二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

35 / 114
提督は演習評価をするようです

 初めて使う作戦会議室は広かった。

 なんだかんだ言って全員が揃った状態の鎮守府ってのは珍しい。執務室では溢れてしまうからこっちの部屋を使う事に。

 

 今は演習に参加してなかったメンバーと一緒にペイントを落としに行った皆を待っている。

 

「すごかったねー! 那珂ちゃんびっくりしちゃったよ!」

 

「そ、そうね……うん、すごかったわ」

 

 那珂ちゃんが興奮しながら六駆の皆と喋ってるけど、反応を返してるのは雷だけだったり。

 それでもめげずに暁や響、電も会話に混ぜようと頑張ってくれてる。ありがたやー。

 

「提督、演習を見て……どう思われましたか?」

 

「あぁ、まぁその辺りは皆と一緒に話しつつだけど……そうだな、言うなら違いがよくわかった演習だったよ」

 

 大淀に言葉を返しながら思うのは鳳翔達の動き。

 

 あれは俺が着任前に大淀から見せてもらった演習映像に近い。要するにこの世界での一般的な艦隊の動きって事だろう。

 

 うちの動きは言えば各艦自由行動。思い思い最大効率を目指した動きをしろって動きに対して、鳳翔達は秩序だった動きを見せてくれた。

 目指す所は勝利の二文字と変わらないが、それに至るための道は大きく違うように感じる。

 

「具体的にそれを解剖していくのが今回の演習評価になる。大淀も龍田も遠慮なく意見を言ってくれな?」

 

「うん、わかってるわよ~」

 

「っ……了解です」

 

 ん~大淀さん固いっすねぇ、笑顔が固いっす。しかもなんでびくっとしちゃうんすかねぇ……。

 

 う~ん。

 

「失礼します。各艦帰投致しました」

 

「ん? あぁ、お疲れ様。よく頑張ってくれたな。空いてる所に座ってゆっくりしててくれ」

 

「はぁーい……はぁ、もうくたくただよ~寝てて――」

 

「演習評価終わったらな?」

 

「ちぇ……りょうかーい」

 

「もう、加古ってば……」

 

 先に戻ってきたのは鳳翔達。綺麗さっぱりって感じだなっ!

 穏やかに笑いながら入室した鳳翔の後ろからだるそうな……というか眠そうな加古が入ってきて、それを嗜めている古鷹。

 

 そうそう、これだよこれ。

 

 君達はそれでいいのだよ。俺は今猛烈に感動している。

 

 まぁなんだ。

 うちに慣れてきてくれているようでほんとに何よりだ。

 

「わりぃ、遅くなっちまったか? 天龍、帰投したぜ」

 

「夕立もっ! 戻ってきたっぽい!」

 

「あぁ、お疲れ様。よく頑張ってくれたな……時雨は?」

 

 天龍と夕立も綺麗さっぱり。だけど時雨の姿が見えなかったり。

 

 聞いてみれば天龍は苦笑いを浮かべながら入り口をくいっと親指で指し示す。

 

「……うー」

 

「……えぇ?」

 

 そこにはドアから半分だけ顔を出してこっち……と言うか俺の様子をじーっと伺ってる時雨さんの姿が。

 

 なんだよ、急に萌えを意識しだしたのか? ……アリだな。

 

 っと、時雨萌えーしてる場合じゃねぇな。

 なんだろ、何か気にしてるのかね。

 

 まぁいいや。とりあえず手招き手招き。

 

「……ごめんなさい。一番最初に轟沈しちゃった」

 

 しゅんと小さくなりながら、入ってきてくれた。

 

 なるほど、それを気にしてるのね。そしたら……。

 

「うむ、私は大変遺憾に思っているぞ時雨」

 

「う……だ、だよね。ごめんなさい」

 

 おっふ、悪ノリしたらだめっぽい! 落ち込み具合が大変なことに! 俺の方こそごめんなさいっ!

 

「げ、げふん。という事で時雨には罰を与えます」

 

「う、うん……そうだね、どうしたらいいかな? 何でも言ってよ」

 

「今日の夕食当番よろしくっ! あ、俺パスタ食いてぇな、ほらミートスパゲッティとか」

 

 あ、ポカーンとしてる。かわゆい。

 いつもしっかりしてる時雨だからこういう抜けた表情が映えるね、うん。

 

「え、えっと? 罰って……そ、それでいいの?」

 

「え? じゃあ明日もお願いして良いのか? じゃあ……」

 

「そ、そうじゃなくてっ! 僕、ほとんど何も出来てないのに……」

 

 しっかり鳳翔に魚雷あててんじゃん。いやまぁそういう事じゃねぇか。

 

 自分で失敗したって思うのならそれが正しいんだろうよ。成功だと思ったら成功だ。

 そして失敗したと言うんなら、だ。

 

「時雨。俺は何も出来ていないなんて思ってないし、それを意味ある物にする役目も俺だ。もし失敗したって思うならしっかり次に活かしてくれ」

 

「……提督」

 

 あー時雨の髪は気持ちいいなぁ! やっぱりあれだよ。頭撫で撫ではする方が得するんだよソースは俺。異論は認めない。

 

「……うんっ! じゃ、じゃあ今日は腕によりをかけて作るからねっ!」

 

「おう、練習の成果を楽しみにしてる」

 

「うん! ……ってえぇ!? て、提督知って……」

 

 わからいでか。

 チャーハン専門の俺だけど流石に調味料やら食材やら何やらの減り位気が付くしなぁ。

 

 ん? と言うか夕立さん? あなたはなんでドアの所でさっきの時雨と同じことしてるのかな?

 

「ぽい~……」

 

 なんで切なげな声を出してるのかな!? じーっとこっちを見つめてるのかな!?

 

 と言うかなんだよ皆して微笑ましそうな顔しやがってからにっ! 鳳翔さん!? あらあらじゃありませんよ!?

 

「……いちゃつくなら余所でやって欲しいのです」

 

 あ、はい。

 

 すんませんでした。

 

 

 

「さて、じゃあ改めて演習評価だ。まずは互いの旗艦である天龍と鳳翔に感想を聞こうか」

 

「……うっし、じゃあオレから言っていいか?」

 

 そう言ってみると鳳翔は少し考える素振りを見せる。

 その様子を見てか、天龍が声を上げた。

 

「じゃあ頼む」

 

「わかった。……まぁそうだな、結果的にこっちの勝利ではあったけど内容的には負けててもおかしくない。そう思える要因はやっぱり空母の存在が大きいっていうか、艦種の問題と言うよりは、鳳翔さんだから。だぁな」

 

「私、でしょうか?」

 

「あぁ。指揮能力がオレとは段違いだ。夕立の足止めを指示したのは鳳翔さんだろ? あれから時雨が何とかしようと前に出るまで、何の指示も出せなかったしな」

 

 確かにな。

 あの状況を変える為の一手を出せなかった結果、ジリ貧を察して時雨が動いてしまったのは天龍の指示が無かった事もあるだろう。

 それに夕立を標的にするのではなく、進路を遮る事に注力させたってのもある。自分が狙われるのではなく、思うように動けない様にされるってのは夕立も初めての経験だっただろうし。

 

 それに加えて加古と古鷹だ。

 

 加古はなんと言うか物凄く攻撃の勘が良い。一言で言ってしまえば絶妙な位置へと砲撃を置く。

 夕立が行きたそうにしている進路へと上手く砲撃していて、加古の砲撃が見える度に夕立は顔をしかめる。

 天龍が受けの勘が良いと言うなら、加古は攻めの勘が良いと言えるだろうな。

 

 そして古鷹。

 古鷹はまず間違いなく誰かと一緒に行動することで本領を発揮するタイプだと言える。

 加古が行う砲撃の意図を直ぐ様理解して、足りない部分をフォローしたり、加古の攻撃をより活かす砲撃をしていた。

 実際夕立が距離を詰め切れなかった理由の多くは、古鷹が避けながら前に出ようとする夕立の頭を押さえていた様に思える。

 

 夕立が取りたい選択肢を奪う加古。

 夕立が取りたくない選択肢を強要する古鷹。いいコンビだ。 

 

 無論二人の間に積み重ねられた練度もあるだろうが……それだけではないと思う。

 

「あの足止めはフォローに出ようとしたオレか時雨を前に出すための作戦だったんだろう?」

 

「そうですね、もちろんその意図はありましたが……あの場で夕立さんに損傷を与えることは求めてはいませんでした」

 

「ん? どういう事だ? ……別の狙いがあったのか?」

 

 鳳翔の言い方が気になってつい突っ込んでしまう。

 そうすれば、鳳翔は少し照れた様に片手を頬にあてながら。

 

「はい。その……いきなりあぁも勢いよく突撃されるとは思ってなかったもので。正直に言ってしまえば、落ち着くための時間稼ぎだったんです。時雨さんと古鷹さんの演習を見ていたから想像出来たはずなのに……お恥ずかしい話です」

 

「……って事はあれで動揺してたってのか? 全くそうは見えなかったぞ……流石鳳翔さんだな」

 

 天龍の言葉に俺も頷いてしまう。

 いやほんと、傍から見ててもそんな風には全く見えなかったからなぁ。

 

「ようやく私を含めて皆が慣れてきた……丁度そんな時でした、時雨さんが前に出てきたのは。そしてあぁも爆撃が上手く行ったのは……この子達のおかげです」

 

「じょうじょうね」「さすがにきぶんがこうようします」

 

 思わずといった感じで鳳翔の懐から出てきた妖精二人。おい、赤城と加賀の真似してないでその場所俺と代われ。

 

 げふん。

 

 そういや鳳翔達も妖精と初めて会ったって言ってたな。

 そして艦載機に妖精が搭乗することも。

 

 妖精不在でどうやって艦載機を動かしていたんだなんて聞いたことがあるけど、どうやら単純な攻撃開始指示とかは射手……空母が出来るらしい。

 尤も単純という言葉の通り、予めこのポイントで魚雷を海に放つとか、爆弾を落とすとか。戦闘機に対して攻撃するとか程度だけだそうだが。

 偵察機とかにも妖精が乗り込むおかげで、視界共有がしやすくなったって大淀も言ってたし……妖精ぱねぇ。

 

 まぁつまりなんだ。要するに妖精の搭乗により、高度な攻撃管理が出来るようになったって事か。無論鳳翔の経験値というか練度の高さも疑いようはない。そもそも、狙ってなければ出来ないタイミングだったし。

 

 そして改めてこうして見ることが出来て、恒例訓練でもできそうな事があるな。近々試してみるか。

 

「実際私もここまで上手くいくとは思いませんでした。……ですがやっぱりまだ妖精さんとの連携が上手く取れない部分もあって他の事へ意識を向ける事が難しいです」

 

「なるほどな」

 

 天龍が大げさに頷く。

 

 まぁ確かに天龍や鳳翔含めて妖精の存在を皆知らなかったみたいだし。いずれ解消出来る事柄だろう。……と言うかそれを理解した上って事なら鳳翔はあの場で魚雷等への対応が出来ないと分かっていたって事で。

 

 うーん。自分を危険に晒す事を想定内に入れて欲しくはないんだがなぁ……。

 

「ともあれそこで私が動けなくなって……爆撃を躊躇なく利用してこっちに肉薄してきた夕立さんにしてやられました」

 

「夕立の思い切りの良さはほんとになぁ……」

 

 鳳翔が苦笑いを浮かべながら、天龍は少し呆れたように。

 当の本人と言えば。

 

「ぽい?」

 

 なんて首を傾げてるんだから恐ろしいもんだ。

 

 夕立の一番の武器と言えばその部分になる。平たく言ってしまえば躊躇がない。行けると思えば思ったと同時に実行する。

 通常の人間……いやまぁ艦娘もそうだと思うけど、考えを実行に移すのにはタイムラグがあるもんだ。

 初動の差と言い換えてもいい。普通の車はアクセルを踏めば踏む力によって徐々に加速していくが、夕立はアクセルを踏めば、直ぐトップスピードになる。

 

 思えば、最初の突撃だってそのおかげで鳳翔に牽制射撃で様子見をするという選択をさせたことに違いはない。加えて鳳翔曰くの動揺を誘えたんだろう。艦載機の攻撃を先制する選択肢だってあったはずだろうし。

 

 いやまぁ、夕立が相手にしてきて撃沈した深海棲艦だって間違いなくソレにやられてるんだろうけど。

 

「私が轟沈、その事に加古さんと古鷹さんが少し動揺する中で天龍さんは距離を詰め、夕立さんはそのままの勢いで加古さんへと迫って魚雷発射。共に中破……本当に夕立さんには驚かされっぱなしでした」

 

「いやぁ、あたしもほんとびっくりしたよ……何であの状況から直ぐ動けるもんかなぁ」

 

「夕立、何かおかしい事したっぽい?」

 

 不安そうに俺を見る夕立だけど。ほんとにこいつは……。

 

「そんだけ凄いことしたってことだよ夕立」

 

「わぁい! 褒められたっぽい! 提督さん! もっと――」

 

「だけど、気をつけてくれよ? 実戦だったら間違いなく怪我じゃ済まないんだからな?」

 

「――うぅ、了解っぽい」

 

 しょぼんとしてしまった夕立に苦笑い。後で思う存分褒めなおしてやろう。

 

 でもまぁ、危なっかしいのは確かだから何とかしないといけないんだけど……うーん。

 

「んでだ。そっからはオレが加古に砲撃、古鷹が夕立を砲撃して共に轟沈。そこからは俺と古鷹の一対一の戦いだがよ」

 

「うぅ……すいません。一発も当たりませんでした……」

 

 あぁ、古鷹まで落ち込んでしまった。俺は一体どうすれば……ぐぬぬ。

 

 まぁしかし。

 

「天龍ちゃんはほんとに勘が良くなったからねぇ~」

 

「あぁ。天龍を傷つける事が出来るやつはそう居ないだろうな」

 

 あ、何かドヤ顔してる。フフフ、嬉しいか?

 

 とは言え多分それは本当のことで。

 多分一対一みたいな状況下で天龍を相手にしたら相当な腕の差が無いとかすり傷一つつけられないだろうな。

 

 というのも天龍の……そうだな、第六感とでも言っておくか。

 

 視界以外の感覚を強化したことにより、天龍はアクションを取られる前にリアクションを取れるようになった。

 

 つまり、相手の攻撃に対して反応するのではなく、攻撃の気配に対して反応することが出来る。

 

 古鷹が主砲を撃とうとすれば、それを邪魔するかのように砲撃を先んじてするし、時雨と訓練することで学んだ回避行動を取る。

 

 そうして古鷹は一発の砲撃も当てることが出来ないまま、天龍の攻撃を積み重ねられて轟沈してしまった。

 

「まぁ相性もあるだろうよ。戦艦だの空母だの相手にならオレもこうは上手く出来ねぇよ」

 

 天龍の言う通り、艦載機の波状攻撃や戦艦の主砲と副砲といった物量の前にはあまり効果が無いだろう。後はフェイントを入れるというか、時雨のような相手を手玉に取る事を考えた戦闘スタイルとか。

 

 今回、副砲を持っていなかった古鷹相手だからこそといった部分はある。

 

「で、ですけど……」

 

「古鷹、そう自分を責めるな。そっちが三隻揃っている時の射撃精度は凄かった。要するに古鷹……それに加古は連携しての攻撃が上手いんだろう」

 

 そう。

 ここが一番の違い。

 

 古鷹達は全員が足並みをそろえて勝利への道筋を辿るのに対して、時雨や夕立。天龍、龍田といったうちならではの戦い方をする艦娘はそれぞれが独立して勝利を目指す。

 

 言うならば、チームプレイで勝利を目指すこの世界の艦隊運用。

 そしてスタンドプレイから生じるチームワーク、それがうちの艦隊運用。

 

 違うのは少なくとも古鷹達は都合の良い言い訳なんかではなく、確かなチームプレイを築き上げているって事か。

 

「大淀」

 

「はい、どうされましたか?」

 

「大淀ならどちらの艦隊で動きたい?」

 

 そう聞くと、少し考えた後。

 

「やはり……鳳翔さんの方でしょうか。何度か夕立さん達と出撃はしていますが……私が足を引っ張っている印象は拭えませんし」

 

 そう悲観的というか自虐的にならんでも。

 とは言え、そういった面があるのは否定できない。

 

 出撃、戦闘内容の詳細に目を通してみれば偵察といった役割以外をしっかりこなしているとは言い難い。大淀には悪いけどな。

 

 だけどそれは多分大淀が持っている艦隊の動き方。その常識の外に夕立達が位置しているからだろう。

 今回の演習を見てそれがはっきりわかった。

 

「龍田」

 

「はぁい」

 

「龍田ならどっちだろうか」

 

「両方ね~」

 

 お、間髪入れず答えるか。

 

「多分天龍ちゃんもそうだと思うけど……私はどっちでも大丈夫だと思うの~。夕立ちゃんや時雨ちゃんの動きも理解できるし、鳳翔さん達の動きも理解できるわ~」

 

 うん、多分そうだろうとは思ってたけど確信に変えられたな。

 

「那珂ちゃん」

 

「ひゃ、ひゃい! な、那珂ちゃんはー……」

 

「ん? あぁ、いや。那珂ちゃんは良いんだ、どっちも出来なくて」

 

「ほえ?」

 

 正確にはどっちもして欲しくない。

 

 ちらっと六駆の皆に目を向ける。

 

「っ……」

 

 少し怯えた様子を見せる暁と雷。相変わらずつかめない視線を送る響に、視線に睨みを返してくる電。

 

 今はまだ海に立てない六駆だけど……。

 

「よし。今後の方針を発表する」

 

 そう言ってみれば、全員が姿勢を正した。六駆の皆もそれに倣ってくれる。

 

「第一艦隊。旗艦を天龍。以下龍田、夕立、時雨の四隻編成とし、南西諸島沖の哨戒任務。そして資材回収をメインに動いてもらう」

 

「了解っ!!」

 

 艦これで言えば1-2になるが……実際警備、哨戒については大淀の偵察機のお陰であらかた敵との会敵ポイントを割り出すことが出来て安全に行えているから……資材回収が主だった任務になるか。回収時は天龍か龍田どちらかを鎮守府で控えてもらうようにするが、基本形はこれで行こう。

 これ以上は多分1-4の段階になるだろう。要するに防衛線の構築。それをするためにも。

 

「第二艦隊。旗艦を鳳翔。以下古鷹、加古、大淀の四隻編成とし、資材と相談の上で製油所地帯沿岸へと出撃。海域攻略を目指してもらう」

 

「了解っ!!」

 

 防衛線を築く為には製油所地帯沿岸を確保して、資源の精製や運搬を安全に行える様にしなければならない。

 こっちに関してはまだ手付かずだし海域の調査も行えていない。

 

 資材を回復させつつ、調査を行い装備開発等で態勢を整えてから出撃が理想か。

 

 今回の演習でお互いの違いを見るに、多分こういう隊組じゃないと上手く連携が取れないだろうしな、今は。

 いずれしっかりすり合わせを行ってもっと幅広い部隊を組みたいが……時間が必要だろう。

 

「第三艦隊。旗艦を那珂。以下暁、響、雷、電の五隻編成とし、鎮守府内花壇の世話、綺麗で可愛い花を咲かせるように」

 

「……」

 

 あれ? 第三艦隊から返事がないぞ? おっかしいなぁ。

 

「えーっと……那珂ちゃん、もしかして要らない子なのかなー?」

 

「んなわけねぇ。これは立派な任務だぞ」

 

「……信じられないのです」

 

 あぁなんだか電の視線が癖になってきたかも? なるほど、これが噂に聞く。悔しいっ! でも……! ってやつか!

 

「い、い……一人前のレディなら! う、海で戦う事だって……!」

 

「暁」

 

 焦んな。

 いや、俺が焦るような思いに駆らせてしまったのはわかってんだけどな。

 

 それでも、だ。

 

「誰でもすぐに一人前になれるわけじゃねぇさ。ゆっくりでいい、今日見た演習をしっかり心に刻んでおいてくれ。そうしたら……」

 

「……そう、したら?」

 

 お、六駆の皆と那珂ちゃんがちゃんと俺の方を向いてくれてるな。

 

「必ず出番がやって来る。お前達ならでは、お前達にしか出来ないことが、必ず。今はまだその時じゃないってだけだ」

 

「……うん。わかったわ。ゆっくり頑張る」

 

 よしよし。わかってくれて嬉しいよ。

 

「那珂ちゃん」

 

「ぶー……もうー何かなー?」

 

「言った通りだ。それまで苦労をかけるけど……頼んだぞ」

 

「しょうがないなぁ、那珂ちゃんはアイドルなんだからね? 忘れちゃ駄目だよー?」

 

 ……うん。大丈夫かな。

 

 さて……忙しくなってきたね。

 

 色々と考えないといけないことは山ほどある。

 

 だけど足踏みしてその場に留まり続けるなんて事は……もうしたくないから。

 時間が癒やしてくれるなんて嘘だから。

 

 俺も、こいつらも。

 

 進もう、前に。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。