わったらな?」

 

「ちぇっ、わかったよ。いっぱい寝かせてね?」

 

 おう、もちろんさ。ゆっくりしてくれ。

 

 ……ぶっちゃけ重巡洋艦に出撃してもらうには資源が、なぁ?

 

 げふんげふん。

 

 んでは。

 

「航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

 あああああああああ!! 鳳翔がニッコリ笑ったから! 今日はお母さん記念日だっ!!

 

 落ち着こう。落ち着きたまへ。

 

 でもたまらないっすわ。ほんっと。

 おう、見てるか? これが大和撫子だ。

 

 黙って亭主の三歩後ろを歩きっ! 帰ったら三つ指ついて迎えてくれるっ!

 

 そんな女いねぇよ? 知るか! 童貞が妄想して何が悪いっ!! 

 

「よろしく頼む。あなたが着任してくれてほんとに嬉しい」

 

「まぁ……。ですが、私は言ってしまえば弱い空母ですよ?」

 

 何をおっしゃいますやら。

 

 確かに色々と物足りない部分はあるのかも知れないし、自分でも納得いっていない所があるかも知れない。

 

 それでも、だ。

 

「うちの鎮守府初めての空母。そういった意味ももちろんあるさ。だけど何より……」

 

「何より……何でしょうか?」

 

 僕のために毎日お味噌汁作って下さい。

 

 はっ!? 違う違う! そうじゃない。

 

「あなた達だけじゃなくこれから多くの艦娘がここに着任する。その時、あなたの背を見て育つ艦娘はきっと多い」

 

「それは……私に範となれ……そういう事でしょうか?」

 

 そんな事言ったらプレッシャーでしょうに。追い込まなくていいんすよ。あっほら、そんなに意気込むと言うか使命感っぽい何かに燃えなくていいんです。

 

 でもまぁ平たく言えばそうなんだろうけど。でもちょっと違うくて。

 

「いいえ、あなたはあなたらしくいて欲しい。もちろんあなただけじゃない……加古にも言ったように、あるがまま思ったままに振る舞って欲しい。あなたが古鷹や加古を自然と守ってくれていたように俺もまた、その姿を守る為に提督をしているのだから」

 

「……提督」

 

 うん、上手く言えないけど。

 

 鳳翔は鳳翔だから皆は慕うんだろう。あるがままの鳳翔を。

 

 無理をして皆を守ろうと必死になる姿でも、いざという時にその身を挺してでもと覚悟を決めた姿でも無く。

 

 自然にそう出来る鳳翔だから。  

 

「提督。もう一度言わせて下さい」

 

「ん? 何をかな?」

 

「不束者ですが、どうかよろしくお願い致します」

 

 あぁ、うん。

 

 ほんとにさ。

 

 艦娘最高だわ。

 

「あぁ、こっちこそ。資源の問題で。三人にはしばらく暇させてしまうことになるけど、その間この鎮守府に慣れてもらえると嬉しい」

 

「「「了解!」」」

 

 うん、大丈夫そうだな。

 

「挨拶終わったかー? なら俺達が改めて案内するから来な」

 

「改めて。久しぶりね、皆」

 

 外で待ってたのか? 天龍と龍田が笑顔で手招きしてる。去り際に俺にウィンクしてくれた。様になってんな天龍……くそう、格好いい。

 

 その姿を見て、三人共笑顔を深めて二人についていった。

 

 元同じ鎮守府の仲間、か。

 

 見る限り確執と言うか、嫌な雰囲気は感じないけど……大丈夫かな。

 

「大丈夫、か」

 

 古鷹のトラウマ、恐怖症に関してはこれからも考えないといけない事だろう。

 俺も遠慮なく古鷹と話したいってのはもちろんだけど、やっぱり古鷹自身の為にも。

 

 後の二人は慣れさえしてくれたら大丈夫だと思うけど。

 俺が二人に伝えた事が出来る、やってくれる様になるまでは時間が必要だろうし。何より俺の押しつけを嫌がる可能性だってある。

 

「まだまだ……これから、か」

 

 思わず呟く。

 

 考えなければならない事は山ほどある。

 

 大本営の意図はもちろんそうだし。これからの鎮守府運営だってそうだ。

 

 正面海域を開放したと言っても、深海棲艦の脅威が無くなったわけじゃないのは当然。

 

 それに、捨て艦。

 

「ったく、ほんとになぁ……俺は一応新米提督なんだがな」

 

 やっぱり俺にはどうしても捨て艦という指示に違和感を拭い取れない。

 仮にここが捨て鎮守府で、大淀の言う通り使えなくなった艦娘の処理施設だと言うにしても、だ。

 

 人類は脅威に晒されている。だから捨て艦でも何でもしなくてはいけない。

 

 うん、確かにまぁ納得は出来る。

 

 出来るんだけど。

 

「なら尚更艦娘を大事にしないといけない訳で」

 

 この戦いがいつから始まったかはわからない。

 けど、辛うじてなのかも知れないけどこうしてまだ人は生きている。

 

 だったら艦娘と上手く関係を築いた人だって居るはずだ。

 

 そう信じたい。

 

「提督っ! 何怖い顔してるのー? ほらほらっ! スマーイル!」

 

「うわっと!?」

 

 や、やめんかい! ほっぺたむにゅっとするでない!

 

 あああああああ! 顔近いって! 駄目だって! お前自分が可愛いこと忘れてるだろっ! 

 

「……頭にきました。那珂ちゃんのファン辞めます」

 

「ええええ!? 那珂ちゃん何か悪い事した!?」

 

 ずざざっと後ろに退きながら、驚く那珂ちゃん。

 

 ……オーバーリアクションというか、多芸と言うか。

 

「提督はー、那珂ちゃんの扱いが酷いと思うなっ!」

 

「そんなことないよー那珂ちゃんのファンだものー」

 

「棒読みっ!」

 

 ぷんぷんと怒る様子を見せる那珂ちゃん。

 

「それにさっきの古鷹さん達って、那珂ちゃんが生まれた鎮守府の子達だよね? 那珂ちゃんも一緒したかったなー」

 

「あ、あぁ……そうだったな。すまん、色々考えてたもんで」

 

 そう。

 

 那珂ちゃんの言う通り、あの鎮守府で稼働していた建造ドックの一つから那珂ちゃんは生まれたみたいで。

 

 あの時は思い出せなかったけど。シリンダーに触れた時聞こえた声は那珂ちゃんだった。こうして着任してくれた時の挨拶でその事を思い出せた。

 

 残りの三つはスカというか何も生まれず、あの青い水は消え去った。唯一建造成功したのが那珂ちゃんだった。

 

 古鷹達と同じように、というかついでと言わんばかりにうちの鎮守府所属扱いとなったんだよな。

 

 古鷹達が改めてここに来るより先に着任してたもんで、ついついタイミングが。

 

「ぶーぶー! 那珂ちゃんのファンだったらちゃんと私の事も考えなきゃダメー!」

 

「……イラッとしたんで那珂ちゃんのファン辞めます」

 

「あー! あー! もう! そう言っておけばいいって思ってるでしょ! もうー!」

 

 いやいや、そんな事無いぞ? マジマジ。ちゃんとCDも買ったよ? 5枚。

 

 ……着払いでタエさんびっくりしてたな。懐かしい。

 

「提督には罰を与えますっ!」

 

「えぇ……罰って何さ」

 

 何か悪い事……あーまぁ放置っぽいことしたか。

 仕方ない、甘んじて受け入れようじゃないか。

 

「罰としてー。那珂ちゃんをエスコートしてもらいますっ! 鎮守府、案内してくれたら許してあげる!」

 

「何だご褒美じゃねぇか」

 

 何だご褒美じゃねぇか。

 

 あ、二回言っちゃった。

 

「え、えぅっ!?」

 

「可愛い子……艦隊のアイドルをエスコート出来るなんて光栄だよ。……ほんじゃ、行くか。俺も行きたい所、あるしな」

 

 ほら、固まってないで行くぞい。

 

 ……そうだな、那珂ちゃんなら。あいつらを笑顔にしてくれるかも知れないしな。

 

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